ワッツ?!
なんでもってどれでもオッケーってことデスカ?!
スズカ、ワタシが言うのもナンデスガ……テキトーな気持ちじゃこのゴーストストーリーをエンジョイできマセンヨ!?
マジメに向かい合ってこそ怖さも引き立つッテモノなのデハっ?!
もう一度だけ聞いてアゲマース!
ホントーにもう一回だけデスヨ!
セイ、スズカ!
アナタは、どこでのお話が気になりマスカ!?
オゥ…………。
フゥン……なんだか強情デスネ、スズカ。
………………ウン。
デシタラ……ワタシはもうなんにも喋りマセーン!
お次のカタ、ドウゾ!
フーン!
「ちょっ……タイキ?! お話は?!」
ああっ、やってしまった。
どうしてこんなに意固地になってしまったんだろう。
聞き手らしくないことばかりを口にしていたから、タイキが拗ねてしまった。
タイキは頑固親父のように腕組みし頬を膨らませ、そっぽを向いたままだ。
みんなタイキをなだめようとしてくれているが、タイキは一向に機嫌を直してはくれない。
「タイキ、ごめんなさい……」
謝罪を口にしながら私は考える。
勿論、この一連の流れ自体は当然の結果だと思っている。
けれど、なんだか少しだけおかしいような気もしていたのだ。
だって、いまひとつ、腑に落ちない。
この一連の流れに何かこう……不穏さがある。
いくら私の言に怒りを募らせたって、これはあまりにタイキらしくない行動だ。この子はこういう不安定な状況を作ることを望む子じゃない。それぐらいは私にだって分かる。つまるところ、みんなも分かっているはずだ。
だから、何か。察したんじゃないか。
本当に危ういものを呼び込む前に終わらせよう、と。
言うなれば、動物的な勘……そういうもので。
そこまで考えが至ったとき。私の首元にひやりとした、まるで指のようなものの感触があった。いや、指なのかは分からない。肌にまとわりつく指らしき触感は、万年氷のようにひどく冷たかったから。
窓も開けていない夜に迫る、クーラーの風とは似ても似つかない、冷たいなにか。マネキンの物とはまるで違う、わずかな柔らかみを持った、やけに生き物としての主張を感じるなにか。それが一本、二本とひたり、添う。
背筋に怖気が走った。だけど、身体はてんで動かせなかった。
この状況で心中穏やかなまま居られるのはきっと異常者だけだ。オカルトにさして関心を抱いていないような私にすら、深い恐怖心を抱かせる異常さは依然として続く。
誰かが何かを喋っている、なのに声が上手く聞き取れない。
体感で得た特質の恐怖は時間という概念を薄れさせる。
本当に長い、長い時間だった。
三本目が完全に寄り添うまで、何秒かかったろう。
四本目が首に這ってくるまで、何分あったのだろう。
しかしそれも実際には一瞬……だったらしい。
五本目に至ることもなく。驚く間なども当然なく。肌に感じ続けていたその冷たさは消えた。時間感覚が分からな過ぎて、布団の上に置かれたスマホに目を落とした。
嘘でしょ、こんなの。
思わずそう口にしてしまいそうだった。
タイキが怒ってからまだ数分とも経っていなかった。
もしかして……これは。
私の思い込みだったのだろうか?
触れられていた場所を自分の指先で確かめる。
やはり、何もない。
嫌な汗をかいてしまって、じっとりと湿った首筋だけがそこにあった。
いや、でも。あの感触は確かにあったものだ。
だとしたら……誰かの悪戯?
慌てたくなる心と身体を深呼吸もせず必死に抑えて、ちらちらと前方付近を見回す。
気づけないまま私の首筋に触れるような子なんて誰もいなかった。
このお泊り会に呼ばれたみんな、私ではなくタイキの周りにいるのだから当然だ。
誰も、いない。
なら、あれは一体なに?
ほっと胸をなでおろすと同時に、ある予想が浮かんでくる。
あの時にはいたけど、今はもういなかった。
だから、この場にはもういないってだけなのでは?
そうだ。もう、いないんだ。
大丈夫、安心していいんだ。
気配からして、いなかったはずなのに。
恐る恐る振り向いた、その先に。
「ひっ!」
眼だ。薄暗い中でもはっきりと分かる異常が、振り向いた先に存在していた。
眼と認識できる部分だけを持った、眼のような無数の何かが私をじっと見つめていた。
血走った眼球たちは、私以外の誰にも気づかれないまま、群れ浮かんでいる。
眼の思惑はつかめない。目蓋の存在しない、白と黒と赤からは不気味さしか感じ取れない。
そもそも、眼なのに。なんで指の感触があったのか。
分からない。考えてもなお、分からない。
ただ、恐ろしい。飛びのきたいのに動かない体が憎らしい。
これから一体、何が起きるんだろう。
頭は当たり前のように思考を繰り返す。
けれど眼たちは、私の驚く声に満足したかのように。
何事もなかったようにふっと消えた。
「どうしたんです、スズカさん?」
「な、なんでも……ないわ」
眼が居なくなった瞬間、身体の自由が戻ってきた。
本当になんだったんだろう、今の。
私の……錯覚?
いや、そう割り切れるだけの材料がない。
意味が全然分からない。
ひたすらに、恐怖心だけが煽られた。
「今、何か……いなかった?」
私は目の前に居た子にそう訊ねてみた。
けれどその子は不思議そうに首をかしげた。
ダメだ、やっぱり全然分からない。
超常現象って言葉だけで片付けたくはないけれど、あれはやっぱり、何か良くないものが来ていたということ……なんだろうか。
そうなると、ここで終わってしまうのもある種……正解だったのではないか。これ以上足を踏み入れれば、どうなるかわからない。そんな警告だったのでは……
「いえ……」
今更ね、そんなこと……
もう何もかも後の祭りだから。
ここで話が終わってしまう以上、心霊現象がこの後本当に起きるのかどうかなんて。
最早誰にも確かめようがないのだから……
そして全ては終わった……