「あはは、じゃあチア部のお話で」
これとこれがありますよ、と。
四つほど口にはしていたが、タイキの表情と声色で判別するかぎり、どうもこの子の本命はチアリーディング部の話のようだ。
タイキの性格を考慮すると、他のお話なんて用意していないとかではなさそうだが、おそらくはただ単純に、今一番聞かせたい話がチアの話だったということだろう。私の返答を聞いたタイキは目を煌めかせながら、胸の前で手と手を組み合わせた。
チアーのお話、デスカ?!
オォ~……! ウフフ、スズカ大好きデース!
ソウ! チアー! チアリーディングはいいデスヨ!
スタディーともレースとも違って、誰かをオウエンすることに全力を出せるんデス!
マア今回についてはチョーット訳アリ、なんデスガ……
とにかく、エンリョなく話していきマスネ!
ウェル……皆サンはどれくらいチアリーディングのことを知っていマスカ?
ニホンでパッと思い浮かぶチアリーディングは、ベースボールやアメリカンフットボールでポンポンを持ってバトル前のフィールドで踊るヤツでショウカ?
ハイグレード・レースの前日に校庭でダンスショーの練習やったりしてマスシ、メイビーそんな感じデスヨネ。
スポーツとしてのチアリーディングはただダンスするだけじゃないんデス。というかダンスは別枠で、どちらかというと新体操に近いカンジ。似たものをテレビで見た覚えが……組体操、だった気がシマス!
あれを発展させたモノで、数人のメンバーでポジションを分けてプレイする競技デスネ。
キラキラ輝くアンドアイキャッチも最高な魅せ役ポジションのトップ。
トップを支え、時には投げ飛ばすパワフルなポジションのベース。
ベースのポジションをこなしながらまわりに指示を送るコマンダーのスポット。
グループ全員の安全を守り、トップやベースの補助を行うスポッター。
このフォーマンセル、四人一組もしくは五人組で行うのがグループスタンツと呼ばれるものデス。
グループスタンツは、人が人の上に乗ってポーズを作ったり、空中に投げたりする組技を行うモノデス。これ自体が独自のフレーズで、プロパーノーン……コユウメイシ? なので、後で説明するものとはベツモノだと思っておいて下さいネ。
まず各プレイヤーがタンブリングという1から7までのレベルを設定されたなかでプレイする、ンー……体操競技の床運動技デスネ。その演技の出来栄えで勝敗を競い合うチームスポーツになりマース。このアタリはリズミック・ジムナスティック、新体操と近いかも知れマセンネ。ちなみにワタシもたまにヘルプしたりしてマスヨ!
プラス、ジャンプにダンス。ラインダンスとかユーメイデスヨネ!
ジャンプはモーとにかくジャンプデス。多人数で行うモノですから、技の見栄えのために全員が呼吸を合わせて取り組む必要がアリマス。スコアリングについては……ワタシは良く知りまセーン……
アッ、このスタンツをモット多人数で行うのが、みんなが知ってるチアリーディングである、ピラミッドと呼ばれるものデスヨ!
この場合でもベースはイッショ。四人組もしくは五人組で数チーム作って、16人から20人くらいの規模で行うものにナリマス。ナカナカ人数が必要なスポーツナンデスヨネ。なので見ごたえタップリデスヨ!
ゴホン! エキスポフイニッシュ!
そろそろオマチカネ、イキマース!
ウチのチア部はジュニア・ハイスクール通してウマ娘スポーツでは強豪だったりシマス。
マア他のスポーツもゼーンブハイレベルというか……そもそもセントラルだしイワズモガナ、ってやつデスネ。
それでミステリーなんですが、チア部にはずっと前からトラディションがありマシテ……
なんでもトップの子が、数年に一度大怪我を負ってしまうらしいんデス。
スタンツの失敗で脚の骨を折ってしまうトカ。
フリョの事故で大切な大会をフイにしてしまう、トカ。
マーイロイロあるらしいんデスガ、とにかくリハビリに時間が掛かっちゃうくらいのケガなのは一緒らしいデスネ。フリョの事故もそうですが、骨を折るなんてウマ娘とか関係なくクライシス。例外もあるって話ナンデスガ……ンー……ステップバイステップ、ゆっくり話していきマスネ。
ワタシたちはウマ娘ですから、オールフィメールでもパワーが足りないってことはヨホドじゃない限りありマセンシ、パワーがあるぶん高くジャンプさせたりできるので、当然スタンツの見栄えも良くなりマス。
ケド、点数重視で安全をロストするのはバッド。ジャンプ技の高さや回転数なんかはヒトのそれ以上にかなりゲンミツなレギュレーションがありマース。
それにトップに選ばれる子は大抵大きくないガール。ウェイトも軽いわけですから、キホンテキにはベースとスポッターに重い責任がついて回りマス。
投げ飛ばしすぎてないか、受け止めるためのポゼッションが緩んでいないか、呼吸をぴったり合わせられているか。チアリーディングはスタンドプレーの出来ないスポーツ。チームワークが無いとお話にならないんデス!
そんなクラブにワタシのフレンドがいるんデス。その子のネームはマシロ。ネームイズオーメン、透き通るようなプラチナの髪に、スノーフェアリーのような白い肌を持った、ソービューティフルなウマ娘デシタ。
マシロはチアーに対してとてもストイックな子デス。もちろん誰よりも、とまでは言いマセンガ、他人を責めずに自分と戦う。そんなプライドにも満ちていマシタ。
デスガ、ふとした瞬間に壁は出てくるモノ。大会でやろうとしている技はとても難しく、マシロのいるグループスタンツでも、なかなかキレイに成功できずにいたんデス。
「これじゃだめだ、みんなの足をひっぱりたくない!」
人一倍責任感の強いマシロです、できないならできるようになるまでトレーニングしなきゃと考えるのはオーディナリー。
チアーの練習は一人では難しいものばかりデスガ、だったら一人で出来るようなことをすればいいわけデスヨネ?
みんなでやるスタンツ・トレーニングを終えて、しっかりと解散したあと。マシロは夕焼けの射し込むジムにやってきていマシタ。
ハイ?
なんでやってきたかッテ?
ノンノン、その日最後の練習あとなら誰も使わないデショ?
誰にも迷惑をかけずにトレーニング出来るのって素敵デス! イェイ!
再びやってきた広いジム。そこに一人戻ってきて、ストレッチを行って。運動マットを用具室から引っぱりだして、さあ体幹トレーニング、と思った……そんなタイミング。
マシロは背中にちょん、と。ニードルでつつかれたような視線を感じマシタ。
誰も居ないはずの体育館、もしかして誰かやってきたのかな。だとしたら断りを入れなきゃ。そう思いながら振り向いてみれば、そこには。体育館のスミで三角座りをしている、とても小さなウマ娘がいたんデス。
ドワーフとでも言えばいいんデショウカ、白雪姫に出てきそうなミニチュアなサイズ感。最初は自分の見間違いかと思ったらしくて、何度もパチパチと瞬きしマシタ。
運動会が校庭で開かれているわけでもないし、親子で来れるようなイベントだって開かれてなんかイマセン。まさかキンダーガーデンの生徒がこんなところにいるはずないんデスカラ。
でも、What you see does not change.
いくら目をゴシゴシ擦ったって見えるモノは変わりマセン。
どうにせよひとりぼっちでいるのならほってはおけない。
マシロはゆっくりと近付いて声をかけたんデス。
「どうしたの、大丈夫?」
このあとの続きって、フツーなら迷子を連れてマザー探し、デスガ。
コレはカイダン、デスカラ。
ツマリ、This ain't your mom's bedtime story.
寝際に聴くママのオハナシとはワケが違いマース!
ネエ、スズカ。ここからどうなったと思いマス?
「あれ、聞こえてないのかな……」
返ってくるコトバはアリマセン。
ですが、ほっておくわけにもいきマセンカラ。
マシロはそのリトルガールをうかがってイマシタ。
「とりあえず……体を揺さぶってみようかな」
ジャスタビット。
変だなあとは思いつつもその子の近くへ歩いていったんデス。
「あの、大丈夫かな?」
「みつけた」
「え?」
ファスター・ザン・クエスチョン。ナゼか目の前が一瞬マックラになりマシタ。まるで誰かに目隠しされてるミタイニ。驚いたときにはもうクラヤミはなくなって、ついでにリトルガールの姿もなくなってイマシタ……
タイキはそこまでを語って口を閉ざした。
狭いようで広い多目的室に静寂が立ち込める。
数秒の沈黙だけならたえられるけど、十数秒とまで来ると不安が勝りだす。
何故だろう、何となく肌寒いような気がする。
足元に掛けていた毛布を引き上げ首元まで覆う。それでも不思議と寒さは消えない。
語り部の声がなくなるとこうまで心細いなんて。
話し上手なタイキのことだからこれで終わりということはないだろうが、まさか……
「え、もしかしてこれでお話終わり、ですか?!」
そう思って訪ねようとしたとき、私ではない誰かが動きのなかった静寂に横やりを入れた。するとタイキはこれ見よがしに溜め息をついて見せ、ひどくアメリカチックに肩をすくめた。
ノンノン、ここからが真相ッてヤツデスヨ!
ミナサン、チョッートヘイスティ! 安心してくだサーイ! ちゃんとステップを踏んで話しマスヨ!
あの日、マシロは結局それ以上は何も見ることはナッシング。素直に自主トレを済ませて寮に帰りマシタ。
でもその翌日からマシロの何かが変わりマシタ。何故かわかりマセンガ、体育館で練習するたび、フシギな感覚に襲われるようになったんデス。
スタンツ・プレーで投げ飛ばされたときに、ここで落ちたらどうなってしまうんだろう。
私が悪意を持って指を尖らせていたら、ベースの子たちはどうなるんだろう。
落ちてみようか、傷つけてみようか。
事故だったら仕方ないんだから、一生に一度の体験をしてみようよ。
そんなのシンキングするようなマシロじゃないノニ、練習をしていると何故か自分や他人を痛めつけたくナル……そんなよくわからないマインドにマシロは陥ってイマシタ。
「そんなのダメよ」
イヤなキモチが芽を出す前に、自分のキモチを押し殺して。一週間、二週間と耐えマシタ。
そんな毎日を過ごしてたらトーゼンヘトヘトになりマス。
そして、ついに恐れていた事態が起きたのデス。
いつものようにスタンツのミンナと練習していたとき、大事故が起きてしまいマシタ。高く高く放り投げられたマシロが、いつものようにバランスを取りながら空を回っていたトキ。突然目の前がマックラになりマシタ。
あとはもう音だけしか聞こえマセン。どちゃっ。自分のウェイトと落下スピードからじゃあり得ない、ひどく鈍くて重たいものが空から落ちるようなサウンド。
そこから意識が遠のくまでずっと、嫌な音がリフレインして頭に響きマス。どちゃっ。どちゃっ。どちゃっ。落ちたのは一回だけのはずなのに、何度も何度も叩きつけられているミタイニ。不思議と痛みはありませんデシタ。ただ、ただ。落下がリピートされるダケ。エンエンと、終わることなく、ひたすら、気を失ってしまうまでズット……
……ケッキョクどうなったのカッテ?
スタンツ・プレーの失敗ということで、マシロは入院をすることになりマシタ。
アァ、もちろんイマではゲンキイッパイですよ?
全身を打って気絶した関係で念のため検査を……したら、ゼンゼン異常ナシ。
ナニゴトもなく一日で退院しましたカラネ。
あのリトルガールを見かけてからずっと考えていた、バッドなイマジネーションもサッパリ無くなってイマシタ。今でも一体あれはなんだったんだろうって思ってるらしいデスヨ。
ンン? なんでワタシが詳しく知ってるかって?
ええとデスネ、ワタシがお見舞いに行った日、いろいろ教えてくれたんデス。
というよりは聞いたんデス。
だってマシロのスキルはハイレベル。
ベースの子たちだって同じくらい上手。
イージーミスをしちゃうなんてアリエナイ!
そう思ってましたカラネ。
ホーボー聞きマクッテ、マシロは最後に言ってイマシタ。
ゴメンナサイって繰り返す悲しそうな泣き声が、耳元でしたんだって。
でもそれだけでそんな大けがしちゃうかなって、思ったんデス。
それで、よーくマシロを見まシタ。ソウシタラ……
真っ白なはずのマシロのヘアー、その毛先が、真っ黒く染まっていたんデス……
ワタシはオカルトには詳しくありませんガ、もしかするとゴーストは悲しい気持ちを知ってほしかったのかも知れませんネ。
ソリャ、やり方はよくありませんケドモ。
前にフクキタル、言ってマシタヨネ。幽霊のことをカワイソウ、とかヘルプしなきゃって思ったらダメって。付いて来ちゃうカラって。でもマシロはあわ……アー……ピティー。ソウ、憐れんでシマッタ。だから何かに取り憑かれた……のかも知れませんネ。
ただ、ソコで気になるのが、マシロのダメージのことデス。
マシロのダメージがひどくなかったのは、ゼアズノウダウト! パラノーマルな現象が起きたとしか思えまセーン!
アサミング、仮にあのリトルガールがゴーストだったとして。ソモソモなんでファーストインプレッションのところで、見つけた、ナノカ。
マア……絶対とは言えマセン。ワタシはスピリチュアルはカラキシ、デスカラ。
けど、タブン……もしいまカフェが居たらソーメニー教えてもらえそうデスガ……ンー……分からないってコトは、分かっちゃいけないって言われちゃいそうデスネ。マウスにジッパー、シマース!
トモマア、ワタシの話はここまでデス。ワタシのトークがスクールにアリガチなフェイクロアなのか、それとも事実がちゃんとあるフォークロアなのかは、アナタの気分次第デース!
それにしても、夜も深まってきましたし、雰囲気も出てきマシタネ。
カフェやフクキタルアレンジで言うなら、そろそろゴーストたちもウキウキし始めた頃合い、なんじゃないデスカ?
フフ……ワタシもホンのチョーット怖いデスガ……ミナサンがいますしノープロブレム!
…………アー………………デスヨネ?
オーライ、次のヒトにバトンを……パス!
次のトークは誰デショウ?!