トレセン学園であった怖い話   作:塩化プラス

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【第一話】メジロドーベル/B3~分岐

え?

そう?

本当に?

 

えっと……ちょっと意外だったな。じゃあ順序だてて説明するね。

まず最初にさ、おまじないのルーツの話をしたでしょう?

おまじない、要するに呪い。この漢字ってかしり、とも読むよね。それがなんだって話なんだけど、この手のまじないには一様にお供え物……大抵の場合、供儀が必要なのね。

生の色が濃いもの。魂を感じ取れるもの。そういうものが必要になることが多いんだって。カフェが居れば魂のどうこうについて詳しくお話を聞けるんだけど……

生憎まだ、なのか。そもそも、なのか。わかんないけど来てないからなあ……

 

ゴメン、だらだら話しちゃったね。つまり、生きているものの何かを捧ぐ必要があったの。そのいわくつきのおまじないには。雑にまとめちゃうと、黒魔術ってやつだったんだ。

 

 

時間は夜の十二時を回ったところ。

月明かりだけが眩しい空の下、他に誰も居ない練習レース場にスターさんは居た。

練習でもストレス発散でもなく。おまじないを実行するために。

 

「神様、私に。アイを……下さい」

 

ポーチに入れてあった小さいカッターを指の腹に当て、溢れ始めた血でこれまで共に戦ってきた蹄鉄の表面をなぞった。

滲むこともなじむこともなく、血はアルミの表面を伝っていく。両方の靴におまじないを施したら、かすれた血で染められた靴を履いて。スターさんはレース場を走り始めた。

 

悔しさ、憎らしさを原動力に、深夜のレース場を全力で回り続けた。

脚にヒビが入ることも気にせずに。寧ろ壊れてしまえと念じるくらい一心不乱に。

走っていたというより走らされていたといった方が無難かな。

見えない何かに突き動かされるように、鬼気迫る表情で走り続けていた。

誰も来るはずのないレース場。けれどいつだって例外は訪れるもの。

 

「……スター! だめだ、こんなこと! 止まってくれ、お願いだ!」

 

草木も眠る時間だっていうのに、トレーナーが止めに来たの。

どうも同室の子が心配してくれたみたいでね。当時は携帯なんてなかったらしいから、トレーナー寮に電話をかけたんだって。

 

「スターちゃん、まだ戻っていないんですけど、トレーナーさんのところ、ですか?」

 

こんな感じかな。当たらずも遠からずだと思うけど、トレーナーとしては気が気じゃないでしょ。いくら引退を決めたとはいえ、彼女はまだ担当ウマ娘。どこに行ったか分からないってなったら、何か事故に巻き込まれたんじゃないかってなるでしょ。方々を探し回って、ようやくたどり着いたんでしょうね。

 

そこで見たのが、力なくふらふらと走る傷ついた彼女の姿……まさに悪夢のようだったろうね。走る姿に惚れこんでスカウトしたぐらいなんだしさ。

トレーナーは身体を張って止めに行った。ジョギング程度の速度しか出ていないとはいえ、走っているアタシたちを止めるのは大変だよね。

怪我覚悟、だったんじゃないかな。スターさんの進行方向に立って、手を広げて叫んだの。

 

「お願いだ、止まってくれスター……!」

「……っ?! トレーナー、さん……?!」

「スター、どうしてこんな無茶を……!」

「……あなたには関係ないでしょう?」

「バカ言わないでくれ! 君のこれからに関わるし、私はそんな姿、見たくは……!」

「私の姿って、なんですか!? トレーナーさん、あなたに私のことなんて関係ない!」

「関係ないわけないだろう!」

「関係ないでしょう……?! 好きでもないくせに……!」

「……違うっ!」

「何が違うって言うんですか……!」

「伝えるときは、私の方から。時間をかけて言いたかったんだ。私は……」

 

トレーナーは懐から何かを取り出しながら、スターさんのことを見つめた。

その時だった。

 

「えっ……?!」

「なんだ、これ……?」

 

トレーナーの言葉を遮るように、強く打ち込んでいたはずの蹄鉄が靴から外れて、二人の目の前に浮かび上がった。

あまりの出来事に面食らって、動けない二人など一切構わず。

蹄鉄のひとつがトレーナーの胸へと吸い込まれていった。

 

「ぐっ、ああ……っ!」

 

とぷん、とぷん。彼の胸に、ゆっくり溶け込んでいく蹄鉄。

沈み込んでいくにつれてトレーナーは苦しみだした。

一体何が起こってるのか、二人には見当もつかなかった。

 

「あ、ああっ……!」

 

トレーナーが痛みに呻いているそばで。

呆気に取られていたスターさんの胸も軋みだした。

見ればもう片方の蹄鉄が、自分の胸に入り込み始めていた。

槍の穂先をじわじわと刺しこまれているような、鋭く鮮烈なのに緩やかでじっとりした痛み。

どんどんと増していく痛み。

とうとう立っていられなくなって、二人とも地面にうずくまった。

胸を抱えながら、謎の痛みと必死に戦っていたとき。

スターさんの耳元で、ささやく声があった。

 

「アイ、ほしい?」

 

無邪気な子供にも、しゃがれた老婆にも思える声。

痛みから逃れるためだったのか、反射的なものだったのか。

どちらかは分からないけれど、彼女は間髪入れずに答えたわ。

 

 

1・欲しい

2・要らない

 

 

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