僕は、この石の海から自由になる。

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ハリー・ポッターと石の海

 

 

 プリベット通り四番地の住人、ダーズリー夫妻は「おかげさまで、私どもはどこからみても()()()な人間です」と言うのが自慢だった。

 母方の甥、ハリー・ポッターが預けられているというのがこの家唯一の「まともでない」特徴だろうか。

 

 それ故、ハリーはこの家において驚くほど居場所が無かった。

 『物陰に飛び込んだらいつの間にか屋根の上にいた』とか『生まれつき稲妻型の傷跡が額にある』とかの「まともでない」エピソードをいくつか有する彼は、単なる外様以上に疎まれていた。

 

 仮にも親戚の子供にする仕打ちではないが、実の息子のダドリーの方が可愛いというのは決して責められない感情だ。ワガママ一杯に育っただけに、これからの教育は厳しくなるだろうから、鬱憤晴らしのサンドバッグに需要があったのも悪く働いた。

 

 階段の下。粗雑なコンクリ打ちっぱなしの部屋。窓こそあるものの日当たりは悪く、薄暗い物置部屋。

 それがこのダーズリー家でハリーに唯一許された『居場所』だった。

 

◆◇◆◇

 

 ある日の夕方。

 ダドリーの空気銃とかいうので散々に打ち据えられたハリーは、這う這うの体で自室へと戻った。

 

 痛くはあったが、痛みは表面的なものにとどまっており、痣になったりはしないだろうと考えて、それでも痛みに疲れた体をベッドに沈めようとした。

 

 その瞬間、何かに躓いてベッドに倒れ込んだ。

 

 オンボロとて、マットレスのおかげで怪我はないが、それでもこんなに躓くようなものがあっただろうか、と視線を巡らせる。

 

「ひっ……足?」

 

 そうして見つけたのは、人の足。

 隣のキャビネットの下から伸びていて、その下に寝そべっているような……。

 

 かと思えば、今度は何かに引きずられたかのようにして、キャビネットの下へ潜り込み、見失ってしまう。

 

「……うわわっ!? だ、誰だっ!」

 

 緊急事態に捻り出した声は自分でも情けなくなるほど小さく、しかしそれが誰かを呼び寄せる様な事態を防いでいた。

 

 ハリーは警戒を最大限に引き上げ、ゆっくりとキャビネットへにじり寄る。

 

「君の部屋か?」

 

 突如後ろから掛けられた声。

 俊敏な動きでそちらへ振り返ると、そこには金髪の美丈夫が座り込んでいた。

 

 凄く大きな体だ。190cmはあろうか。それにとても大胆な格好だ。両肩どころか、大胸筋の外側までざっくり開いた、インナーのようにも見える服。だが素材が良いからか、それが男とは思えぬ怪しい色気を醸し出している。

 そうだ、声や骨格、筋肉からしておそらくは男だ。黄金色の頭髪、透き通るような白い肌、男とは思えぬ怪しい色気。

 不法侵入者への警戒が無ければ、10年そこらの人生経験しかないハリーなら、即座に『陥落』していたかもしれない、求心力(カリスマ)

 

「てっきり物置かなにかかと思って、ここに潜んでいることにしたんだが……」

「あ、あなたは、誰なんですか? どうしてここに?」

 

 不審者への警戒心と、引きずり込まれる魅力。

 それらがせめぎ合った結果、ハリーの対応はまるで初めて見た父親の友人を迎えるかような態度になった。

 

「ああ……太陽の光に、アレルギーの体質なんだ。今日の日没は確か6時19分。それまで家に帰れないので、そこで休んでたんだ」

「……なるほど、この部屋は、確かに日当たりが悪いですからね……何か、アー、僕にできることはありますか?」

 

 自分で言っておいてなんだが、ハリーは自分がこんな事を質問したことにとても驚いていた。

 なにせ仮にも不法侵入者、犯罪者だ。こんな積極的な協力をする理由は、本当に無い。

 

 敢えて彼が自覚していない部分を言うのであれば、直前にダドリーから受けた、というか受けてきた仕打ちと比べてあまりにも『好意的』だったから協力したくなったのだ。

 これは単純にダドリーがマイナス過ぎるだけだが。

 

「別に……」

 

 どこか詰まらなさそうに言う男。

 

「そう、ですか……じゃあ、ダーズリー達、あっ、この家の人たちには言わないでおくから、ちゃんと日没になったら出て行ってください。あと、できればこの部屋以外の場所にいてください」

「クク……お前、面白い奴だな」

「えと、なにが、ですか?」

「追い出さないのか?」

 

 お互いの体格差を見れば、そもそも『追い出せない』だろうに、まるでハリーならば簡単に追い出せるかのように男は言う。さっきまではなかった、『興味』を瞳に宿しながら。

 

「私はもしかすると、ここの金品を盗もうとしている泥棒か、それ以下の奴かも……」

「……だとしたら、『太陽アレルギー』なんて滅茶苦茶な嘘は付かないと思います。もっとそれっぽい理由か、初めから僕に襲い掛かってる」

 

 実の所、ハリーは『この人が泥棒であっても構わないし、何ならその方が良い』とすら思っていた。

 とりあえず自分に攻撃してくるわけではないようだし、自分には盗まれて困るような財産なんて持っていない。この家で何かを盗まれて困るのは、常にダーズリー一家だ。

 

 ならば彼らが何でもいいから失うのを見て、暗い喜びを得たいというのが偽らざる本音だった。

 流石に初対面の人に言う様な事でないという分別は付いたので、それっぽい理由を並べたが。

 

「ちょっと待て」

 

 男がそういって、ハリーの頭を掴んで引き寄せる。

 視界一杯に広がった美男子の顔に『男相手でも見惚れたりするんだ』とどこか他人事のような感想を抱いた。

 

「額に傷が出来ているぞ。妙な形だが、私の所為で? 大丈夫か?」

「ああ、いや。これは、その……元々なんです。両親が自動車事故で亡くなった時についたんだって……僕はその時の事覚えてないんですけど……」

「へえ……それにしても見事な稲妻型だ……私にもあるよ、奇妙な形の痣がね……」

 

 左肩の後ろ。

 ゆっくり見せつけるかのように体を動かした男は、星の形の痣を確かに背負っていた。

 それと首周りをぐるっと一周する傷跡も見えた。一度首を刎ねられでもしない限り、あんな傷は付かない。しかしそんなことがあって生きているのなら、そいつはもう人間じゃない。

 

 ああ、それはとても『納得』できる結論だ。

 

「君は、『引力』を信じるか? 私に躓いて転んだことに、意味がある事を?」

「な、なにを言って……」

 

 この男は、どうしようもない程、『人間ではない何か』なのだ。

 ならばこの男が話す言葉は、きっと悪魔の誘惑だ。

 

 この男が今、差し出した『矢』は、きっと魔界の産物だ。

 だってなにもしていないのに、独りでにぐるぐると回っている。

 

 そしてその『矢』は、ハリー・ポッターを指し示し、止まった。

 

「君にこの、『石の矢』をプレゼントしたい。別に君が必要なければ、それでいいんだが……出会いというものは、『引力』ではないのか?」

 

 先ほどハリーがこの男の足に転ばなければ、この出会いは無かった。

 ダドリーに痛めつけられなければ、この出会いは無かった。

 押し込められた部屋がここ以外なら、この出会いは無かった。

 ダーズリー家に預けられなければ、この出会いは無かった。

 両親が自動車事故で死んでいなければ、この出会いは無かった。

 そもそも両親が出会っていなければ、この出会いは無かった。

 

 こういった数多の偶然に果てにこの出会いが生まれているのだとしたら、現在へと誘導するエネルギー……『引力』を感じるのは、少しわかる。

 

 ならば、その『引力』が生まれているのは、何か意味があるのではないか?

 そういう考えも、よぎってしまう。

 

「君が私に、どういう印象を持ったのか知らないが、私は出会いを求めて旅をしている。いつか私に会いたいと思ったら、この『矢』に気持ちを念じて呼んでみてくれ」

 

 ハリーの手の中へ、優しく収められる『石の矢』。

 

「何年先だろうと構わない。いいね? 心にとめておいてくれるだけでいい」

 

 男の冷たく白い手がゆっくり離れ、ハリーの手にはその冷たさと『矢』だけが残る。

 

「日没になったら、ここを出ていくよ……」

 

 いかなる原理か、ふわりと浮かんだ男はキャビネットの下へ飛んでいき、暗闇に飲まれて消えた。

 

「き、消えた……!? どこに……」

 

 部屋中を見回すが、どこにもいない。

 キャビネット。ベッド。廊下。

 

 そして窓の外を見ようとしたとき、窓ガラスに映る己の顔を見て異変に気付く。

 

「こ、これは……僕の額の傷が……な、治ってる。いや、消えている!?」

 

 もう一度部屋を見回す。勿論、どこにもいない。

 

「待て! 誰なんだ、君は!」

 

 その声にこたえるものは、どこにもいなかった。

 

◆◇◆◇

 

 あの日のことは夢だったのだろうか?

 

 ハリーは今でも時々そう思う。

 しかしそのたびに、ポケットに入れた『石の矢』の存在を感じて夢ではないと思いなおす。

 

 結局この矢が一体何なのかはさっぱりわからない。

 それにダーズリーの家から何かが盗まれたという訳でもないらしく(そうなると彼らはまず真っ先にハリーを疑うからだ)、あの男の目的は本当に不明だ。

 

 まさか本当に『太陽アレルギー』なんてこともあるまいし、出会いを求めて旅をしているらしいが、その割にはあれ以降、ハリーが男と接触する事も無かった。

 

 胸ポケットから零れ落ちた『石の矢』を見ながら、そんな最近をハリーは回想していた。

 

「ん? ゴードン、なんか落ちたぞ」

 

 ダーズリー家のリビング。親二人が用事で出かけたそこは、ダドリー軍団恒例行事の『ハリー殴り』の舞台となっている。

 既に捕らえられてしまったハリーの腕は背中に回され、防御もまともにできないまま、ダドリーに殴られ続けていた。

 そのうちに石の矢は零れ落ちたのだ。

 

 それはダドリー軍団の一人、ゴードンが拾い上げてしまった。

 

「うぉ、きれー。なんだこりゃ。矢?」

「おい、僕にも見せろ」

 

 感嘆の声を上げたゴードンを見て興味が湧いたのか、ダドリーがずいと手を突き出す。

 腕を締め上げているもう一人のダドリー軍団、ピアーズも少し気になっているようだが、ハリーを逃すとダドリーの機嫌を損ねる。それを嫌って動いていないようだ。このウスノロにそんな自制心があったのかとハリーは意外に思った。

 

「はい……はい?」

 

 ゴードンが矢を渡そうとするが、その手から矢がダドリーに渡されることはなかった。

 手の中から、いつの間にか矢がなくなっていたからだ。

 

「どうした」

 

 自分の命令に逆らうゴードンへ鉄拳制裁、としようとしたところで気付く。

 

 『腕の中』に矢がある。

 その形に盛り上がっている。

 

「なにィーーーーッ!?」

 

 それがゴードンの遺言になった。

 彼は目から大量に出血しながら、仰向けに倒れ込んだ。

 

 これを受けてパニックになったのはダドリー軍団だ。

 なにせこの状況は明らかな異常事態。いくらいじめっ子集団である彼らも、本当の意味で『人命に関わる』事態に直面したのは初だったのだ。

 

 するとダドリーはいきなりハリーを殴った。

 

「おい! やめろ! あの矢を止めるんだ! 早くしろ!」

 

 どうやら彼は石の矢の動きが全てハリーの差し金と考えたらしい。

 立ち直ったというよりは、普段の『全部ハリーの所為』という思考がそのまま出てきただけだ。

 

 当然、ハリーは矢を止めるなんてことはできない。

 そもそもあの矢が結局何なのかすらハリーは知らない。その場でグルグル回っているのは見たことがあるが、あんなにアグレッシブに殺しにかかるような品だったとは。もしかして胸ポケットに入れていたハリーは相当危ない事をしていたのだろうか?

 

 しかしダドリー軍団がそんなこと知るわけもない。

 なんなら即座に『ハリーの所為だ』という思考へ至った分、彼らにしては頭が回った方だ。

 

 ダドリーは殴る拳を加速させるし、ピアーズはより強く腕を締め上げる。

 他のダドリー軍団はオロオロとゴードンとダドリーへ交互に視線をやるだけだ。

 

 パニックが残っているのか、手加減なしの殴打を受けながら、ハリーは思う。

 

 『ここから逃げなければならない。そうしないと殺されてしまう』と。

 しかし同時に『逃げた所でどうなる?』と考えるハリーもいた。

 

 そうだ。そもそも何の意味があるというんだ?

 ここで逃げて、それで、そのあとは? またあの家に逆戻りか?

 あのクソッタレの命の責任を背負わされるだけじゃないか。これまで以上に酷い目に合うだけじゃないか。

 

 冗談じゃない。逃げても意味がない。ただの先延ばし、むしろ悪化させるだけだ。

 『立ち向かえ、戦え、打ち倒せ』。

 

 『手段を選ばずに』。

 

 ……後になって回想すると、この時のハリーはかなり混乱していた。

 矢がひとりでに誰かを殺しにかかるという異常事態と、それに対する混乱が抜けるよりも先に来た命の危機。

 それが彼が生来有する『敵に立ち向かう勇敢さ』と『手段を選ばない狡猾さ』を引き出してしまった。

 

 そしてその強い意志こそ、矢が求め、矢に適応するために必要なもの。

 

 ゴードンの体から『矢』が飛び出してくる。

 ある意味では、ダドリー達の要求通りになったわけだが、その『矢』は凄い勢いでハリーの首に飛び込んでくる。

 

 今度はハリーが体内に矢を埋め込まれる番だった。

 

 それを見てダドリーは拳を止めるが、位置関係的によく見えていなかったピアーズは腕を締め上げたままだ。

 

「な、なにが……」

 

 ハリーの全身から光が漏れだす。

 漏れた光は粒子となり、粒子の光は集合し、一つの人型を形作る。

 

「『ここから逃げなければならない。』」

 

 そう一言呟いた時、『その人型とハリーの位置が入れ替わった』。

 いきなり抵抗がなくなったピアーズが尻餅を突いたが、ハリーを含め、誰も気にすることはなかった。

 

「『立ち向かえ』」

「な、なんだよ、お前……」

 

 ダドリーへ一歩、ハリーが近づく。

 

「『戦え』」

「わ、わかってるのか? お前が僕に何かしたら、パパが黙ってない!」

 

 また一歩。

 

「『打ち倒せ』」

「おしおきをするぞ! 凄く、凄いおしおきだ! もう泣いちゃうぐらい!」

 

 腕が届くところまで近づいた。

 

「『どんな手を』……」

「だから……」

「『使っても』!」

「やめろおおおおお!!」

 

 ハリーは人型を全力でダドリーへ嗾ける。

 

「オラァ!」

 

 顔面に突き刺さる拳。

 すかさず繰り出される目にも止まらぬラッシュがダドリーの全身を打ち据える。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラァア!!」

「うばっしゃああぁぁああ!」

 

 そしてボコボコに吹き飛ばされ、ピアーズを押しつぶして、ダドリーは気を失った。

 

「おしおき? どーだっていいね、そんなこと。僕は、この石の海から自由になる」

 

 人型を外へ飛ばして、位置を入れ替える。

 ハリー・ポッター人生初の家出は、たったそれだけで成立した。

 

◆◇◆◇

 

 

おまけ。

 

 

「ネビル……どうして……!?」

「同じ『スタンド使い』として、どっちが上かをはっきりさせておきたい……それだけさ」

 

 矢に適応したネビル・ロングボトム。

 彼が発現させた『煙のスタンド』は、普段は彼の全身を覆う装甲だが、本体が望めばまさしく煙となり、形状と性質を自由に変更させられるという能力である。煙の総量自体は一定なので、攻撃や拘束に使うとそれだけ本体の守りが薄まるという制約こそあれど、汎用性に満ちたスタンドだ。

 

 彼の『自らの殻に閉じこもる性格』と『自分を変えたいという望み』を強く反映したスタンドといえるだろう。

 なお、スタンド覚醒に伴って大分ハッチャケているので、殻は破れているし望み自体は叶っている。ハリーもそういう節があるが、ハリー以上にキャラ崩壊が酷い男である。

 

「さあ……決着(カタ)を付けるッ!」

 

 彼の煙がふわりと広がり、ネビルは消え去った。

 

「き、消えた!? いや、これはネビルのスタンド能力か。スタンドを背景と同じ色に変色させることで、強力な迷彩にしているんだッ!」

「1秒経過」

 

 不気味に響き渡るネビルの声。

 

「2秒経過、3秒経過……」

「これは一体……」

 

 周囲を見回すが、しかし変化は何もない。

 

「7秒経過」

「なんのカウントなんだッ!?」

 

 それを契機に、ハリーの周囲が暗くなる。

 

「これは……空中で大質量を生み出して、ぶつける気かッ!」

 

 ネビルの狙いを察して上を見上げる。

 そこには確かにネビルと……。

 

 

 

 

「パンジャンドラムだァァァァァアアア!!!!」

「!?!?!!?」

 




ハリーのスタンド能力
名称:不明(考えてない)
破壊力 - B / スピード - A / 射程距離 - B / 持続力 - B / 精密動作性 - A / 成長性 - C
能力:本体とスタンドの位置を入れ替える。近距離パワー型でスタンド自体もある程度殴れるが、スタープラチナのような本職には一歩劣る。ヴォルデモートの分霊箱を一つ壊すと一つ新しくファンネルを生み出すことができ、このファンネルが接触している相手とスタンドを入れ替えることもできる。


原作との差
・ハリーの額に傷が無い(機能は損なわれていない)
・ハリーの性格、主に自己肯定感と行動力と倫理観が違う。
・お辞儀陣営への構えが誘い受けの後手必殺。

・ネビルに必殺技が生える。そもそも『ネビル』という名前の『英国人』が『一般的には転がして使う円筒状の物』を使うとかもうパンジャンドラムしかないだろ。勿論爆発するので炎の中から歩み出てくる演出もできる。これにはOVA班もにっこり。

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