私立ルドビコ女学院、イルマ女子美術高校に並ぶ東京地区守護の要 東京御三家の一角、武のガーデン《御台場女学校》。

 「台場の白き魔女」と呼ばれる『船田(うい)
 「狂乱の姫巫女」と呼ばれる『船田(きいと)

 LGロネスネスの隊長・副隊長として活躍する船田姉妹(ツインズ)にはもう1人(末っ子)の妹がいた。
 姉と同じレアスキル〈ルナティックトランサー〉を持ち、後に「武人の結晶」と呼ばれることになる『船田(いかり)』。
 船田姉妹の三女に当たるが、御台場を離れたリリィ。


 これは、別れて始まる「道」の話。
 乗り越えるための「道」の話。


 ※注意※
・この物語は「舞台アサルトリリィ御台場女学校編」1〜3弾のストーリー、アサルトリリィ 真島百由の超兵器工房~御台場女学校編〜、アサルトリリィ~電撃新潟奪還戦〜を元に書いています。!ネタバレ注意!
船田怒(主人公)は僕が考えた最強のリリィ(オリ主)です
・アサルトリリィの入門で読むにはちょっと難しいです。けっこう事前知識がいるかも…?
・御台場女学校の事前知識がいるかも?
・設定・世界観などは「アサルトリリィwiki(atwiki)、二川二水@アサルトリリィ公式(Twitter)、電撃ホビーウェブ アサルトリリィ関連記事、舞台を観賞・視聴した時の記憶」で情報を集めてます。
・分からないところは勝手に埋めてました(詳しい時系列、レアスキル覚醒時期etc…)

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天葉(そらは)姉様!」

「ありがと樟美(くすみ)!」

 倒壊したビルの隙間を黒い制服に身を包んだ少女達が縦横無尽に駆け巡る。
 そんな中全長数十mの異形な怪物「ヒュージ」が暴れ回っていた。少女はヤツの攻撃を躱し、避けて距離を保ちながら光りの球体をパスして回す。

(いち)!」

 光の球体は既に7人の手に渡っており、今まさに8人目に渡った。

「フィニッシュショットは任せたよ!(いかり)!」

 8色の輝きが混ざり合った球体は最後の相手へ渡った。

「了解いっちゃん!「いっちゃん言うな!」ふふっ、レアスキル〈ルナティック・トランサー〉!」

 最後のパスを9人目の少女は自身の持つ特殊な能力 レアスキルを発動する。それに伴い、赤い瞳は緑を帯びて黄色に光り、本紫色のロングヘアは白みを帯びて淡藤色になる。
 ヒュージの攻撃を剣で捌きながら、左手に持つ空色の盾でパスされる球体を受け取る。少女は剣を盾に納め、ヒュージへ向かって戦場を駆け抜ける。
 少女は受け取った球体を大切に“育て”、ヒュージの下、足と足の間へ潜り込む。

「フィニッシュショット、撃ちます!…消え失せろーッ!!!」

 盾がM字に展開し、眩いエネルギー砲がヒュージを包み込む。
 メンバーが育て回してきたエネルギーだけあり、その破壊力は絶大だ。ヒュージの胴体は消し飛び、破片が戦場へ落ちる。

「流石ね怒。惚れちゃいそう♡」

「私なんてまだまだよ。姉ちゃん達はもっと強い」

 心を落ち着かせ、レアスキルを解除する。変色していた目や髪が元の色に戻っている。

「そう…私のお姉ちゃん達は凄いんだ…」


アサルトリリィ「船田怒編 -The Road to Overcome-」

 そう。私、船田怒には2人のお姉ちゃんがいる。

 長女の「船田(うい) 姉さん」。白い髪が特徴的で穏やかで柔和な性格。私たち3姉妹のまとめ役で姉妹は頭が上がらない。どんな時でも姉妹を最優先に考えてくれて、どんな時でも守ってくれるお姉さん。

 もう1人は次女の「船田(きいと) 姉ちゃん」。紫の髪が特徴的で初姉さんとは反対な苛烈な他人に厳しい性格。多少キツい物言いだけど、根は優しくていつも私達を思ってくれている。

 

 私は生まれた時からこの2人の姉に守られながら生きてきた。

 だから、私がここにいるのだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 幼い時、私たちは故郷を追われた。

 それは私達のレアスキルによるものだ。〈ルナティックトランサー〉。これは性質上ヒュージを集めてしまう。更に初姉さんと純姉ちゃんはマギをどれだけ一度に出力できるのかを示すスキラー数値、及びその波形が姉妹で同じことからくる「レアスキル感応現象」によりよりヒュージが寄ってきてしまう。

 そんな事は1度も無かったが、ヒュージを恐れた両親は私達姉妹を離そうとした。当然、私達は拒み続けた。

 私達は次第に居場所をなくしていき、故郷を追われた。そんな私たちを引き取ってくれたのが「御台場女学校」だった。

 

「…今まで怖かったでしょ。でも、もう大丈夫」

 

 父が運転する送迎用の車から降ろされ、私たちは城のような場所へ案内される。

 

「ようこそ“武”のガーデン。御台場女学校へ」

 

 故郷で怖がられ、追いやられた私達を温かく迎えてくれたのは一つ年上のお姉さん 長沢雪様だった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ごきげんよう。学校にはもう慣れた?」

 

「雪様、ごきげんよう!」

 

「大姉様!」

 

 私たちがガーデンに入って数日が過ぎた。

 境遇が境遇なだけに、周囲に馴染めなかった私達だが長沢雪様が寄り添ってくれて徐々に馴染んできた。

 姉ちゃん達も年上で頼れる人がいなかったせいか、姉のように慕っている。私としても“姉の姉”という印象があり、大姉様と呼んで慕っていた。

 

「初、純、怒、授業はどう?」

 

「余裕ですわ〜」

 

「純姉ちゃん、戦術論の先生に褒められてたんですよ!」

 

「まぁ。偉いのね純」

 

「もう、からかわないでくださいませ!」

 

 戦場に出るのは中等部から。それまではノインヴェルト戦術や「方向づけをした行動制御」を学ぶ。

 初姉さん、純姉ちゃんは授業で優秀な成績を収めていた。それに対して私は、平凡な成績だった。

 スキラー数値が高い姉さん達。私も数値自体は高いのだが、ルナティックトランサーに覚醒していないし、剣術もイマイチだ。

 大姉様や姉ちゃん達は優しく教えてくれているが、なかなか…。

 

「私はこの御台場を真の故郷として守っていけるリリィになりたいですわ」

 

 これは初姉さんがよく口にしていた言葉だ。

 故郷を追われた私たちにとって、この御台場女学校は何物にも変え難い「帰る場所」になった。このまま学んでいき、CHARMを手にしてヒュージと戦うものだと思っていた。大姉様もいずれ私達3人と同じレギオンに所属して、背中を合わせて戦いたいと言っていた。

 あの日(・・・)までは…。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 そう。あの日は唐突に訪れた。

 初等部最後の年。この時は大姉様、初姉さん、純姉ちゃん、私の4人で郊外に出ていた。

 入念な索敵を行い、ヒュージはいないことを確認した上で高等部の先輩リリィが護衛についていた。

 

 しかし…。

 

「嘘?!なんでヒュージが…こんなの聞いてない!」

 

 突如、想定外のヒュージの強襲に遭ってしまう。

 

「ここは私が!レアスキル〈ブレイヴ〉!」

 

 急な強襲で護衛の任についていた高等部の先輩は逃げ出してしまった。中等部でレアスキルを覚醒している大姉様は私達を建物の影に隠して1人で立ち向かっていった。

 大姉様のレアスキルは〈ブレイヴ〉。ルナティックトランサーと対になると言われるレアスキルで、触れた相手に精神の安定をもたらし、その者が持つポテンシャルを普段以上に上げることができる。

 このレアスキルは「ルナティックトランサーの相方」「仲間の能力アップ」など味方のサポートという印象が強いものだが、大姉様はこれを自信にかける事で攻撃力を飛躍させる「エンレイジ」という戦法を使っていた。

 しかし…この時はまだ「負のマギの残滓」という副作用が確認される前だった。

 

「ここに隠れていて。初は純と怒を守って」

 

 必死に応戦する大姉様だったが、急激なマギの消耗とエンレイジの副作用により思うように戦えなかった。

 1人では厳しいと判断したのか、大姉様は私達を隠して何処かへ急行した。

 

「お姉様…」

 

「大丈夫よ純。私がついているわ。雪様もすぐに戻って来られるわよ」

 

 廃墟になったビルの一室に隠れた私達。壁を一枚隔てればそこにはヒュージが歩き回っている状況で私達は隠れ忍んだ。

 この異変に一早く気がついたらのは私だった。そう…音が、止んだ。

 ついさっきまでヒュージの、鋼鉄の鈍器を地面に突き刺すような歩行音が急に途絶えたのだ。

 程なく、初姉さんと純姉ちゃんもその事に気がつき、初姉さんが戦場から逃げるため、周囲の安全を確認しようと外へ出てしまう。…それがヒュージの罠だった。

 

「姉様!!」「初姉さん!」

 

 建物の上に潜んだいたヒュージは初姉さんが出たのに合わせて現れた。

 驚きと恐怖でCHARMの抜刀に遅れた初姉さんを押して庇い純姉ちゃんが頭を負傷。その影響でより動きが鈍ってしまう初姉さん。ヒュージはこちらの事情なんて考えない。怯んだ2人を攻撃しようとする。

 

「ッ!…ぁああああアアアアッ!!!!」

 

 一瞬想像してしまった最悪の未来。この攻撃で2人の姉を失い、数日後に建てられた墓の前で更なる強さを誓う私。自分を責めて御台場を辞め、戦場で戦って亡くなる雪様。

 

 頭から何かが溢れるように髪が白に侵食される。絶望的な未来を見て視界が緑に染まる。

 

 

 

 …そんな未来は嫌だっ!いつまでも姉ちゃん達と一緒にいたい!

 

 

 

 契約したばかりのCHARMをヒュージに投げて目を眩す。一瞬だけ怯んだその隙に雪様が切り離していたヒュージの爪を拾い、武器として戦う。

 ヒュージは共喰いをして自身を強化する習性があるそうだ。授業で習った。どういう理由・理屈でそんな習性があるのかは知らないが、このことからヒュージの攻撃()はヒュージに通用する。急拵えのCHARMよりそっちの方が確実にダメージを与えることができる。

 

「お前なんかにっ!お前なんかに、私たちの未来は奪わせないッ!」

 

 爪で爪を斬り、目眩しに使ったCHARMを拾って脳天に突き刺す。

 奇妙な悲鳴を上げたヒュージは電池が切れたオモチャのように動かなくなった。

 ヒュージが起き上がらないのを確認して2人の姉の下へ向かう。姉達はビルを背にして下がっていた。やっと視界に入ったと思ったら、納めたCHARMをもう一度手に取る。地面に落ちている小石や小枝も拾っていつでも攻撃できるよう警戒する。

 目線の先には姉…ではなく先ほど倒したスモール級ヒュージが十数体、一回り大きいミドル級が3体。この群の親玉だと思われるラージ級1体がうごめいていた。

 

「いいでしょう…全員斬り刻んで差し上げますわァッ!」

 

 ヒュージの爪は致命傷以外無視、余計な動きは一切切り捨て懐へ飛び込んで胴を斬る。そのまま視界に入ったところを斬れるだけ斬って別個体へ移る。倒すというより斬る事のみに専念する。視界に入ったヒュージを斬る。動こうと動くまいと形があるなら斬る。一瞬でも動けば斬る。そこにあれば斬る。とにかく斬る。姉へ興味を行かせないために遠くにいるヒュージへは小石を投げて私にヘイトを向けて斬る。爪を斬り取れば爪で斬る。腕を斬り取れば腕を投げる。触手を斬れば触手で叩く。

 戦術も戦法もない。更なる狂気へ身を浸して、溺れて…意識のその先、本能的無意識を頼りにヒュージを斬り尽くす。

 

 剣を止めない。動きを止めない。斬るのをやめない。

 

「はぁ…、はぁ…、はぁ…、はぁ…、」

 

 意識が戻ったのはいつだろう。

 致命傷以外無視して攻撃を受け続けたため制服はボロボロ、全身傷だらけで流れる血液とヒュージの青い返り血が混ざり合ってドロドロになっていた。新品のようだったCHARMは鉄屑の棒かと思うほど摩耗し、輝いていたマギクリスタルコアは弱い光を点滅させているがヒュージの返り血で見えない。体内のマギなんて途中から尽きていた。

 CHARMを杖のようにつきながら姉の元へ歩いて行った。

 

「初、姉さん…純、姉ちゃん…私…やり…ました…」

 

「ッ!……」「怒……」

 

 今の帰ってきた私を純姉ちゃんは泣きながら強く抱いて、そんな私達を初姉さんは優しく包んでくれた。リリィとして身だしなみを怠らない姉様達が服が汚れるのを関係なく抱いてくれた。

 純姉ちゃんは泣きながら何か言っていたが聞き取る事ができなかった。初姉さんはずっと「ごめんね…ごめんね…」と何度も繰り返して言っていた。私が最も聞きたかった「ありがとう」は一度も言われないまま意識が無くなった

 

 中継基地にいた御台場女学校のレギオンが到着したのは、私が気を失って30分後だった。

 

 

 

 純side

 

 守ってくれた雪様はどこかへ行ってしまった。私達は見捨てられたのだ。

 

「怒!怒!」

 

 ヒュージの死骸のまみれな戦場で末っ子の怒は私達を守る為に戦い倒れた。私達を囲うようにわいたヒュージは全て怒が倒した。

 本来守るはずの妹が血を流し死に物狂いで戦い倒れる。こんな事があっていいのか。

 

「純…怒を連れて逃げましょう…。ここは…危険すぎるわ…」

 

「え、えぇ。お姉様」

 

 お姉様も私を庇って負傷した。

 それも全て私が弱いから…。あの時あぁしていれば…あの時…あの時…。

 失敗と後悔を思い出して今の自分を苛む。

 

「このままではダメ…。もっと強くならないと…。もっともっと私が強くならないと。二度と姉妹を傷つけさせないために」

 

 純side out

 

 

 

 初side

 

「初、純。怒は…」

 

「…怒は重体ですが、一命を取り留めましたわ」

 

「そう…か」

 

「それだけですか」

 

「…」

 

「私たちを見捨てて!怒をこんな姿にして!それだけですか!?この姿になった怒を!純の傷を!見て、何も思わないのですか!?」

 

「お姉様!…怒を起こしてしまいますわ」

 

 私達が保護されて程なく。

 治療施設で手当てを受け病室のベッドの上で横になっている怒。身を粉にして私達を守った末っ子を長女と次女は静かに見守っていた。

 遅れてやって来た雪様。

 あの時、私達を置いて逃げた彼女を見るだけで怒りが込み上がって来た。彼女を見るたびに、妹の傷が目に浮かんでくる。

 

「御台場の武人として、このような不心得がありましょうや!もう、私たちの前に現れないで下さいませ」

 

 病室から出ていく彼女の背中はどこか寂しそうで、流れた涙からは言葉にできない罪悪感を感じさせた。

 

 初side out

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 目が覚めて、私は驚いた。なんと2週間も眠っていたらしい。もう中等部に上がって1週間経過している。中学生デビューでずっこけてるではないか。

 とりあえずナースコールで先生を呼ぶ。そして各種検査を受ける。身体的な検査やリリィとしてマギの検査などを行った。

 担当した先生は診断結果を見て「奇跡だ…」と呟いた。私は気を失っていたので知らなかったが、保護されてガーデンに運ばれた時の私は見るに耐えない程酷いものだったらしい。

 全身に斬り傷があること自体滅多に起きないのだが、私の場合ヒュージの体液を全身に浴びていたのがまずかった。ヒュージについては未だ分かってないことの方が多く、生態系もそうだ。もしも傷口からヒュージの体液を取り込んでしまえば、リリィにどのような影響が出るか分からない。よってメディカルチェックは入念に行った。

 半日ほどかけて長ぁ〜い検査が終了したが、4日間の検査入院を言い渡された。

 

「ごきげんよう。怒」「やっと起きましたわね」

 

 ベッドの上で特にやる事もなく眠ろうとした時、勢いよく開かれたドアから初姉さんと純姉ちゃんがやってきた。

 走って来たのだろうか髪がボサボサになっている姉さん達。元気そうでなにより…と思いたいが純姉ちゃんの頭には包帯が巻いてある。あの時ヒュージに傷つけられたものだろう。

 なぜだろう。傷は私の方が多く深いはずなのに、純姉ちゃんの傷を想像すると私以上に“痛い”のは。

 

「姉さん、姉ちゃん…。ご心配おかけしました」

 

「もう、なんなの?その言い方」「末っ子が生意気ですわよ」

 

「っいた、」

 

 純姉ちゃんは私のデコを軽く弾く。

 

「怒、もう貴女が傷つくことはありませんわ」

「えぇ。必ず姉ちゃん達が守ってみせますわ。もう二度と、“こんなこと”が起きないようにっ…!」

 

 姉さん達の目の奥に何かが燃えているのを感じた。私を守るといった言葉にはかなりの“重み”があった。

 この間、2週間前の戦いの傷跡は目に見えている以上に深そうだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 あれから1ヶ月が過ぎた。

 姉さん達はレアスキルに覚醒した。2人でルナティックトランサーを発動することで「共感現象」を起こし絶大な威力を誇った。その上、負のマギへの耐性が強いときた。様々な戦場に引っ張りだこになった。

 

「さぁ怒!ルナティックトランサーを!」

 

「レアスキル〈ルナティックトランサー〉!ぉぉおおおお!」

 

 御台場女学校中等部 屋外訓練場を借り、姉様とレアスキルの特訓を行う。

 私はあの時以降レアスキルが上手く発動しない。私の場合レアスキルを発動すると髪と目が変色する“神宿り”と似た特徴があるのだが、今発動すれば髪の半分、目も薄く変色するだけでパワーもさほど上がらない。

 

「かかっていらっしゃい!」

 

 第一世代CHARM ヨートゥンシュベルトを手に純姉ちゃんと刃を交える。

 今はまだ届かなくても、レアスキルは「覚醒者が側にいれば連鎖する」という性質がある。純姉ちゃんの目論見は自分と戦わせることで私の覚醒、あわよくば初姉さんと同じように共感現象を起こせれば…!

 

 

 

 

 と思っていた時期が私にもありました。

 

 

 

 

「うっ…!」

 

「こんな物じゃないでしょう!さぁ、来なさい!」

 

 あれから2年。

 今も変わらず純姉ちゃんのフンティングと私のブルトガングが刃を交える。

 重力を無視した跳躍に人間離れした身のこなし。この2年で私達は成長した。訓練と任務、そしてもう何度目かも分からない真剣手合わせ。

 刃を合わせては距離を取り、ガンモードで攻撃。姉はそれを弾いて再び距離を縮める。

 

「逃げてばかりでは勝てませんわ!」

 

「まだまだ!」

 

 私は自分のCHARMをフル活用しているのに対して、姉はフルンティングの刃しか使っていない。ステップ一つにしても私は慌ただしい物があるのに対し、姉は蝶のように可憐で花のように凛としている。

 レアスキルを使ってない状態で状態でこのザマ。使えば手も足も出ないだろう。

 

「今日はここまでにしましょう」

 

「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます、」

 

「いつまでそうしているの。早く汗を流して支度をしなさい。この後は任務がありますわよ」

 

 大の字に横たわり「マジすか」と言いたくなる気持ちをグッと抑える。

 100%とはいかなくても80%くらい本気で戦ったのにすぐ任務て。スパルタもいいとこだ。

 あまりの鬼畜さに責めるのか…と聞かれればそれも違う。これは私を大切に思ってくれてのことなのはよく分かる。実戦で死ぬくらいなら、訓練で死ぬ程シゴく。

 このスパルタ訓練は姉の優しさでもあるのだ。

 

「よーし!純姉ちゃんのように強くなるぞー!おー!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 ある日の訓練。

 

「さぁ、かかっていらっしゃい!」

 

「はぁぁ!」

 

 今回はレアスキルを禁止した状態で戦う。デュエル世代と呼ばれる上級生が行なっているトレーニングに参加している。というかさせられた。

 デュエルとはヒュージと1対1で戦う戦法の事でこれをマスターする事で、攻撃と防御の両方に参加できるリリィになれるというもの。流石にいきなり実践でヒュージと戦えというのは無理な話なので先輩リリィと手合わせしている。

 

「動きが単調よ!もっと緩急をつけなさい!」

 

「まだまだ!」

 

「残念。チェックメイトよ」

 

 惨敗だった。足は動かないし、腕は上がらない。マギも尽きている。その上身体中痣だらけ。普段ならダウンしているほど消耗しているが、この体で通常のトレーニングを行なった。体を動かす音で分かる。一度腕を上げるだけで軋む骨、普段以上に動かない体。

 しかし、傷以上に得るものは大きかった。ヒュージとの戦闘には無い緩急やテクニック、誘導、その全てが凄かった。“歴戦”を感じさせる猛者だった。

 

 

 

「今日は相手していただいて、」

 

「いいからかかって来なさい。先輩が扱いてあげる」

 

 それから別の日。

 私は上級生の円山周様に試合していただいた。

 周様はレアスキル〈縮地〉、サブスキル〈ステルス〉を合わせた神出鬼没な戦闘をしており、別の誰とも違う戦い方をしているリリィだ。レアスキル無しでも手も足も出なかった。昨日のリリィとは違う戦いづらさ周様にはあった。

 刃と刃を合わせたと思えば次の瞬間消えているような神出鬼没。これはレアスキル由来ではなく、独特の身のこなしだろう。何というか…視線を切るのが上手い。

 

 

 

「「…」」

 

 また別の日。

 周様の紹介…と言うよりハメられて、雪様に相手していただいた。

 集合場所に来てみれば私と同じ「なんでここに?!」という表情をしている雪様がいたのだ。

 雪様と最後に会ったのは初等部6年の時振り。あの一件から私達はすれ違う事はあっても、直接会っていない。周様は私達の関係性を知っていて、あえてこの練習をセッティングしたのだろう。

 雪様の戦い方は私のよく知るソレだった。他のリリィとは間合いが違う完璧なインファイト型。そしてデュエルに慣れている者の戦い方はチーム戦とは違う攻め・守り方に一層苦戦する。

 結果惨敗したのだが、この試合中に私達が言葉を交わすことはなかった。それも雪様の伝えたい事はなんとなく分かった。この機に色々伝えたい。でもなんて声をかけたらいいのか分からない。だから動きで伝える。

 インファイト相手の立ち回り、チームとデュエルの違い、得物の上手い使い方、声にならないけど雪様の言葉は会話のように伝わった。不器用だけど世話焼きなところ、やっぱり私達の大姉様だ。

 最後に私へ向けた笑い顔からは「必ず強いリリィになれる」と背中を押してくれているように暖かかった。

 

 様々な人に扱いていただいたおかげでデュエル戦法を身につけることができた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

『船田純、あなたを生徒会長に任命する』

 

 私達は中等部3年生になった。

 この3年間で初姉さん、純姉ちゃんはリリィとしての才能を開花させ生徒会長に任命された。それに伴い、『船田予備隊』を結成。

 私は半ば強制的に入隊。その他にも勧誘などなどで人数が揃い、予備隊が結成。

 

「9時の方向からヒュージ襲来!スモール級10体、ラージ級3体!他にも救援反応複数あり!」

 

「叶星!」

 

「レアスキル〈レジスタ〉!初、純、怒は9時の方向へ。椛、楪、梓、紅、治はケイブを破壊。蛍、昴、槿は援護に。私と高嶺ちゃんは別方向から来るヒュージを相手するわ」

 

「了解」

 

 〈レジスタ〉は大きく2つの能力がある。1つは俯瞰視野。空間把握能力で司令塔にはもってこいのスキル。もう1つはマギ純度を向上させることによるCHARMスペックの向上だ。「一つのレギオンにレジスタがいないと成り立たない」と言われるほど戦力的にも戦略的にも重要なスキル。

 任務や作戦を行う際は叶星のレジスタを元に作戦行動を行なっている。

 私達は叶星の指示通りに動いた。

 

「行くわよ!お姉様!怒!」

「えぇ」「はい!」

 

「「「レアスキル〈ルナティックトランサー〉!!!」」」

 

「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」

「はぁ!」

 

 押し寄せるヒュージに対して船田三姉妹は一斉にレアスキルを発動。姉さん達は共感現象により力を底上げしヒュージを次から次へと薙ぎ倒している。

 それに比べて私は力不足としか言えない。身近に実の姉の共感現象が発生しているにも関わらず、何の反応も起きない。私は、姉さんのように強くなりたいのに…!

 

 

 

「片付きましたわね」「余裕でしたわ〜」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、マ?」

 

 まだ抑えた。「マジすか」の「ジすか」を抑えれた。

 ヒュージの残骸が散りばる中、私はCHARMを地面に突いてもたれていた。姉さん達は平気そうにしている。

 レアスキル無しでリリィ同士の手合わせなら負ける事はないが、一緒に戦うと嫌でも実感してしまう姉の強さたるや敵う気がしない。

 

 その後、各々の作戦を終了し集合。船田予備隊の面々は私を除いて余裕そうな表情だった。私は、この時ほど“才能”に押し殺されそうに感じた事はない。目の前にある原石達はいつか必ず光り輝く。その時、私は彼女達の隣で肩を並べていられるのだろうか。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 それからしばらく。

 私達、船田予備隊にとって忘れられない戦闘「特型スモール級 グンタイアリ種」との戦いが始まった。

 

 きっかけは御台場女学校の守備範囲無いに特型スモール級ヒュージが出現した。船田予備隊は出撃。これを撃破する任務についた。

 

「はぁ!」

 

「ゆず!先行しすぎよ」

 

 船田予備隊のメンバーである川村楪は軽快なステップと身のこなしでヒュージの攻撃を華麗に交わし、撃破していた。月岡椛はそんな楪を心配そうな目で見る。いくら倒せるからと言って気を抜くほど御台場のリリィは甘く無い。

 

「へへん!大丈夫だって」

 

「っ!ゆず!」

 

 ダンッ!

 

「気を抜かない」

 

「ご、ごめんよ治」

 

 楪はCHARMを地面に突き刺し、振り向いて心配する椛へ笑顔とピースサインを出す。

 しかし、先ほど攻撃を受けたヒュージは傷が浅かったようで、起き上がり楪へ噛みつこうとする。死角だったのと地面にCHARMを突き刺していたことにより反応に遅れた楪は負傷した…かと思いきや周囲にいた菱田治の銃弾によって救われた。

 

「全く、キリがありませんわね」

 

「これはケイブを先に叩いた方が良さそうですわね」

 

「それにしても数が多いな…どうする?叶星」

 

「レアスキル〈レジスタ〉!…全員で移動するわ!」

 

 個体としてみれば倒せなくは無いレベルのヒュージ。だが、あまりにも数が多過ぎた。叶星は全員で動いて誘導、そして殲滅しようとする。このグンタイアリ種は今回が初めて出現した個体なので“種の固定”ができていない。今全て殲滅できれば同じ種が再出現する確率は無に等しくなる。

 

「…まさか…そんな」

 

「どうする?!これ以上は保たないぞ!」

 

 叶星の指示で動きヒュージを倒していたが、強襲を受けてしまい形勢逆転。

 いつもであれば、退避ルートを確保していたのだがこの時は退避できず追い詰められていた。叶星は自分の指示が招いたピンチだと激しく動揺していた。

 

「叶星!」

 

「私が!道を切り開くッ!」

 

 攻めから一転。防御に必死で攻めきれない私達。

 叶星は作戦指揮失敗の責任をとるべくCHARM一つで特型グンタイアリに立ち向かうが、

 

「危ない!」

 

「高嶺ちゃん!!」

 

 圧倒的な数を前に追い込まれる叶星。そして彼女を庇ったのは高嶺だった。

 叶星は大怪我をした高嶺に肩を貸し、私達は命懸けで作った一筋の隙を繋ぐためになんとか戦う。

 

「叶星と高嶺が作った道を繋ぐわよ!お姉様、怒、紅、いきますわよ!」

 

「「「「レアスキル〈ルナティックトランサー〉!!!!」」」」

 

 船田予備隊に所属している船田三姉妹と西郷紅の4人同時ルナティックトランサー。

 普段であれば負のマギが濃くなり過ぎてしまい、戦闘どころではなくなるため滅多にしない戦法だがそうでもしないと突破できない状況なのだ。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

「っ!みんな、初達に付いて突破するわよ!」

 

 私達が倒したヒュージの死骸踏み突き進み、狭まる道を仲間が広げ、なんとか離脱することに成功した。

 その後、御台場の精鋭 ヘオロットセインツが救援に駆けつけた事で死者は0名で戦闘は終了したものの、高嶺は大怪我で入院。叶星もミスから戦意喪失してしまった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 あれから程なく。特型スモール級 グンタイアリ種との戦い後、初のレギオン会議にて。

 

「私と叶星は神庭女子に行きます」

 

 それは唐突の発言だった。

 あの戦いで高嶺は負傷してしまい、リリィとして復帰不可能と言われる程酷い物だった。が、高嶺は現役復帰を果たした。

 ここまでは良い知らせなのだが、ここからが大きな問題なのだ。高嶺は現役復帰したものの後遺症が残っている。それは負のマギに侵され安い体質になってしまったのだ。その影響で精密なCHARM操作ができなくなったためスピードを活かした戦法からパワーを活かした戦法へ変えざるを得なかった。

 更に戦法変更に伴って、元々保有マギ量の絶対数が多く無い高嶺はマギの枯渇が大いに早まってしまった。これにより連戦するのが困難となり、連戦を基本ととする御台場の方針と合わなくなったのだ。

 叶星は高嶺に付き添う形で転校するとのこと。

 神庭女子はリリィの自主性を第一とした育成方針を掲げており、リリィに戦闘を強要しない事で有名だ。戦闘に参加する場合でも、どの戦場に参加するかは自分で選ぶ事ができる。

 高嶺、叶星はこの学校でもう一度、自分のペースでリリィとしての成長を目指すとの事だった。

 

 2人が船田予備隊、御台場を辞めて神庭に移るかはリーダーである船田純の決断に委ねられる形になった。

 この説明を受けた純お姉ちゃんは少し悩んだ末に出した答えが、

 

「…2人がそうおっしゃるなら、好きになさい」

 

 純姉ちゃんは2人の脱退を許可し、晴れて神庭に移ることが決まった。

 私達としては微妙な心情だった。もっと一緒に戦いたい。できない事なら私達でカバーする。それがレギオンというものだ。しかし、本人が望まないのに無理に戦わせるのも違う気がする。お姉ちゃんはよく決断したと思う。

 叶星と高嶺は会議室を出る前に振り返り、私達へ深々と礼をして戻って行った。その背中からは、何か吹っ切れた様なものを感じた。

 

 

 

「純姉ちゃん、初姉さんもう…」

 

「この程度で倒れていては御台場のリリィ失格でしてよ!」

 

「さぁ立ちなさい怒。訓練はここからですわよ」

 

 あれから、生徒会長の船田純は能力至上主義に基づいた「能力別トレーニングメニュー改革」を提案。

 その骨子は井草昴の自主トレーニングが元となっており、端的に言えばリリィの能力を格段に上げるくっそハードトレーニングだった。なんと言うか…実戦よりキツい。

 特に、妹の私は純お姉ちゃんが直々に見ているおかげで他の誰よりもキツい生傷と包帯が外れることのない日々を過ごしていた。

 

 いくら生徒会長で超が付く実力派リリィだからといってこの方針は他のリリィから多くの批判を受けた。

 元々御台場女学校の育成方針は高等科にピークを合わせたものであり、学校の理念にも反するものだった。その度が過ぎたトレーニングは船田予備隊に所属する菱田治や川村楪からも激しく非難を浴びることになった。

 

「純。これ以上は止めるべきよ!」

 

「怒だって傷が増えてるわ。これ以上の訓練は体を痛めるだけだよ!」

 

「いえもっと厳しくしますわ。もう…二度と傷つけさせないために…」

 

 怒だけではない。御台場のリリィ達は今や傷がない日がない。最近ではオーバーワークによる負傷者も出てきた。

 多少強引な改革は反感を買う事もあった。それでも全てのリリィが反対することは無かった。ここが武のガーデンと呼ばれる所以なのだろうか、強くなるための訓練であるなら喜んで受けるリリィもいた。

 それが今やほぼ全てリリィが船田純を敵視している。純を唯一理解していた姉の初、純と同じ生徒会で友人の川端蛍ですら反対する様になった。

 

 

 

「怒、この任務に行きなさい。一人で」

 

「マジすか姉さん」

「純!」

 

 ついに洩れた。

 叶星と高嶺が脱退して1ヶ月が過ぎた。あれから純姉ちゃんの独裁政策は更に加速してしまった。

 体が痛めかろうとも、生徒会長が反感を買おうとも、任務はやらなければいけない。それがリリィだ。たとえそれが超ハードの任務だろうとも。

 

「純!これはいくら妹でも許せません!こんな任務…怒一人は無茶よ!」

 

「姉様、怒なら十分できますわ。日頃からこの任務以上の訓練を積んでいるのですから」

 

「それとこれは話が違うわ!純!聞いているの純!」

 

「大丈夫だよ初姉さん。私ならできるから。…純姉ちゃん、その任務私に任せて」

 

 話に耳を傾けず、背を向けて窓から外を眺める純姉ちゃん。

 私は荒ぶる初姉さんの手を握り安心させる。そして純姉ちゃんに任せられた任務を受けることにした。

 

 私の任務は新たに発見されたケイブの偵察。と一見簡単そうだが、このケイブにはグレーターラージ級がいるそうだ。

 グレーターラージ級とは、ヒュージの大きさを表すラージ級より一回り大きく戦闘力はギガント級に相当する個体。コイツはノインヴェルト戦術でしか討伐できないと言われており、単独での討伐は不可能に近い。

 つまり今回はこのグレーターラージに気づかれる事なくケイブの情報を持って帰らなければいけないということ。この様な任務は基本偵察専門レギオンで受けるはずだが、御台場にそんなものは無い。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「アレが新しいケイブ…ヒュージの数が多いな〜」

 

 支度を行い、建物の影を移動しながらケイブを偵察する。

 見たところ最も大きい個体がでグレーターラージ級なのでネストにはならなそう。それにしても数が多い。

 少し前に戦った特型スモール級グンタイアリ種は特に数が多い個体だったが、それに勝るとも劣らない数。形はまばらだが数が特に多い。

 

「防衛本能かしら」

 

 まぁまぁ大きいケイブの周りには壁の様に大きいラージ級ヒュージ。

 軽く小石を軍の1体に投げてみれば、その石を周囲のヒュージが集まり原型を無くすまで攻撃し始める。気づかれれば私もタコ殴りになりそうだ。

 

 バレないように息を殺して辺りを探索し、状況を簡単にまとめる。

 ヒュージの規模は報告とほぼ違わない。スモール級とラージ級。そして若干のグレーターラージ級。欲を言えばネストの位置も特定したいが…これだけ数が多いと上手く探せない。ヒュージの流れを逆に進めばある…かと思いたかったが、ネストに近づけば近づくほど数が増えて進行困難になる。

 

 

 『新ネスト レポート

  スモール級…いっぱい

  ミドル級…ほどほど

  ラージ級…しばしば

  Gラージ級…まぁまぁ

  ネスト…こっちが聞きたい

  製作者:船田怒』

 

 

 うん完璧。足りない点が見当たらない。私って天才かも。

 よし、提出するレポートができたから帰ろう。

 バレないようにそぉ〜っと逃げよう。

 

 ギギギギギ ギギギ ギギギギギギ

 

 おいおい、最近の無線は若干うるさいなぁ。全くもう

 

 ギギ?ギギ。ギギギギ!

 

「あーもううるさいなぁ。そう言われなくてもレポート持って帰りますわよ」

 

 もうずっと耳元がギギうるさい。

 

「はいはい。…故障でもしたのかしら」

 

 ギーギギギギ!

 

「うわぁぁぁあ!?」

 

 いきなり背後からヒュージの鋭い爪が襲ってきた。

 バレないように岩陰を転々としていたのに見つかった。

 

 そしてやってしまった。ついつい大声を上げてしまった。

 

 周囲を徘徊していたヒュージが私の存在に気づかれた。1体のヒュージの叫び声で周囲のヒュージが寄ってくる。

 こうなってしまえばもう手遅れだ。辺り一面のヒュージがこちらを向いて襲ってくる。

 

 背負っていたブルガトリングを展開し、ヒュージを薙ぎ払う。

 スモール級くらいなら一振りで両断できる。ミドル級も斬るのに1秒もかからない…のだが、何よりも数が多すぎる。

 今は倒すことよりも離脱することを最優先にしなければいけない。戦闘力でこそ問題ないが、足を止めればその隙にどんどん押し寄せてくる。

 

「ちょっと、これは…マズいかも…」

 

 斬り進み、やっと離脱できそうになった頃。帰るのに渡らなければいけない橋にグレーターラージ級が壁のように聳え立っている。

 

「ッ、…短時間で決める!レアスキル〈ルナティックトランサー〉!!」

 

 マギを暴走させ、全身から力が溢れてくる。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

 

 足にマギを溜め、空中へ駆け上がる。ルナティックトランサーのおかげで心拍機能や腕力、重力を無視した軌道で動く事ができる。

 スモール級は数こそ多いものの、その大きさは人間より小さいくらい。よって上空に上がってしまえば奴らは手を出す事ができない。ヒュージがヒュージを踏み高さを出そうとするが私が駆ける方が速く、またミドル級が上に乗ったおかげで自重で潰れてしまっている。

 

 問題のグレーターラージ級だが、レアスキルを発動した状態で1対1なら余裕で逃げ切れるだろう。伊達に化け物揃いのデュエル世代にシゴかれていない。

 

 

 普段の私(・・・・)なら。

 

 

 

 張り詰めた糸が切れる音がした。

 表面張力で持ち堪えていたのが、溢れてしまった。

 重力に従って風を切る音がする。

 

「ッ!?足が、動かっ、」

 

 グレーターラージ級を避けよう。安全なコースを考え、移動する途中だった。

 突如ふくらはぎに激痛が走り、レアスキルが解除される。重力に反していた体は重力に引かれて地面へ落下する。

 何が起こったのか分からない。ただ、戦場では失敗を考える暇がない。今はひとまず落下をどうにかしなければいけない。

 ブルガトリングを展開し、刃を逆にして壁に突き刺して威力を殺す。

 

 なんとか落下による怪我は最小限に抑えることができた。しかし、右足は激痛のあまり動かす事ができず、チャームを地面に突き立てなければ立てない。そのチャームも刃がボロボロに摩耗してしまいほぼ使い物にならないだろう。機能しているのはブルガトリングの耐久性様様だ。

 

 こんな事をしているうちに完全に囲まれてしまった。見える範囲180°全てにヒュージがこちらの出方を伺っている。

 いくらスモール級が人より小さいサイズとはいえ、足が動かない今は1体1体が高層ビルのように高く見えてくる。

 

 敵の本陣で数百体に囲まれて、私は片足負傷。あぁ、死ぬな。これ。

 

 ギーギギギギギギー!!!

 

 真正面の一体が突進してきた。動けない私にその歯を突き刺して食い千切ろうってか。

 

「御台場のリリィを舐めんじゃねぇー!!」

 

 向かって来たヒュージを一振りで両断。左足で踏ん張り野球のフルスイングのように大振りな一閃。

 仲間が殺されて殺気立ったのか、私が動けるのを確信して警戒したのか。周囲のヒュージはあちこちで奇妙な鳴き声を上げ、警戒しながら一歩一歩距離を縮める。

 

「かかって来いよヒュージ共!御台場魂見せてやらぁ!」

 

 一振りで先頭の一体を両断。返しの一振りで二体を斬りつけ、更なる一振りで、と行きたがヒュージに腕を噛まれる。

 速攻でガンモードに変形。腕ごとヒュージを倒す。何発か掠ったが許容範囲内だ。

 そのまま半円を描くように牽制。数体は足を負傷し地面に伏せる。

 一瞬空いた間にソードモードに変形。再び詰めて来たヒュージを斬り伏せる。

 

「っ!」

 

 息をもつけない攻防の中で何かの門を封じていた鎖が弾け散った。そんな気がした。

 解き放たれた門が開き、中から何かが溢れる。今ならできる。気がする。

 

「サブスキル!!〈カリスマ〉ァァー!!!!!!」

 

 ブルガトリングを地面に突き立てて、新たなサブスキルを発動させる。

 〈カリスマ〉。支援と支配のスキル。

 ヒュージの持つマギを反転させ自分のマギを回復させる。しかし数が数なので自分の器を超えるマギは周囲に散らす。この影響で一帯が浄化されたマギに覆われてヒュージの動きが著しく鈍くなる。

 動かない部分を回復したマギで補い、無理やり体を動かしヒュージを斬り伏せる。

 

 まだ動く。まだ戦える。まだ、死ねない。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、どんだけいんだ、よ!サブスキル〈カリスマ〉!…はぁ、はぁ、」

 

 戦い始めてから時間の感覚は無かった。

 目の前のヒュージを倒す。動きが鈍くなるとカリスマ発動。回復してヒュージを倒す。

 この一連のサイクルを何度も何度も繰り返し行う。

 時たま現れるミドル級、ラージ級は根性で足からとにかく斬り続ける。そうすれば倒れてる。

 

 そんな事を続けてきたが…ついにカリスマの精度が落ちてきた。チャームも弾丸は打ち尽くして刃は摩耗しすぎてほぼ鉄屑だ。

 覚醒して間もないスキルを乱用しまくった対価か、使用前より体が痺れて動かなくなる。

 こっちはボロボロなのにヒュージはケイブから無限湧きししてくる。まぁ数が減ったおかげでヒュージのやってくる流れで大雑把な位置を把握できたが破壊に行けるほど体力が残っていない。

 遂に両足が動かず、地面に座り込む。

 

「はぁ、私、結構頑張ったよ…。でも、もう無理そう…」

 

 指も動かない。

 ヒュージは私を脅威と認識しているのか牽制攻撃はない。群でひたすら押し寄せる。

 視界がヒュージで埋まり、その影に覆われる。

 

「純姉ちゃん…初姉さん…ごめんね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「怒ーーーーー!!!!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく、本当によく持ち堪えてましたね」

「けどもう大丈夫!」

「後は、任せて」

 

「椛…楪…雪、お姉様!?」

 

 ヒュージの影を払いのけるように現れた3人の背中。私と同じ船田予備隊に所属している月岡椛、川村楪。そして私にとって第三の姉 長沢雪様だった。

 3人の登場で戦況が一変。私を囲っていたヒュージは瞬く間に蹴散らされ戦場全体が見える。

 

「助けに来たのは、私達だけじゃない!」

 

「みんな…」

 

 助けに来てくれたのは3人だけではない。船田予備隊のメンバー達やトップレギオンのヘオロットセインツも助けに来てくれた。

 

 数分後、この近辺に轟音と振動が響き渡る。これはノインヴェルト戦術を使用したものだろう。

 

「今のはノインヴェルト…あのグレーターラージに?」

 

「それについては私が話しますわ」

 

 疑問を持つ私に答えてくれたのは椛だった。

 

「結論から言うと、観測されていたヒュージはグレーターラージ級ではなくギガント級だった事が判明しました」

 

「!?」

 

 アレはグレーターラージ級では無かった…となると確かに話は大きく変わる。

 グレーターラージ級とギガント級は大きさや戦闘力は変わらないが、大きく違う点が「ネスト営巣能力」の有無である。ギガント級がケイブに出現し、ネストとして成長してしまえばその都市は陥落すると考えていいだろう。

 ケイブはヒュージが出現するワームホールであるが、ネストになればそこがヒュージの拠点になってしまう。また、ネストには「自己防衛機能」と「種の固定」がある。自己防衛機能は文字通り、攻撃すれば反撃してくる。これによって安易に手が出せなくなってしまう。ネストに成長する前に叩くのが定石とされている。種の固定とは特型ヒュージに見られる現象で、変異種だった特型がケイブを作ることによって一般化してしまう。

 

 一応予感はあった。いつも以上に頻出するヒュージにケイブを守る防衛行動。それがまさかギガント級がいたからだったとは…。ヘオロットセインツはケイブを破壊するために来たのだろう。

 

「凄かったんだぜ?雪様ったら、怒がピンチだー!って聞いたら一目散に出たん゛!」

 

「余計な事、言うな」

 

「あはは…ありがとうございます。大姉様」

 

「怒こそ、よく耐えた。後は任せなさい」

 

 あらかたヒュージを倒し、ケイブも破壊する事ができた。今は一部リリィが隠れているヒュージを探している中、私は梓の肩を借りて帰っている最中だった。

 何故みんながここに来るに至ったのかなんかを聞いていると流れが雪様の話になっていた。すると突如現れた雪様からチョップが繰り出されたことで全てを聞くことはできなかった。でも、私のために来てくれたのはよく伝わった。

 当の雪様はすっごく照れており、顔が真っ赤だった。やっぱり私の大姉様は初めて会ったあの時から変わらずいてくれているのだなぁ。としみじみ思った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 船田予備隊のメンバーやLGヘオロットセインツの助けもあり、私はなんとかガーデンに帰る事ができた。

 保健室に常駐している中原・メアリィ・倫夜(ともよ)ちゃんには「またぁ?」みたいな反応された。いや言うても2年くらい振りですよ。

 

 初等部最後の年。私は色々あって大怪我してしまい倫夜ちゃんにお世話になった。あの時もまぁまぁ酷かったが、今回は今回でまぁ酷い物らしい。中等部3年に入ってしばらく経つがまさか「使わないだろう最新医療設備」の最初の使用者になるとは思っていなかった。

 あの戦いで覚醒できた〈カリスマ〉。これは今のところレアスキルと思われており、サブスキルで覚醒した例はない。ましてやルナティックトランサーと同時に覚醒する前例なんてあるわけ無い。この事を倫夜ちゃんに相談してみたが、悩むだけ悩んで匙を投げてしまった。

 

 これは少し先の話。御台場には2人のカリスマ使いが現れる。世界はそこで初めて知ることになる。カリスマは“とあるレアスキル”に至るまでの成長過程でしかないことを。

 

 

 

 ひとまず入院して経過観測する事になった。

 入院期間中は色々な人が見舞いに来てくれた。予備隊の面々や手合わせしてくれた先輩も来てくれた。お姉ちゃんは、来てくれなかった。

 

 

 

 3日後。歩けるくらいには回復した。ただし杖ありで。

 

「あら、もう歩けるの?」

 

 軽く廊下をぶらついていると、数冊の本を抱えた椛とすれ違う。

 

「杖つかないと歩けないけどね。ちょっと工廠科に行ってくるよ」

 

「えぇ。気をつけてね。…凄かったから」

 

 数あるCHARMの中でもずば抜けて高い耐久性を持つブルガトリング。円環の御手をレアスキルに持つリリィが多少雑に使っても壊れない事で有名だ。それを鉄屑のようになるまで摩耗してしまっている。恐らく数あるリリィの中で最もブルガトリングを消耗させたリリィだろう。どんだけ責められるか…。

 

 

 

 …もうしばらく工廠科は行きたくないです。

 壊れたCHARMを前にめっちゃ輝かしい目で詰め寄られた。あいつらヤベェって。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 4日後。私がケイブ調査任務に行ってから1週間が経った。未だ入院中の身だがやっと足から包帯が取れ、戦闘はできないものの日常生活は送れるようになった。

 そして本日。1週間振りに、姉達と話す事ができるようになった。

 

 あの日、予備隊とセインツが駆けつけてくれた時に姉達はいなかった。入院してからも今日まで顔を出すことは無かった。

 接近・面会禁止のようなものが敷かれていたのか、姉達が私を避けたのか。真実は分からなかったが、ここ数日は避けられていると感じていた。

 それが今日になって解禁された…いや、“今日だから”会いに来てくれたのだろう。

 

「久しぶり…ですわね…」

 

「そうですね。任務達成出来ず、すみませんでした。せっかく純姉ちゃんが任せてくれたのに」

 

「えぇ。今日はその任務について話に来ましたわ」

 

 アレから少しやつれたのだろうか。いつもの姉達では無かった。普段なら当たり前の肌のハリ、髪のツヤ、あぁ服にシワが…!

 

「本来なら1人に任せず、レギオンを派遣するのが定石ですのに…」

 

「いえ。追い詰められた極限状態だったからこそ、サブスキルに覚醒できました」

 

「怒は強いわね…」

 

「初姉さんの教育のたわものです」

 

 姉は落ち込んでいた。私から見ても異常なほどに。

 

「怒。私たちはより強くなるために短期研修遊学に行く事にしますわ」

 

 そのせいなのか、お姉ちゃん達の元気がなさそうに見えるのは。遊学ごときで私のお姉様が落ち込む訳ない。きっと今の御台場から離れる事に抵抗があり、長い間考えたのだろう。

 

「しばらくお別れですわね」

 

「そう…ですか…。頑張って下さい」

 

「えぇ。私がいない間、この御台場をお任せしますわ」

 

 これは後で聞いた話なのだが、この時の姉達は周囲から激しく責められていたらしい。多少強引なトレーニング政策は反対する者はいたもののこの影響で強くなったリリィも少ないため責められはしなかった。しかし、今回の一件で「妹であり、仲間のリリィを無茶な難易度の任務へ無理矢理行かせた」事で学園内・外からも責められていたそうだ。

 姉ちゃん達を責めるリリィの多くは途中で任務のランクに誤りがあり、ランクが跳ね上がった事を知る者は少ない。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 お姉様が御台場を離れて2週間が経った。

 今日で退院する事になった。

 

「もうこんな無茶しちゃダメよ〜」

 

「ありがとう倫夜ちゃん」

 

 足も元どおり治り、歩くのはもちろんリハビリしていたので前線にも行ける。

 

「おーい怒、いるかー?」

 

「…“ゆず”。返事する前に入って来ちゃ意味ないでしょ」

 

「へへへ、元気そうだね」

 

「おかげさまでね」

 

 “ゆず”こと、川村楪との会話はほんと気が抜ける。この2週間、憧れのお姉様がいなくなって私はもぬけの殻のようだった。

 制服を着崩してチャラチャラしているようで、あれでいて周りはよく見えている。私を元気づけようとしているのが見え見えだ。

 

「長い入院で鈍ってんだろ?軽く手合わせしようぜ」

 

「受けてたとう!」

 

 病み上がりにどういう了見かは知らないが、楪の提案なら何か裏があるに違いない。まぁ実際鈍っているから手合わせなら喜んで。

 ルールは簡単。CHARMはヨートゥンシュベルトのみ。レアスキルの使用禁止で膝をつくか武器を手放す、負けを認めさせるなど、いい感じになったら勝ち。

 

「手加減は無しだぜ!」

 

「当たり前だよ」

 

 川村楪。高いスキラー数値を持ち、幼稚舎から異例の待遇で御台場女学校に迎えられるサラブレットとかいうやつだ。

 そんな楪の戦闘スタイルはリズムに合わせて動くスピードタイプ。ヘッドホンを装着して動いているから、緩急が激しくて捉えるのはほぼ不可能だろう。ただし、私でなければ。

 

「ここ…ここ…」

 

「どういうことだ?さっきから打ち込んでるのに、当たらない!」

 

 こっちだって伊達に寝てたわけじゃない。大量のヒュージに襲われたあの状況で得れたのはサブスキルともう一つ。サブスキル〈whole order〉。敵味方問わず“力の方向性”を感じとることができるスキル。

 これにより楪を捕捉できないなりに攻撃を“感じ取る”ことができ、そこに合わせて受け流す。まだ粗削りではあるが、これで十分対処できる。

 感覚で分かる。次の一手で楪は背後からの一撃で終わらせようとしている。

 視界から楪が消えた。きっと背後に回ってCHARMの刃をこちらへ向けているのだろう。近づいて来た!

 

(今っ!)

 

 合わせて私のCHARMを背後へ振る。私の刃はヨートゥンシュベルトの鍔に当たり、手から離れたCHARMが宙を舞い地面に突き刺さる。

 

「チャックメイト」

 

「はは、ははは。すごいよ怒。純なんかもう超えたんじゃないか?

 

「私なんてまだまだだよ。こんなのじゃ純姉ちゃんのように強くなれない…」

 

「…やっぱ、思った通りだ」

 

 膝を着いた楪は真剣な顔から一転。輝かしい笑顔を向ける。

 

「怒、百合ヶ丘に行かないか」

 

「…へ?」

 

「いやだから、百合ヶ丘に行く気は無いか?」

 

 YURIGAOKA?一体どこの鎌倉にあるガーデンなんだ?

 ちょっと何言ってるか分からないです。

 

「百合ヶ丘に編入する話があるんだけど、私より怒が百合ヶ丘に相応しいと思う」

 

「い、いや、私は姉ちゃんと御台場に、」

 

「純が怒の枷になってるんじゃないの?」

 

「そ、そんな訳ないでしょ!」

 

「そんな訳あるんだよ。船田予備隊で怒の担当ポジションは?」

 

「…TZとBZ」

 

「あぁ、でもレアスキルはルナティックトランサーでサブスキルがカリスマ。それにデュエル戦法もマスターしてる。アンタはどう考えても最前線のAZ型。船田予備隊では純と初を中心に添えた戦法をとってる。多分、純は怒をAZに立たせる気ないよ」

 

 私も薄々気がついてる。純姉ちゃんんは船田予備隊のポジション会議で私を一度としてAZに出したことはない。

 

「そんで、一番の足枷は姉への尊敬の念だ。怒は一度も本気で思ったことないでしょ。姉を超えるなんて」

 

 姉を超える…。考えたこと、無かった。楪に言われるまで気がついてなかった。考える必要が無かったんだ。だって姉ちゃんはと共に、

 

「あ、姉ちゃんはもう御台場にいない…」

 

御台場(ここ)じゃ、怒はいつまで経っても蛹のままだ。飛び立つ時が来たんだよ!」

 

「で、でも、私には純姉ちゃんとの約束が…」

 

「約束があるからって、チャンスを逃すのか?純ならこう言うはずだぜ『御台場のリリィたる者、チャンスを逃さず己を研鑽し続けろ』って」

 

 あー…確かに言いそう。なんならビンタもセットで。

 

「大丈夫。私達が御台場を守るからさ」

 

「でも…」

 

 

「行ってこい。怒」

 

 

「雪お姉様?!」

 

「初から、これを預かっている」

 

 そう言って大姉様が私の首に手を回す。

 

ジャラッ、、、

 

「これ…」

 

 シルバーのチェーンの先には爪くらいの小さな蝶と桜のネックレス。蝶と桜はそれぞれ純姉ちゃんと初姉さんが髪留めで使っているのと同じ柄だ。

 

「行ってこい。怒」

 

 姉さん達の温もりを感じる。遊学で離れてしまったけれど、いつでも側についている。いつでも私を叱咤し、励ましてくれて、背中を押してくれる。

 

「お姉様…はい。船田怒、百合ヶ丘へ行ってきます!」

 

 

 

(雪様。今回は、怒を守って下さりありがとうございました。私と純は一度御台場を離れます。なので…“これ”を預かって頂けませんか?…あの子に酷い事をした私たちには、渡す資格がありませんから)

(分かった。こっちは心配するな)

(ふふ、お願いしますわ。お姉様)

 

「初、確かに渡したぞ」

 

 

 

(…ゆず。こ、これは一生に一度のお願いですわ。どうか、怒を百合ヶ丘へ転入するように誘導して下さいまし。私達の下にいたらあの子はいつまでも羽ばたけないから!一生に一度のお願いですわ!この通り!)

(お、おい、その気持ち悪い態度やめろよ!分かった!分かったから頭を上げてくれ!)

(恩に着りますわ)

 

「ったく、アイツにあんな態度されたら断れないっすぅの…」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「皆さん、お見送りありがとうございます!」

 

 それから入院期間、転入の話を聞いた同級生や模擬戦を頼んだ先輩達がお見舞いに来てくれた。今回は「お大事に」ではなく「おめでとう」という意味で。

 転入が決まってからというもの、先輩方が自身の戦術やコツなんかを伝授してくれた。対ヒュージに関わらず、人と戦う時の視線の切り方や死角の突き方など残りの入院期間は学ぶ事が多かった。

 

「怒、これを持ってけ」

 

 正門前にて渡されたのは2振りのCHARM。これは1週間前に工廠科のリリィに持って行かれた代物だ。てっきり学校に返すものかと思っていたが、整備してくれてたのだろうか。

 1つは入学時に渡される第一世代CHARM ヨートゥンシュベルト。各々のオーダーメイドで制作された物だが、私は耐久面を考慮したサバイバルナイフのような形に仕立ててもらった。ピッカピカに磨かれた刀身はまるで鏡の様に私の顔を反射する。

 もう1つはブルガトリング。先の戦いで鉄屑になるほど消耗したが、形は完全に今まで使っていたそれだ。工廠科の生徒が言うにはマギクリスタルは無事だったので全パーツを交換するくらいだったそうだ。試しに手に持ってみれば今まで以上に握りやすく、驚くほど軽く、変形も素早い。今まで以上に最高の仕上がりだ。

 最後に百合ヶ丘の工廠科へ向けた整備マニュアルを預かった。整備に出す際はこれを一緒に出せば良いっぽい。

 

「…みんな、ありがとうございます!この船田怒、百合ヶ丘にて暴れて来ます!」

 

 車を待たせている。これ以上の長居はできないので最後に挨拶と一礼をして正門を出…ようとした時。

 

「怒って、何か二つ名あったっけ?」

 

 ゆずの一言で足が止まる。

 

「これと言ってはないよ」

 

「はは。んじゃ、最後に新たな門出を祝って御台場女学校からのプレゼントだな!」

 

 

 

「よし!百合ヶ丘に行ったらこう名乗れ!」

 

「ゆず…みんな…ありがとう。必ず、その名が御台場に轟くほど活躍してみせる!」

 

 故郷を追われた私達姉妹に、この御台場女学校では多くの物をくれた。

 頼れる先輩や先生。可愛い後輩。命を預けれる仲間。私の帰る場所。

 私は少しでもこの恩に報いれただろうか。考えても答えは出なかった。

 ただ、もらった二つ名を胸に、御台場に恥じないリリィになろうと誓った。

 

 

 

武人の結晶

 

 

 

 御台場が誇る歴戦のリリィから技を、共に戦うリリィから心を、工廠科の生徒からCHARMを。

 “武のガーデン”が産んだ武の結晶。

 みんなが最後にくれた、踏み出す勇気だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

2年後…

 

「こら!怒、前に出過ぎよ!」

 

「ふふふ、問題ありませんわ〜!」

 

 とある陥落地域にて。

 

「っ!ちょっと離れます!茜、ちょっとの間任せたー!」

 

「あーもう!なんで怒はいつもいつもー!!」

 

「後でちゃ〜んとお・し・お・きしておきますわぁ♡」

 

 私は現レギオンメンバーとある程度固まってヒュージの海を突き進んでいた。

 そんな中、路地を通り過ぎた時私の視界には1人のリリィが複数のヒュージに追い詰められているのが見えた。

 普段であればメンバーを置いて単身別行動なんて、とてもじゃないけど許されないし私もしない。でも体が動いてしまったのだ。

 消耗したCHARM一振りを持って自分の格上と敵対する。そんな状況を私は誰よりも知っている。そしてその先の苦しみもよく知っている。だからじっとしていられなかった。

 

 

〜〜〜

 

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 刃こぼれしたCHARMを必死に振ってヒュージを牽制するけど、もうダメだ。

 全てを諦めたその時、

 

ダン!ダン!ダン!

 

 どこからか放たれた3発の弾丸がヒュージの足元に着弾し、身動きが止まる。

 そして黒衣を纏ったリリィが私の前に現れた。

 

「良く踏ん張った!」

 

 黒衣のリリィは盾のようなCHARMから剣を抜き取り、瞬く間にヒュージを蹴散らしてしまった。

 私が手間取ったヒュージは咆哮を上げる間もなく両断されてしまった。

 

「まだ動けるよね?だったら死ぬ気でココへ向かいな。中継地だから誰かがいるから。私は、この元凶を止めてくるからさ」

 

 黒衣のリリィは簡易地図を渡してくれた。そこには簡単に書かれた地形に赤いバツ印が描いてあった。ここが中継地…少し頑張れば着ける距離だ」

 

「それじゃ、頑張りなよ」

 

「あ、あの!?貴方の名前は…」

 

 剣を納めたリリィが立ち去る寸前に袖を掴んで足を止めた。

 

「ふふっ、私の名前は船田怒。百合ヶ丘女学院のLGアールヴヘイムだよ」

 

「貴方があの、『武人の結晶』…」

 

 私が御台場を離れて2年が過ぎた。私は百合ヶ丘女学院 高等部2年になった。

 あれから、様々な人と出会い、たくさんの辛い戦闘を乗り越えた。

 

 初姉さん、純姉ちゃん。私は元気です。

 道は違うけど、きっとどこかで交わるでしょう。

 その時は見せつけてあげる。成長した私の姿を。

 

「さぁ、行こうか」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「全く、相変わらず生意気な末っ子ですわね」

「私達を追い抜こうだなんて、許すと思っているのかしら」

 

 船田怒達LG アールヴヘイムが参加したこの闘いは後に「北伐」と呼ばれ、その名を轟かす戦いとなった。

 

 

 

 

 to be continued→

 Next to “lily”




〜主人公の資料〜
名前:船田怒(いかり)
誕生日:12月25日
身長:165cm(中等部時)
ガーデン:御台場女学校 初等部〜中等部3年→百合ヶ丘女学院 中等部3年〜(現)高等部2年藤組
レギオン:船田予備隊→初代アールヴヘイム→(現)二代目アールヴヘイム
ポジション:船田予備隊 TZ/BZ
レアスキル:ルナティックトランサー
サブスキル:カリスマ、whole order
使用CHARM:ヨートゥンシュベルト、ブルトガング、キャリバーン(ユニーク機)
容姿:純譲りの本紫(濃い紫)ロングヘア、初譲りの赤色の瞳。レアスキルを使用すると髪は本紫→淡藤、目は赤→黄。姉に比べて胸は…ない。

〜交友関係〜
・姉:船田純、船田初
・友人:川村楪、月岡椛、藤田槿、長沢雪

苦手なもの:辛い物(初にはバレてる)
二つ名「武人の結晶」:御台場女学校にて、様々な戦法を吸収した個人・集団の両戦術をこなす逸材。

〜備考〜
・スキラー数値は90台。
・初を「初姉さん」、純を「純姉ちゃん」と呼んでいる。普段は物静かで優しいが怒ると何よりも怖い初、普段の言動はトゲがあるものの内心は繊細でピュアな純。両者の性格をよく知っているからこその呼び分け。ちなみに、時々純は楪に「純姉ちゃんwww」とからかわれている。
・姉のレアスキルはS級だが怒は違う。狂気に身を預けない代わりに制御、負のマギの耐性に長けていた。
・遊学に行く時、初が怒に残した「蝶と花のネックレス」。転入した今でも肌身離さず持っている。



 続編→アサルトリリィ「船田怒編 -The Lily Hills-」(https://syosetu.org/novel/333253/)

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