雨宮吾郎ではなく白銀御行が星野アクアに転生した話。

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思い付きの短編なのであんま深く考えないで読んで頂けたら幸いです。

深く考えないで書いた弊害でルビーの発言と行動に原作との矛盾があったので修正しました。


アクアに転生したのが白銀御行だったら

 星野アクアは転生者である。前世の名は白銀御行。

 

 今は人気アイドルグループ『B小町』の絶対的エースにして不動のセンターアイの隠し子である。

 

 もう一度言うが、アイドルの隠し子である。父親は不明。しかも妊娠・出産をしたのは16歳の時。はっきり言って物凄く闇が深い出生である。

 

(なんでこんな事に……)

 

 唯一の救いは彼の双子の妹、星野ルビーも同様に何処かの誰かの生まれ変わりの転生者であるという事。同じ秘密を共有し、腹を割って話せる相手がいるというのはアクアにとってかなりの癒しと言えた。誰にも言えない秘密をずっと一人で抱えるという事へのストレスは凄まじいものである。

 

 因みにルビーが同類であると判明したのは彼が転生して割とすぐだった。深夜、母であるアイが寝静まった頃、同じく寝ていたが目を覚ましたアクアはアイのスマホでSNSを使用し、アンチとリプ合戦をしながら壮絶な罵声を叫んでいたルビーを目撃したのである。

 

 赤ん坊の身体なのに喋れる事とか突っ込みたい事は色々あったが、前世の記憶があるという孤独感の中で生きなければならないという重圧がのしかかっていたアクアにとって同じ転生者である双子の妹の存在は確かな救いであった。

 

 まぁその際にはルビーに「赤ん坊が喋った!きんもーーーっ!!」という完全なブーメラン発言をぶつけられたが。あと女でもここまでのドルオタはどうなのかとも思った。

 

 前世の妹が『B小町』が好きだった事からアクアも多少はアイについても知っていたが、ルビーからすれば知らないも同然の知識でしかなかったらしく、

 

「はぁーー!?ママに育てられているのにママの事知らないとかあり得ないんだけど!!ちょっと来なさい私が教えてあげるから!!」

 

 と、突っかかられてほぼ無理矢理彼女の知る『B小町』……というよりアイの知識を叩き込まれもした。気になる点があったのはルビーの知識がアクアの認識では三、四年程古いものばかりだった事だが。

 

 そんなこんなで転生して丸四年が過ぎようとしている。前世での家族や友人達がどうしているのかずっと気になっているアクアだが、それを調べる術が無い。一応スマホやPCで検索すれば調べられない事はないのだろうが、この家にあるそれらの機械は全て母であるアイの私物だ。下手に使用して検索履歴などを見られるわけにはいかないし、履歴を消しても不自然さなどは残るだろう。

 

 むしろアイのスマホを使ってSNSでアイのアンチコメと壮絶なリプ合戦を平然と繰り広げるルビーがおかしい。下手したらアイに転生者である事がバレてもおかしくない。多少窘めてはいるが、あまり効果は見られない。まぁそれだけアイドルとしてだけでなく母としてもアイが好きなのだろう。

 

 そのルビーは最近では母アイの所属するアイドルグループ『B小町』の楽曲をダンスと一緒に歌って楽しむ事が多い。

 TVに映るアイ達『B小町』の録画したライブ映像に合わせてルビーも一緒に歌って踊る。アイドルに憧れる女の子なら誰もが通る道ではないだろうか。

 

 幼稚園に入ってお遊戯会でのダンスを拒否したりした事もあったが今では踊る事も随分と楽しいようだ。

 

 しかしアクアはそんなルビーを見て気になる事があった。

 

「……ルビーちゃん、ちょっと音痴じゃないか?」

 

 そして遂に言った。その一言でルビーのダンスは停止し、歌も止まった。

 

「……今なんて?」

 

「いや、だからルビーちゃんちょっと音痴じゃないかって」

 

 ルビーの歌は絶妙に音程が外れているのだ。しかしルビーにはその自覚がなかった。人は自身の声を直接聞く事はできない。骨導音により自身の認識とは大きく異なる声を出しているからだ。

 ルビーはそういう知識は無かったようで、アクアから説明を受けるとちょっとショックを受けたような表情になった。

 

「お、音痴なのはしょうがないじゃん。それに歌が下手でもアイドルはやれるもん!顔とダンスでカバーすれば……」

 

「自分で言うのはどうなんだ……?それに音痴は克服できるぞ」

 

「え?そうなの?」

 

 仮にもアイドルを目指すのなら、あまり褒められたものではない心構えを聞かされつつ、アクアは前世の経験を語る。

 

「ああ。俺も前世ではちょっと音痴だったが、友達の助けもあって克服できたからな」

 

「お兄ちゃんも音痴だったんだ……」

 

「ちょっとだけな。それにもう克服した」

 

 しかしルビーは良い事を聞いた。音痴は克服できる。歌の練習をするという事の意味は理解していても、音痴は生来のもので練習でどうにかなるものではないという間違った思い込みがルビーにはあった。子供に偶に見られる勘違いである。

 

「じゃあちょっとママの曲歌ってみてよ!そしたら私もどうやったら音痴治るか分かるかも!」

 

 故に兄に歌をねだる。早いうちに音痴を克服しておく事に越した事はないだろうと。

 ルビーはお互いが転生者と発覚して以来、何かと世話焼きなこの双子の兄に存分に甘えていた。

 アイが一般的な母親とはズレている事もあり、妙にオカン属性のある兄はルビーとしても甘えるのにうってつけの相手だったのだ。

 

「しかしアイドルの曲を歌うのは少し気恥ずかしいな」

 

「そんな事ないよ!すっごく楽しいよ!」

 

 リクエスト曲は『サインはB』だ。

 

 しかしルビーは知らなかった。アクアの前世における、“ちょっとだけ苦手”とかそういう謳い文句がどのような惨劇を生み出して来たのかを。

 

 そうしてアクアの口から奏でられるのは美しい旋律……ではなく、意識を刈り獲りに来るかのような不協和音。

 激痛を齎すかのような音が鼓膜を揺らす中、ルビーは思った。死神が実在するとしたらこんな声なんだろうな…と。

 

「ホゲェェ〜♪」

 

「うぎゃああああっ!!たすけてせんせぇーーー!!!」

 

 力一杯両手で耳を塞ぐがこのゲロのような歌声が阻まれる事はない。

 まるでなまこの内臓を耳に捩じ込まれるかのような不快感。

 ありとあらゆる不快な音で作られたオーケストラを轟音で聴かされていると言っても過言ではなかった。

 

 ルビー、自身の甘い判断を呪う!自ら地獄の門を開く愚行!前世でも味わった事のない苦痛がそこにはあった!

 アクアの牛乳を拭いた雑巾のような歌が終わり、ルビーはその場に崩れる。落ち着いてゆっくり深呼吸をして起き上がり、顔を上げる。

 

 心配そうに顔を覗き込むアクアに対してルビーはドス黒い声音で口を開く。

 

「うそつき……うそつき……!お兄ちゃんのうそつき……!」

 

 目尻に涙を浮かべ、ハイライトの無い視線を向けて呪詛を垂れ流すかのように批判する。

 心なしかルビーの両目に真っ黒な五芒星が浮かんでいるようにすら見える。

 

「る、ルビーちゃん…?」

 

「ちょっとじゃない!壊滅!何を前世で克服したの!?何にも克服できてない!私の方がよっぽどマシじゃん!!」

 

「い、いやそんなはず……」

 

「だったら聴いてみなよ!知ってたら録音なんてしなかったけど!」

 

 音痴の克服などできていないと評するルビーに反論しようとするアクア。

 ならばとルビーはスマホを取り出してアクアに突き出す。一応本人に聴かせる為にしっかり録音していたらしい。因みにこのスマホはアイの私物だ。

 

(前世は藤原書記との特訓でそこそこ歌えるようになったんだ。ルビーちゃんの評価はいくらなんでも大袈裟だろ……)

 

 イヤホンを付けて画面をタップする。死神の声がなまこの内臓をアクアの耳に捩じ込む!

 

「……嘘だぁ?こんなゴミみたいな歌声に逆戻り……?」

 

「現実だから。お兄ちゃんは自分がとんでもないヘッポコポンコツだって自覚して」

 

「歌一つでそこまで言う……?」

 

 アクアは自覚していなかった。彼が音痴を克服したのは前世で通っていた高校の校歌に関してだけだという事を。

 

 因みにアクア自身がこの歌声にショックは受けても肉体的ダメージが無いのはフグが自分の毒で死なないのと同じである。

 

「この歌聴いて健康な身体だからってアイドルになれる訳じゃないって悟ったよ」

 

 星野ルビー。齢四つにして厳しい現実を知る。

 しかしアクアはこんな現実は認められない。今尚こんな歌声になってしまうのなら、前世での特訓はなんだったのだ。

 

「こうなったら……特訓だ!前世のように練習あるのみ!」

 

「ええ…もう歌わない方が良いんじゃない?」

 

 というか歌うなとすら言いたくなるが、流石にルビーも兄妹の情でその一言を踏み留まった。

 

「それだと前世で特訓に付き合ってくれた友に合わせる顔がない。この有り様では信じられんかもしれんが、本当に音痴は克服できたんだ。なら今世でもできない事は無い!」

 

「ええ〜?」

 

「その顔全然信じてないな!?」

 

 あんな歌声を披露して信じる方が無理がある。

 

「それにな……俺、前世では小学校の教師には無理して歌わなくて良いと言われたんだ。中学の合唱祭でクラスメイトにはお願いだから本番は口パクで……って。それ以来、高校までずっと口パクでやってきた」

 

「……」

 

 そう語るアクアの顔は本当に悲しそうだった。ルビーは前世が色々と特殊であった為、そのようなイベントを経験してこなかったが、みんなで歌う機会で爪弾き者にされるというのがどんな気持ちか想像できない程無神経ではなかった。

 

「俺だって本当は歌いたかった。何も気負わずみんなと一緒に歌いたいって思っていた。そんな俺の気持ちを汲み取って歌の特訓に付き合ってくれたのがその友達だ」

 

 散々言いたい放題言ってくれたが、それでも最後まで、できるようになるまで面倒を見てくれたのは間違いなく彼女だ。ここで歌わないなどという選択肢を取るのは前世であそこまで真剣になってくれた彼女への裏切りと侮辱に他ならない。

 

 星野アクアとしてではなく、白銀御行として、それを許容する訳にはいかない。

 

「……もう!しょうがないなぁ!私が練習に付き合ってあげるよ!」

 

「ルビーちゃん……良いのか?」

 

「ま、まぁ仮にも私は妹な訳だし?お兄ちゃんみたいなヘッポコポンコツが一人で練習したって上達なんて夢のまた夢でしょ?客観的な意見も必要なんじゃない?」

 

 ツンデレ気味な言い訳だが、ルビーとしても先程一方的に言い過ぎた上に歌わない方が良いなどと言ってしまった事を彼女なりに反省しての言葉だった。

 前世から明晰な頭脳を持っていたアクアはルビーのそんな気持ちを汲み取り、その言葉に甘える事にした。

 

(藤原書記のアドバイスを思い出せ……それを反復して……)

 

 まずは歌ではなく単音で正しい音を出す事から始める。音を聴いて歌うという事を改めて理解できればまともな歌が歌えるはずだし、アイドルを目指したいルビーの音痴克服にも役立つはずだ。

 

()〜〜〜〜♪」

 

「うぅ〜ん、なんか引っかかるような……」

 

 だが先述した通り、ルビー自身も音痴である為、アクアの歌声のおかしい点を正確に理解はできない。アクアの前世の友人のような指導者もいないので完全手探り状態で特訓するしかない。

 

 こうして前世の高校時代以来の特訓と相なったのである!

 

「ボエェ〜♪ボエボエボエェ〜♪……これならどうだルビーちゃん!?」

 

「吐きそう!!普通にジャイアンって感じで最悪!!」

 

 そうして幾度となく流れた涙。なまこの内臓が耳に捩じ込まれる事による重度の酔い。眩暈と頭痛の錯覚。それらの苦痛を数日に渡って全てルビーが支払う事でアクアは『サインはB』を普通レベルに歌う事に成功した。

 

 尚、一応ルビーも音痴を克服し、歌唱力が劇的に上がった。

 

 

 本日の勝敗 星野兄妹の勝利

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、二人の母親であるアイは休日の空いた時間を使ってエゴサをしている最中、自身のスマホの中にあるデータを発見した。

 

(アレ?なんか知らない録音がある……たまにルビーが弄ってるから、何か録音したのかな?)

 

 アイはイヤホンを付けて興味本位でルビーが録音したと思われる音声を聴く事にした。画面をタップし、流れてくる音声に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?ママ!?ママどうしたの!?お兄ちゃん!ママが!ママが倒れてる!!」

 

「なんだよルビーちゃん……アイ!?うわなんか泡吹いてる!!し、しっかりーーー!!」

 

 本日の勝敗 アイの敗北




ゴロー先生
生存。13年くらい後には現役JKのアイドルから求婚されて社会的に死ぬ。

カミキヒカル&リョースケ
色々あって白銀御行を殺害。
その後四宮の力で特定され、叩き潰された。二度と日の目を見る事はない。

アイ
生存確定。耳になまこの内臓が入ってきた。

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