「――――なあ、やっぱり雄英を受けてみないか?お前の個性なら、プロヒーローになる事も出来るんだぞ?」
二者面談。ここ最近、ほぼ毎日告げられる似たような言葉に、
身長185センチ。褐色の肌に、雪のように白い髪。
何より目を引くのが、その背中にある真っ黒な大きな鳥類の翼とうなじの当たりに灯った炎だろう。
「前にも言いましたけど、先生。俺は、ヒーローになる気は無いんですが?」
「だよなぁ……でも、上からせっつかれてんだよ。何せ、本校始まって以来の逸材だ、って」
「それは………」
「ああ、言いたい事は分かる。だけど、空火は頭も良いし個性も強い。運動神経も抜群で、加えてお前に助けられたって言う感謝の電話が結構ある。期待されるのも、分かるだろ?」
「……」
担任に言われ、翼徒は頭を掻いた。
言いたいことは、分かる。だが、
「俺は別に、感謝が欲しくてやってる訳じゃないんです。偶々行き会って、無視するのが忍びなかったから手を出しただけで……ヒーローになりたい訳じゃない」
どうにも翼徒は、ヒーローというものにいまいち興味を抱けずにいた。
彼らの在り方を否定する訳では無い。だが、ヒーロー飽和社会とも言われる現代において、その華々しさには同時に暗い部分もあると翼徒には思えてならないのだ。
しかし、世話になった担任をこれ以上悩ませるというのも気分が悪い。
「…………雄英を受ければいいんですか?」
「!受けてくれるのか!?」
「ヒーロー科じゃなくて、普通科なら」
「ふ、普通科…………いや!心変わりしてくれただけでも有難い!後はこっちで何とかしてみよう」
「はい」
いそいそと教室を出て行った担任を見送って、翼徒はもう一度ため息を吐いた。
気は乗らないが、言ってしまった手前今更面倒くさくても否定はできない。
一応、学校の意向で書かされた模試の判定はAだった。元々の志望先である県立の工業高校も同じくA判定を貰っていたのだが、そちらは取れて当り前だろうと担任以外は見向きもしない。
校舎を出て帰路に就いた翼徒は、ソレも仕方がないだろう、と納得してもいる。
個性という超常の力が人々の生活に深く根付いて暫く。その力を悪用する
“ヒーロー”は職業だ。性質としては、芸能人とかアイドルとかそういう類。
翼徒はそんな扱いが嫌いだった。そもそも、市民が求めるヒーロー像の押し付けが嫌いだった。
例として挙げるなら、平和の象徴。
翼徒は、彼が苦手だった。
たった一人で
だが、彼だって人間だ、とも同時に考えるのだ。体調の良し悪しがあり、好不調があり、表情が歪む事もある。加齢による衰えなどもそうだ。
にもかかわらず、人々はソレを見ない。華々しい活動しか見ていない。押し付けた
その対象になるのは、気が進まない。
帰り道を進みながら、不意に視界の端に何かが映る。
見上げれば、高く上がろうとしていく風船とそれからその風船を泣きそうな表情で見る小さな子供の姿があった。
「…………」
翼徒はサッと周囲に視線を走らせる。
周りにヒーローの影は無し。その確認を済ませて、翼徒は徐に肩にかけていたカバンを担ぎ直すと背に燃える炎を消した。
直後に、
目算で七メートル程か。浮かび続ける風船の紐を横から掻っ攫うように掴み取り、自重でそのまま地面へと降り立った。
「次は、手を離すんじゃないぞ?」
「あ、ありがとー!おにいちゃん!」
目をキラキラと輝かせる子供の前に膝を付いて座り込み、右手に緩く風船の紐を結び付け、その小さな頭を撫でる。
子供を送り出して立ち上がった翼徒は、再び背に炎を灯した。
彼は時折こうして、目についた困った人を手助けしていた。
何度も感謝の電話が学校には届けられている。この点もあって、教師たちは翼徒をヒーロー科へと押してもいた。
その後も、横断歩道を渡る老人の介助をして、荷物に困る赤ん坊を連れた主婦を手助けし、道に迷った外国人を案内して、
ヒーロー顔負けの八面六臂の大活躍だが、如何せん当人は気にも留めない。
兎にも角にも、受験。
だが、この時の翼徒は知る由もない。
「――――で?申し開きはあるか、親父?」
「ひぇ!?えーっとですね、その……」
腕を組んで背後に般若を浮かべて蟀谷に青筋を浮かべた翼徒の前で、正座をするのは彼の父親である
烏の個性を持った彼は、止めどない脂汗を流して視線を彷徨わせていた。
というのも、
「なんで、勝手に俺の入試願書を出してるんだ?ソレも、雄英高校のヒーロー科なんて」
「そ、それは、その………よ、翼徒のカッコいい姿が見たかったからです!」
「開き直るな!!俺は言ったよなァ?!ヒーローになる気は無いって!工業高校に行ってそのまま就職するってさ!!」
「で、でも、翼徒は頭も良いし、運動神経も良いじゃないですか!ヒーローじゃなくても、せめて大学進学位はしてほしいというものが親心というものなんですよ!?」
「この、馬鹿親が……!」
翼徒の蟀谷に浮かんだ青筋が、宛ら太い青虫のように蠢いた。
父親である烏京は、悪い親ではない。無いのだが、息子である翼徒が引く程度には親ばかだった。
だがまさか、
「筆跡真似て、願書を出されるとは思わなかった…………」
烏は知能の高い鳥だ。人のまねをする、或いは仲間の真似をするなど学習能力も高い。
烏京の場合は、そこに人の頭脳と器用さが合わさる事で筆跡の完全コピーすら可能だった。
その技能を利用して出された願書。それを翼徒が知ったのは担任から更に心変わりしたのか!?と詰め寄られた結果だった。
ため息も出る。しかし、既に願書は提出済みで、受験料も振り込み済み。ここから取り下げる事も出来るかもしれないが、金まで払われてしまって引き下がれるほど翼徒は図太くない。
「まあ、今回はお父さんのやり過ぎよね~」
「……母さんも止めてくれ」
「ごめんね~、翼徒~。でも、お母さんも翼徒がヒーローになったのをみたいな~って」
「ハァァァ…………」
おっとりした雰囲気の母、
火を操る個性を持つ彼女は、しかしどこか浮世離れした雰囲気を持っていた。
そして、彼女もまた割と親馬鹿。烏京とは毛色が違い、息子のカッコいいところが見たい、と割と無茶ぶりをしてくるタイプ。
かくして、不本意ながらも雄英高校ヒーロー科を受験する事になった翼徒。
勉強に関しては、問題ない。元々、模試の判定はA判定。
そもそも、ヒーロー科の倍率は三百倍というちょっと頭のおかしい数字だ。受かるのはほんの一握りで、だからこそ受からなくとも
金を払ってもらっている手前、翼徒が手を抜く事は無い。ないが、同時に彼は受からないだろう、とも心の片隅で思っていたりする。
というのも、彼の視点ではヒーロー科に合格する者は、何れも模試判定Aは確定で取る人間だと思っているから。
そこから篩にかけられて残る有能な者が、ヒーローとなっていく。そう考える。
それから暫く、の時が経つ。
『はい、スタート』
やる気のないスピーカーから流れる声と共に、翼徒はスタートダッシュを決める。
雄英高校実技試験。その内容は、三種のロボットの破壊。これによる撃破ポイントの獲得にある。
どれ程のロボットが存在するかは分からないが、それでも数に限りがあると考えれば先手必勝。一番最初に駆け始めるのがアドバンテージとなる事は確かだろう。
「ブッコロスッ!!」
「……ヒーローを目指す試験で、ソレはどうなんだ?」
迫って来るロボットをカウンターで殴り壊しながら翼徒は首を傾げた。
彼の肉体は、強靭だ。というのも、彼の個性は所謂ところの“異形型”に該当する。人間の形を確りと残しているが、その体のルールが人間のルールに当てはまらないから。
その一つ。炎が灯っている時、彼の肉体は突っ込んでくる暴走車の突進も通じる事は無い。
何なら、その場に突っ立っているだけでも突っ込んでくるロボットが自壊してポイントを稼ぐことが出来るだろう。
だが、受験生全員がそういう訳では無い。
そも、翼徒は勘違いしている。
倍率三百倍のヒーロー科を受験する生徒というのは、何れも高い志を持って、或いは素養や能力を持ち合わせて受験をしている訳では無いのだから。
戦闘向きではない個性の受験生もいる。荒事が苦手な者も居る。
「うわぁああああ!?た、助け――――」
「ブッコ!?」
「邪魔だ」
今、翼徒に助けられた受験生のように。
雄英高校の教員の中には、この戦闘力必須な実技試験への苦言を呈する者も居る。この試験の結果次第で、将来有望な個性を持つ者を取りこぼすかもしれないから。
しかし、この試験もちゃんとした理由がある。
ヒーローというのは、矢面に立つ、いや
例え戦闘に自信が無くとも、個性が戦闘向きでは無かろうとも、そこに守るべき対象が居るのなら真っ先に脅威へと立ち向かっていかなければならない。
乱暴なやり方だが、どれだけ有用な個性でも
時折、他受験生を助けつつ、翼徒の拳はロボットを効率よく破壊していく。
異変が起きたのは、試験の終了時間が迫った時の事。
唐突な地響きと共に、周囲のビルと同程度ほどの大きさがある巨大なロボットがキャタピラ鳴らして迫ってきたのだ。
逃げ惑う受験生たち。巨体というのは、そのまま脅威となる。
「………金が掛かってるな」
だが、翼徒にしてみればそれ位の感想しか出ない。
お邪魔ロボット。巨体を仮に薙ぎ倒したとしても0ポイントであり、試験には響かない。故に、ポイント集めに奔走する者や、或いは単純に太刀打ちできない者は自然と遠巻きとする。
しかし、翼徒は違う。そもそも、合格に意欲的ではない上に、このままこの巨体を放置し続ければ誰かしらに大きな被害が出かねない、と。
であるならば、やる事は決まっている。
背中の翼を大きく広げて、一度翻すと足へと力を込めた。
そして、背中の炎を消す。同時に、跳躍。
アスファルトの地面を踏み砕く勢いで、彼の体は一瞬の内にビルの屋上の高さにまで舞い上がっていた。近くに居た受験生には、黒い影が辛うじて捉えられたかどうか。そんな加速をもって、空火翼徒の体は宙を舞う。
翼を羽搏かせて空を飛ぶ翼徒は、ロボットの無機質な頭部へと狙いを定める。
翼による加速を乗せて突進。同時に着弾の瞬間反転し、その右足に炎を纏わせた。
彼の体の特性として、炎を体にともしている時には圧倒的な耐久性を得る。その一方で、炎を消すと耐久性が落ちるが、その代わりに敏捷性が跳ね上がるというものがある。
この特性を利用し、尋常ではない加速を得た状態で炎を灯せば即席の人間型砲弾の完成だ。
本来ならば破壊される事を想定していないロボットは、得点を付与されたロボットとは比べ物にならない強度を有している。
翼徒の炎を纏う蹴りは、その強度を宛ら紙屑のように容易くぶち破り爆散させていた。
高らかと鳴り響く、終了のホイッスルと崩れ落ちるロボットを背に空を舞う黒翼の天使。
その背は、受験生たちにとって余りにも遠いものだった。
データ
身長:185センチ
体重:80キロ
個性:
異形型に該当する個性であり、肩甲骨の当たりに飛行可能な一対の黒い翼が生えており体のどこからでも自由に発火させ炎を操る事も出来る
備考
両親の個性が合わさった結果生まれた突然変異染みた強個性持ち
概要:口調はぶっきらぼうだが、根っからの人助け体質でボランティアをボランティアとして認識する前に勝手に体が動いているタイプ。その上、何でもこなせるスペックを持つ才能マンでもある事から、並大抵のことは壁にならない
ヒーロー観:現代社会の犠牲者
性格:善人。厳つい見た目だが困っている人を見過ごせない無意識のお人好し