Re: 一方通行、狂人神父に成り代わる。   作:ミツヒコ

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 卒論と就活がギリギリまでかかったものの、どうにか終了。
 仕事に慣れたら余裕だろうと思ってたら、案外キツくて全く書けず。ブルアカどころか、ソシャゲもラノベも追えてない。そもそも記事とSSぐらいしか文章を読めてない。ということでリハビリも兼ねた作品を一旦一話だけ放り投げ、こちらに戻ってきました。
 状況整理も交えた話なので、内容的にはあまり進みません。流石に半月に一回ぐらいは投稿できるよう、地道に頑張ります。気長に待ってもらえると有り難いです。
 

 さて、とあるの供給についてのお話を少し。
 「とある魔術と科学の幻奏音撃」の一方通行。良かったですね。着てやったけど?みたいな目が可愛い。楽器がトランペット(?)なのも良いです。もっと格好良いのもありそうなところを、敢えてのトランペット。可愛い。食蜂のチェロ(か何か)が一番絵面は面白いけど、上条さんが指揮者なのも妙な感じがして笑顔になってしまいます。
 それから、一方通行のフィギュアがゲーセンに登場してました。二月か三月頃でしたかね。これは貴重!「禁書III」とは書いてありますが、目つきは「とある科学の一方通行」並に悪い!これまた素晴らしい。
 少し前にはオンラインくじの水着バージョン。貴重な一方通行の水着が見れましたよ、皆さん。公式からの供給は有り難いですね。

 以上、一般一方通行好きの戯言でした。






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第二十四話

 

 一方通行による適切な応急処置と、アーシアの神器による時間を巻き戻すような治癒。その二つが合わさった結果、イリナの傷は五分程で完全に塞がってしまった。

 とはいえ、流石の二人も失った血液まで再生したり、傷を負った際のショックまでは取り除いたりはできない。男物のジャージを着せられたイリナは未だ目覚めず、来客用のベッドの上で寝息を立てている。三途の川を渡ることはないはずだが、いつ目を覚ますかは分からないという状態だ。

 仮に寝床から起きられたとしても、控えている決戦には連れて行けないだろう。得物はコカビエル達の手に渡り、身体も諸々が足りていない。そもそも体調が良くなかった上、聖剣で腹部を貫かれたのだ。蓄積されたものも鑑みれば、完全復活には一日や二日では少な過ぎる。しかし、イリナが戦線復帰するまで、テロリスト達が動かない保証はない。

 

 一方通行とゼノヴィア。参戦するにしても、戦力はその二人だけ。リアス達の判断と追加投入される戦力次第ではあるが、基本的には一方通行がコカビエルを相手取る必要があるだろう。

 仕留め切れるか。彼が考えているのはそれぐらいだ。勝ち負けの話ではない。純粋なタイマンならば、勝者という立場は当たり前。その上で相手を再起不能にしておかなければ、その後に何をしてくるか読めないのが人外達だ。特に今回の相手は戦争大好きな異常者である。一度頭を下げさせたところで、翌朝から駒王町の天気がミサイルの雨に固定されるということもあり得る。

 

「めンどくせェ」

 

 殺すだけなら楽だが、相手は腐っても堕天使の重鎮。罷り間違って、組織全体の怒りを買ってしまった場合が面倒だ。彼らを壊滅させることで事件単体は解決するかもしれないが、その後の世界はどうなるのか。内部がどれだけ腐敗していたとしても、三大勢力と呼ばれる存在が消え去れば、ただでさえトラブルの多い世界がどう変わっていくのかは想像もつかない。最悪の場合、地球全土を焦土に変える大戦争ということもあり得る。

 ならば、四肢を圧し折るぐらいに留めるのがベスト。空を逃げ回る可能性を考慮すると、大量に生やしている翼も全て半ばで折ってしまうのが最良だろう。一方通行の能力ならば、それをすること自体は可能だ。しかし、一つだけ問題がある。実力という点を抜きにしても、相手がこれまでとかなり違うのだ。

 

 一方通行がこれまで相手取ってきたのは、どれもこれも人間を完全に見下している連中だった。文字通り、人を食い物にするような輩。神器を奪おうとしていたレイナーレ達や、人間を食糧として認識しているはぐれ悪魔。ライザーも人間に対する認識は彼女達と然程差はなかった。それに加えて、その大半はお互いに初対面での戦闘だった。

 初対面での真っ向勝負となると、相手に対する徹底的な対策を張ることは不可能に近い。大抵の相手が嫌がることを仕掛けるのは可能かもしれないが、特定の相手にピンポイントで刺さる何かは埋め込み難い。

 

 大富豪というゲームがある。このトランプを用いて行われるゲームにおいて、絵札や二を抱えておくことは簡単だ。それらは特殊な効果のあるカードを除けば、大半のカードを上回るパワーを保持している。単純な力押し。どのような種類の勝負であっても、それ以上に分かり易い強さはない。ただ、搦め手には弱い面もある。

 搦め手というのは、先に触れた特殊な効果のあるカード達が該当してくる。単純な数字としては弱くとも、その効果は様々。基本的には力技を可能な限り回避する為のものだ。自分のペースで進めている最中に発生する八切り、上がり目前の七渡し。その他複数のローカルルール達。そういった効果は嫌がられるのが当然のこと。

 その特殊なカードの中でも、かなり特殊な効果を持っているのがスペードの三。普段は特に役割のないカードだが、最強のカードであるジョーカーは真正面から叩き潰すことが可能になる。

 しかし、所詮は三でしかない。革命やジャックによる反転が起こっていなければ、大富豪における最弱のカード。抱えておくメリットは少ない。ジョーカーという絶対的な強者に対する、ピンポイントの対策。七や八のように誰もが嫌がる動きはできない。

 

 一方通行と勝負をする上で、相手は何を用意するだろうか。初めて相対する格下の生き物。佇まいや見た目だけで判断するならば、そこらで屯しているチンピラより貧弱な少年だ。七や八を握っていたとしても、それを意味なく放り捨てたり、開示したりするだろう。スペードの三を握っていたとしても、万が一の可能性を考慮に入れることはない。

 所謂、縛りプレイや舐めプと言われる類のもの。基礎スペックで人間を大きく上回る人外達は、その程度が敗北に繋がるのだと考えない。敗北するという考えが頭にない。必要以上に手の内を見せてしまったり、ペラペラと能力や得意なことについて語ったり、そういう秘密にしておくべき情報を開示してしまう。

 

 一方通行は正真正銘の人間ではあるが、少し前まで最強の座に君臨していた超能力者だ。その行為は悪手の中でも最悪の部類に該当する。彼の真骨頂はその解析能力にあるのだから、下手に情報を明かすことは自分の急所をガラ空きにしているようなもの。相手は彼の力を何一つ理解していないのに、彼は一を聞いて十を理解している状態。

 能力に雲泥の差があることに加え、情報のアドバンテージも一方通行が握っているという戦況。それがこれまでの彼が経験してきた戦場だ。

 学園都市にいた頃であれば、何度も襲撃してくる手合いも少ないとはいえ、いないことはなかった。そういった連中には、第一位に通用するかはともかくとして、まだ浅知恵を絞った対策が存在していた。異世界にやって来てからというもの、それすらなくなっていた。

 

 今回ばかりは色々と違う。コカビエルも人間を見下している類ではあるものの、一方通行のことは多少なりとも認めている。ある程度の格がある人間だと認識している。単純な戦闘能力も高く、経験も豊富な歴戦の堕天使。それだけならともかく、既に交戦してしまった後だ。お互いの手の内を全て晒す程の激戦ではなかったが、それでも一方通行の能力を類推する材料は与えてしまっている。

 自然現象を操る力。神の真似事。ベクトル操作という能力を端的に表すならば、前者は大きく間違ったものではない。コカビエルの予測とは異なり、操作対象とその範囲が異常なだけだ。堕天使が神などと口に出している以上、警戒されているのは確実。最悪の場合、ある程度の対策を講じられているだろう。そのような状態では、いつものようにのんびりと近づいて、指先で触れて一撃必殺というのは難しい。警戒されているのだから、不意打ちや奇襲というのも限界がある。

 

 それ以前の話として、まともに戦いに来るかという問題もある。コカビエルにとって、リアスかソーナの殺害というのは目的を達成する為の手段の一つだ。彼女らに直接手を出さずとも、町ごと吹き飛ばせば済む話だ。魔王の妹二人と彼女達の統治していた土地、そしてそこの住民を全て殺してしまえば、その瞬間に戦争は始まる。

 律儀に決戦の地へ現れたとしても、それがただの時間稼ぎという可能性も高い。町の各所で大量破壊兵器を準備していれば、最終的には超能力者が一人立ち尽くす荒野が完成するだけだ。

 どォすればイイ。心の中でそう呟きつつ、少年はその白い指先で机をコツコツと叩く。勝ち方はいくらでもある。そのいくらでもある勝ち方の大半は、様々なものを度外視した醜い選択肢だ。一方通行以外に生者のいない世界を生み出しかねないものもある。それを許容できる程、彼の性根は腐敗していない。

 

『フリードさん、おうどんでも作りましょうか?』

 

 既に何日も使い続けている灰色の脳細胞。その活発な活動を一時的に止めたのは、平穏無事な生活を送っている最中と何ら変わらない少女の声だった。

 

『……あァ』

 

 眉間に皺を寄せている一方通行に対しても、アーシアは怖気付くことはない。その短い返答を聞き届けた後、浮かべるのは柔和な笑み。いつもと変わらない微笑みを作ったまま、彼女は冷蔵庫を開けて鼻歌を歌い始めた。

 彼女も馬鹿ではない。ゼノヴィア達が訳アリであることも、彼がここ数日ちゃんと寝ていないことも知っている。それでも、この少年がいるならば事態が悪化することはないと信じている。

 アーシアにその直接的な手伝いはできない。話に出てきたコカビエルという存在を知っていることもあり、いつも以上にそれが理解できてしまう。だから、せめて自分にできることを自分にできる限り。それが仕事に行く前の食事の用意だと考えた。いつも通りに振る舞うことだと考えた。根本にあったのはそういった優しさだ。

 

『ゆっくりしていても良いのか?』

 

 バツが悪そうにしながらも、やや不満げな声を出すゼノヴィア。いつ殺し合いが始まるか分からない中で、呑気に食事をしている場合ではないだろう。平時の彼女であれば、更にキツい言い方で似たようなことを口に出していたはずだ。それができなかった理由は単純。一方通行とアーシアに対して色々と言ってしまった自責の念と、イリナを助けてもらった恩があるからだ。

 

『焦ってもどォにもなンねェだろ。つーか、慌てた結果どォなったンだ』

 

 詳しく言われずとも、青髪の少女は理解した。それ故、口を噤むしかなくなる。もう一度同じ状況に陥ったとして、次も助けてもらえる保証はないのだから。

 

『ゼノヴィアさんもおうどんで良いですか?』

『あ、あぁ、いや……。それで良い』

 

 咄嗟にそう返して、改めて断ろうとして、色々と考えた挙句、少女の腹の虫が泣いた。肉体的にも精神的にも疲労困憊な状態であるとはいえ、身体は栄養を求めて悲鳴を上げる。遅かれ早かれ戦場へ向かわなければならないことを考えると、なるべく万全の状態に近づけるのが必要不可欠。菓子でも軽食でも、口に入れられるのなら入れておくべきだ。

 羞恥心、後悔、その他諸々の名状し難い感情を幾つも抱え込んだまま、ゼノヴィアは机の上で顔を伏せた。何やってンだ、このバカは。そう言いたげな視線を外した先には、冷蔵庫に上半身を飲み込まれそうになっているアーシアの姿が。

 

『フリードさん、大変です』

 

 体を突っ込んだまま、少女の後ろにある机に物が置かれていく。大半は少年神父のせいで在庫が増える一方の缶コーヒー達。使いかけのバターや、三個セットの納豆などもあるが、割合的には一割未満だろう。そういう意図がないのは理解しつつも、彼は在庫処分に貢献することを決めた。

 

『何探してンだ』

『ネギがないかもしれません』

『……チャック付きの袋ン中だ。一昨日刻ンでただろ。冷凍庫に入れてンじゃねェのか』

『え、あ!ありました!』

 

 某緑色の勇者のようなポーズを取るアーシアから視線を外し、少年はため息を吐く。人外よりも人外のようなことを平然とやってのける超能力者であっても、体の構造的には普通の人間だ。ベクトル操作の応用で色々と分泌量を弄ることで多少の寝不足程度ならどうとでもなるものの、やはり疲労というのは存在する。

 室内を漂い始めた良い香りに包まれながら、コクリと一度だけ船を漕ぐ。そのまま夢の世界に誘われそうだったところを、懐の携帯電話の振動が現実世界に連れ戻した。

 

「どォした」

 

 特に確認もせず、反射的に通話ボタンを押す。この状況下で連絡を入れてくるような人間、もとい悪魔を一方通行は一人しか知らない。

 もしコカビエル関連なら。特に襲撃が始まったという話ならば、一方通行が出張らなければならない。残念ながら、切られたばかりのカマボコ達の出番はかなり遅れることになるだろう。リアスを助けてやろうという考えがあること自体は否定しないが、どちらかと言えば、放置しておいたら更に面倒なことになるというのが大きい。

 自分が渦中に放り込まれるだけなら、それで良い。降りかかる火の粉を払う役目は自分一人で十分だ。しかし、町の守護者を担っているリアスが消えれば、巻き込まれるのは町全体。つまり、一方通行が今現在座っている場所も。

 

「祐斗と話してほしいのよ」

 

 ただ、彼女が口に出したのは拍子抜けするモノ。彼の僅かな強張りを霧散させるには十分過ぎた。想定していた最良から最悪まで。彼がかなりの幅で考えていた枠から、大きくはみ出た提案だった。

 

「意味が分かンねェ。一から十まで五秒でまとめろ」

 

 思わず、舌打ちが漏れる。正直なところ、一方通行個人としてはどうでも良いことこの上なかった。一誠のように表面上だけでも仲良くしようと頑張るタイプでもなければ、駒王町の住人のように会釈をしてくることもない。

 

「無理言わないで」

 

 事細かに、それでいて簡潔に。規模が小さいといえど、流石は統率者といったところか。五秒でまとめることはできていなかったが、ハッキリとした声も相まって、少女の説明は彼の耳にスッと入ってきた。

 木場祐斗という少年が、バルパーが深く関わっていた聖剣計画の生き残りであるという話。一方通行も境遇としては似たようなものだ。理解できなくはない。同情するかはまた別の話だが。

 

「神父らしく説教でもしろってか」

「そうなるわね。でも、得意でしょ?」

「勝手に決めンな」

「あら、イッセーのことは助けてくれたじゃない」

 

 似非神父はそれを否定はしない。今代の赤龍帝に対し、彼は客観的視点から説教臭い言葉を吐いた。だが、それは迷える子羊が迷子だという間抜けな自己紹介をしてきたからだ。

 

「救助活動ってのは、ソイツが助けられてェ時だけ成立すンだよ。ハナから死のォとしてるバカはどォしよォもねェ」

 

 救助隊がどれだけ懸命に活動をしたところで、自殺志願者にその声は届かない。最初から死ぬことが目的となっている人間に対しては、どんなことをしても無意味だ。感動的な台詞を投げ掛けても、突き放すような冷たい言葉を吐いても。物理的に死から引き離すことはできるかもしれないが、それも一時的なもの。目を離した隙に死ぬのは分かりきっている。ハッキリとした決意さえあれば、それだけで人は死ねるのだ。

 

「……そうね」

「木場は何がしてェンだ」

「餞よ、多分ね」

 

 曖昧な解答だったものの、何となくは理解できた。

 計画の生き残り。即ち、他にも被害者がいたということ。その被害者の大多数は命を失っているということ。餞というのは、そういうことなのだろう。

 

「俺が行く意味がねェ」

「貴方、祐斗と仲良くないでしょ?」

「何が言いてェンだ」

 

 アーシアの世間話を聞く限りでは、爽やかで誰に対しても人当たりの良い好青年。そういう印象が強いリアスの騎士だが、神父のフリをしている少年に対しては、初対面の時点で最悪な振る舞いをしていた。一方通行がもう少し後先を考えない人間だったなら、既に指先を振るって悪魔の活け造りが完成していたはずだ。それ以降は何もなかった。挨拶レベルのコミュニケーションを取ることもなく、業務連絡をギリギリ行う程度。

 面倒臭がりな一方通行がそのような相手と仲良くなろうとするだろうか。可能性があるというだけで、基本的にはあり得ない。彼の性質上、自ら歩み寄るケースは非常に少ない。特に相手が自分を毛嫌いしているとなれば、尚更だ。

 

「貴方の境遇は知らないけれど、仲良くもない相手を理解はしても同情はしない。今の祐斗に対して、キチンと否定から入ってくれるはず」

「へェ」

「それから、いつも以上に容赦なく話してくれるかと思って」

「普段の俺が無慈悲みてェな言い方だな」

「あら、そんなことはないわよ。優しい優しい神父様じゃない。学校でもそこそこ評判なのよ?」

 

 響く舌打ちに対し、年相応の笑い声が返ってくる。その笑い声に合わせて、聞き覚えのある少年のツッコミも僅かながらに混入してきた。緊急事態一歩手前の厳戒態勢だというのに、余裕はあるらしい。

 

「貴方の格好に刺激されてから、不機嫌なことは多かったの」

「悪魔と神父なンて、普通は関わンねェからな」

 

 仮に関わっていたとしても、はぐれ悪魔祓いが関の山。はぐれ悪魔と同様、殺してしまっても問題はない。それ故、苛立ちを覚えても一瞬だけ。

 一方通行は立場的にも実力的にも殺すことができない上、部室にしょっちゅう出入りをするのだから、フラストレーションが溜まっても仕方がない。

 

「そう。祐斗が眷属になってから初めてよ。あんなに安定して機嫌が悪かったのは」

「まァ、苦手な相手にニコニコすンのも社会勉強だろ」

「貴方、そんなこと絶対しないでしょ」

「なンでそンなことしなくちゃいけねェンだ」

 

 この少年、足りていないのは権力だけだ。力でも知恵でも大抵の相手は捻じ伏せられる。保護しているのも貴重な回復系の神器保持者。権力しかないような輩の数倍は面倒な存在なのである。 

 色々と言いたいことが喉元まで来ていたものの、リアスはグッと堪えて飲み込んだ。

 

「……それから最近出てきた聖剣の写真、トドメに聖剣使いとの模擬戦で敗北」

「トラウマ刺激のスターターセットか。最高だな」

「最悪よ」

 

 肩と側頭部で携帯電話を挟んだまま、盆の上のうどんを受け取った。七味を乱雑に振り掛け、箸先をカツンと鳴らす。

 

「まァ、オマエの所に帰らせればイインだろ」

「ええ。最悪、問題は解決しなくても良いわ」

 

 味見も兼ねて、出汁を吸った肉を齧る。噛み千切り、咀嚼し、飲み込む。

 

「オマエ、今回はどォ対処すンだ」

「……私達だけで何とかするわ。お兄様にこの土地を任された以上、それが私の責務でしょう?」

「なら、俺も行かなくてイイか?」

 

 答えの分かっている問いを、一応投げかける。

 

「冗談言わないで。当てにしてるみたいで嫌だけど、貴方は絶対に来るじゃない。最悪、この町……というよりもアーシアを巻き込んだ戦争になるもの。放置するはずがないわ」

 

 二度目の舌打ちが鳴る。行動を見透かされているというのは、多少気心の知れた相手とはいえ、微妙に気持ちが悪かったから。それはそれとして、合っているから否定もできなかった。

 

「なンかあったら連絡しろ」

 

 それだけ言って、一方通行は通話を終了した。丁寧に宣戦布告をした上で襲撃をするような手合いではない以上、依頼に時間はかけられない。

 

『少し待っとけ』

『は?何を言ってるんだ、突然』

 

 カマボコを貫いたフォークを片手に、当たり前の疑問を口に出す青髪の少女。火種は未だ燻っており、いつ爆発するか分からない。その最中に外出してしまう主戦力。引き留めるのが当たり前だ。

 

『戦局……に関わンねェぐらいの重大事件だ』

 

 神器保持者が一人いるかいないか。

 本来であれば、それは戦場の優勢劣勢をひっくり返す重要なファクターになり得る。戦場にアーシアを放り込めば、それが人道的かどうかはともかく、傷ついても即座に前線へ送り返せるようになる。あまりにも強力な後方支援だ。本来、神器保持者とはそういうものだ。

 一方通行というバランスブレイカーがいるせいで重要度が下がっているだけで、神器は盤面をひっくり返すジョーカーである。そんな存在が個人的な理由で離脱してしまっているのは、戦争になるかならないかという一大事において、割と重要な部類だろう。

 

 必要かどうかは分からない。リアスの行動方針に反して、グレモリー眷属達とソーナは魔王に連絡をしている可能性が高い。援軍の到着を待つ為、ベクトル操作を駆使した徹底的な耐久戦を行なっても良いのだ。リアスの魔力に一誠の神器、そして一方通行。それぞれの特性を十全に発揮することができれば、そこらのシェルターよりも余程頑強な防護壁は築ける。問題はそれを待つような相手ではない、という点だ。

 魔王が来るまでダラダラと槍を放ち続けるような間抜けなのであれば、幹部に上り詰めることは無理だろう。

 

『……必要なのか?』

『知らねェ』

『知らないわけがないだろう』

 

 正直、彼個人の意見を述べるのであれば、木場祐斗という少年のことは心底どうでも良かった。必要かという問いに対しても、要らないと切り捨てられる。だが、後々面倒なことになるのも目に見えている。

 仮に心の隙を突かれた結果、コカビエル側に立たれたとしたら。聖剣をくれてやるだの、不要になったバルパーを殺す権利をやるだの、そういうことを言われたら靡いてしまうかもしれない。そんな状況に陥ったら、リアス達は戦力的にも精神的にも、持っているリソースの大部分をそちらに割いてしまうだろう。そうなれば、グレモリー眷属は確実に軒並み戦力外。ゼノヴィアと一方通行だけで残る面々を抑えられるかは怪しいところだ。

 

 目の前のうどんをさっさと汁ごと胃袋に納め、席を立つ。隣に目を遣れば、少女がフォークを片手に悪戦苦闘していた。

 

『行ってくる』

『あ、ちょっと待ってください』

 

 アーシアが引っ張り出してきたのは、一本のビニール傘だった。

 必要はない。高速移動や風の操作をせずとも、反射の対象に雨粒を入れるだけで良いのだ。能力の仕組みを理解していないアーシアでも、彼がそういう力を持っていることは分かっている。

 信頼はしている。それ以上に心配もしている。そんな彼女への対策として、一方通行がコンビニで買った割高の安物。飾り気も機能性も最低限。盗られないようにアーシアが『駒王町教会』と書かれたシールを貼っているだけ。

 

『天気が崩れるみたいなので』

『大丈夫だろ』

『体調が悪くなってからじゃ遅いんですよ』

 

 拒否する理由も特にない。素直に受け取った彼がそのまま玄関を開けると、紅色の蝙蝠が小さな手を懸命に振って一方通行の視界に入り込んできた。人間であれば、既に酷い呼吸音になっていそうな動きだ。サイズと持ち合わせている能力に対し、リアスの使い方があまりにも良くなかった。

 仕方なく、彼は能力を行使する。いつかのように進行方向を狂わせるような嫌がらせではなく、適度な気流に乗せるサポート。それだけで蝙蝠による道案内はかなり円滑なものになった。

 

「家出少年の捜索なンかさせンじゃねェよ」

 

 少なくとも、神父の仕事ではないだろう。それらしい仕事をそれらしくやっているだけで、そもそも彼の身分は掠め取ったものだ。本物のフリード・セルゼンも本物の神父だったのかは怪しい。人殺しだったことは確実だが、分かるのはその程度。

 ポツポツと降り始めた雨に対し、必要のない傘を開く。数ヶ月前の自分の頭上からは響いてこなかった、弾かれる水の音が鳴り始めた。

 

「まァ、悪くねェな」

 

 前を飛ぶ案内人を陰に入れ、足を進め始めた。

 頭の中に並べるのは、口にするのも憚られる綺麗事の数々。それらを上手い具合に使って、物理的に叩きのめすのではなく、渋々でも良いから説き伏せる。だが、相手は確実に反発してくるであろう人間、もとい悪魔である。

 ある意味、コカビエルを相手にするよりも面倒臭いかもしれない。一方通行は眉間に皺を寄せながら、蝙蝠の後ろを追従していく。目的地はそう遠くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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