そっちがリリカルならこっちはラジカルだ!(錯乱) 作:夜月工房
オラリオには聖夜祭なるイベントがある。要は日本人にとってのクリスマスなわけだが、こちらでも基本的には家族でパーティーを開いたり一日通して華やかかつ賑やかに過ごす日だ。
とはいえ豊穣の女主人にとっては稼ぎ時なんで、必然的にシルやアーニャの関係者としてベルやアタシもヘルプへ駆り出される。
いやそれは少しおかしくないかと言いたくなる流れだが、思い出したように店員は女性限定という建前を利用して女装ベルどころか性転換済ベルが実装されてしまう事故の片棒を担いだ身としては贖罪がてらベルの手伝いという認識で接客に調理にと動き回るのもやぶさかではなかったり。オッサン冒険者にセクハラされる少女ベル概念は体に良いのだ。
「しかしもう夕方だってのに、ケーキの注文が止まらねェもンだな」
客層はとっくの昔に
いやまぁバレンタインデーもあるから甘い物を好む男を馬鹿にする男は少数派だしそこまでおかしくもねぇのか。
「そんな事を言って、ラジルカさんの商会が喧伝して流行させたんじゃないですか」
「おかげで儲かってるならいいだろ」
「それはもう、ミアお母さんもみんなの笑顔が見られて感無量だって言ってました」
制作の工数を考えるとケーキよりも飯の方が優れてるが、材料費を考えると使い回せて大量購入が見込める各種ケーキの方がお安い。そして人権費なにそれおいしいの状態なこの豊穣の女主人では利益率を材料費のみで考えられる。
更には期間限定特別メニューとして、普段の提供している品物に微アレンジされたケーキは少しお高めに設定できる。
「おーい会計頼む! ついでにモンブラン二つ持ち帰りで」
「毎度ありー。全部で2300ヴァリスだ。モンブランの消費期限は常温だと明日朝イチ、冷暗所でも明日の晩だから早めに食っとけよ」
「おうよ、任せてくれ。愛する主神様が今晩中に食っちまうだろうさ」
「そいつァ何より。形が崩れるから振り回すンじゃねェぞ」
「心得てらぁ! ありがとよ!」
「ありがとうございますニャー! また金貯めたら来るのニャ!」
まぁ、一部の商品は使い回せない材料もあるんで値段が更にお高く設定されてるんだが、消費者側の認識が高かろう良かろうなんでそっちを頼む客が多かったりする。自分で食うよりはプレゼントにしてるのは、まぁ、性夜って事なんかね。
「ようやく終わったニャー!」
店内から最後の客が出ていき、今日の営業は終了だ。実際には後五分程度の猶予があるものの、ここから駆け込んでくる勇気のある冒険者がいるだろうか……割と主神に無茶振りされたフレイヤ派なら来そうなのが何とも言えない。
「もーくたくた。さっさと掃除終わらせてケーキで打ち上げしよ」
「んおー!? なんニャこれ、めっちゃうんめーニャ!」
「何を先に食ってるニャ、このアホ猫!?」
「アーニャ、貴女という人は……」
ルノアの提案に周囲が気を取り直し張り切りかけたところで、音的にも内容的にもアホさ漂う叫び声が響き渡る。
当然のように非難の声が上がるものの、アホ猫1号:アーニャ・フローメルはドヤ顔で宣言した。
「ふっふっふっ、甘いニャ。ミャーは五分だけシフトを早めに切り上げてるから掃除は免除されてるのニャ!」
「なん……ですって……」
「アホ猫が賢いなんて、これが聖夜祭の奇跡ってやつニャ!?」
「どうせラジルカの入れ知恵でしょ? シルもいつの間にかいないし」
ルノアが呆れたように指摘しながらお冷を注いで飲み干す。掃除しろよ。
「ですが、当の【
サボってるお前らとは違ってな!
なお
現実の側で珍獣が持ってきた原作小説
「そういうアンタもね。シルと一緒に冒険者くんを連れてどこかの建物に消えていくと思ってたのに」
「それには及びません。シルには先行してもらいましたが、私もこの後【ヘスティア・ファミリア】の拠点にて慎ましく記念日を祝うつもりです」
「あ、そ。お熱い事で」
からかったつもりが真顔で惚気られるようになったリューを見て、可哀想なものを見る目が半分、羨ましそうな目が半分。まー高
そんな駄弁りをしてるのを横目に
「ねーラジルカーどっかにいい男っていないの?」
「いい男の条件次第じゃねェのか。ヒューマンならベルの隣にはまだまだ空きはあるだろうし、同じヘスティア派のガルドもフリーだぞ。異種族でもいいなら学区の【ナイト・オブ・ナイト】とかも良物件。競争率は高ェだろうがな」
そういや
「ま、アタシは帰るわ。お先ー」
「え、あ、もうこんな時間!? さっさと掃除済ませてケーキケーキ!」
「ミャー達はとっくに済ませたニャ」
「嘘、クロエが真面目……?」
「なんでミャーは喧嘩売られたニャ?」
ケーキを食い終えてゴミを片したアーニャを伴い、終業後にも関わらず慌ただしくなる豊穣の女主人を後にする。今日もオラリオは平和だった。
……毎年どっかで何かしらの事件が起きてる気もするが、多分イベントはロキ派が中心なんでねーかな。後でアイズに聞いてみよう。
「って、雪か」
「おー、ロマンティックなシチュエーションなのニャ」
店を出たら、チラホラと空から白いものが落ちてくる。テンションを上げている隣の猫とは違い、こちらは露骨にテンションが下がったが。
いやまぁホワイトクリスマス的な概念はオラリオにもあるから気持ちはわからなくもないんだ。もっと子供の頃なら同じようにはしゃいで、どんな遊びをするか楽しみにしていた可能性は低くない。
「雪掻きすンの面倒くせェ」
だが雪国の一定年齢を過ぎた者は雪が降っても金にならない仕事が増えるんで基本的に嫌がるんだわ。勢いが強すぎて学校や会社が休みになる事もあるが、それはそれとして休んだ分だけ消化されなかったタスクを補習や残業、休出しなきゃなくなって肩を落とす羽目になるんでねーかな。
「おミャーはどうしてそうロマンティックを台無しにするニャ! ここはそっと抱き寄せて甘い言葉を囁く場面なのニャー!」
「身長差考えろよ。ほら、頭下げて屈め」
「うニャ……やーめーるーニャー」
「止めるなって? ハイハイ」
「違っ、や、おっ、あおぉ……」
ごねるアーニャをしゃがませて頭をくしゃくしゃしてやれば、不機嫌な表情は変わらないものの尻尾はピンと立った。
ちなみにアーニャからは見えない角度の物陰から顔だけ出してこちらを見ながらハンカチを噛んでいるリリはどんな反応を求めてるんだろうな。拠点に帰ったら
「この泥棒猫……」
「ウニャー!?」
素晴らしい。気取られないよう背後を取り、そっと耳元で呟くように――それでいて聞かせるつもり満々かつ湿度や粘度を高めた声で――「この泥棒猫」が決まった。
これにはアーニャも心当たりとかすっ飛ばして普通に心臓が口から飛び出そうなくらいに驚いただろう。髪の毛は逆立ち、尻尾は膨れ新種の猫じゃらしかと思えるほどにふっくらしている。
「お迎えに上がる予定がパーティーの準備に手間取って遅くなってしまいました」
「いや、わざわざありがとな。ちなみに手間取ったってのは?」
「お昼頃に大聖樹見習いから見習いが取れたのですが、そのせいで感覚がズレて果物などの成長に影響が出まして」
「なるほど?」
よくわからん。見習いってそんな一年とかで取れるもんなのか。つーか見習いの時点で意味不明だし
「一応、こちらが前後で変化のあった一覧になります」
「うん、雪降ってる中で紙を渡されても困るから先に帰ろうか」
「リリは真顔でボケるからツッコミのタイミングが難しいニャ」
「そうでしょうか?」
アーニャが勤務後という事もあってか顔をしわくちゃにしながら呟けば、リリは首を傾げながら取り出したメモを懐にしまい直す。そしてなんか流れで三人して手を繋いで帰途についたのだった。
「おかえり、ジル姉」
「お邪魔してます」
「ただいま。リューも直に来るだろうな」
パーティー会場は例の如く大聖樹の突き出た元倉庫。
例え雪が降ろうと魔力壁の
『おーネキっち! オレっち達までさそってくれてありがとな!』
『こんなにも素敵な催し物ニ参加できる事ニハ感謝の念が尽きませン』
「まーボチボチここにいるような面子は慣れたろうしな。こうして美味いもん食って気分良くしながら少しずつ歩み寄れればいいだろ」
今回は『
グロスやラーニェを筆頭とした非友好的な勢力もカリカリの影響ですっかり丸くなったからなぁ。グロスなんて麦わら帽子と首掛けタオルが世界一似合うガーゴイルの名を欲しいがままにしてたぞ。
本当ならここにダンジョンの意思の端末も呼びたいんだが、色々とダンジョンの内容を弄った影響をじっくり確認してる最中なんで来年いっぱいくらいはダンジョンから出られんだろうなぁ。
例えば階層間移動を広めに取ったら11階層くらいにまで上がってきたキラーハウンドの群れによる被害がすごくてなぁ。浅層中層の死亡率が上がって大騒ぎになったもんだ。一月もしたら情報が確定されて、護身用に魔剣ほどの威力を持たない固定威力の魔法を放てる使い捨てのコインが馬鹿売れしてたが。電撃系や氷結系は動きを止められるんで倒すにも逃げるにも役立つ事から大人気よ。
なお供給元が【
最終的には魔法を込めたコインを作るための機械を作り出して解決したが、動作原理が全くの不明なオーパーツでトラブルが起きたら出動しなきゃないんよね。
「さて、それじゃ時間も時間だし、酔い潰れて寝るのも込みで対策してあるンで存分に食って飲ンで騒いでくれ。乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
「で、早めに切り上げてしばらく経って様子を見に来たら物の見事に死屍累々だから毛布掛けて回ったりまだ騒いでる連中に飲み物を追加したりしたわけだが」
「昨夜はお楽しみでしたね」
「それはちょっと意味が違うンだよなァ」
いやまぁ枕元にプレゼント置く演出しようと思ったけど
でもベルの子供は見たいから励んでほしいのも本心だ。神や精霊が相手でも問題なく子供を授かるスキルはよ。むしろ神や精霊に『
「しかし今年も終わりが近いですね、お姉ちゃん」
「だなァ。去年は去年で激動だったが、今年も中々に騒ぎ回ったなもンだ」
季節イベントは一通りやれたんじゃなかろうか。逆に言えば季節以外のイベントは少なかったから反省点な気もするが。特別な瞬間だけじゃなく、普段から活気のある感じにしたい部分あるわ。
「来年はどんな一年になるでしょうか?」
「さて、な。この夢とは別の夢に送られるって話もあるからなァ」
性転換させられて倫理観がアレなラノベやアニメの世界に突っ込む計画が、立ち上がってるどころか実行秒読みらしいんだよなぁ。
「あぁ……心中お察しします。でも魂の繋がりがあるリリも繰り越しで一緒にいられるはずですから、頑張りましょうお姉ちゃん」
「そーな。頼りにしてる」
リリがいてくれるのは本気で助かるわ。他にもエイジャとラピス、ルビスと幅広い活躍が期待できる面子を連れていけるのは大きい。いやまぁモンスターが許容されるかの問題はどんな世界にもついて回る気はするが。
しかし来年なぁ。季節イベントがバレンタインから始まったと考えたら、一周するまでに大晦日とか新年とかイベントはあるんだが、とりあえず架空の親戚でも殺して忌中って事にするか。準備めんどいから宗教儀式なんぞ不参加でえぇやろ。
でも節分は豆をン億個食おうとして天に送還される神々とか見たいから、ちょっとどうにかできないか考えておくべきかもな。