黒川あかねのお兄ちゃん   作:マッキー⭐︎

8 / 8
お久しぶりです。お待たせしてしまい申し訳ございません。

DMで主人公の見た目を教えてほしいとのことでしたので、ここにも回答しておきます。
・顔のベースはあかねと同じで、違いは目元が鋭い程度。
・髪もベース自体はあかねと同じ。ポニーテールになっている
・身長はあかね+12cm。常にこの身長差


第8話 星野愛久愛海

 最愛の人を失った。

 俺の総て、などという陳腐な言葉で表せないほど、彼女の存在は大きい。

 

 希望であり、夢であり、母でもあって、そして推しだった。

 

 生まれてからずっと彼女と過ごした、文字通り夢のような時間。

 彼女の躍進を、笑顔を、ずっと傍で見ていた。

 

 前世に未練がなかったわけではない。抱えていた仕事は山のようにあったし、別れの挨拶なんてろくにできやしなかった。あんな死に方、満足するなんて人間のほうがどうかしている。

 

 それでも俺は、新しい生活が気に入っていたのだ。

 

 時間が止まればいいと思っていた。

 今が永遠に続けばいいと思っていた。

 この日常が終わってほしくない。

 この瞬間を引き伸ばしたい。

 いつか終わると分かっていても――――

 

 じゃあ終わってしまえばいいなんて、思うわけないだろう。

 

 

『■■■も、もしかしたらこの先、アイドルになるのかも』

 

 

 知識があるからこそわかってしまう。この傷は致命傷だ。もって数分、医療機関ならいざ知らず、単なるアパートの一室ではお察しだ。懸命に血を止めようと圧迫しているのに、頭では既に結末が見えている。心と体がばらばらになったみたいだ。

 

 

『■■■は役者さん?』

 

 

 血液とともに生気が流れ出ているかのように、彼女の声はどんどん弱くなっていく。喋っているのもつらいだろう。

 

 

『愛してる』

 

 

 鼻を突く錆びた金物ような血の匂いが、どうしても忘れられない。

 呪いのように付きまとう言葉が、記憶が、いつまでも離れることなくささやき続ける。

 

 

『この言葉は絶対、嘘じゃない』

 

 

 彼女は嘘つきだ。世界で一番の大嘘つきだ。

 知っているのは世界で唯一只一人。そして、資格を持つのも只一人。彼女の『死』を間近で体験した者こそが、この舞台にふさわしい。

 

 なればこそ。

 それ(復讐)がきっと、星野愛久愛海(雨宮吾郎)に許された生き方なのだ。

 

****************************************************

 

 

 星野アイを殺した男は芸能界にいる。そして、その男は自分の父である。

 今わかっているのはそれだけだ。()を探すには心もとない情報量だが、ないものねだりをしていても仕方がない。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、とは使い古されて久しい言葉だが、今の俺にはぴったりだ。闇を探るなら闇の中に身を投げなくてはならない。浅瀬で得た情報などそれこそゴシップに等しくなんの価値もないのだから。

 幸いにして、今の俺にはツテがあった。

 

 

「監督、今日は何をする?」

 

「今日は撮影がある。お前も来い」

 

「部外者の俺が行ってもいいの?」

 

「監督の知り合いが部外者ってことはないだろ。見るのも勉強だ」

 

 

 都心の一角。そこそこ大きな家のさらに一室で、優雅にたばこをふかしているこの男こそが、映画監督の五反田泰志。今は彼に師事し、役者の何たるかを学んでいる最中だ。

 彼の作品に出させてもらったこともある。思い切りコネ採用だが、使えるものは何でも使うのが俺の主義だ。

 

 

「悪かったな、そこそこ大きな現場だから、お前をねじ込めなかったんだ」

 

「別に気にしないよ。それで、何が狙いなの?」

 

「会わせたい奴がいるんだ」

 

 

 言いながら、器用に準備を済ませていく監督。よくタバコを吸いながら動き回れるものだ。灰とか落ちたりしないのだろうか。まあ灰が落ちたとて、ハウスキーパーのごとく掃除してくれる母親がいるのだから関係ないのだろう。……子供部屋おじさんって楽でいいな。

 それにしても、会わせたい奴とはいったい誰のことだろうか。皆目見当もつかない。めんどくさがりのこの監督が、わざわざ会わせたいというのだから、只者ではないのは確かだ。

 

 

「ねえ監督――――」

 

「こら! あんたさっさと出ないと遅刻するわよ!!」

 

「うるせえなわかってるよ!! あと勝手に部屋に入ってくんな!!」

 

 

 俺の言葉は、やはり乱入してきた五反田母にさえぎられた。この人、何かにつけて息子の部屋に入ってくるんだよな。やはり息子のことが気になってしょうがないのだろうか。そして監督の反応も、典型的な反抗期の息子って感じでおもしろ……いや中年男性の反応としては笑えないな。

 

 

「気を付けていってくるんだよー!!」

 

「ちっ……なんだってんだ全く……」

 

 

 母は強し。息子の悪態なんてなんのその、元気よく送り出してもらった俺たちは、目的地に向けて歩き出した。撮影場所はどうやら近場らしく、ゆったりと歩く監督の後ろを、短い脚でついていく。やはり子供の体は不便だな。頭はともかく、運動能力が低すぎる。早く大人になりたい、なんて月並みな言葉が出てきてしまいそうだ。

 別に母親を嫌っているわけではないようで、監督の口から出るのはやれ厄介な役者がいるだの、予算を出し渋る上層部に納得がいかないだの、仕事の愚痴ばかりだ。子供にする話か?これが。

 

 

「なあ早熟、今まで見た中で1番の役者って誰だ?」

 

 

 道すがら、監督がそんなことを聞いてきた。特に深い意味はないようでこちらに見向きもせず投げられた問いは、しかし答えるのが難しい。

 曲がりなりにも子役として活動してきたが、やはり画面の外から眺めている見方と、直接見るとでは見え方が全く違ってくる。良く映ると演者、悪く映る演者がいるが、それらを踏まえると――――

 

 

「有馬かな、とか」

 

「マジか。お前からその名前が出るとはな」

 

「直接見た中では、って話。あんまりほかの人知らないし」

 

 

 前回共演したとき、ああ、やはり売れている子役は違うな、と思ったものだ。あの時は役者のやの字も知らずに眺めていたが、いざ齧ってみると彼女の技術がよくわかる。

 性格は最悪だが、能力は申し分ない。多少メディアへの露出は減ったとはいえ、まだまだ売れっ子子役と名乗って差し支えないだろう。

 

 

「そうか、なら今日お前を呼んだ甲斐があったよ」

 

「? それってどういう――――」

 

 

 俺の疑問に答える素振りはなく、監督はまっすぐ目の前を指さした。考え事をしているうちに既に撮影場所へ着いていたようで、あたりには機材を運んだり、セッティングする大人たちであふれている。その中で一際異彩を放つ場所、監督の指さす先には――――太陽があった。否、太陽と見まがうほど巨大な光源が、撮影場の一角を陣取っている。

 おい正気か? 真昼間から何をしているんだこいつらは。

 

 

「まぶしくてあんま見えないんだけど、誰?」

 

「これはまたものを知らん奴だネ」

 

 

 なぜか太陽から声が聞こえた。

 

 

「偉大な相手というのは輝いて見えるものだヨ」

 

「まぶしい理由の方は訊いてないんですけど?」

 

「おいこら、機材で遊ぶんじゃねえ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「監督、殺しますよ」

 

「俺間違ったこと言ってないよな……?」

 

 

 声はもう1つあった、どちらも少女、だろうか。片方はテレビで見たことがある気がする。が、申し訳なさそうな声色で謝罪する少女は完全な初見だった。大量の光源(照明)の前に堂々と立っている時点で只者ではなさそうだ。

 

 

 「詩編102章になんて書いてあるか知ってます? 我々の存在意義はあかねを崇めることである、ですよ」

 

「いつか本当に宗教を作りそうで怖えな……」

 

 

 こっちの少女は只者どころか曲者かもしれない。誰だよこんなやつ呼んだの。今のうちに警察に突き出した方がいいのではないか。

 あまりの傍若無人さに立ち尽くしていると、監督から背を押された。なるほど、挨拶は1番の下っ端からってことだな。

 

 

「初めまして、星野アクアです。よろしくお願いします。」

 

「ああ、これはどうも。俺は黒川あおい、よろしくね」

 

 

 意外にも挨拶はきっちりするみたいだ。先程の奇行が嘘のようにきれいなお辞儀は、まるで男であることを忘れて――

 

 

「おれ、って、あおいさんは男性なんですか?」

 

 

 俺の疑問に答える気はないようで、黒川あおいは口元に人差し指を立てて息を吹く。

 

 

「天使の声を拝聴なさい」

 

「黒川あかねです、よろしくお願いします!」

 

「ブラボー!! おお、ブラボー!!」

 

「監督、帰っていいかな」

 

「まあ待て早熟。こんなんでも一流の子役なんだよ」

 

 

 一流の姿か?これが……

 いくら一流に変人が多いとはいえ、限度というものがあるだろう。有馬かなの悪態がかわいく見えるほどだ。

 

 

「監督、照明1台壊れてましたよ。後で担当の人に渡しておきます」

 

「おお、助かるわ」

 

 

 機材チェックも兼ねていたのか。意外と抜け目のない奴だ。てっきりふざけてやっているものかとばかり。

 しかし本当に子供なのだろうか。実質成人済みの俺と違い、彼は小学生になるかならないかの年齢だろう。しかし話し方、そして機材を操る様子を見ていると、とてもじゃないが子供には見えない。

 

 

「ほら、使えよ」

 

「……なにこれ」

 

「何って…… サングラスだが? あかねを見るとき眩しくない?」

 

 

 やはりただのバカなのかもしれない。

 

 

「よし、そろそろお前らも準備しろ。撮影始めるぞ」

 

 

 監督がそういうと、2人は無言で頷いた。あかねの方はまだ緊張しているみたいだが、この年齢にしては落ち着いているほうだ。

 折角来たのだし、精々勉強させてもらおう。彼らが変人であろうが何であろうが、どのみちやることもないのだから。

 

****************************************************

 

「どうだった、早熟」

 

「監督……」

 

 

 黒川コンビの出番は同じだったので、2人の演技を同時に見ることができた。あかねの方は、まあ上手いな、と思う程度だったが、あおいの方は……

 

 

「ちょっと自信なくすよ。あれは、俺が目指すべき完成形だった」

 

 

 監督は俺に、ピッタリの演技ができるようになれ、と言った。それはつまり、演出・監督の意図を理解し、言語化できていない部分さえも演技に昇華しろ、ということだ。

 その点、あおいの演技は完璧だ。台本からでは読み取れないであろう、キャラクターの表情、身振り手振り、発声。すべてが違和感なく進行していく。

 

 扱う側としてこれほど楽なことはないだろう。勝手に演じて、それがぴたりとはまっているのだから。事実彼のみが、誰からの指示も受けずに撮影を終わらせた。

 そしてそれを補強するかのように、彼の演技には感情がのっかっている。まるで実在する人物のように見えてしまうのだ。

 

 

「あれを目指せと言ってるわけじゃねえよ。ただ学べるところは学べってことだ」

 

 

 そういうと、監督は俺の頭に手をのせて去っていった。それを払いのける元気は、今の俺にはなかった。

 監督と入れ違いになるようにして、件の黒川あおいがやってくる。

 

 

「隣いいかな?」

 

「大丈夫ですよ」

 

「ああ、そんな話し方はしなくていいよ。年も近いだろうし」

 

「そうか、じゃあ遠慮なく」

 

 

 先ほどまでの得体のしれない雰囲気は霧散しており、今ではただの女の子みたいだ。だが、俺とはモノが違う、才能の原石を前に少したじろいでしまう。

 俺の心境を知ってか知らずか、あおいは飄々と口を開いた。

 

 

「アクアにも妹がいるんだってね。監督から聞いたよ」

 

「ああ。ってことは、あかねが?」

 

「うん。俺の総てだよ」

 

 

 そこから始まるのは、怒涛のあかね()自慢だった。撮影中の面影は一切なく、年相応のはしゃぎようだ。

 話が嚙み合っていない気がするが、結局のところ妹を大事にしているってことなのだろう。そう考えると、少し親近感がわいてくる気がする。先程の奇行も、全てあかねが絡んでいた。妹を想うあまりに暴走するお兄ちゃん、といったところだろうか。

 ひとしきり語り合ったからだろうか、満足げにうなずいたあおいは、こちらに手を差し出してくる。

 

 

「これからよろしくな。アクアマリン」

 

「監督から聞いたのか? その呼ばれ方はあまり好きじゃないんだ」

 

「そうか。よろしくな、マリン」

 

「そっちに略すんじゃねえ。普通に芸名で呼べよ」

 

「宝鐘ま〇ん派じゃなくて湊あ〇あ派ってことか……」

 

 

 ぶん殴ってやろうかこいつ。先程まで感じていたはずの、湧き上がってきた確かな思いは、再び胸の底へと沈んでいった。

 

 

 

「ねえおにいちゃん」

 

「ん? どうした?」

 

「アクアくんって、かっこいいよね。俳優さんみたい」

 

「レレジギ ガガガガガガガガガガガガ」

 

「おにいちゃん!?」

 

同志()としての慈しみの気持ちと、妹に付いた悪い虫としての気持ちがせめぎ合ってパラドクス状態になっているみたいだ」

 

「ギガギガフンフン ガガガガガガガガガガガガ」




忍ばせた呪術ネタにここすきが付いてるとついにやけてしまいますね。

以下、評価のお礼です。
☆10
ぬべべ様
こちらこそ、今後ともお付き合いよろしくお願いします。
レグリア様
ギャグのルーツにして原点ですので…… やはり先生は偉大ですね。

☆9
リーサ様
たかし9029様
石ころA様
1+eのiπ乗様
野菜スティック様
Ginkaaaaaa様
レイ・ブラドル・ドラニス様
enom様
イツ様

本当にありがとうございました!
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