700万年続く人類の歴史が今…幕を閉じようとしている。
その原因は核戦争でも、小惑星の衝突でも、地球外生命体の侵略でもない。
人類は今、他ならぬ人類の創造主、神の意志によって終末を迎えようとしているのだ。
1000年に一度、全世界の神々が一堂に開催されるヴァルハラ評議会議事堂にて行われた人類の存続を掛けた人類滅亡会議の中で、戦乙女の13姉妹の長姉、ブリュンヒルデが提案した神と人類のよる
議決されたことに安堵しながら長く壮観な通路にコツコツと靴音を響かせながら歩く。
「もうダメかと思ったっスよ…お姉さまー…」
ブリュンヒルデの隣でヘナヘナとへたり混んでしまったのは戦乙女13姉妹の末妹、ゲル。
「どうしてあんな事…神々の決議に背いたり神々を怒らせたり!!殺されたいんスか!?」
「ゲル…見習いの貴女にはまだ分からないかもしれませんね…人と我等ワルキューレの関係は…他の神々よりもずっと濃いのです…見捨てる事など…出来ましょうか」
ゲルはその言葉に思い返す。かつてブリュンヒルデがその身体を人間にまで落とされたことを。
我々13姉妹の中で1番人に近づいたワルキューレ。
だからこそ、人類への思い入れが大きい。
「でも…人間が勝てるんスかね?神々の代表ならどなたになるのでしょう…?」
「愚問ですよゲル。神々の先鋒はあの方に───」
そんな姉妹の会話に入り込む男の声。
「よう、ブリュンヒルデぇぇええッ!!?」
名も無きインキュバスが臓物と血を撒き散らしながら弾き飛び飛散する。
下手人は…
ブリュンヒルデは臓物と血を被ってしまったものの、すぐさま膝を着き頭を垂れる。
「お久しゅうございます…トール様」
その神は北欧の最強神、トール。この巨大な身体から放たれる威圧感と神威にブリュンヒルデとゲルに襲い掛かる。
「ブリュンヒルデ…何を企んでいる?」
「何のことございましょう?」
殺気。
空間が歪んだかのような感覚。ゲルの冷や汗が止まらない。
だが次の瞬間には殺気は嘘のように飛散した。
「まぁいい…楽しませろ。さもなくば殺す」
トールはそう言うと、その場から立ち去って行った。それと同時にフェ〜…と情けない声を出しながらブリュンヒルデに駆け寄った。
「ち…ちびるかと思ったっス〜!!本当にちびってないっスからね!!でもお姉さまはまた平気そうにしてらして…」
「それは良かった…平気そうに見えましたか」
ゲルは目を見開いた。先程まであれだけ覇気を放っていた姉が、ブルブルと産まれたての子鹿のように震えているのだ。無理は無い。最強神とも呼ばれるトールから、あの至近距離で神威と殺気で威圧されたのだ。たった指1本で自身を殺しえる超上位存在に殺気を放たれて恐怖を覚えない者など存在しない。
「…急ぎましょう、最強の13人を選ぶのです…」
「やっぱり無理っスよお姉さま…あんな神にどんな人間が勝てるっていうんスか!」
「安心なさい。どう足掻いても人間は神に勝てない。何故なら神は絶対。この世界においてのルールそのものなのですから」
「なっ!?なら尚更!?」
「しかし、そういった神という名のルールに囚われないものも世界には存在します」
ヴンッとブリュンヒルデの前に大量のホログラムが展開させる。
そこに展開されたのは様々な世界の人間の姿。
「理不尽には、理不尽を…彼らは…ルールに縛られない、最強にして最凶かつ最狂、神々ですら関与出来ない存在です」
「……え!?ま…まさか…これって、別の世界から選手を選ぶのは大丈夫なんスか…?」
「大丈夫なのか…ですか?ラグナロクは神対人としか記されていない、別の世界でも人は人。そこに何の違いもありゃしないんですよ!!」
「え、えぇ…?けどこの人達は…危険すぎるっス!!」
▽▽▽
ヴァルハラ闘技場に先に入場したのは北欧の最強神トールは、ジッと人類代表の選手は誰か…と少しだけ期待を込めて入場門を見つめていた。
もしかしたら自身を楽しませてくれるような闘いが出来ると…ほんの僅かな可能性にかけて。
だが、直ぐにその期待は瞬時に飛散し、湧いてきたのは憤怒。失望。
進行役のヘイルダムが泣きそうになっているが、トールには関係ない。トールは観客席から見下ろしていたブリュンヒルデを睨みつける。
何を企んでいるブリュンヒルデ。そう視線で殺気を込めながら訴える。
何故、ここまでトールが怒髪天を衝く程の激情をブリュンヒルデに向けているのか。
それはトールの対戦相手にあった。
人類代表の先鋒。それは…
「ひ、ひぃ……」
なんともか弱い少年だったのだ。ボロボロのみすぼらしい服装、体型も武人のものではない。
トールという神の前に涙を流しながらブルブルと震えている。
これには観戦していた神も、人類も呆然とした。
神は嘲笑し、困惑する。
人類は怒り、絶望する。
だがそれでも、試合開始は止められない。
困惑するヘイムダルが声を荒らげ叫ぶ。
『さあ、人類の存亡を賭けた
そして対する人類先鋒は……誰だぁ!?まぁいい!!名も無き少年!!人類側はこの勝負を捨てたのかぁ!!?』
ヘイムダルが両腕を挙げる。手に持つのは終末の角笛。北欧神話エッダによると、それを吹く時、神VS人類最終闘争が始まる。
ブォォォォオオオオオオッ!!!
始まりの笛の音と共にトールが動いた。凄まじく強大な、巨体のトールをも上回る巨大なハンマー、ミョルニルを振り上げる。
「つまらん…」
ゴゥンッとミョルニルを振り下ろす。
『き、決まった〜ッ!!圧倒、やはり人類代表、え〜…まぁターバンのガキでいいか!!ターバンのガキを瞬殺ッ!!』
トールは振り下ろしたミョルニル担ぎ直し、ブリュンヒルデを睨みつける。
隣のワルキューレ、ゲルは尋常ではない程に震えているものの、ブリュンヒルデは一切動揺していない。その顔には余裕が見える。一体…
ドカッ!!
激痛。太腿に熱い痛み。そこに視線を向けると…
「……!?」
そこにはトールの太腿にナイフを突き刺す頭にターバンを巻いた少年の姿があった。
『なんだってーーー!!?まだターバンのガキが生きてやがったッ!?まさかトール神のミョルニルが当たってなかったというのかァ!?』
「…………」
トールは少しだけ予想外。といったように再度ミョルニルを振るう。ミョルニルから腕に伝わる感触。確実に肉を叩き潰した音と感触。
それでも…
ドカッ!!
「……貴様は!?」
またしても、トールの太腿に寸分違わず同じ位置に刃を刺し込む少年の姿があった。
直ぐにトールが少年を殴り飛ばす。
そしてようやくトールは警戒を強める。取るに足らない唯の人間の子供。その認識から明確な敵として認識を改める。
『トール神が…ミョルニルを両手で構えたァーーーッあッ!?バ…バランスを崩し後ろへ…倒れる…ッ!?
いや!!た…倒れない!!これが構えなのか!?』
それは太古の昔、巨人共が群れをなして攻め入ったアースガルズでの一戦。
トールが攻め入った66体の巨人を全て独力で殲滅。
以降、神々はトールの栄誉を語り継ぐ為…
その一撃必殺の技に称号を与えた。
曰く
“
雷撃。まるで落雷が起きたかのような、いや、それ以上の轟音と共に繰り出されるは必殺の一撃。放電された雷が収束したミョルニルがたった一人の少年に振り落とされる。
あまりの衝撃に砂塵が舞い上がり、舞台を覆い尽くす。
トールは振り下ろしたミョルニルを見る。
手応えはあった。肉を潰し骨を砕く感覚。慢心は無い。…が、今まで通りこの一撃で決着が着くとそう思っていた。
ドカッ!!
『ど、どうなってんだぁ〜ッ!!?ターバンのガキがトールハンマーで潰されたと思ったら既にトール神の太腿を刺してやがるッ!!あの一撃を喰らって尚無傷ッ!!こいつは只者じゃねぇ!!?一体何者なんだぁ!!?』
「なっ!?馬鹿なっ…反応出来ない…!?油断はしていない…気配を悟られることなく、稲妻の如く間合いへ踏み込んだ…貴様は…一体!!?」
ナイフを見せびらかすように目の前に突き出してターバンを巻いた少年、否、ターバンのガキは…
…ニヤリと嗤った。
「
「あんな小さな子供が…トール様を圧倒してるっス…!!」
「これが世界中を監視しながら増殖し続け、いずれ世界と人類を駆逐すると聖帝に言わしめるターバンのガキ…!!」
“
「イッツアパーリィータイム」
▽▽▽
「おじちゃんつおいつおーい!!」
「なんちゅうデタラメな強さじゃ…!?」
「きーーーーんッ!!ほい、地球割り」
少女が軽く闘技場の地面を叩くとメキメキと音を立て、闘技場だけではなく、ヴァルハラ評議会が存在する天界までもが真っ二つに割れる。
幸運だったことは天界が星と直接繋がっていなかったことだろうか。もし星と繋がっていれば星ごと真っ二つにされていただろう。
口から放たれる光線は惑星を蒸発させる程のエネルギーを備えており、彼方に吹き飛ばされても一瞬で星を1周し背後からただいまと現れる。
例え時が止められようと、新しく搭載された発明品、“タイムストップウォッチ”の力により行動が可能というまさに理不尽の権化。
「なんて…美しいの…」
「信じられない…」
「こ…これが…!!人間に造られただと…!?有り得ない…!!物理法則を平然と無視している…!!」
「NO Non Nem Nein、見た物こそが真実であるッ!!あれこそが我々の科学の到達点!!あぁ素晴らしいッ!!是非とも製作者殿にご教授をッ!!」
興奮する科学者達の目の前で手を挙げたのは黒い髪にヨレヨレの白衣を纏ったふくよかな体型をした男性。
「わしです、アラレを造った天才科学発明家、則巻千兵衛はね」
決め顔の男性に周囲の科学者達が騒然となり、その中心でチヤホヤされてご機嫌になった則巻千兵衛がムフフと笑った。
「それに…この割れた天界も“変身ポンポコガン”で元通り!」
「おおっ!!時間の逆行による修復ッ!?それとも物質を形成して新たに創り出したッ!?効果もさることながらなんという素晴らしいネーミングセンスッ!!」
「む、むぅ…効果は凄いのに名前がダサい…」
「テスラ然り天才は似るものなのかの…」
▽▽▽
「何よ貴女ッ!!私のボボ美に手を出す気ッ!?このドロボー猫ちゃんッ!!」
「そうよそうよ、パチ恵ちゃん、もっと言っちゃって!!」
「何が“神器錬成”よッ!!1つになるなんてハレンチよッ!!ボボ美とは私が1つになるのッ!!」
「行くわよパチ美ちゃん!!」
「うん、私たちの力を皆に見せつけちゃおうよボボ美!!あんな戦乙女とかいうドロボー猫なんざ要らないって証明してやるわ!!」
女子中学生の制服を着たオレンジの塊と黄色いアフロの巨漢が手と手を繋ぎ、声を合わせる。
「「チェーーーンジッ!!」」
次の瞬間、爆発のような白い光が周囲を包み込む。
“神器錬成”
「う、嘘…!?戦乙女の力を使わずに“神器錬成”をッ!!?」
光が収まるとそこには姿の変わっていない男がネギを持っていた。
「ネギくせェーーーッ!!」
「うぎゃぁぁぁあああっっ!!!?」
手に持っていたネギを膝折した男は何故か悲鳴を上げたネギを投げ捨て唾を吐きかけた。
「おい」
「あん?」
「ネギ、捨てたのテメェか?オラッ!!テメェらコイツをやっちまえッ!!」
突如選手控え室になだれ込んで来た手足が生えた野菜たち。まるでコスプレのような野菜たちが次々と男に襲いかかる。
「オラオラァ!!」
「死ねぇ!!」
「残された野菜の恨みーッ!!」
「ピーマン食べたらスーパーマンッ!!」
「ブベッ!!ぐぼあぁッ!?」
「オラァ!!十字架に貼り付けろォ!!」
野菜達に蹴られ殴られ、ボロ雑巾のようにボコボコにされた男は、遂には暴走族のバイクに付けられた十字架に磔にされてしまう。
「このまま入場じゃぁあッ!!」
ヴァルハラ野菜連合と書かれた旗を振り回しながら嵐のように男を連れて去っていく野菜達。
そんな信じられないような光景を戦乙女の次女、フリストは呆然として見ていた。
「ハッ!?まだあの人と“神器錬成”してない!?」
我に返ったフリストは鬼気迫る顔でヴァルハラ野菜連合のバイクを追い掛けた。
▽▽▽
『僕の嫌いな事、それは注目される事だ』
「分かっています。ですのでここには貴方の世界から親族の方以外招いていません。そしてこちらが私たちが貴方に用意出来る報酬です」
『こ、これは…』
黒い艶やかな光沢を放ち、空気に触れるだけでその柔らかな表面をプルプルと揺らす、何処か神々しいコーヒーゼリー。
「こちらは天界一のコーヒーゼリー、あのポセイドン様ですら頬を緩めた伝説の一品です」
『おっふ…』
ゴクリとブリュンヒルデの言葉に喉を鳴らす。
「そしてもう1つはその超能力を全力を持って貴方から取り除きます」
『(取り除けるかは分からない)…か。分かったが…どうなっても知らないぞ』
男はモニュモニュと幸せそうな顔で報酬のコーヒーゼリーを頬張る。痺れる程の旨み。麻薬なんて甘く見えるほどの多幸福感が脳を支配する。
「唯一世界をギャグ漫画の世界に書き換えることが出来るイレギュラー、コーヒーゼリーはまだあるので頼みましたよ」
『フフフ…見せてやろう…超能力の力をな…!』
▽▽▽
「ぐ、ぐう…汚いぞ貴様!合体なんかしやがって…!おのれ竹書房ォォオオ!!」
闘技場で倒れ伏すのは橙髪のツインテールをした「どこにでもいる14歳の中学2年生」
「ぽぷちん!」
「あ゙あ゙ん!?あ、ピピ美ちゃん!!」
「これを使って!!」
観客席から投げられたのはピンク色のステッキ。まるで魔法少女が変身する時に使うような可愛らしい魔法のステッキ。
「よぉーし!!」
「痴れ者が、天誅」
少女はステッキを構える。
対して零福から変貌した第六天魔王波旬の腕が変形し、まるでドリルのように高速回転し、空気を裂きながら風切り音を鳴らす。
“魔廻天衝”
「ッゾオラ――――ン‼ア゛ォ゛ア゛ー‼」
少女はそのままステッキを上から波旬の攻撃が届く前に脳天に叩き込んだ。
乱れる波旬の“魔廻天衝”は少女の真下に突き刺さり、直撃はしなかったものの凄まじい衝撃と爆風を引き起こす。
それに為す術なく宙へ飛ばされる少女。
「ピピ美ちゃーん!」
「ぽぷちん!」
いつの間にか同じく宙へ飛ばされていた長身の少女と両手を繋ぐ。すると凄まじい光と共にエネルギーが爆発する。
「私が信じる貴女でもない。貴女が信じる私でもない。ポプ子が信じる、貴女を信じて!」
「うん!!行くよピピ美ちゃん!!」
首に掛けていたネックレスが、少女の強い意志に呼応し緑色に光輝く。
「「合身ッ!!」」
『な、なんだぁこれはぁ!?手を繋いだ瞬間光り輝いてッ…!!?姿を変えやがったァァァ!?神側に続き人間までも合体しやがったぁ!!!』
理不尽は終わらない。
さらに控え室には残りの戦士が控えている。
「………」
オーラを纏う奈良の大仏程の黒い巨体。闇夜に浮かぶ月のように妖しく黄金に輝く眼。
最強さん。色んな意味で、最強なおじさん。
とあるデンジャラスな老人の隣人であり、HPは無限、破壊力は測定不能、巨体に見合わぬ俊足力、防御力は攻められたことがないため不明の歩く死亡フラグ。
「ラッキー、クッキー、悪神ロキー!」
実力はないが、ついてついてつきまくる宇宙一ラッキーな正義の味方。
何があろうと最終的には上手くいくラッキーマン
今日は快晴であり、ヴァルハラからは幸運の星がよく見える。性格はあれだがその運命力は本物である。
ギャグ漫画補正、この世界にはない別世界の異質な絶対ルール。神であるが故に、そのルールに縛られない。適用されない。ボケ殺しのようなものはこの世界には存在しない。
つまり神にはギャグ漫画補正をどうこう出来ない。
「何人かは我が強すぎて制御不能ですが…それでもその刃は神にさえ届きうる。我が戦士達はいずれこう呼び称えられるでしょう。
“神殺しの13人”!!」
天界最強の13神と神殺しの13人。
ヴァルハラにて集結!!
続かない