特級術師 伏黒恵 〜困ったら即マコラ〜   作:第9の式神 立ち絵無し

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受け継がれし性癖

 

 

 

 

 伏黒恵はキレていた。

 

 必ずや、あのチョンマゲゴリラを誅さなければならないと。

 

 突然女の好みを聞かれたと思ったら、勝手に失望されて不意打ちでボコボコに殴られたのだ。

 

「お前は己自身を偽っている!男と男の質問に対して嘘を吐くとは、随分とお高く止まったな。特級」

 

 チョンマゲゴリラこと、東堂葵はあれだけ理不尽に殴り飛ばして尚、未だ臨戦態勢を解く様子が無い。術師とはいえ、伏黒もまだ16歳。自制心にも限度があった。

 

「嘘なんか、ついてねぇよ。……付き合ってられない。これ以上粘着するなら術式を使う」

 

「いや、絶対お前は嘘をついている、勘だがな。乙骨も最初は煮え切らない似たような反応だったが蓋を開けてみれば、死んでも離れないヤンデレ怨霊幼馴染だ。さあ、聞かせてみろ!お前の真の特級性癖を!」

 

「……乙骨先輩のアレはいいんだよ、性癖じゃなくて純愛だし。『貫牛』」

 

 伏黒は敢えて相手の話に少し乗り、聞き入った意識の間をついて貫牛を飛ばし一撃ノックアウトを狙う。ノックアウト出来なくとも距離は確実に取れるのでこの手の近接タイプと戦う時によく使う手である。

 

 ───柏手の音が響いた

 

「なっ、位置替え!しまった、距離が、なら……」

 

「ほう、影に沈めるのか。それに乙骨の性癖にも理解があるように見える。さぁ、恥ずかしがらずお前自身の性癖を語ってみろ!」

 

 伏黒は半身を陰に沈めることで拳を回避し、カウンターに一撃入れようとアッパーを打つ。

 

「ちっ、上下が入れ替わったか」

 

「本当は牛が居れば良かったんだがな、流石に"適応"が早い。噂に違わぬ頭の回転だな」

 

 打ち鳴らされる柏手の音と共にアッパーを入れようとした伏黒と東堂の位置が変わる。

 

「アッパーを躱す為に俺の陰に入ったのは失敗だったな。『蝦蟇』」

 

 東堂の足が陰に沈み、すかさず陰の内側で蝦蟇を顕現させ、舌だけで掌を狙う。ようは拍手を防げればそれで良いのだ。無論、蝦蟇と入れ替われば陰に沈むし、伏黒と入れ替われば元の木阿弥でアッパーを食らう。

 

「方陣を出されんとは、俺も舐められたもんだ」

 

 が、そんなことで詰まされる東堂では無い。すかさず制服のボタンをちぎり呪力を込めて投げる。

 

「蝦蟇!ボタンだ!」

 

「ふっ、やっとかかったな」

 

 直後、打ち鳴らされる柏手の音

 

 ───しかし東堂の位置は変わっていなかった。

 

「なっ、ブラフか!ややこしい真似をしてくれる」

 

「そうだとも、そして体の向きを変えたのは失敗だったな、伏黒!」

 

 今の数瞬で、蝦蟇と伏黒の狙いが完全にボタンの方に向いてしまっており東堂本人がノーマークになっていたのだ。

 

「ちっ、『玉犬』!」

 

「苦し紛れの愚策だな、数を増やせばこちらが有利になr……いや、違う!済まない高田ちゃん、いつもありがとう!」

 

「これに気付くとか、どんな脳味噌してるんだよ、お前」

 

 結果として玉犬と“互いに互いを傷つけ合った"伏黒は、そう悪態を吐いた。

 

 そう、伏黒は敢えて玉犬に自身を攻撃する様に指示し、自身も玉犬に攻撃をしかける準備をして位置替えを誘ったのだ。

 

 この時、東堂には4つの選択肢があった。

 

 蝦蟇、ボタン、伏黒、玉犬。蝦蟇は本体が陰の中にいるので論外。ボタンは蝦蟇と伏黒を嵌めた際にマーク先になっている為、これもまた除外される。残るは伏黒と玉犬。伏黒と自身を入れ替えれば玉犬との相打ちが狙え、玉犬と自身を入れ替えれば対空中により陰の無い伏黒に近接戦を挑める。しかし、どちらの方がダメージ効率が良いかを考えていた東堂の脳内に彼の推しが現れたのだ。

 

『ほんとうに選択肢はそれだけでいいのかな?相手は特級。それも頭の回転が早いと評判の人物なんだよ』

 

『た、高田ちゃん!』

 

『そんな相手が、キミの術式相手に、"苦し紛れで術式対象を増やすような真似をするのかな?"まるで……』

 

『位置替えを、誘っている?!』

 

 ※この間、僅か0.01秒。

 

 結果として、東堂は第五の選択肢“何もしない"というのを選択出来たのだ。

 

「……済まない、玉犬。いいだろう、俺の負けだ。オマエに俺の……女性に対する願望を言ってやる。ただし、同時にオマエは終わりだ。───布瑠部由良由良」

 

「いいだろう!特級の力と共に解放される特級性癖!わかってるじゃないか、伏黒恵!」

 

 音速を超えるマコラの拳が東堂に迫る。それと同時に伏黒が語り出した。

 

「性癖というより、将来の願望に近いものだがな。俺は女のヒモになりたい」

 

「ほうほう」

 

 東堂が不義遊戯を駆使して、マコラをいなしながら厳かに耳を傾ける。

 

「憧れの人が一番幸せそうだったのが、そんな感じの時だったからな。無論、養ってくれれば何でも良いという訳ではない」

 

 伏黒は人生全てが不幸だった父が、唯一幸せそうにしてたのは母に飼われていた時だったと記憶しているのだ。最も、その次の再婚相手とは全然幸せそうでは無かったのでヒモになれれば良いという訳では無いとすぐに分かったが。

 

「そう言う意味では、最初に言った揺るぎない人間性云々も強ち嘘じゃない。人間性が良くないと飽きて捨てられるかもしれないからな。一度でも飼ったペットは責任を持って最後まで飼うのは常識だろ?」

 

「いい、いいぞ、伏黒!俺とは系統こそ違うがその美学には敬意を表す!」

 

 東堂が喝采と共にそう叫んだ。

 

 そう、伏黒は元の時間軸と違い、心の奥底の部分に父のクズさが若干移ってしまっているのだ。尊敬する人の悪い所まで取り入れるのは良くも悪くも伏黒が真面目だからだろう。

 

「そして、俺はあと少しで人生上がりなんだ。家庭の事情で好感度がほぼカンストしたしっかり者の義姉がいる。あとはもう分かるだろ?それと───時間切れだ、東堂」

 

「いいやm」

 

 ガコン、という音と共に3回目の方陣が回った途端、東堂は壁にめり込んでいた。適応の回数は3回、内訳は不義遊戯に2ガコン、体術に1ガコン。以上を以てして伏黒は己の受け継がれしヒモ願望を犠牲にし、東堂を完封するに至ったのだ。

 

「しかし、よくも俺の飼い主候補に呪いをかけてくれたな。誰か知らんが見つけたら絶対布瑠部って消してやんよ」 

 

 東堂の気絶を確認した伏黒は最後にそう虚空に向かって声を出す。

 

 というのも伏黒恵は本来、正規の呪術師になどなるつもりは無く、姉の好感度さえ保って居れば、そのままズルズル養って貰うつもりだったのだ。そして父と同じく、フリーの雇われ呪術師をやって儲けた金で偶に2人で贅沢する。彼の将来設計は正しく完璧(笑)だった。

 

 しかし、姉・伏黒津美紀は呪われた。犯人の情報を集める為、伏黒は呪術界と関わらざるを得なくなったのだ。

 

 結果として当主候補になったため姉にドブカス禪院家の魔の手が迫ったり、五条悟に仕事の一部回されたりと碌な目にあっていない。もうアフリカ出張はこりごりなのだ。

 

 余談だが、彼と禪院家の関係は当主と下々の人間とは良好、それ以外とは最悪と言った具合である。無論、伏黒に勝てる術師は居ないのでその悪意の矛先は自然と姉に向く。故に姉が呪われた際、伏黒と禪院の関係は決裂し疑いが晴れるまでは絶縁状態になっているのだ。

 

「おい、真依とかいう先輩。このゴリラを回収しろ」 

 

「……チッ、まぁこれはこれでいい気味よ」

 

 そう言って真依は東堂に一発蹴りを入れた。

 

「……や、めろ、俺は、まだ、高田ちゃんの個握に、行かな、ければ」

 

「なんでマコラにぶっ飛ばされて意識あんだよ、頭おかしいのか」

 

「なぁ、普通の友よ、恥を承知、で、頼む。どうか俺の傷を、癒して、くれ。高田ちゃんの、前で、不潔な格好など、出来ん」

 

「だから、何で戦いでは使っていない式神の能力まで分かるんだよ。……分かったよ、形はどうあれ語り合ったよしみだ。『円鹿』」

 

「恩に着る。この恩はいつか必ず返そう、伏黒恵」

 

 かくして、波乱に満ちた京都校との初接触は終わったのだ。

 

 

 

 

 

 





 東堂vs伏黒は凡夫の脳味噌ではあの描写が限界だったので、多少のツッコミ所はご容赦ください。

追記 一文だけ、ミスで抜けていた文を挿入しました。
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