才禍の怪物を救いたい   作:あんころもっち

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第四話 ヘラ・ファミリア

 

 

 

ある日、いつものようにアルトリウスは宿の裏庭で剣の手入れをしていた。そこへ、アルフィアが静かに現れる。彼女の漆黒のドレスが朝露に濡れ、オッドアイが鋭く彼を捉える。いつにも増して真剣な表情に、アルトリウスは剣を置いて彼女を見た。

 

「アルトリウス、主神から話がある。貴様をファミリアのホームに連れてくるよう指示された。」

 

アルフィアの声には、どこか複雑な響きがあった。冒険者になって半年、彼女の信頼を得てきた実感はあったが、まさかヘラ・ファミリアの主神が自分に興味を持つとは予想外だった。

 

「あのヘラ様が? 少し驚いたな。」

 

アルトリウスの軽い口調に、アルフィアは小さくため息をつく。

 

「主神の意図はわからん。だが……気をつけろ。ヘラ・ファミリアは、貴様が知るどの場所とも違う。」

 

アルトリウスは笑顔で頷いた。

 

「了解。でも、アルフィアの主神に会えるなんて楽しみだよ。」

 

アルフィアは一瞬驚いたように目を丸くし、やがて小さく鼻を鳴らした。

 

「ふん。貴様らしいな。」

 

その時、裏庭の木陰からアフロディーテが姿を現した。彼女は朝の光を浴びて金色の髪を輝かせ、優雅に扇を手に持っている。だが、その瞳には微かな警戒心が宿っていた。思い出すのは毎夜の記憶、アルトリウスが目の前にいるであろう彼女の話をしていることだ。その度に自分の伴侶(アドニス)が、アルフィアに心を奪われるのではないか――そんな不安が、彼女の心に小さな棘を刺していた。

 

「アル、それにあのアルフィアね!?朝から何の話? ふーん、母さんがアルに会いたいって?」

 

アフロディーテの声は明るいが、アルフィアへの視線には微妙な牽制が込められている。彼女は扇をパチンと閉じ、アルトリウスの隣に立つ。

 

「さすが私の伴侶(アドニス)、目をつけられるわけね!」

 

アルフィアは無表情でアフロディーテを一瞥し、冷たく答えた。

 

「....ふん。貴様の心配は無用だ。私はアルトリウスを戦友と認めただけだ。」

 

アルトリウスは二人のやり取りに苦笑し、場を和らげるように言った。

 

「アフロディーテ様、アルフィアの言う通りだよ。」

 

アフロディーテの表情がパッと明るくなり、彼女はアルトリウスの腕に軽く抱きつく。

 

「ふふっ、さすが私のアル! よーし、決めた! 私もヘラ・ファミリアに行くわ! 母さんに私の下界での選択を見せつけるんだから!」

 

そのやりとりを見たアルフィアは面倒な事態を予感し、小さく息を吐いて先に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

オラリオの北西、迷宮都市の外縁にそびえるヘラ・ファミリアのホームは、まるで古代の神殿を思わせる威厳を放っていた。白亜の石壁に囲まれた敷地には、孔雀と杖を象ったエンブレムが刻まれた巨大な門が構える。門をくぐると、訓練場では剣戟の音と魔法の詠唱が響き合い、歴戦の冒険者たちの気迫が空気を震わせていた。

 

アルトリウス、アフロディーテ、アルフィアの三人は、門番の鋭い視線を浴びながらホームの奥へと進む。アルフィアの背中には微かな緊張が感じられ、アルトリウスは彼女を気遣うように声をかけた。

 

「アルフィア、いつもこんな雰囲気なの?」

 

アルフィアは視線を逸らし、短く答えた。

 

「ふん。慣れれば気にならん。」

 

アフロディーテも雰囲気に少し気圧されているのか、いつもより控えめに微笑む。

 

「母さんのホーム、初めてだけど.....さすがに圧倒されるわね。」

 

彼女の声には、普段の華やかな明るさとは異なる、ほのかな緊張と真剣さが滲んでいた。初めて訪れるヘラ・ファミリアの威厳に、さしもの美の女神も気を引き締めているようだった。アルトリウスは彼女の様子に軽く頷き、広間の扉をくぐった。

 

広間の中央には、豪奢な玉座に腰掛ける女神ヘラがいた。燃えるような赤い髪と、鋭い眼光が印象的な美女。純潔と嫉妬を司る彼女の存在感は、都市最強ファミリアを体現するかのように圧倒的だった。その隣には、ヘラの生き写しと称される団長、通称「女帝」が立つ。黒と金の鎧に身を包み、腰に佩いた長剣からは圧倒的な威圧感が漂う。彼女の瞳は、アルトリウスを値踏みするように鋭く光った。

 

「.....思ったより随分と幼いのね。」

 

ヘラの声は落ち着いていながらも、どこか試すような鋭さがある。アフロディーテは一歩前に出て、胸を張る。彼女の笑みは、母への対抗心を隠さないが、どこか慎重な色を帯びていた。

 

「私の伴侶(アドニス)、アルトリウスよ。この子は私の純愛の物語の主役なんだから。」

 

ヘラの目が一瞬細まる。彼女は静かに微笑み、しかしその声には嫉妬深い妻のような冷ややかな響きが込められていた。

 

「純愛、ですって? アフロディーテ、性愛に溺れる貴女がそんな言葉を口にするなんて、笑いものね。私の眷属の心を惑わすような真似は、たとえ娘でも許さないわよ。」

 

依然、王座に凭れ片手で顎を支えながら、ゆっくりとこの場では珍しい男へ視線を移す。

 

「で、この小僧がアルフィアとパーティを組んでいるという話だが……本当なの、アルフィア? 私の大切な眷属に、よそ見させるような相手なら、見ず知らずでも許さないわ。」

 

アルフィアは一瞬視線を落とし、静かに答えた。

 

「はい、主神。アルトリウスは……信頼に値する人間です。」

 

その言葉に、広間にいた団員たちがざわめく。アルフィアが「信頼」と口にするのは極めて稀だ。常に焦燥に駆られ誰も信用しようとしない彼女が、パーティを組み、笑みを見せるようになったという噂はすでにホーム内で話題になっていた。

 

女帝が一歩前に進み、アルトリウスをじっと見つめる。彼女の視線は鋭く、まるで魂の奥まで見透かすようだ。

 

「噂の小僧だな、面白い。どのくらい素質があるのか、じっくり見てみたいものだ。」

 

アルトリウスは背筋を伸ばし、礼儀正しく頭を下げた。

 

「ありがとうございます。アルフィアの相棒として、ヘラ・ファミリアの皆さんに恥じない活躍を誓います。」

 

その真っ直ぐな態度と生意気な自信に、女帝の唇がわずかに上がる。ヘラもまた、興味深げに目を細め、彼に大きな可能性を見出したかのように静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

広間での挨拶の後、アルフィアはアルトリウスとアフロディーテをホームの奥にある静かな部屋へと案内した。そこには、ベッドに横たわる少女がいた。アルフィアと瓜二つの顔立ちだが、彼女の肌は病的なまでに白く、息遣いも弱々しい。メーテリア――アルフィアの双子の妹だ。

 

「メーテリア、客人だ。起きられるか?」

 

アルフィアの声は、普段の鋭さとは異なる優しさで満ちている。メーテリアはゆっくりと瞼を開き、アルトリウスとアフロディーテに視線を向ける。

 

「アルフィアの……お友達?」

 

彼女の声はか細いが、温かみに満ちている。アルトリウスはそっと微笑み、ベッドのそばに近づいた。

 

「はじめまして、アルトリウスです。アルフィアと一緒にダンジョンに潜っています。」

 

メーテリアは弱々しく微笑む。

 

「姉さんが……笑ってるの、最近よく見るの。ありがとう、アルトリウスさん。」

 

その言葉に、アルトリウスの胸が熱くなる。

 

「メーテリア、余計なことを言うな。」

 

アルフィアは視線を逸らし、頬をわずかに赤らめた。

 

アフロディーテはメーテリアのそばに膝をつき、彼女の手をそっと握った。普段の華やかさは抑えられ、女神としての深い慈悲と真剣さがその瞳に宿っている。

 

「.....愛はね、どんな病にも希望を与える力を持っているの。素敵な人が見つかることを祈っているわ。」

 

アフロディーテは穏やかに微笑み、アルフィアに視線を移した。そこには牽制や軽薄さはなく、女神としての確かな洞察があった。

 

「アルフィア、あなたの決意は立派だけど、一人で背負いすぎないで。アルトリウスは信頼できる相棒よ。彼を信じて、共に進みなさい。」

 

彼女は再びアルトリウスに目を向け、真剣な口調で続けた。

 

「アルトリウス、あなたの純粋な心は人をも動かす力を持っている。彼女たちのために戦うと決心したなら、その心を磨き続けなさい。貴方の女神として、見守っているわ。」

 

アルフィアはアフロディーテの言葉に一瞬驚いたように目を見開き、やがて静かに頷いた。メーテリアは弱々しくも温かい笑みを浮かべ、アフロディーテの手を握り返した。

 

「ありがとう……アフロディーテさん。姉さんとアルトリウスさんも」

 

アルトリウスは二人のやり取りを見ながら、メーテリアを救うためのアルフィアの決意と、アフロディーテの言葉に込められた導きを胸に刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歓迎の宴が佳境に差し掛かり、ヘラ・ファミリアの広間は熱気と笑い声で溢れていた。長テーブルには豪華な料理と果実酒が並び、冒険者たちが杯を掲げて互いの武勇を讃え合う。アフロディーテは宴の中心で果実酒の杯を次々と空にしていた。彼女の金色の髪は燭台の光に輝き、頬はほのかに赤く染まっている。いつもの軽快な笑い声が響き、ヘラの眷属たちを相手に自慢を熱弁していたが、杯を傾けるたびにその声は少しずつ呂律が怪しくなっていた。

 

「ふふっ、愛ってね、こう、ズキューンって心を撃つものなのよ! 私のアルだって、ほら、すっごい英雄になるんだから! ね、みんな、もっと飲んで盛り上がろー!」

 

アフロディーテは杯を高く掲げ、テーブルを叩いて笑ったが、ふらりと体が傾き、隣の冒険者に支えられる一幕もあった。彼女の酔っ払った姿に、宴の参加者たちは苦笑しつつも、その愛らしい無邪気さに引き込まれていた。

 

そんな喧騒の中、ヘラはアルトリウスを静かに呼び出し、広間から離れた主神の私室へと案内した。宴の賑わいから隔絶されたその部屋は、静謐で荘厳な空気に満ちていた。壁には孔雀と杖のエンブレムが刻まれたタペストリーが掛けられ、窓からはオラリオの夜景が一望できた。中央の円形のテーブルには、魔法の燭台が柔らかな光を放ち、ヘラの燃えるような赤い髪を神秘的に照らし出していた。

 

ヘラはテーブルの前に立ち、アルトリウスに一冊の本を手渡した。装丁は古び、革表紙には複雑な魔法陣が刻まれ、触れるだけで微かな魔力の脈動が感じられる――それは紛れもない魔導書、グリモアだった。

 

「アルフィアから聞いたわ。貴方、英雄の物語に興味があるそうね。このグリモアには、古の英雄たちの物語が記されている。あの子達を救うという 志を持つ貴方に相応しい一冊よ。だが、覚えておきなさい。私の信頼を裏切るような真似は、決して許さないわよ。」

 

アルトリウスは目を丸くし、驚きと感謝の入り混じった表情で魔導書を受け取った。彼は深く頭を下げ、声に力を込めて答えた。

 

「ありがとうございます、ヘラ様。このグリモア、必ず活かしてみせます。」

 

ヘラはアルトリウスをじっと見つめ、その真っ直ぐな瞳に宿る情熱を確かめるように目を細めた。

 

「貴方には、確かに器があるかもしれない。メーテリアを救う力も、アルフィアを支える力も……そして、私の眷属をも超える可能性すら感じる。このグリモアが授ける力は、貴様の成長の一助となるはずよ。だが、貴方がアルフィアのそばにいる以上、私の目は常に貴様を見ているわ。裏切りは、どんな形であれ、許さないから。」

 

その言葉に、アルトリウスは一瞬息を呑んだ。ヘラの瞳には、メーテリアへの母のような深い愛と、アルフィア、そしてアルトリウスに対する確かな期待が宿っていた。彼女はアルフィアと共に成長し、妹を救う旅を支える存在として、アルトリウスに大きな役割を託そうとしている――その意図が、言葉の端々から伝わってくる。

 

ヘラは一歩近づき、アルトリウスの肩に軽く手を置いた。

 

「アルフィアは私の大切な眷属よ。あの子を支え、メーテリアを救う力となるなら、私は貴方を信じるわ。だが、もし貴様が彼女の心を傷つけたり、私の信頼を裏切ったりするなら……その時は、私が直接貴方を裁く。いいわね?」

 

アルトリウスはヘラの言葉に胸を熱くし、魔導書を握る手に力を込めた。ヘラの期待は、彼の心に重く、しかし力強く響いた。彼は改めて決意を固め、力強く頷いた。

 

「.....必ず期待に応えてみせます。」

 

ヘラは満足げに頷き、テーブルの椅子に腰を下ろした。彼女の表情には、アルトリウスに信頼を寄せ、アルフィアの未来を彼に委ねる決意が垣間見えた。彼女は内心、アルフィアの心の傷を癒し、あの子の妹を救う旅を導く存在として、アルトリウスこそが最適だと確信していた。

 

部屋の外では、宴の喧騒が遠くに響き、アフロディーテの酔っ払った笑い声が時折聞こえてきた。ヘラは小さく笑い、アルトリウスに軽く目を向けた。

 

「娘は今、酒に溺れて騒いでいるようね。だが、彼女も貴方を信じているわ。アルフィアとメーテリアのため、そして自分自身の英雄の道のために、力を尽くしなさい。私の目は、いつも貴様を見ているわよ。」

 

アルトリウスはヘラの言葉に深く頭を下げ、グリモアを胸に抱いた。

 

 

 






今回のお話は想像上の設定が多いので心配です笑
私が忘れているだけで原作にある情報だったりあると思うので何かありましたらコメントお願いします。

皆様の好きなアルトリア顔キャラ

  • アルトリア
  • ジャンヌ
  • 沖田
  • ネロ
  • グレイ
  • モルガン
  • キャストリア
  • セイバーリリィ
  • 謎のヒロインX
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