円卓の少女達   作:山梨明石

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 発光する瞳と、胸元の魔法陣。間違いない、あれは私が魔力を大量に注ぎ込む事で自我を持って生まれてくるアイアン・メタルゴーレムだ。

 《応報》によって魔法の発動を禁じられた私には召喚出来ない筈のそれが、何故ラミーと共に在るのだろうか。

 瞬間的に沸いた疑問の答えは、ラミーの首元にあった。

 

「《地神の呼び声》……」

 

 四角形のエメラルドがあしらわれたそのネックレスは、かつてラミーが王都に出かける際に彼女に持たせたお守りである。

 エピック等級の装備である《地神の呼び声》は、装備者の身に危険が迫った時、カウンターとして装備に込められた召喚魔法を即座に発動する能力を持っている。

 そして《地神の呼び声》には当然、私が最強装備で能力を大幅に向上させたアイアン・メタルゴーレム召喚魔法が常にストックされている。故に、ラミーの身に危険が迫った結果として、込められていた召喚魔法が発動しアイアン・メタルゴーレムが呼び出されたのだろう。

 

 理屈で考えればそれが答えだ。

 おかしい所など、一つもない。

 けれど。

 

「師匠っ!」

 

 強い違和感が、あった。

 

「ラミーっ!」

 

 だってラミーは現実で、私は私で、今は今で、世界は何一つおかしくないはずなのに。

 けれど私は―――かつてラミーが"教団"のクソ共に拉致されかけた際に消費された《地神の呼び声》の召喚魔法を、あれ以来私(・)が(・)い(・)つ(・)補(・)充(・)し(・)た(・)の(・)か(・)覚(・)え(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 いや、そもそも、今回の騒動にあたり私はラミーに《地神の呼び声》を持(・)た(・)せ(・)て(・)い(・)た(・)か(・)?

 

 ……うまく、あたまがまわらない。なんでこんなことにわたしはぎもんをいだいている?

 

「師匠っ、師匠っ! ああっ……こんなに、血まみれで……! す、すぐにポーションを……!」

 

 ゴーレムと共に私の下までたどり着いたラミーは、ゴーレムの肩から降りて私の隣に座り自分のバッグの中を探り始めた。

 私はその手に優しく触れ、止めてあげる。

 

「大丈夫だよ、ラミー。体力だけは全快してるから」

「で、でもっ……」

 

 泣きそうな―――いや、既に泣いている彼女の頭を再生したばかりの右手で胸元に抱き寄せる。

 そして素早く周囲の様子を探って、ゴーレムに思念を飛ばした。魔法は使えないにしても、このゴーレムが私の召喚魔法によって呼ばれた物であるのならば、私と経路が繋がっている筈だからだ。

 

「―――」

 

 ゴーレムは私の意を察して無言でうなずき、その目を怪しく光らせて狙いを定めた。

 狙う先は斬り飛ばされて物陰に落ちていた私の右手と左足だ。

 ZAP。ZAP。と熱線が放たれ、かつて私だったものたちが一瞬で焼け落ちて灰と化す。

 《マイクロ・デストロイレーザー》。

 最大強化したアイアン・メタルゴーレムが追加取得する攻撃スキルの一つである。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

 

 ラミーを抱き寄せながら、優しく語り掛ける。

 

 ……一連の流れは3秒と経たない内に素早く行われた。

 彼女の鼻を私の血の匂いで封じて、視界と聴覚も私の胸と声で封じた。

 だからきっと、ラミーにはバレていないと願いたい。

 だって、手足が切断されていた、なんてラミーに知られたら彼女をとても悲しませるだろうし。

 それに、私だってこれでもかつては男だったんだ。

 恋人に格好悪い所を見せたくないと思うのは、普通の事だろう?

 

 ……まぁ、何を今更、という話ではあるのだけれど。

 

「―――おおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 

 ひと際大きい叫び。ヨリトモのものだ。彼は刀を振り上げ、こちらに向かって遮二無二突撃してきた。

 

「危ないっ!」

「きゃあっ!」

 

 ラミーを抱きながら弾かれるようにしてその場を脱する。

 盾にする為にゴーレムの背後に隠れると、次の瞬間にはヨリトモとゴーレムが刀と拳をかち合わせていた。

 

「ぼうぎょ、じっこう」

 

 叩きつけるような一撃を、ゴーレムが右手の甲で受け止める。

 ぎりぎりぎりと、耳をつんざくような嫌な音が鳴り響いた。

 《盲目》状態は命中率を10%にまで低下させるが、それは攻撃が絶対に当たらない事を意味するわけではない。10%だって成功確率があるのなら、攻撃を繰り返していればいつかは必ず攻撃が命中する。

 今回ヨリトモはその目を引いたのだろう。視界は殆ど見えていないだろうに、必死にゴーレムに食らいついている。

 ゴーレムの拳と刀がせめぎ合い、火花を散らした。

 

「ム……」

「うおおおおおおっ!!」

 

 恐るべき事にヨリトモはゴーレムの鋼鉄の拳を、刀で押し切る力だけで切り裂き始めていた。少しずつだが、確実に。

 このままでは遠からずゴーレムの手は切り落とされてしまう。

 

「ぬっ……ぐぅ!」

 

 しかし、唐突にヨリトモは刀を引きその場から飛び退いた。

 刀はゴーレムの手の中ほどまで斬り進んでいた。あと少しでゴーレムの手を切り落とせただろうに、ヨリトモは何故かそうしなかったのだ。

 

「……ちっ。どうにも相性が悪いか」

 

 憤懣やるかたない様子のヨリトモが己の刀を一瞥し、次いで刃に指を這わせて表情を歪めさせた。

 何事かと思い注意深く観察してみれば、刀は盛大に刃こぼれしていた。恐らくだが、あのまま斬り進めていれば先にヨリトモの刀が折れていたのだろう。それを察してヨリトモは攻撃を中断したのだ。

 溜息をついたヨリトモが納刀し、踵を返す。

 

「面妖な奇術に遅れを取ったが、待っておれ。次は必ず殺す」

 

 ―――いや、この好機は逃さない。ここで戦闘不能になってもらう。

 捨て台詞を吐いたヨリトモを逃すまいと、私は咄嗟に弾き飛ばされていた"アヴソリュート・クロスボウ"の所へ飛び込み、素早く装備してヨリトモに狙いを定めた。

 が、しかし。

 

「……逃げ足の速いことで。まぁ、私も人の事は言えませんけど」

 

 当然ながら、ヨリトモの影も形もそこにはなかった。

 私がここに来た時まるで気配を感じさせなかったように、ヨリトモは消え失せたのである。

 

「あぐっ」

 

 麻痺の痺れが身体に走った。思わずバランスを崩してへたり込んでしまう。

 

「師匠っ!」

 

 そんな私にラミーが駆け寄ってきて、きつく身体を抱きしめてきた。

 

「……よかったです、間に合って」

「……うん、ありがとう、ラミー。助かった、九死に一生を得たよ」

 

 柔らかく、あたたかい。いい匂いがする。とても幸せな気分だ。

 このままラミーに包まれて幸せなひと時を堪能したい気分だが、先に確認しなければならない事があった。

 

「ねえ、ラミー。教えて欲しい事があるんだ」

「はい、師匠」

 

 甘い抱擁が名残惜しいが、未だ痺れの残る手でラミーの肩をそっと押す。

 

 《地■■■び声》を■■ーが装■して■■理■について、彼女■質■する必要はな(・)か(・)っ(・)た(・)。

 

 そんな事よりももっと大事な事を確かめるべきだ。

 

「ラミーはどうして一人でここに? それに、タタコさんとタチバナさんは……?」

 

 ラミーと行動を共にしていた二人の姿がここにない。その理由次第では今後の行動を考える必要がある。

 先の戦いでヨリトモが語った件の事もある。"鬼兄弟"の片割れであるガオウが関わっているとなると、"からくり昇降機"での高層階突入の前にタタコさんの所に応援に行った方が良いかもしれないのだ。

 

「それは……タタコさんが言ったんです、『ゴーレムが出たならお前は先に行け、その方が都合がいい。でかいし邪魔だ!』って」

「……ふむ」

 

 ……ホワット?

 でかいし邪魔とはどういう意味だろう。

 思わずちらりとアイアン・メタルゴーレムを見上げる。

 

「―――」

 

 ゴーレムは黙して語らず。しかし、その大柄な巨体はこの城の中ではいささか窮屈そうであった。

 ……もしや、シンプルにそういう意味なのだろうか。

 

「あと、こうも言ってました。『後はなんとかするから、信(・)じ(・)て(・)く(・)れ(・)』って」

「……そっか、わかったよ。ありがとうラミー」

 

 なるほど。

 他にも色々と聞きたい事はあったにせよ、タタコさんがそこまで言ったのなら最早戻る必要はないと判断する。

 何故なら、ここでタタコさんの為に引き返せばそれはタタコさんの事を信用していないも同様なので。

 

「ちなみに、タチバナさんはなんて?」

「『必ず追いつきますのでどうか無茶だけはなさらないで下さい』とかなんとか言ってました」

 

 ラミーは少しむくれた様子でそう答えた。

 

「そ、そう」

 

 こんな時でもラミーはタチバナさんへのトゲが強いようだ。

 これは恐るべき事実である。将来的にもしもラミーのヘソを曲げてしまうような事があれば、こんなレベルの塩対応をひと月スパンでされる可能性を示唆しているのだから。

 それはあまりに恐ろしい。ラミーにこんな風に嫌われたら、私ならまず間違いなく悲しすぎて泣いてしまうに違いないので。

 

「……ともあれ、少し休憩だね、これは」

 

 懐から懐中時計を取り出して残された時間を確認する。御剣と別れてからまだ30分と経っていない。城の動力が停止するまで、まだ余裕がある。

 一、二分程度休憩するぐらいは問題ない筈だ。

 

「一分だけ、甘えさせて」

 

 ゴーレムに思念を送り周囲を警戒させて、私はラミーの胸元に倒れ込むようにして寄りかかった。

 そして、彼女を抱きしめた。

 抱きしめると―――今更になって身体に震えが襲ってきた。

 死にかけた事への、恐怖の震えだ。

 

「……はい」

 

 小刻みに震える私を、ラミーはただ、黙って撫でてくれた。

 

 

 

――――――

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