普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ 作:はごろも282
イトナ君の暴走から第2ラウンド開幕かと思われた事態は、意外にもあっけなく終幕を迎えた。
なぜか、イトナ君の保護者であるシロカスが無理やり横入りしたからだ。
「すいませんね殺せんせー。どうもこの子は……まだ登校できる精神状態じゃなかったようだ」
そんなセリフとともにシロカスはイトナ君の休学を宣言。登校初日に休学宣言とはモンペ極まったものである。
これに対して、当然ながら殺せんせーは反発。イトナ君を連れて帰ろうとするシロカスを止めようと肩を掴むも、なんとシロカスの衣類は対先生繊維。
「心配せずともまたすぐに復学させるよ殺せんせー。3月まで時間がないからね」
──責任をもって私が……家庭教師を務めたうえでね──
言うだけ言って、悠々自適に退散するイトナ君を抱えシロカス。こうして、触れるとともに解け落ちる触手のせいで拘束もままならず、イトナ君たちは僕らの前から姿を消したのだった。
そんなこんなで現在ではあるが……
「はずかしい……はずかしい……」
先ほどまでカッコよく大立ち回りしていた殺せんせーは、教室の隅でデカい身体を小さくして顔を覆っていた。
ようやく落ち着いて決闘の後始末をはじめたのにこの有様、正直邪魔というより他にない。
「何してんの殺せんせー」
「さあ……さっきからああだけど」
女性陣の声が僕の耳に届く。同時に、殺せんせーにも聞こえたのだろう。邪魔なだけだった置物は、ようやくその口を開いた。
「シリアス展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どっちかというとギャグキャラなのに」
「「「自覚あるんだ!?」」」
思っていた8倍はしょうもない理由だった。知らねーよそんな事。
「カッコよく怒ってたね~『どこでそれを手に入れたッ』『その触手を!』」
「いやああ言わないで狭間さん!!改めて自分で聞くと逃げだしたい!!」
ここぞとばかりに全力で皮肉る狭間さんに絶叫する殺せんせー。この空間は何なんだろう。何でもいいけど殺せんせーも片付け手伝ってくんないかな。
「つかみ所のない天然キャラで売ってたのに……ああも真面目な面をみせてはキャラが崩れる……」
「……自分のキャラを計算してんのが腹立つな」
そもそも天然キャラとか自称する時点で天然じゃない気がするのは僕だけだろうか。
「このままでは……このままではE組のギャグ担当は宇井戸君の一強になってしまうっ」
「!?」
さっ最悪のタイミングで飛び火しやがった!?というか誰がギャグキャラだ!
「宇井戸君は決闘中も終始ふざけてたというのに!」
「ふざけてないけど!?」
「先生は見てましたよ!決闘なんかそっちのけで解説バトルとかしてたの!!」
「ライフハック!あれやってると不良は殴りかかってこないんだから!!」
「こ、この世で最高峰にどうでもいい争いだ……」
おかしい。つい先ほどまで傍観者だったはずなのに、気がついたら話題の中心になっている。いったいこれはどういうカラクリだろうか。
「ただでさえキャラ被ってるのに!!」
「謝って!!今僕はこの中学生活で一番傷ついたっ!!」
自分の姿と言動を見直してからもう一度口に出していいか考えてみてほしい。その上でそう言えるのなら奴はもう殺すしかない。
「というか、僕は殺せんせーと違って普通の常識人だよ」
「「「……??」」」
「みんな嫌いだっ!!」
どうしてそんなに不思議そうな顔ができるんだ。ギャグキャラまみれのE組でこの扱い、流石の僕も怒りを隠せない。
「で、でも、驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんて」
弛緩した空気を戻すかのようにビッチセンセーが話題を変える。
「そ、そうだよ。説明してよ殺せんせー。あの二人との関係」
「先生の正体いつも適当にはぐらかされてたけどさ……あんなの見たら聞かずにいられないぜ」
「私たち生徒だよ?先生のことよく知る権利あるはずでしょ?」
「……」
みんなの追及に口をつぐむ殺せんせー。そしてさっきから一転して重たい空気。
……それにしてもなんだろうこの無理やり本題に持って行ったような感じ、これじゃ僕が前置きでただコケにされたみたいじゃないか。
とはいえ僕も気になってはいた。イトナ君たちと殺せんせーはあきらかにただならぬ雰囲気だったし、秘密主義な殺せんせーの情報が得られるいい機会だ。逃す手はないだろう。
「……仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ」
僕らの剣幕に観念してか、殺せんせーはついその重い口を開く。
「実は……実は先生、人工的に作り出された生物なんです!!」
!!!
語られる驚愕の事実!まさか殺せんせーが作られた存在なんて、これにはみんなも驚きで……て、んん?
「「「……」」」
な、なんかシラケてる……。あまりの周りとの温度差に思わず肩透かしを食らってしまう。
「だよね。で?」
「にゅやッ反応薄っ!!これ結構衝撃告白じゃないですか!?」
僕も殺せんせーと同じ意見だ。こいつら頭おかしいんじゃないか?
そうは思っても口には出さない。ひとりだけ取り乱すと痛い目にあう、ビッチセンセー赴任の時に僕は学んだのだ。
「……ってもなぁ。自然界にマッハ20のタコとかいないだろ」
「宇宙人でもないならそれくらいしか考えられない」
「で、イトナ君が弟とか言ってたから……」
「先生の後に造られたと想像がつく」
時々思う。どうして彼らはE組にいるんだろう。
果たしてあの限られた情報でそこまで推測できるものだろうか。正直ぼくはまったくと言っていいほど考えてなかったぞ。というかやっぱり黙っていて正解だった。異常なまでの察しの良さと共通認識、腐っても椚ヶ丘生ということか。
「知りたいのはその先だよ殺せんせー」
内心で大慌てになりながら必死で壁にもたれて腕を組むいい感じのポーズを取り繕ってる最中にも、話は進む。切り込むのはやはりと言うべきか渚君。お願いだからもう少し待ってほしい。
「どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。殺せんせーはどういう理由で生まれて……なにを思って
「…………」
核心に迫るような質問をする渚君に、殺せんせーはまたしても口をつぐむ。いったい今日で何度目だろうこの空気。多分殺せんせーにとって、もちろん僕らにとっても、今日は想定外の連続だ。
数分にも思えるような時間を経て、ようやく殺せんせーは声を発する。
「残念ですが今それを話した所で無意味です」
その返答は、E組の望むものではなくて。
「先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうが塵になりますからねぇ」
「「「……!!」」」
「逆にもし君達が地球を救えば……君達は後でいくらでも真実を知る機会を得る。もう分かるでしょう?知りたいのなら行動はひとつ──」
ああ、いつもの流れだ。なんだかんだ結構な時間を一緒に過ごしたんんだ。最後まで聞くことなくこの後の台詞が分かる。そしてそれはもちろん、僕だけではない。
「──殺してみなさい。
結局のところ、僕らの関係はこういう話に落ち着くのだ。
☆
「もっと教えてくれませんか、暗殺の技術を」
「……今以上にか?」
「今までさ、“結局誰が殺るんだろ”って他人事だったけど」
「ああ、今回イトナ見てて思ったんだ」
「誰でもない。俺等の手で殺りたいって」
「もし今後強力な殺し屋に先を越されたら俺等何のために頑張ってたか分からなくなる」
「だから限られた時間、殺れる限り殺りたいんです。私たちの担任を」
「殺して。自分達の手で答えを見つけたい」
「……わかった。では希望者には放課後に追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ」
「「「はい!」」」
☆
「君はいいんですか?」
木から垂らされたロープを登っているみんなを眺めていると、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、本とコーラを抱えた殺せんせーの姿があった。
「どしたの殺せんせー。なにか用?」
「センチメンタルに浸っているようだったので。似合わないことをするんですねぇ」
「自分でも思ってたけど人に言われるとムカつくなぁ」
少なくとも、生徒が悩んでるときに言う台詞としては大きく間違っていると思う。
「みんな自分達でせんせーを殺したいからって追加で訓練してるんだって」
「嬉しいですねぇ。まぁ、できるとは思えませんがね」
ワーワーやってる光景を視界の端に捉えながら、話をまとめる。思い出すのはさっきの出来事だ。
殺せんせーが教室から去った後みんな話し合って、なんやかんやで烏間先生に直談判しに行くことになった。それで、僕はそれについていかなかった。
「イトナ君に負けそうな殺せんせーを見て、みんなそう思ったらしいよ」
あのときみんなが浮かない顔をしてたのはそういう理由だったんだとその時分かった。
「そこまでじゃないなぁって」
これは僕の正直な感想だ。自分の手で殺せんせーを殺したい、という気持ちはあんまりない。実際イトナ君に負けそうでも特に何も思わなかったし。
誰が殺ったっていい。100億は欲しいけど。僕の暗殺のモチベーションはずっとその程度だ。
「せんせーのことは好きだよ。来てからクラスの空気良くなったし」
これも本心。3ヶ月程度なのにすごい変化だ。超生物は及ぼす影響も超絶大ということなのかな。
「実はE組って前まであんなに明るくなかったんだ」
以前のE組はどこか陰鬱としていた。E組は学校から負け犬みたいな扱いをされるんだから無理もない。だけど、それも変わった。殺せんせーが来たから。
以前の椚ヶ丘にE組に手を差し伸べる人なんていなかったし。
「いや、せんせーの前にも先生はいたか……」
「!!」
それまで黙って聞いていただけの殺せんせーだったが、僕がそうこぼした途端に食いつきを見せた。
「え、なに?……もしかして前の教師に嫉妬してます?」
「……いえ、どんな方だったのか気になりまして」
「??いい人だったよ。すぐいなくなっちゃったから時間が足りなかったけど、E組のみんなとも殺せんせーくらい仲良くなれたかもね」
「……そうですか。宇井戸君がそういうならそうなんでしょうね」
なんだ、からかってやろうと思ったのに全然想定と違う反応だぞ。というかなんだその信頼。調子狂うなぁ……。
「……まあ、E組の中なら多分僕が一番関わりあったけどさー」
「おや、そうなんですか?」
「うん。自慢じゃないけど僕は椚ヶ丘史上最速でE組入りが決定した男だからね。なんとクラス配属前から面識ありさ」
「にゅやっ!?本当に自慢じゃない!?」
「それでその先生とは──って、そうじゃないや。ごめんごめん、知らない人の話されても困るよね」
「いえ、非常に興味深かったです。今度じっくりと聞かせてください」
「あ、うん」
しまった。思い出話が楽しくてつい脱線してしまった。
「……何の話か忘れちゃったな」
「随分脱線しましたからねぇ」
「ホントだよまったく」
もう悩み相談なんて雰囲気には戻れそうにない。ここらで適当に切り上げようか。
「そんなわけでさ、僕は今結構楽しいよ」
「先生も、君達との毎日はとても楽しいです」
「それは良かった。じゃあ地球爆破なんてやめよう!」
「それはできませんねぇ。止めたければ殺してください」
強情なタコだなぁ。そこはいい感じに絆されてくれたら楽なのに。
「まあ、僕の暗殺に期待しといてよ」
「ええ、期待させてもらいます。殺せると良いですねぇ」
「じゃ、僕はこれで」
一言断りを入れて背を向ける。いい感じの離脱、完璧だな。
「──宇井戸君」
「え、はい。なんですか?」
と、歩き出した背中越しに再度殺せんせーの声。今度は何だろう?もう帰る感じを出してしまったから、今日はもうこれ以上居座るつもりはないけど。
顔だけを殺せんせーに向ける。せんせーは、何を言うべきか迷っているみたいにしばらく逡巡して、口を開いた。
「君の美点は──いえ。君は、真っ直ぐにバカです」
「そんなに死にたいならそう言ってよねもう!!」
僕の足は驚くほど軽やかにUターンした。
もうこれでいいや。と投げやりになったことを連絡します