【完結】機動戦士ガンダムSEED Revelation ~紅蓮のフレイ~ 作:kayako
CE74.3.** (PHASE-27~28)
サイとナオト君への罪悪感からなのか──
姫は、アマミキョがティーダの為の実験船だということまで、サイに明かした。
マユの限界も近い。今回の事件で、彼女はナオト君と共鳴を深めた結果、また新しい感情を覚えてしまった。
もう彼女は普通の感情を持った、普通の女の子と同じだ。カイキには悪いけど、認めざるをえない。
彼女の身体に合わせてアマミキョ衛護の契約をしていたけど、それもあと1ヵ月半。
CE74.4.**
ナオト君が何とか回復し、アマクサ組がティーダと一緒にアマミキョを離れるということが公表された。
あと、残り3週間。
そして今日、姫がサイを呼んだ──こんなことは、とても珍しい。
無礼だと分かってはいるけれど、モニターで二人の様子を見ていた。
そうしたら……
すごく迷った。
こんなことをする姫は見たくない。
サイだって、こんなことは望んでいない。
いくら運命が決まっているからといっても、そのやり方は刹那的にすぎる!
アマミキョからデータを抜き取るのと同じに、サイから……姫は……
それしか、サイの証を残す方法はないからか。
だけどこれじゃ、ナオト君の父親と一緒じゃないか。やってることが!!
僕は思わず部屋に向かい、姫を止めた。
とはいっても、扉を開けたらいきなりこの事態を目撃して焦った、というふりはしておいた。
──そう。間違って扉を開けてしまっただけですよ、僕は。
おかげで何とか、姫を止めることが出来た。
でも、その後サイは……
姫をゆっくり、諭してくれた。
何も知らないながらも、姫の告白を受け止め、優しく姫を抱きしめた。
サイは、姫を――
「フレイ」ではなく、姫を、受け入れた。
否、「フレイ」となった姫ごと、彼女を受け入れたんだ。
いいのかい、サイ。
僕たちは今後、貴方に何をするか分からない。
貴方が姫を受け入れるということがどういうことか、姫からも何度も警告されたはずだ。
CE74.4.**
あれからサイは、アマミキョをとりまとめつつ、姫と共に過ごしている。
姫の心に奇跡を起こさせた人物。それを、簡単に消してしまっていいのか。
僕たちは迷っていた。迷ったけど、仕方がない。
チグサ計画の前には――御方様の前では、仕方がないんだ。
御方様から、いずれ指示が来るだろう。それまでは動かない。
僕らの姫に、もう少しだけ平穏を。
こんなに平穏だったことは、姫の人生で、これまでなかったのだから。
CE74.5.**
ハーモニクスシステムのデータ抜き出しが完了してすぐ、御方様から正式な指令が下った。
僕たちアマクサ組はティーダと共に、アマミキョを離れる。
ティーダ覚醒のキーとなるナオト君は連れていくことになるが、サイは勿論、連れてはいけない。連れて行けたとしても、彼自身が拒んだだろうけど。
何となくこの時点で、御方様の目論見が分かった──
御方様は、
CE74.5.**
僕たちがアマミキョを離れる、最後の夜。
姫はまた、サイに嘘をついた。
CE74.5.** (PHASE-29~30)
住み慣れた船から離れて、僕たちアマクサ組はシネリキョへ来た。
まずはマユとチグサの分離処置を、姫と一緒に行なうことになる。
マユを麻酔で眠らせて、シネリキョのメイン・コントロールルームへ運ぶ。
カイキはそれ以上、ついては来られない。マユから目を背ける彼の姿は、見ているだけで痛ましかった。
眠っているこの娘は、もう同じ魂として二度と目覚めることはないのだから。
CE74.5.**
ナオト君がいなくなった。
例によって位置は特定しているからいいんだけど、連合の山神隊と一緒だった。
以前から探られているのは勘付いてはいたけど、ここまで入り込まれると、ちょっと厄介だ。
カイキにマユの様子を観察させているのも、もうそろそろ限界だ。
やっぱり彼は、マユの魂の消失に耐えられない。
チグサ復活の為とはいえ、カイキは2年間ずっとマユのそばにいたんだ。そりゃ情も移るよ。
彼自身、薬ではもたなくなってきてる。きっと、自分の運命にも気づいてる。
チグサに会うまで、自分の精神はもたないことも。
だから姫はカイキをマユから離し、彼にナオト君の確保を命じた。
予想より前倒しになってしまったけど、計画が先送りになるよりはいい。
途中でナオト君を負傷させてしまったのは計算外だったけど、どうにか『
マユのかわりにやっと目覚めたチグサを、ストライクフリーダム・ルージュに乗せてセレブレイト・ウェイヴ発振装置への適応を見る。
同時にナオト君がティーダの遠隔操作に成功したら、もう発振装置のテストは完了したも同然だ。
どうやってナオト君に色々と説明してティーダに乗せるかが問題だったけど、幸い、向こうから勝手に乗ってきてくれた。
説明はとりあえず後回し。しかも遠隔起動にまで成功している。
姫はSEEDの覚醒状況を試すため、ティーダに戦闘実験をしかけた。
そして──
マスミ・シライシの死によって、ナオト君のSEEDもここで発動してしまった。
カイキが、それによって犠牲になってしまったけど……
どちらにせよ、もうもたない命だった。
カイキの死亡によってか、チグサ・マナベは完璧に目覚めた。これ以上を望めないくらい良い状態で。
目覚めた途端に拒絶反応で暴れ出してそのまま死亡というケースは山ほどあったから、周到に『子宮』で目覚めさせて良かったんだ。
マユ、君の犠牲は無駄じゃないよ。チグサは君から命をもらったんだ。
ティーダの黙示録を発動させて、発振装置の起動テストは終了のはずだった。
ところが、また邪魔が入った──連合の山神隊が、ナオト君を『子宮』から脱出させてしまった。
おかげで装置は一部誘爆を起こし、第3サブコントロールシステムが破損。
ティーダはナオト君ごと、行方不明になってしまった。
CE74.5.** (PHASE-31~33)
ザフトと南チュウザン軍の進撃に合わせて、僕たちも動いた。
僕にはもう一つ指示があった。ドール・システムの実験だ。
あれ、実験の後三日間はろくに動けず飲食も出来なくなるから、イヤなんだけどな。
僕が下半身を最初から奪われていた理由は、ニコルの死亡時の状況を分かりやすく再現する目的もあったけど。
本来は、このシステムの為だ。
下半身をコントロールするはずだった脳の部分を使って、モビルスーツを操る為──
但し、そのモビルスーツは無人じゃない。ちゃんと人が乗っている。
──あれを人と呼んでいいのか疑問だけど、僕たちも最初は
特定の人物データを上書きする為だけに作られ、培養されている、生物学上ならば「人間」と定義出来るものたち。
今、南チュウザンに15000体はいるその「人間」を、まっさらな状態のまま機体に乗せる。
その脳は量子通信によって僕とつながり、それを僕が遠隔操作する。
それが、ドール・システム──
誰も死なない、誰の心も痛まない、理想的な戦闘だ。
僕が一度に正確に操作できるのは70機が限界だったけど、少しテストしてみたら150機まではいけることが判った。
これもティーダのセレブレイトウェイヴのおかげで、大脳の開発が進んだおかげだと姫は言っていたけど、大丈夫だろうか。
だけど、仕方ない。僕たちが手を抜いたなんて少しでも御方様に思われたら、姫がどういうことになるか。
これだけのダガーLを動員すれば、何とか御方様にも納得いただけるだろう。
キラもストライクフリーダムを、ラクスもインフィニットジャスティスを受領した。
インフィニットジャスティスの方はおそらく、アスランの為の機体だ。
彼らも動いている──僕らも、迷いは断たねば。
CE74.5.**
結局、姫は迷いを断ち切ることが出来なかった。
ミッション中に、どうしてもサイに手を下す決断が出来なかったんだ。
どういうことか判らないけど、アマミキョで内乱が発生し、サイは傷を負っていたらしい。
その負傷が姫にもフィードバックされ――
姫は遂に、サイを殺せなかった。
アマミキョのデータは完全に移行させたはずなのに、ティーダもないはずなのに、どうしてだろう。
まさか、二人の意思がアマミキョを通じ、共鳴を始めていたというのか。
念のため安定剤も服用していたはずなのに、姫には効かなかった。
──それでも結果的に、サイは死んだんだけどね。
姫の、ではなくザフトの攻撃で。しかもおそらく誤射で。
戦闘中において、あれほど恐ろしいものはないね。弾が何処へ飛ぶか、撃ってる本人ですら分からないんだから。
あのラッキーがなければ、姫はおそらくサイを助け出してしまい……
その後は、姫もサイも、死ぬより恐ろしいことになってしまっていただろう。
システムの性質上、本来他のクルーも殺さないといけないはずなのに、姫はそれもしなかった。
そこまでして、サイとの約束は破りたくなかったのか。サイに銃を向けることになった今でも。
ミゲルもラスティも姫に従った。だから僕も従いたかったけど……
あれだけのダガーLに細かい操作を命じるのは、さすがに僕も不可能だ。
ブリッジとクルーを出来る限り避けて攻撃させることが手一杯だった。撤退を命じたりしたら、御方様に僕が消されてしまうし。
サイが死んだ後の姫の痛ましさは、見ていられなかった。
アマミキョを潰した、それだけで任務は終了したはずなのに──
姫はミネルバ隊に襲いかかったんだ。多分そうしなければ、姫自身、心の収拾がつかなかったから。
結果──
姫を守り、シン・アスカをテストするため、ラスティ・マッケンジーが命を落とした。
僕と同じ、アスラン・ザラの為に生み出された存在が、SEEDに対して何も出来ないまま消えてしまったんだ。
シン・アスカとデスティニーのデータは確かに取れたかも知れない。だけど、ラスティが命をかけてまですることじゃない。
彼の命はアスランの為のものだ。それは彼自身もわかっていたはず。
なのに、どうして……
そしてラスティの死を見た姫は、自分も──デスティニーに特攻した。
サイと初めて出会った時に奪取したモビルスーツ、ストライク・アフロディーテを爆散させて。
本人は否定しているけれど、あれはどう考えても、自殺だった。
サイを殺され心の平衡を失い、ラスティの死を見て、決断してしまった。
御方様に踊らされ、名前を捨てさせられ、自分の意思を全て操作され。
初めて見つけたはずの愛すら、自らの手で壊さざるをえなかった、僕らの姫。
もう、嫌だったのかも知れない。踊らされるのは──
脱出装置は一応動いてはいたけど、死ねるなら死にたい。そんな気持ちだったのかも知れない。
でも、駄目だ。
それは駄目だよ、姫。
姫にはまだ、必要とする人がいる。
レイラがいるし、僕たちもまだ生きてる。
南チュウザンの為に、みんなの為に、姫にはまだ生きていてもらわないといけないんだ。
だからミゲルは、海に落ちた姫を助けた。
僕も出来る限りの力を総動員して、姫を救出したグフの周囲から、連合とザフトを追い払った。
その結果──僕は戦闘終了直後、意識を失った。
トールの話によれば、僕は血の泡を吹いてぶっ倒れて1週間気絶していたらしい。
挙句、左の指が全部、2か月ほど麻痺状態になってしまった。
そして今。
姫は、再び僕たちと共にいる。
僕とミゲル、そしてトール・ケーニヒと共に。
サイが死ななければならなかった世界を――
初めて見つけた『奇跡』を消さなければならなかった、そんな世界を変革する為に、姫は今を生きている。
御方様に対しては、その意思を巧みに隠して。
その為には、姫は何もかもを犠牲にするつもりだ。
恐らく、僕たちをも。
でも――僕はもう、迷わない。
もうすぐ、トールが迎えに来る。次のミッションを終えたら、恐らく僕は、この記録すらつけられなくなってしまうだろう。
姫もミゲルもトールも……レイラまでが必死で、僕を止めてきたけれど。
姫がその意思を貫くつもりなら、僕も魂が尽きるまで、姫を支えるまでだ。
それがきっと、僕――ニコル・アマルフィの、生きた意味だから。