魔理沙ちゃんを曇らせたいだけ   作:愉悦部出身

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決闘

 萃香は幻想郷の異変を感じ取り、天界で目覚めた。薄く広げていた分体が何かを察知していたのだ。

 

 それは、博麗神社の気配であった。朝の陽気からか、空気が澄んでいる。……いや、澄みすぎている。鋭さを感じるほどに。神社に近ければ近いほど、その気配は強まっていく。

 

 面白いことが起こりそうだと博麗神社に行くことを決めた萃香は、天界から地上へと降りて、博麗神社に着いた。

 

 近づけば近づくほど、萃香にはよく理解できた。――――闘争の気配だ。今日、ここで何かが起こる、萃香は確信を抱いた。

 

 元凶である巫女にあいさつしようと、霊夢のいる母屋のふすまを開く。緊張感で張り詰めたような空気であった。

 

「おう!霊夢!喧嘩か?混ぜろ混ぜろ」

 

 霊夢はすでに起きていた。いつもの巫女服に着替え、研磨台で何かを磨いている……長い針、封魔針だ。傍らに封魔針を何本も置き、一本一本丁寧に研いでいたのだ。

 

 霊夢は萃香のほうをちらりとも見ずにこう言った。

 

「萃香、邪魔よ。特等席で見せてあげるから、黙りなさい」

 

 霊夢は取り付く島もない。いや、問答無用でお札を投げてくるよりはまだまともな対応だった。

 

 萃香はそのセリフを聞き、少しだけ悩んだものの、自分の出る幕はなさそうだと悟った。

 

「ちぇっ。仕方ないな。まあでも見物はするからなあ」

 

 萃香は霊夢が決戦の準備をするのを見ながら、酒を飲んで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢はもどかしい日々を送っていた。チルノが助けを呼んだあの日から、魔理沙の窮状が気になって仕方がなかったのだ。

 

 しかし、巫女の勘が告げていた。私が魔理沙のところに行っても助けることはできない。それどころかすべてが終わる、ということを。私にできることはただ座して待つのみ――――他の連中から、魔理沙が快方に向かっていることは聞いており、各地を回っているということは知っている。だがそれでも、私から会ってはいけないと魔理沙を常に避けていた。こうすることが最善だと、分かっているからだ。

 

 ただ分かっていても、とんでもなく歯がゆかった。行ってはいけないことは分かっていたが、なぜ行ってはいけないかは分からなかった。勘に頼りすぎている弊害だ。私が行くことで何かあるのだろうか自問するも憶測すらできなかった。魔理沙と話すことができれば、どれだけよかっただろうか。霊夢はここ最近、少し憂鬱であった。

 

 しかし、朝起きた霊夢はすべてを理解した。博麗神社を漂っている微かな匂い。普段よりも静寂な室内。そして極めつけは、微かに動いたような気がする針やお札の存在。

 

 それだけで、今日何があるのか、何をすべきなのか、霊夢は全て理解した。恐るべき巫女の勘である。

 

 萃香をあしらった後、決戦の支度をすべて終え霊夢はただ待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社のはるか彼方の黒い点が、どんどんと大きくなり神社に近づいてくる。それは人型のようで、箒にまたがりながらすばやい動きであっという間に博麗神社に降り立つ。黒いとんがり帽子に白いエプロン、金の髪が風でなびいている。霧雨魔理沙だった。普段はつけていない、ベージュのショルダーバッグを下げている。今にもはち切れそうで、たくさんのものが詰め込まれているのだろう。

 

 霊夢は魔理沙が来たのは分かっているはずなのに、佇んだままだった。

 

 そんな霊夢に、魔理沙は大声で話しかけた。

 

「ごめん!霊夢。ひどいことを言って。私が悪かった!」

 

 と叫んで頭を下げる魔理沙。霊夢は表情一つ変えなかった。お前が言いたいことはそんなことではないだろう、といいたげだった。

 

 魔理沙が次の言葉が叫んだ。

 

「勝負だ!霊夢!私の力、見せてやる!」

 

 霊夢はようやくふっと笑みを浮かべた。

 

「いいわ。かかってきなさい。叩きのめしてあげる」

 

 と言って、霊夢と魔理沙による決闘の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふわりと空に上がっていく霊夢を魔理沙が箒に乗って追いかけた。先手を打ったのは魔理沙からだった。星の弾幕を霊夢に向かってばらまく。霊夢はそれを横に移動しながら軽くかわす。

 

 お返しだと言わんばかりに今度は霊夢が針をばらまく。――――前に戦ったときより速く、鋭い。

 

 魔理沙は針をすんでのところで避けた。今までの魔理沙であれば間違いなく被弾していたであろう。絶対に負けないという闘志が魔理沙を強くしていた。

 

 針をかわした魔理沙は、ショルダーバッグからあるものを取り出し周囲に放り投げた。青い服に金髪の人形、アリスの人形たちであった。放り投げられた五体の人形は霊夢のほうに手をやり、レーザーを霊夢に放つ。

 

 霊夢は人形を見て眉をひそめながら大きな霊札を懐から瞬時に取り出し、五体の人形に投げた。妖怪バスターと呼ばれるその技は、レーザーを相殺し、人形をも叩き落した。

 

 魔理沙はその間に右に迂回しながら全力で霊夢に近づいていた。周囲には五色の宝石が浮いており、霊夢を狙って色とりどりの弾幕を放っている。パチュリーの賢者の石だった。

 

 突進しながら放たれる弾幕を見て、霊夢は後ろに下がりながら霊力を籠めて大きな光弾を放った。霊符「夢想封印」――――賢者の石による弾幕を相殺しながら、魔理沙を迎撃しようというのか。

 

 賢者の石による弾幕が弾かれ、光弾が魔理沙に迫りくる。このままでは当たってしまう――――直前にバッグからアンカーが飛び出してきた。空中を掴める、にとりのラバーリンクだった。アンカーは頭上の空気を掴み、魔理沙は上に引っ張りあげられ、ぎりぎりのところで夢想封印を避け切った。

 

 霊夢はその変則的な動きに目を見張った。夢想封印を避けた魔理沙はそのまま賢者の石による弾幕とともに、霊夢のほうへと突っ込んでいく。

 

 霊夢はお祓い棒を空中でさっと払った。払った部分から、亜空間が作り出される。さっとその中に入った霊夢は、開戦した最初の地点に戻ってきた。亜空点穴といい、マーキングした地点に瞬間移動する技だった。霊夢は星の弾幕を避ける際に最初の地点をマーキングしていたのだ。

 

 魔理沙は一瞬霊夢を見失ったが、地上から見ていたものには霊夢の行動は筒抜けだった。霊夢は瞬間移動したその直後、下から来たレーザーに襲われる。紫色の太いレーザーは、地上に潜んでいた上海人形によるものだった。半自立と謳われる上海人形が、マーキングを察知し最高のタイミングで撃つよう構えていたのであろうか。

 

 霊夢はとっさにお札で結界を張るも、霊力を込める時間もなかった。結界はレーザーに飲まれ、霊夢に確かに当たった。

 

 それでも霊夢は落ちなかった。結界でレーザーを何とか減衰したのだ。服のあちこちが焼け焦げたものの、霊夢は耐えていた。

 

 魔理沙はその隙を見逃さなかった。賢者の石は魔力が切れたため、すでに周囲になく消えている。速く飛ぶのに邪魔なバッグを天高く投げ捨て、ただ箒で全力でぶち当たろうと接近する――――彗星「ブレイジングスター」は今まで魔理沙が生きてきた中で間違いなく最高速に達していた。

 

 霊夢は迫りくる魔理沙を迎撃しようと、お祓い棒を両手で持ち、縦に構えて祈る。神技「八方龍殺陣」――――龍すら落とす結界陣だ。いかにブレイジングスターがこの結界を突破できるはずが――――

 

 魔理沙の手には小さな(のみ)が握られていた。――――霍青娥の全てを貫く鑿だ。それを八方龍殺陣に突き刺し、結界を破壊する――――!

 

 そのままブレイジングスターで霊夢にぶち当たろうとする直前、霊夢が魔理沙に向かって喋りかけた。

 

「ふふ。私の勝ちよ」

 

 そうしてブレイジングスターが、確かに霊夢の身体に当たったと思ったが、そのまま霊夢の身体をすり抜けた。

 

 ――――「夢想天生」数秒の間無敵になる(世界から浮く)、霊夢の奥の手だ――――

 

 すり抜けざまに、霊夢が魔理沙の背を蹴り上げ、バランスを崩した魔理沙は墜ちていった。

 

 落ちた魔理沙を見て、ようやく霊夢は一息ついた――――そのときだ。霊夢の顔のすぐ横に、ビンがくるくると落ちてきた。ビンの中には青い花、ブルースターの花が一輪詰められていた。魔理沙は突撃する直前、バッグを投げ捨てると同時にビンを天高く投げていた。それが時間差で落ちてきたのだ。

 

 ビンは霊夢の真横で爆発しチルノのスペルカード、凍符「パーフェクトフリーズ」が発現した。

 

 それは霊夢に直撃し、霊夢もそのまま墜ちていった――――いや、違う。

 

 魔理沙はまだ空を飛んでいた。魔理沙は木々に当たる直前、低空でバランスを取り戻していた。霊夢の蹴りが背面からだったため、前に進む力と合わさりそこまで威力が出なかったのだ。

 

 魔理沙は地上にいる霊夢を追っていった。負けたことが信じられないと言わんばかりに驚いた表情をして仰向けで倒れている霊夢に向かって魔理沙は叫んだ。

 

「霊夢!私の勝ちだ!」

 

 霊夢は魔理沙の顔を見入ったあと、破顔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いねえ良いねえ。最高の試合に最高の宴。やっぱり宴会はこうじゃなくっちゃ」

 

 と萃香が全体を見まわしながら言った。萃香は霊夢と魔理沙の試合が終わった後に大興奮し、宴を開こうと人を萃めた。元からこういう流れになると予想していた者もいたのか、酒やツマミが大量に持ち込まれ、たくさん人が萃まった。

 

 アリスは洋酒を持って参戦してきた。妖怪バスターを食らってぼろぼろになっている人形を魔理沙が返すと、ぷりぷりと怒って説教した。「もっと大事に扱え。粗雑がすぎる」という内容を懇々と繰り返していた。魔理沙はたじたじだったが、悪い気はしなかった。

 

 パチュリーと小悪魔は、ワインとドライフルーツをたくさん持ってやってきた。パチュリーが紅魔館以外の宴会に来るのは珍しい。魔理沙がその疑問を口にすると「私だってあなたの快気祝いくらいちゃんと参加するわよ」とパチュリーは答えた。小悪魔は「ずっとそわそわしててましたよ。魔理沙さんが勝てるかどうかずっと気にしてました」と横から口を出した。すぐさまパチュリーが水弾を出して小悪魔の顔面に思いっ切りぶち当てた。

 

 にとりは焼酎のきゅうり割りというキワモノを掲げ飛んできた。魔理沙が恐る恐る飲んでみると、思いのほかさっぱりしていておいしかった。そして疑問に思っていたことをにとりに聞いた。あんなアンカーでどうやって空気を掴んでいるのかだ。「超高速でアームを閉じれば空気を圧縮して掴むことができる」という返答が返ってきた。魔理沙はさっぱり分からなかったが、面白く感じ笑った。

 

 青娥はこの辺りでは珍しい中国酒を持ってきた。青娥は魔理沙から協力をお願いしたわけではなく、霊夢を打倒しようとしているという噂をどこからか聞き、それなら力を貸してやると魔理沙に話を持ってきたのであった。魔理沙は青娥にお礼を言うも「いえいえ、素晴らしいものが見れたからこっちがお礼を言わないと」と返した。宴会中もねっとりとした青娥の視線を魔理沙は感じた。力を借りた代償は大きいな、と魔理沙は頬を掻きながら苦笑いした。

 

 霊夢は負けたというのに上機嫌だった。「なんであんたはやられてないのよ。もっと思いっ切り蹴っとくべきだったわ」だったり「あんなのノーカンでしょノーカン。あんたどんだけ節操なく力借りてんのよ。有り得ないわ」だったり魔理沙を批判しまくっていた。でも、霊夢はとんでもなく嬉しそうだった。魔理沙は「次も勝つぜ」とにっこり微笑んだ。

 

 みんな魔理沙の快復を祝っていた。最高の宴だった。

 

 ふと魔理沙はある人物とまだ話していないことに気付く。周囲を見渡すと――――居た。宴会の端っこで、ちびちびとツマミを食べている。魔理沙は後ろから駆け寄り、肩を叩いた。

 

「うわっ!」

 

 その人物、チルノは声を上げた。

 

「おいおい。なんでこんなところでぐずぐずやってるんだ?」

 

 魔理沙は疑問を口にした。チルノはぼそぼそと喋りはじめた。

 

「いや……だって私、妖精だから、誰にも相手されないし。ただ魔理沙のことは祝いたくて来ただけよ」

 

 魔理沙は勇気づけるように言った。

 

「おいおい!チルノが一番私を助けてくれただろ!あいつらに見せつけてやるから中に行こうぜ!」

 

 と言ってチルノに手を差し伸べた。チルノは嫌そうな顔をしていたが、少しすると決心したのか魔理沙の手を取った。

 

 魔理沙は宴会の中心にチルノを引っ張っていき、叫んだ。

 

「おおい!一番の功労者を連れてきたぞ!!!」

 

 魔理沙の声を聞いた全員がチルノのほうを向いた。魔理沙はチルノと向き合い、話しかけた。

 

「チルノがいなかったらここまで元気になれなかったよ!ありがとな!チルノ!」

 

 そう言って魔理沙はチルノの頬にキスをした。

 

 宴会場が揺れた。囃し立てる者、口笛を吹き出す者、祝福する者、怒りだす者。突如として宴会は混沌と化した。

 

 チルノは何が起こったのか分からなくなったのかピクリとも動かなくなった。しばらくすると理解し終えたのか顔が真っ赤になり、もじもじとして座り込んだ。

 

 宴会場は魔理沙がチルノを称える声と、チルノとの関係性を問う声がずうっと飛び交い続けることになった。幸せな宴であった。




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