これは、とある世界で起こった海の戦場の物語

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第1話

 大暦3824年11月4日、プリアス小大陸とキーカ島の中間点にある島「ナマナ島」近辺で海戦が勃発した。

 ナマナ島は大きさ約400ケートンのそこそこな島だ。近辺では魚が大量に水あげされ、小大陸とキーカ島の中間点にあったため物資の交易も盛んだった。

 

 そして、今敵対している二つの国の国境線付近に位置していた。

 

 昨年、プリアス小大陸の北部にあるゲール帝国が、小大陸統一のため南にあるフェスタル皇国に侵攻したのである。

 フェスタル皇国はすぐさま同盟を組んでいたウェルス公国と共同でゲール帝国に宣戦を布告し、その大軍を迎え撃った。

 そして、すぐに戦線は泥沼となった。ゲール帝国側は慣れない地に苦戦を強いられ、フェスタル皇国側は二カ国ではあったが、ウェルス公国自体が小国のため戦線にはほとんど影響を与えなかったのだ。戦況は膠着し、両国は迂闊に手を出せなかった。

 

 そこで、ゲール帝国はこのナマナ島に目をつけた。ナマナ島を占領すればフェスタル皇国の国境線以外の場所に侵攻できると考えたのだ。さっそくゲール帝国はナマナ島の近くにある西方艦隊に出撃を命じた。

 もちろん、フェスタル軍もこの動きを察知しており、それに呼応するようにウェルス公国との合同艦隊で迎え撃つ構えを見せた。彼らもナマナ島を占領される意味を知っていたのだ。

 

 

 

「[ユーレア]からの報告は確かか?」

 フェスタル皇国装甲艦[フォニオム]艦長アーナンド水軍大佐がしょぼついた目をこすりながら副長に聞く。

「ええ、敵艦隊はナマナ島の40ケートン付近、戦力は装甲艦が5隻、うち3隻は新型だということです。ヒラリー少将はすぐさま現場に向かうとの命を出しております」

「面倒なこった。一昔前ならそのまま龍が襲いかかってやれたっていうのに…」

 アーナンドは舌打ちしながら椅子にどっかり座った。

 

 [ユーレア]は皇国水軍が建造した小型の龍母艦だ。彼のいう一昔前であればこれぐらいの艦隊であれば大型の龍母艦を伴わせたのだが、今はそうはいかない。

 

 というのも、龍というのは基本飛び道具を持たない。戦闘においては格闘戦。過去の対艦戦などでは小型の焼夷弾などをくくりつけて攻撃を行うのが定石だ。昔だと木造船が多かったし、個艦の防空性能が低かったためこの程度でも十分だった。

 

 だが、時が経つにつれ対空砲、そして鋼板を貼り付けた船が増え、龍による攻撃は自殺行為とみなされるようになった。そのため現在では[ユーレア]のような偵察用の小型龍母艦しか建造されていない。

 

「ですが、いくら龍母艦全盛期でも、こんなに降ってては対艦戦は無理だったでしょう。偵察でも一苦労ですよ」

 副長が言うように、外の天候は荒れて土砂降りの雨が降っていた。甲板にある主砲を水滴が弾く音がする。アーナンド少し外を見て、そうだなと言い頷いた。

 

 左舷見張り員の大きな声が聞こえた。

「艦長、敵艦隊を発見しました!!敵は[ユーレア]からの報告の通り5隻、前方3隻は大型です」

 信号員からも報告が入る。

「旗艦より発光信号!!本艦隊は目標へ向かい変針する。とのことです」

 アーナンドは副長に少し頷いて命じた。

「総員戦闘配置、水上戦闘用意。取り舵40ミル」

 航海長が復唱し、艦が左に倒れるように傾く。

 

 後方には同じフェスタル水軍の装甲艦[トラスペ]、そしてウェルス公国装甲艦[ブレイブ]、[ルーラー]が続く。敵艦隊もこちらに気づいたように接近しており、正面から攻撃する構えをとっていた。

 水平線の向こうから発砲音が響いた。敵艦隊が主砲を発射したのだ。

 

 

 

「敵2番艦に向かって主砲射撃開始、発射(フィーエ)」

 射程に入るな否や砲術長の声と共に装甲艦[フォニオム]の3連装主砲が雄叫びをあげた。周囲一帯に轟音が響く。

 おそらく命中弾はない。流石に相対速度の観点から動いている遠くの目標に砲弾を当てるのは難しいからだ。だから当たるまで目測で撃ち続ける。

 

 現在フェスタル皇国本国艦隊第3戦隊は、ヒラリー少将の乗る旗艦[フルトン]が敵の先頭を、そして[フォニオム]、[トラスペ]が2番目の艦を攻撃している。[フルトン]は敵の攻撃を受け中央の一部が吹き飛んでおり、[フォニオム]、[トラスペ]も至近弾により一部を損傷している。一方、敵はまだ攻撃を受けていない状態で射撃を続けている。こちらにとって不利なわけだった。

 

 そして、アーナンドが第二射を命じた時、見張り員が驚きながら突如喚いた。

「艦長!![トラスペ]が…」

「なんだ、何が起こった」

 彼は何事と思いながら戦闘を副長に任せると、見張り員を押し除けて後方を見つめた。

 [トラスペ]の後部から黒煙が上がっていた。

 

 悲劇は突然起こるもの、装甲艦[トラスペ]の場合、それは後部の2番砲塔で起こった。

 [トラスペ]に命中した3発の砲弾のうち、1発が砲塔の上面部分を破壊したのだ。幸いにも砲塔は堅固に造られていたため砲は2門が発射不能だけにとどまったが、持っている主砲火力のうち3分の1が使用不能になってしまった。

 しかし悲劇はそれでとどまらなかった。2つ目は前部艦橋付近に命中しマストを叩き折り付近にいた乗員を押しつぶした。ある者は脳天からぐちゃぐちゃにされ、ある者は背中をへし折られた。3つ目は3つある煙突の後ろの方を直撃。根本から煙突、そしていくつかの対空砲と副砲を上空へ吹き飛ばした。[トラスペ]は浮いていたが、その船体はかなり破壊されていた。

 

「なんてこった」

 アーナンドは顔を思い切りしかめる。これでは[トラスペ]はまともに戦えんだろう。幸いにも前部砲塔は残っているからやれることはやれるだろうが。

 

 あちらこちらから損害の報告を受ける。

 [フォニオム]も敵弾数発を喰らっていた。そのうちの1発が後部艦橋に命中、後部艦橋にいた船員たちを即死させていた。いまや後部艦橋は赤く染まっている。

 乗員の半分程度が諦めかけていたその時だった。

 敵2番艦が閃光に包まれた。

 

 

 

 敵二番艦、[ファン・シルヴェスタル]は[フォニオム]の攻撃により主砲弾2発が命中した。

 

 通常の装甲艦であれば、砲弾2発程度どうということはなかったかもしれないが、[ファン・シルヴェスタル]の場合は事情が少し異なっていた。

 というのも、この艦は装甲を防護巡洋艦と同程度の物しか貼っていない。どの程度かと言えば、平均的な装甲艦の半分程度の防御力しか持っていないとすれば分かりやすいだろう。

 

 そのため、[フォニオム]が放った2発の砲弾により、[ファン・シルヴェスタル]は予想外の大損害を受けた。

 1発目は前部艦橋と煙突の間付近に命中、マストを折り、煙突を歪ませ、前部艦橋にいた乗員らを殺傷した。

 そして、2発目は中央に位置していた2番砲塔付近に命中、弾薬庫まで貫通して砲弾を誘爆させた。

 2発目の砲弾により[ファン・シルヴェスタル]は付近の海面に炎が這いずるほどの爆発を起こし、船首を上に掲げるように中央から折れた。

 砲弾命中から4刻後、[ファン・シルヴェスタル]は海の藻屑と成り果てていた。

 

 

 

「旗艦より入電、どうやら敵2番艦は爆沈したようです」

「そうか…にわかには信じられないがそんなこともあるんだな」

 アーナンドは心の底で驚きつつも、平静な表情を保ちつつそう言った。

 当時の彼は[ファン・シルヴェスタル]のような艦艇、のちの準装甲艦を知っておらず、それを知るまで、今回は運良く撃沈できたと思っていた。

 

 アーナンドは視線を前に移した。前方では、旗艦[フルトン]が敵の先頭艦と砲撃を繰り広げていた。見た感じ敵の方が優勢に見える。

 彼はすぐに決断した。

「砲術長、攻撃目標を敵一番艦に変更しろ。電文で後方の[トラスペ]にも命じておけ。大破したとはいえ戦えはするはずだ」

「了解、攻撃目標を敵一番艦に設定、主砲、うちーかたー始め」

 数秒後、[フォニオム]の主砲が敵先頭艦に向かって火を吹いた。 

 

 

 

 その後、戦闘は30刻ほど続いた。

 

 この後ゲール帝国西方艦隊は、三番艦で[ファン・シルヴェスタル]の同型艦の[ファン・ケーフィン]が、ウェルス公国装甲艦、[ブレイブ]と[ルーラー]の砲弾を3発喰らうことになった。

 3発の砲弾は全て後部に命中、大火災を起こし速度を落とさせるほどの損害を与えた。そして、そのすぐ後に2発の砲弾が今度は船首に命中、一番砲塔を根本から吹き飛ばして轟沈した。

 

 それ以外にも、[フルトン]、[フォニオム]、[トラスペ]の3隻で旗艦の[ローウ・ソモロ3世]に砲撃を与え、これを大破させた。

 

 

 

 しかし、こちらの損害も軽くはない。[フルトン]、[フォニオム]、[トラスペ]の3隻は長時間攻撃を受け続けたことにより大破していた。

 

 特に3番艦の[トラスペ]は、あと後3発の砲弾を喰らい、前部砲塔を完全に叩き潰され、中央部の副砲や高角砲も原型が残らないほど破壊されていた。側から見たら廃船かと思われるほどだ。

 

 残る2隻も砲弾を数発喰らい、[フルトン]は副砲全滅、[フォニオム]は前部砲塔大破の損害を受けた。

 

 かろうじて戦えるのは、ウェルス公国の2隻ぐらいだ。

 

 

 

 だが、結果的にはフェスタル側の勝利だった。ゲール帝国西方艦隊はナマナ島沖から引き返し、再びナマナ島では平穏が戻ったと言ってもよかった。

 

 そして、ゲール帝国側は今回の敗北を受けナマナ島の占領は不可能と断定。陸上戦力の増強を図った。

 

 結果、戦闘は再び大陸へとシフトしていった。

 

 

 

短編「ナマナ島沖海戦」fin

 


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