自分でも「なんか違うような気がする?」と思ってますので。
会社をクビになって暫く経った頃、たまたま立ち寄った場所で祭りが開催されていた。
人はそれなりに多く楽しい雰囲気の中で、小腹が空いた鈴木はたこ焼き屋へと足を向けた。
「すいません、一つください」
店主は金髪の大柄な男で、ジロリとこちらを睨むように見てきた彼は、手元の作りかけのたこ焼きに目線を戻して少々ぶっきらぼうに答えた。
「ちょいと待ってくれや、兄ちゃん。もうちょいで焼き上がるんや」
店主の言葉に、鈴木は既にパックに詰められたたこ焼きを指差して
「こっちのじゃダメなんですか?」
「兄ちゃん、猫舌か?」
「いえ」
「せやったら急ぎか?」
「ゆっくりお祭りを楽しもうと思ってます」
「ほんならもうちょい待っとってくれや、ワシは出来れば出来立てのアッツイのを食うて欲しいんや。横にあるんはチビか猫舌か急ぎのヤツに向けたモンなんや」
そう会話しながらも見事な手際でたこ焼きを作っていく店主に、鈴木は感嘆しながら雑談を続ける。
「あ〜、それって有り難いですね。私は小さい頃、出来立てのたこ焼きを頬張ってヤケドしたことあるんですよ」
「ほぉ、アンタもか。ワシもガキん頃にやらかした事があってな。気合で飲み込んだはエエものの、ノドと腹んナカがカ〜ッと熱くなったんは今でも覚えとるわ」
「でも美味しかったんですよねぇ」
「あぁ、ワシもよう記憶に残っとる。せやから出来立てのアッツイのをなるべく食うて欲しいんや」
「えぇ、久々に出来立てのたこ焼きを食べれるので、期待してます」
「ふっ、任せとき。今までの人生でいっちゃん美味いのを食わせたる。それと、今回はヤケドせんように気ぃつけやぁ」
そう言い終わると共に、パックに詰められたたこ焼きを鈴木に渡した。
受け取った後財布を取り出そうとした鈴木に、店主は手のひらを向け「待った」と止めた。
「コレはワシの奢りや」
「え?」と困惑する鈴木に続けて
「アンタはワシの知っとる男によう似とる。ただの他人の空似っちゅうにはオカシイぐらいにな、せやけどアンタには【そのスジのモン】の雰囲気が無い。せやからこう思うたんや『あの男があの世界と関わらんかったら、こうなったんやないか』ってな。アンタには全然関係ないけどな、おもろいモンを見してくれた礼として、それを奢らしてもらうっちゅうことや」
鈴木には、店主の言う「男」が誰なのか見当がついた。
だが明確にその人の名前を言わない以上、自分も言及はしない方が良いのだろうと判断した。
「え〜と、では有り難く頂きますね?」
「おう、じゃぁの、祭り、楽しんでいきや」
と軽く手を挙げた店主に会釈を返し、鈴木は歩き去っていった。
「ふっ、あの兄ちゃんも中々やるクチみたいやなぁ」
鈴木の振る舞いから、その腰の低さとは裏腹に「実戦経験が豊富」であることを見抜いた店主はほんの数瞬だけ、『少々』好戦的で凶悪な笑みを浮かべた。
なお、それを目撃してしまった(祭りでヤンチャをしようとしていた)チンピラ崩れ達は腰を抜かして泡を食って逃げ出したそうな。
更に後日、桐生一馬と友人となった鈴木が、その「金髪で関西弁な大柄のたこ焼き屋の店主」の話をすると、「そうか……」と微笑んだという。