白の塔最上階──そこから白の塔の盟主ユキメは一晩にして勢力図が一変した無法都市を眺め、頬を緩ませた。
「棚からぼた餅ゆうんは、この事でありんすね」
かつて3つの巨大勢力──黒の塔、紅の塔、そして白の塔──が均衡を保っていた無法都市は、今は殆ど一つの勢力の支配下に収まりつつあった。
「ジャガノートを喪った黒の塔は現在混乱状態です。今なら、容易に攻め落とす事も可能かと思いますが、どうされますか?」
「折角内部崩壊してる最中に藪蛇をつついて団結されても厄介でありんす。今は復興を優先させなんし」
「はっ、かしこまりました」
「我々の庇護を求めてきた黒の塔の残党はいかが致します?」
「今はどこも人手が必要でありんす。馬車馬の様に扱き使ってあげなんし」
「承知しました」
黒の塔は元々がジャガノートという圧倒的強者がいたからこそ、組織としての体裁を保てていたが、その統率者を喪った今、黒の塔の勢力は後継者争いや縄張り争いによって内側から崩壊の一途を辿っている。
万が一、組織崩壊を防ぎ、組織として団結できたとしても、ユキメ達──白の塔と勢力争いができるレベルの組織力を回復させるのはほぼ不可能と言って良い。
「あそこはもう詰みでありんす。ゆっくりじわじわと勢力を削って呑み込んでしまいんしょう」
それよりもと、ユキメは話題を変える。
「
紅の塔の塔はもっと簡単だった。
実質的な支配者であったクリムゾンは滅び、表向きの支配者であったエリザベートは争いを好む性格ではなく、人と共存できる安息の地を目指して無法都市を去った。
ユキメは紅の塔の支配領域を、無血開城にて手に入れることができた──
「はっ、紅の塔の勢力は元々勢力圏が小さい事、赤き月の騒動でクリムゾン配下の吸血鬼は全滅、グール達も人に戻った事から大した抵抗もなく、統治が進んでおります……ですが」
しかし、問題もある。
「人間に戻った元グール達に対して各地で迫害が起きてます」
「まあ、当然でありんすね」
ユキメが知る限り、グールが人に戻るなんて聞いたことがないし、どんな文献にも載ってない奇跡である。
また、グールと化して暴れ出すのではないか、そう不安になる民衆の気持ちは理解出来る。
正直、ユキメ達でさえ、青紫の光に包まれてグールが人に戻る瞬間を目にして尚、信じられない光景だった。
「神の御業……否、神そのものでありんすね」
思い起こすのは自分が決して敵わぬと確信したエリザベートと互角に斬り合うシャドウの姿──あの時、ユキメは血の女王に騒動の落とし前を付けさせる為に紅の塔に居た。
紅の塔に居て尚、矛先がこちらに向かぬ様に──そして漁夫の利を狙って息を潜め隠れていた。
エリザベートとシャドウの戦いは人智を超えていた。
2人の斬り合いは伝説の戦い……ないしは神話の戦いと言うに相応しい程に激しく、そして美しかった。
その後にシャドウから放たれた無法都市を包んだ膨大な魔力には思い起こすだけで背筋が凍る。
「敵対するのは論外……で、ありんすね」
煙管をふかし、傷付いた無法都市を眺めながら、ユキメは今後の身の振り方を考えた。
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
それは全てが終わって、ミドガル王国に戻ってきた頃の事だった。
「シド……大事な話があるの」
僕の寮に姉さんが神妙な趣きで訪ねてきた。
「話って?」
姉さんは包帯の巻かれた左手を押さえていた。
「実は、私の手には特別な力が宿ってるの……」
「へ、へぇ……そうなんだ」
さて、難しい。難しい問題だぞこれは。
左手に包帯、特別な力、普通に考えれば年頃の少年少女が患うアレだ。姉さんの年齢を考えれば発症してもおかしくない。
だけど、ベータ達の話じゃ、無法都市で姉さんの体を使ってアウロラが現れたって話もあるし、何よりここは魔力なんてファンタジーが存在する異世界だ。
本当に姉さんには特別な力が宿っていても不思議ではない。
なら、モブとして僕がやるべき事は──
「へ、へぇ〜!凄いな姉さん。ブシン祭優勝したし、あの血の女王も倒したんだから、特別な力くらい宿っていても不思議じゃない……というか当然だよね!」
モブとして主要キャラを引き立てる!
これこそモブらしい行動!
あ、因みに血の女王は姉さんとメアリーが共闘して倒した事になってる。
実際にはエリザベートは生存してるし、倒したのは姉さんじゃないけど、エリザベートは最古のヴァンパイアハンターメアリーと相打ちになって死亡。
唯一生き残った姉さんが生き証人として、血の女王の討伐を宣伝する事でエリザベートとメアリーは追っ手を気にする事なく、安息の地を求めて世界を放浪する旅へと出た。
姉さんは最初は渋ってたけど、最終的に安息の地を求めるメアリーとエリザベートの願いを聞き入れる事になった。
「……信じてくれるのね」
「そりゃ勿論」
半信半疑だけどね。
でも、否定する材料もなく、大半の人間には打ち明けられず、また打ち明けても信じてもらえない様な秘密だ。
なら、僕くらいは信じてあげよう。
ぶっちゃけ、本当に姉さんに特別な力が宿ってる方が今後の展開的に面白そうだし。
「そう、もし私に何かあればその時は……」
「姉さんなら大丈夫だよ」
適当に慰めると、姉さんは満足したのか寮を後にした
……ん?
でも冷静に考えると、もし姉さんが物語の根幹に関わるような特別な力を持つ主要キャラなら、僕はその弟というモブとは言い難い立ち位置に居ることになる。
……というか、仮にも第二王女と付き合ってる奴がモブな訳がないな。
うーん。そろそろシド・カゲノーとしての身分を捨てても良いかな。
僕は寮の外に出て夜風に当たりながら、今後の身の振り方を考えた。
「左手に特別な力を持つ主人公格の弟に、第二王女の交際相手……改めて言葉にするとモブとは程遠い立ち位置にいるな僕」
なんでこうなったんだろ?
王女様に告白して振られるモブの一人になるつもりが、あっさり交際。それからズルズルと関係が続くとか、予想できないだろ。普通。
姉さんも元々同級生の中では強いくらいの立ち位置だったのに、何故かブシン祭で優勝して、血の女王討伐の功労者になってるし。
「あれ、僕そんなに悪くないな」
僕はあくまでも表向きはモブとして行動していた訳だし、僕がモブらしくない立ち位置になったのは僕の行動のせいじゃなくて、アレクシアの思惑や姉さんの複雑奇怪な運命のせいだ。
「うん。僕悪くないね」
けれどまあ、今の僕がモブらしくない立ち位置に居る事実に変わりはない。
ここから陰の実力者らしいムーブに持っていくにはやっぱり
何かしらのイベントで凄惨な死を迎える、ないしはほぼ生存が望めない状況で行方不明になる。
そして物語終盤に明かされる長年謎に包まれていたシャドウの正体は死んだ筈の弟だった!?という展開に繋げられたら良いな。実に陰の実力者らしい。
学園卒業後の就職やらなんやらの面倒事を考えたら、卒業前にフェードアウトイベント挟めたら良いな。また学園でテロでも起きないかな?
最悪自作自演のイベントを起こしても良いけど、何かと前世では考えられなかったトラブルの多い異世界だ。在学中にフェードアウトできそうなイベントの一回や二回起こるだろう。
「ふふっ、楽しみだな……」
「あら、何が楽しみなの?」
…………聞き覚えのある声に僕はぎこちない動きで振り向いた。
そこには笑顔だけど笑顔じゃない私服のアレクシアが居た。
「貴方、無法都市に行ったんですって?」
「い、イッテ、ナイヨ……」
「色街でさぞお楽しみだったらしいわね……貴方のお友達が教えてくれたわ」
僕は逃げた──
「あら、知らなかったの?」
しかし、アレクシアに逃げ道を塞がれた。
「王女様からは逃げられないのよ」
「あっ、あ、あぁ……」
「躾が必要のようね……ポチ」
夏だし、ちょっとぐらいホラー展開必要かな……?
R18版をあと1話投稿して今回の投稿は最後になります。
成人済みの方はどうぞ、そちらもご愛読ください。
本作が面白いと思って頂けたのであれば、感想、高評価、お気に入り登録のほど宜しくお願いします!