まだまだ乗っていないアトラクションは沢山。
二人が好きそうなメリーゴーランドや観覧車はもちろんなこと、ジェットコースターやバンジージャンプなどの爽快なものまである。
特にここは爽快系のアトラクションに力を入れているのか、後ろ向きに動くジェットコースターや立ったまま乗るジェットコースターもあり、ユースティアナとセレナが怖くないなら一緒に乗ってみたい。
何より、ジェットコースターのように敷かれたレールを二人漕ぎの自転車で回るアトラクションは、景色が良さそうだ。
そんなことを考えていると──
「わぁああああん! おねえちゃん、どこぉおおおおお!」
──幼い子特有の甲高い泣き声が、どこからともなく聞こえてきた。
視線を向けると、四、五歳の子が両手の甲で目を押さえながら天を仰いでいる。
「迷子か……」
休日に遊びに来ているので、やはり人はかなり多い。
子連れの家族も多くて、こういう場面に遭遇しても不思議ではなかった。
「二人ともちょっとごめん」
二人に声をかけて真白は迷子の女の子のところに向かった。
「──どうかしたのかな?」
女の子の目線に合わせてかがみ込み、なるべく優しい声で話しかけた。
女の子は恐る恐るという感じで、真白に視線を向ける。
「おねえちゃん、だぁれ……?」
「僕は、真白だよ。それとごめんね僕、男なんだよ」
性別を間違えられた。
まあ子供相手なので怒るような真似はしないし、優しく訂正する。
「キミのお名前を教えてくれるかな?」
「さっちゃん……」
「さっちゃんか、かわいらしい名前だね」
親を呼び出ししてもらう際には名前をしっかり教えてもらわないといけないけど、今はまだあだ名で十分だ。
「……子供を探してる人──お姉ちゃんって呼んでたので、若い女性を探してもらえますか?」
真白にさっちゃんを任せて、ユースティアナはインカムにへと耳打ちをする。
「えぇ、可能でしょう。焦りを抱いていたり、キョロキョロと落ち着きなく周りを見ている女性。特に、視線を低い位置に向けている方を探せばよろしいですね?」
やはりユースティアナは優秀だろう。
皆まで言わなくても、ユースティアナは意図をしっかりと読み取ってくれた。
「さすがですね、お願いします。私たちはあの子を遊園地スタッフのところまで連れて行きます」
多分、迷子センターみたいなのがあるだろう。
まずはそこにさっちゃんを連れて行き、アナウンスでお姉さんを呼んでもらったほうが良さそうだ。
「──お姉さんは、どんな人なのかな?」
「えっとね、とってもやしゃしいの……! しょれでね、おにいちゃんみたい……!」
目を離した少しの間に、気が付いたらさっちゃんは泣き止んでいた。
今は一生懸命お姉さんの特徴を真白に伝えている。
やはり彼は、誰からでも好かれる素質があるんだろう。
それにより、ユースティアナはスマホを取り出し、部下の人へと電話を掛け始めた。
だからは、今自分ができることをする。
「さっちゃん、大丈夫ですよ。お姉さんは、私たちが絶対に見つけますからね」
「私たちに任せてください」
「おにいちゃんのおともだち?」
真白との関係が気になるらしく、さっちゃんは人差し指を加えながら小首を傾げた。
それによってセレナの視線がジッとユースティアナに集まる。
「ふふふ、私の恋人ですよ♪」
「ちょっとちょっと、ユースティアナさんや子供の前で嘘をつくんじゃないよ」
真白は恋人という単語に照れながら、ユースティアナにジト目を向ける。
「ふふふ、いいではないですか。今日はデートなんですし」
デートではあるが別に恋人ではない。
それより、さっちゃんは曇りなき眼まなこでユースティアナを見上げる。
いや、その瞳は、キラキラと輝いていた。
「おにいちゃんのこいびとしゃんなの!?」
「はい、そうですよ」
さっちゃんに尋ねられたユースティアナは、間髪かんぱつ入れずに笑顔で頷いた。
「おにいちゃん、しゅごいね~! おねえちゃん、びじんしゃんなのに、よくこいびとしゃんになれたね~!」
さっちゃんはおませさんなのか、先程とは打って変わってとても楽しそうに話しかけてくる。
こんなにも幼いのに、もう恋愛話が好きなようだ。
「ユースティアナ様、どうやらそれらしき人物を発見できたようです」
夏海から連絡があったようだ。
「そうですか、ありがとうございます。よかったです。それじゃあ、さっちゃんを連れて行きましょう」
「おねえちゃんに、あえる……!?」
姉らしき人物を発見したことを伝えると、さっちゃんは目を輝かせて喜ぶ。
「うん、多分だけどね」
聞いた限り、真白たちよりも年上の大人の女性みたいだ。
さっちゃんの年齢から考えられるお姉さんの年齢は、本来なら高めに見積もっても真白たちくらいだろう。
だけど、友人同士ならともかく片方が幼いのに、子供だけで遊園地に来ている可能性は低いので、むしろ大人の女性のほうが確率としては高いんじゃないか、というのがセレナの見解だ。
「んっ……!」
よほどテンションが上がったのか、真白とユースティアナ手を取ってきた。
手を繋いでお姉さんのところに行きたいようだ。
さっが空いている左手を差し出すと、ユースティアナは嬉しそうに手を取った。
まるで真白とユースティアナが夫婦で、さっちゃんが真白たちの娘のようだ。
真白たちはそのまま、さっちゃんを連れてユースティアナから聞いた場所を目指す。
「おねえちゃん……!」
真白たちと手を繋いでいたさっちゃんは、お姉さんに駆け寄る──ことはなく、大きな声で呼びかけた。
それにより、汗を沢山流しながら忙せわしなく周りを見ていたお姉さんの視線、が真白たちへと向く。
「さっちゃん……! よかった……!」
お姉さんは駆け寄ってきた。
そして、ギュッとさっちゃんを抱きしめる。
「お、おねえちゃん、くるしいよぉ……!」
「もぉ、勝手にいなくなっては駄目ではありませんか……! 本当に、心配したのですよ……!」
お姉さんが心配していたのは疑いようがないだろう。
まだ暑い時期とはいえ、大量に流れる汗は一生懸命さっちゃんを探していた証あかしだ。
「迷子になっていたところを保護してくださり、ありがとうございます」
「んっ、おにいちゃんとおねえちゃん、ありがとう!」
無事に再会できたことに真白たちの頬が緩んでしまうのだった。
さっちゃんと別れてからいろいろとアトラクションを回った真白たちは、最後に観覧車へ乗ろうとしていた。
真白とユースティアナとセレナは観覧車に乗る。
真白は先に入ってもらったセレナが座った席の正面──ではなく、ユースティアナの隣に座った。
「ふふ……♪」
隣に座る真白を見たはユースティアナ、嬉しそうな笑みを零し、
喜んでもらえたようだ。
「夕焼けに海……綺麗ですね……」
窓から見える景色のことだろう。
遊んでいた間に空はすっかりとオレンジ色に染まっており、沈みかけている夕陽が海を照らしている。
どこか物寂しい気持ちになりそうな風景だけど、今は一緒にいてくれるユースティアナとセレナのおかげで寂しいという気持ちはない。
風情のある綺麗な景色は、嫌いな人以外であれば誰と一緒に見ても楽しいだろうけど、恋人と一緒に見るとより楽しめるような気がする。
今日一日限定の恋人だが少なくとも、夕陽に染まる景色を眺めていられるのは、凄く幸せだった。
「真白くんお姉様、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」
「楽しめたなら何よりだよ。僕も楽しかったよ」
「私も楽しかったです」
ユースティアナとセレナも楽しめたようなので満足だ。
「楽しいことはあっという間に終わってしまいますね」
「……」
ユースティアナからは寂しげな目をしている。
明日はユースティアナが国に帰る日だ。
久しぶりに会えたセレナともお別れになるのだ。寂しいのは当たり前だろう。
「ふふふ、ごめんなさい。暗い雰囲気にしちゃって。いつでも会えるわけではないですが、お別れじゃないですよね」
「そうだね。また会えるよ」
「もちろんです」
お別れするのは寂しいが今生の別れではない。
また再び会える日が来るはずだ。
「お姉様、時々でいいので連絡をしてもいいですか?」
「もちろんです。ユースティアナだったらいつでも大歓迎です」
もちろん大切な妹であるユースティアナのお願いを断れるはずもなく快く了承した。
ユースティアナとセレナとデートした翌日。ユースティアナが国に帰る日になった。
短いようで長く感じなかなか濃い日常だった。
振り返ると誘拐されかけていたユースティアナを助けて友人になり、それから護衛を引き受けることになってユースティアナが誘拐されて助けに行ったりと、思い返すとなかなかハードな数日だった。
真白達は空港でユースティアナを見送りに来ていた。
「皆様、仕事とはいえ数日でしたが護衛をしてくれてありがとうございました」
「私達の仕事だからな気お礼を言う必要はない。それに守るべきだったのに役立たずで、すまなかった」
「私たちは護衛失格です。ユースティアナ様をお守りできず、申し訳ありませんでした」
「そんなことないですよ。私はそれでも感謝しています。数日でしたがありがとうございました」
「ユースティアナ様を守りきれなかった私たちにお礼なんていいです」
「そう言わないでください。助けに来てくれたこと嬉しかったですよ」
真咲から話を聞いてはいたが、燐たちは護衛としての仕事を果たせなかったことで、思い詰めた表情をしていたのだ。
誘拐されあまつさえ化物を倒せず、ベータと名乗った女性には助けられた。
燐たちにはそれがとても悔しかった。
「ユースティアナ様時間です。行きましょう」
「真白くん、お姉様と会わせてくれてありがとうございました。全て真白くんのおかげでお姉様と再会できて、良い思い出ができました」
「僕はやりたいことをやっただけさ。ユースティアナさんに会えてよかった。こちらこそありがとうだよ」
「真白くんは優しいですね。だから私は……。いえ、なんでもありません。……これは私からのほんの少しお礼です♪」
ユースティアナは何か言おうとしたがやめた。──いきなり、真白の頬にキスをしてきた。
「ユースティアナさん……!?」
「ふふふ、しばらくお別れになります。私のこと、お忘れにならないでくださいね?」
戸惑う真白に対して、ユースティアナは晴れやかな笑みを浮かべた。
周りで見ていた夏海と愛美は動揺して頬を赤らめたり、真咲と七海面白がって見てたりと三者様々な反応だった。
「ふふふ、お姉様も頑張ってくださいね♪ 真白くんは素敵な人ですから周りにはきっと好意を寄せる方々が多いでしょうから」
「ユースティアナ……!? 何を言って!? 私は別に真白のことなんて……」
ユースティアナはセレナに何やら耳打ちをしてセレナ頬を染めて、動揺している。
「それでは、皆様またお会いしましょう。ごきげんよう♪」
ユースティアナはそう言ってとびっきりの笑顔を浮かべて国に帰っていたのだった。
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