【書籍化決定】馬乗りされて体力がなくなるまでやられる悪役〜今度は主人公の好感度を上げまくっていたら全員に惚れられた件〜   作:陽波ゆうい

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第99話 悪役の魅力に勘づく王子様

「ねえ、笠島くん。私の話を少し聞いてはくれないかい? 歩きながらでいいからさ」

 

 隣を歩いていたまひろが不意にそんなことを言い出した。

 

 それでいて、いつもの余裕たっぷりな笑みではなく……真剣な面持ち。

 

「あ、ああ……いいけど」

 

 俺は少し驚きながらも頷く。

 

「ありがとうね」

 

 まひろはどこか遠いところを眺めながら、ゆっくりとした口調で話し始めた。

 

「私は昔、体が弱くてね。激しい運動はおろか、酷い時には学校に通うこともままならなかったんだ」

 

 まひろが告げた言葉。

 

 本人としては初めて打ち明けることなのだろう。

 

 容姿端麗、成績優秀、人望も厚く振る舞い方も完璧。

 

 非難するところなんてどこにもない。

 今のまひろを見て、誰も想像付かない過去だろう。

 

 だけど……俺は、知っている。

 

 ゲームの中でもヒロインの過去場面というのは重要で印象に残りやすいから。

 

 そして……この話を聞かされるのは主人公だけ。

 

 だけど……今、彼女は俺の隣にいて、俺に話を聞いてもらおうとしている。

 

 だから……知識があるとかそういうのじゃなくて。

 

 俺はただ、静かに耳を傾けた。

 

 それを分かってか、まひろは続けた。

 

「身体が弱かったから家ではずっと自分の部屋の中。小学校に上がっても保健室のベッドの上で過ごすことが多かった。誰とも喋らず、寂しい時間を過ごすことが多かった。そんな病弱な時期も今となっては……少し辛かっただけの過去の話。今の私を見てそんな過去があるとは家族以外誰も思わないよね? だからこそ皆、私のことをチヤホヤ煽ててくれる。出来て当然っていう目で見てくる」

「……」

「別に、それが嫌といわけではないんだ。いや……ちょっとモヤっとはするけどさ。だけど、結斗のように笑顔や純粋な反応をしてくれたり、心配してくれたり……そういう優しい人がいるだけであの時の寂しさが少しずつ報われた気がするんだ」

 

 まひろは少し明るくなった口調でそう言って……足を止めた。

 

「ふう……いきなりこんなことを話してすまないね。それも結局は、結斗が良いよねっていう話をしているわけだし」

「まひろさんが結斗の話をするのは、いつも通りで平常運転じゃない?」

「それもそうだね。林間学校や夏休みの時も笠島くんには話していたわけだし」

「そうだな。まあ、結斗の良さは俺も身に染みているよ。俺、悪人顔で勘違いされやすいし。結斗がいなかったらどうなっていたことやら」

「笠島くんも見た目で勘違いされがちだもんね。それに、君なら私の弱みをどうこうしようとは思わないだろうし」

「そんなもん、どうこうしようとする奴の方がおかしいだろ」

「そうだね。じゃあ、今後はこういうことを話すことに遠慮はいらないってことかな?」

「遠慮はいらないって……まあ、別にいいけどさ」

 

 あの馬乗りバットエンドが回避できるなら、話を聞くぐらいはやってやりますよ……!

 

「とまあ……なんで私がこんなこと急に話すか、気にならないかい?」

「気になるけど……でも、まひろさんに限らず、ふとした瞬間に話を聞いてほしいって時は誰でもあるからな。そっちは話さなくていいんじゃない?」

「……そっか。うん、そうだね」

「おう」

 

 俺の言葉を受けたまひろは微笑を浮かべていた。

 

 何気なく話して、少しでもスッキリしたならいいよな。

 

「……なるほど。笠島くんの優しさもまた周りを……結斗を惹きつける魅力なんだね」

 

 まひろが何やら呟いていたが、俺は聞き返すことはしなかった。

 

 再び足を進める俺たち。

 

 確か、この角を曲がって進んでいけばまひろの家に着くはずで……。

 

 ぽつ、ぽつ……。

 

「ん?」

 

 頬に冷たいものが触れた気がした。

 

「うん? どうしたんだい笠島くん」

「いや、なんか冷たいものが……」

 

 そうして空を見上げれば、暗さとは別に雲が黒くなっている気がして……。

 

 すると、数滴の雨粒が降ってきた。

 

 雨かなと思った次の瞬間には、バケツをひっくり返したかのような勢いに早変わり。

 

「冷たっ!! 昨夜もゲリラ豪雨だったけど今日もかよっ。とりあえず、まひろさん! ほいっ」

「えっ、あっ」

 

 鞄から折りたたみを出して。

 

 まひろが取りやすいように投げたことで、受け取ってもらった。

 

「まひろさんっ。早く傘をさして走ってくれ! じゃないと俺、家分からないからっ」

 

 予備用の折り畳み傘、鞄に入れといて良かった。

 渡してくれたのは雲雀だけどな。

 

「いや、でも笠島くんの傘だし……」

「俺はいいからっ。とにかく家までダッシュしてくれ!」

「あ……う、うんっ」

 

 俺たちはバシャバシャと水溜りを気にすることもなく駆けていった。

 

◆◆

 

「はぁ……すごい雨だね。まだ止む様子がないや。笠島くん、折り畳み傘ありがとう。ちゃんと雨水は切ったからね」

「ああ……どうも。こっちこそ、玄関の屋根の下に避難させてくれてありがとうな」

 

 まひろさんの家もとい、めちゃくちゃ見覚えのある美人姉妹の家に到着した。

 

 ゲーム画面でよく見たし……。

 

 この世界に来てからも林間学校の件のお礼として、りいなに手料理を振る舞ってもらったから知っている。

 

 でも、今日はそれまで。

 家を、玄関を見るだけで終わりだ。

 

「んじゃ、俺は帰るからな」

「え、帰るの?」

 

 まひろが驚いたように目をぱちくりとさせた。

 

 いや、なんで驚いているんだ? 

 

「当たり前だろ。ここはまひろさんの家だし、何より、家まで送ってという任務は果たしたからな」

 

『うん、気をつけないとね。もう暗くなるし……笠島くんに家まで送ってもらおうかな?』

 

 あの時、まひろからそんなことを言われて、正直かなり驚いた。

 

 ゲリラ豪雨というハプニングはあったものの、それ以外は特に何事もなく……こうして無事に送り届けることができた。

 

 良かった良かった〜!

 

 まあ、俺の身体はぐしょぐしょに濡れたけど。

 バットエンドに比べたら、もうなんでも平気である。

 

「今更だけど……雨が降り始めた時点で引き返しても良かったんじゃないかい?」

 

 まひろがどこか申し訳なさそうな表情で告げた。

 

「いや、大雨なら余計に1人で帰ったら危ないだろ。ちゃんと帰れたか見届けないとこっちも不安になるわ」

「……笠島くん」

 

 俺の発言が意外だったのか、まひろは目を丸くしていた。

 

「だから今は安心して俺も帰れるよ。んじゃあ、まひろさん。風邪引くなよ。明日は結斗が学校に来るんだからな」

 

 折りたたみを差して帰ろうとした時だった。

 

 玄関の扉がガチャっと開いて……もう1人の人物が出てきた。

 

「お姉ちゃん遅い。どーせ、ゆいくんのところに長居して……え」

 

 まひろに言葉を掛けていたりいなの視線が俺を捉えた途端、固まった。

 

「……」

「……ど、どうも」

 

 とりあえず、ぺこっと頭を下げて挨拶しておく。

 

 りいなは俺とまひろを交互に見て……ようやく口を開いた。

 

「……お風呂沸かしているから。お姉ちゃんは先に入って」

「ありがとう、りいな。気が利くね。それじゃあ笠島くん、ここまで送ってくれてありがとうね」

 

 まひろはそう言って、さっさと家の中へ入っていった。

 

 玄関先に残されたのは、俺とりいなの2人だけ。

 

 まひろの姿が見えなくなったことを確認すると……りいなはじっ、とこちらを見てきた。

 

「お姉ちゃんと一緒だなんてどういう風の吹き回し?」

「いや、俺が聞きたいんだけど……」

「ふーん」

 

 りいながジト目で俺を見てくる。

 

 俺を見ていても何も分からないと思うけどなぁ。

 

「つか、俺に文句あるんだろ。早く帰ろとか。言われなくても今から帰るから」

「……」

 

 りいなの気だるげな表情は変わらないが……なんだか不機嫌になった気がした。

  

 その証拠に、スタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。

 

 今のうちに帰れってやつ?

 と思いきや、すぐにりいなが戻ってきて、手にはタオルを持ってきており……。

 

「こんな大雨の中で帰るとか馬鹿でしょ。まずは濡れた身体を拭くのが優先。ほら」

「お、おう。ありがとう?」

 

 タジタジな反応になりながら、タオルを受け取る。

 

「アンタまで風邪引いたら困るでしょ。結斗くんも明日は学校に来るんだし」

 

 りいなはぶっきらぼうな言葉ながらに続けた。

 

「あと、アンタも中に入って。言っておくけど、靴脱ぐところから先には行かせないから」

「やけに具体的な指定だな」

「当たり前でしょ。濡れたところ掃除するの大変なんだからね。あと、今の時間で雲雀さん呼べばいいじゃない?」

「そ、そうだな……」

 

 りいなの言うことがその通り過ぎて、簡単な言葉しか返すことができない。

 

 いや、でも……これはちゃんと言うべきだろ。

 

「りいな」

「なに」

 

 りいなのツン、とした視線が俺に向く。

 

「その……タオルも気遣いもありがとうな。助かった」

「……。そっ」

 

 短い返事。

 

 けれどその声色は、さっきまでより少しだけ柔らくなった気がした。




お待たせいたしました。

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