Infinite stratos / False prophecy 作:✕せんたくだま
例によって飛ばして大丈夫資料ですが、SFとしての根幹に食い込む部分ではあるので気になる方は良ければ……。
機体の設定集
バイドの設定集
メカニクス
小ネタ集
◆機体の設定集(3章時点で公開可能な範囲に限る)
・DE-VICE/ZERO / R-9∅ RAGNAROK
世代:なし
所属:不明
待機形態:不明
装甲:量子共振ソルモナジウム装甲
波動砲:ハイパー波動砲
仕様:シャドウ・ユニット搭載
ローカル・コア・ネットワーク対応機体
-シャドウ・ユニット
ポッド・デバイスの設計データをベースに、パイロットへの負荷軽減と火力の向上を目指して生み出された遠隔操作型の支援兵装。中核となる射撃ユニットを特殊なエネルギー体で覆っており、本体から離れられない代わりに潤沢なエネルギー供給を背景とした強力なレーザー兵装と、近接専用ながら体当たり攻撃を可能としている。
レーザー兵装は青白い光弾を水飛沫のように放つオールレンジレーザーや多方向への精密射撃が可能な黄色い光弾のガイドレーザーに切り替えることができる。
また耐久性能も高く、盾としての運用も可能だが、これには敵の攻撃に対して精密にシャドウ・ユニットの位置を合わせる制御能力が求められる。
-携行型レールガン
弾体をローレンツ力で加速して撃ち出す一般的なレールガン。束の作ったこの武装は一般的なものと比べて小型で耐久性に優れており、量子化による自動リロードを組み合わせることにより高い継戦能力を実現している。
破損してしまった場合に束にしか直すことができない独自規格の塊であるところが玉にキズ。
-試作型ハイパー波動砲
エネルギー供給の偏重と長いチャージ時間という課題を抱える波動砲において、「撃ったその場で仕留める」という設計思想を実現した兵器。ハイパードライブによる力場形成の安定化で低エネルギーの波動砲を強引に複数回分チャージし、順次撃ち出すことによって波動砲で機関砲のシステムを再現している。
C2から得られた本来の仕様では、一度収束させたエネルギーを外部の複数個所に分散させて個別に撃ち出すというものであったが、ISでは実現が困難であったため上記の仕様となっている。また、コア1個分の演算リソースでは複雑な力場が形成できなかったため、2個のコアを並列運用しなければならない点も、本兵装に「試作型」の文言が付けられている理由である。
束の娘、クロエ・クロニクルの専用機。バイドに対する決戦兵器「ゼロ」として開発が進められていた束の切り札であり、波動砲テクノロジーの解明を進める上で重要な立ち位置にある機体でもある。
未完成の状態ではDE-VICE/ZEROという名称で呼ばれていた本機は、ガルーダで得られた波動砲の調律パラメータを基に新機軸の兵器として開発されていた。しかしながらハイパー波動砲の実現には本機のコアのみでは演算リソースが足りず、生体同期型IS「黒鍵」を体内に埋め込んでいるクロエをパイロットに据えることで強引に補っている。そのため、暫定的ながら本機はダブルコアに近い状態で運用されている。結果としてクロエが乗る前提では完成したものの、束としてはコア一つでの量産運用を目指しているため、これからも開発が続くことになる。
ヴァイスリッター戦にて、付近で戦っていたガルーダから更なるパラメータが与えられたことで力場形成の安定化に成功。発射可能になったハイパー波動砲は莫大な負荷と引き換えに文字通り決戦兵器としての活躍を見せた。代償としてその後クロエは全身に火傷に似た炎症を起こしており、束の手厚い治療によって復帰している。
・REQUIEM-Type: "13/ORTHRUS"
世代:不明
所属:不明
待機形態:なし
装甲:不明
波動砲:ライトニング波動砲試作型→ライトニング波動砲
仕様:光学チェーン装備
疑似オシレーター実装モデル
-ライトニング波動砲
波動砲が放つエネルギーの大半を電撃に変換することで、物理的な破壊力を高めることに重きを置いた波動砲。本来アメリカで開発が進められていた兵器であるが、レクイエムシステムがコアネットワークを探索した際にこれのデータを見つけたこと、ベースになったレーゲンの仕様と相性が良かったことから装備されることになった。
波動砲の中核となる部品「オシレーター」は搭載されていなかったが、FPGA*1のようにISコアの機能を組み替えることで擬似的にこれを再現、実用段階に持ち込んでいる。
何度も発射する度に性能が洗練されていき、チャージ速度の短縮や誘導性能の強化が進んでいた。
-光学チェーン
左腕に装備されたレーザー体発生装置。高いエネルギーを持った小さなレーザー体を数珠のように連ねて鎖とする武装で、目標の捕縛や切断に用いられる。
予めコアネットワークを介してレーゲンに共有されていた《R-13T エキドナ》の武装データをレクイエムシステムが採用し、元々備わっていたプラズマ手刀を改造して生み出した武装。
触れただけでレクイエムシステムが注入される極悪仕様に加え、パイロットと接続対象を神経リンクさせる用途不明の機能が備わっている。
-アンカー・フォース
限界までエネルギー出力を引き上げた副産物として溢れ出るバイド体をその場で加工し、余った装甲パーツを組み合わせて生み出された次元兵装《フォース》の一つ。
体積に対して多量のバイド体を用いたためかバイド係数は3.0を超える高水準であり、鉤爪のような形状のコントロールロッドを顎のように開閉させながら自発的に敵に食らいつく。
光学チェーンによってオルトロス本体と接続することで、本体のエネルギーを用いたレーザー兵器の使用やパイロットの意思に基づくフォースシュートの制御が可能となる。制御不能の獣と化したオルトロスの、もう一つの「頭」である。
-レーザー刃
籠手のような形で腕に装備されたエネルギー式の近接兵装。投入エネルギーに応じて刃の伸びるレーザー体を生成するもので、光学チェーン同様にレーゲンのプラズマ手刀を作り変えて生み出されている。
コアからの圧倒的なエネルギー入力によって切断能力が高められており、白式の絶対防御をオブラート同然に貫通して一夏の胸を刺し貫く威力を見せている。
正体不明のプログラム《レクイエムシステム》によってラウラの専用機《
ヴァイスリッターとは強固な局所的コア・ネットワークで結び付いており、レクイエムシステムをストリーム配信しながら戦闘データを共有している。
コアの出力を限界まで上げ、最高最適の戦術と反応速度であらゆる敵を追い詰めて食い殺す本機は、パイロットへの負荷やバイド体による侵食を一切考慮しておらず、遺伝子強化体であったラウラでなければ発動から10秒未満で死に至ることが後にシミュレーションで明らかになっている。
シャルルが特殊武装《DP-MonBranc》でラウラを攻撃した際に注入されたレクイエムシステムによってラウラの意思とは関係なくレーゲンはオルトロスへと変貌しているが、この時ラウラの精神状態と機体の破損をトリガーに起動したVTシステムの仕様を突いてIS全体のシステムが乗っ取られている。言い換えれば、VTシステムさえなければレクイエムシステムが感染可能なレベルまで展開されなかった可能性がある。
ショウによる討伐後も機体の変貌が戻ることはなく、バラバラになった残骸は一部を残して管理機構に回収されている。
・REQUIEM-Type: "99/weißritter"
世代:不明
所属:不明
待機形態:不明
装甲:不明
仕様:零落白夜
疑似オシレーター実装モデル
-零落白夜エネルギー体ブレード(名称不明)
白式の唯一の武装であった《雪片弐型》だったもの。オルトロスに手折られたその銘はもはや存在しない。
かつての
零落白夜エネルギーの制御用アンテナのような役割を持つこの剣は、振るうことによってエネルギー消去作用のある純白の光波を放つ中距離武装としても機能する。
-流動性零落白夜エネルギー
上記ブレードを自身の胸に突き立て、取り込んだことでヴァイスリッターは更なる変貌を遂げた。背面に生成された純白の円環を本体とし、周囲に展開した力場から緩やかにエネルギーを吸い上げて零落白夜の輝きへと変換していく。変換効率は最悪の一言に尽きる。
零落白夜の制御方法も多様化しており、小刀の形にして投擲したり、自身の表面に展開して攻防一体の障壁として纏うなどのバリエーションを見せている。この「最適化」はまだまだ続くと想定されており、ヴァイスリッターが停止されなかった場合の被害想定は未知数である。
正体不明のプログラム《レクイエムシステム》によって一夏の専用機《白式》が改造された姿。付近に存在するバイド反応(=ISコア)を虱潰しに殲滅すべく暴虐の限りを尽くす、「白騎士」を名に冠する暴走兵器である。
オルトロスとは強固な局所的コア・ネットワークで結び付いており、レクイエムシステムをストリーム受信しながら戦闘データを共有している。
千冬の専用機《暮桜》と同一の
本機の零落白夜はレクイエムシステムによって形成された疑似オシレーターを転用して広範囲に波動砲用の力場を展開、自機のエネルギーを蓄積する代わりに周囲にあるエネルギー体を緩やかに「消化」して取り込んでしまう。劣悪な変換効率で生み出された零落白夜エネルギーは、まるで消化液のようにして物質までエネルギーに分解することができる。
当然ながらパイロットへの負荷は考えられておらず、かつての
楯無とクロエによる制圧後、精密に解体された本機のパーツは倉持技研へと移送、再構築が進められることになった。
◆バイドの設定集
・Amber Pupil
現在地球へ現れているバイド体全ての元凶と目されており、束たちが兵器開発を進めるたった一つの理由である。
通常の方法で観測することはそもそも不可能であり、仮にできたとしても圧倒的なバイドの波動によって侵食や精神汚染は免れない。したがってその姿を知るものは「変数s」の領域から垣間見たショウと楯無のみである。
レクイエムシステムの暴走、及びそれによって最大出力に上げられたISコア2機によって「汲み上げられる」形で
楯無の照準によってマリコから放たれた近歪曲子波動砲「ミストルテインの矢」によって、バイパスパイルごと亜空間の果てにねじ切られる形で撃退された。しかしながらこれは経路の一つを絶っただけで、この後の時間座標から琥珀色の瞳孔が現れない保証は何処にもない。
◆メカニクス
・マリコ 並行植物態
イメージ・ファイトの中央制御プロセッサとして運用されていたマリコは、スコアで他を圧倒するショウに興味を持つ。彼の「目の前で人が死ぬのを見たくない」という願いに呼応するも、人間でないマリコにはその実現方法が分からず、結果としてシミュレーションから「ショウが望まない未来」を提示し続けることで彼を外付けの評価関数として運用し、答えに迫ろうとした。
その過程で遭遇した琥珀色の瞳孔を打ち払うべく、CTCによる無限の時間の中でISコアという枠を取り払って自身を作り替え続けた結果がこの姿である。
時間そのものを自由度として無数の可能性を観測すべく、植物にも近い形状へと変化しているが、これは実時間上からは目覚めるように輝く赤い球体やタール状の黒い粘液にしか見えない。皮肉なことに、その空間分布構造はバイドのそれと酷似している。
・ISコア
フレームに搭載するだけでそれをISとして稼働させることができるが、そのエネルギー源は空間中の真空領域、そのポテンシャルを切り崩して吸い上げることによって得ている。ポテンシャルは外宇宙から流入して復元されるため、現存するコアの数においては無尽蔵のエネルギーとして扱われる。
しかしながら、本システムはエネルギーと同時にその場からバイド体を汲み出してしまう特性がある。束の対策によりコアそのものはその影響を受けないように逸らされているものの、パイロットはそれに含まれないため、ISの発表初期は「パイロットの精神変調」に関する報告書が提出されたこともあった(当然握り潰されている)。
通常の出力であればパイロットにも安全なはずのISだが、レクイエムシステムによって限界まで引き上げられた場合、相応のバイド体が撒き散らされることになってしまう。
束は、同時に存在するコアの数とそれから放たれるバイド体を計算した上で、それが致命的な汚染を生まないように製造するコアの数を決定している。その縛り結果として2000に足りない数のISが生まれ、しかしそれだけではバイドに打ち勝てないからこそ、束はコアの能力を結集してRシリーズの完成を目指しているのである。
・レクイエムシステム
そこにはC2に由来する「バイドを殲滅する命令」と「すべてのR」に関するテクノロジーが詰め込まれており、束とアアルたちはここからバイドへの切り札を生み出そうとしていた。普段はプログラム全体をバラバラに断片化させた上で特定のコアに仕込んでおき、そのコアの成長に従って外宇宙のテクノロジーを緩やかに取り込ませることが想定されていた。
しかし、タッグマッチの折に何者かの手によってシステムが復元されてしまう。元々あった殲滅命令に基づいてISを改造しながら、敵味方を問わずに牙を剥く暴走兵器を生み出す結果となった。
楯無によると、白式はレクイエムシステムを真の形にする為の器であるという。
・C2
束とシアが率いるオラクル財団の目的は、ここから得られたテクノロジーを地球でも扱えるように翻訳し、来たるバイドへの切り札を生み出すことである。一方で、C2そのものを復元する試みも進められており、現在のC2は発見当初の残骸ではなく周囲を無数の機械で囲まれた塊のような外観になっている。
白式も、BTシステムも、OFシリーズも、全てはこのテクノロジーから生み出され、そして還っていくべきものである。
・DP-MontBlanc
武装としての完成度は低く、事前にバッテリーにチャージされた2発分のエネルギー以外に外部からの供給ができず、以降はデッドウェイトと化す。しかも当然ながら試合のレギュレーションを完全に無視した代物であり、当たりどころによっては相手のパイロットに致命傷を負わせかねない。
その本来の役目はターゲットへの「レクイエムシステム」の注入であり、実際にVTシステムの稼働でセキュリティが脆弱化していたレーゲンはこれによってオルトロスへと変貌している。その後、シャルロットがオルトロスからの攻撃を本武装で受けた際に粉々に破損しており、証拠の類は発見されていない。
・サイバーコネクタ
とりわけ、頭蓋骨内部へマイクロマシンまたはナノマシンを流し込み、シナプスツリーと呼ばれる疑似神経回路を形成する「レイヤー3」は、C2から復元された「本来のサイバーコネクタ」の仕様に最も近い。
埋め込みには当然ながら穿頭手術が必須であり、旧式のマイクロマシンを投与されたショウも、最新式のナノマシンを用いたラウラも同様の処置を受けて圧倒的な反応速度を手に入れている。
24時間365日の使用に耐えるため、シナプスツリーの構造は「Xマルチプル構造」と呼ばれる特殊な構造を形成して拒絶反応や劣化といった要因を遠ざけている。
◆各話ごとの小ネタ解説とか
47 鼎が軽重を問う
・話名と前書きについて
「鼎の軽重を問う」といえば、相手の地位や実力を疑って試すことを指す諺ですが、今回は逆に鼎の方が問う側です。鼎というのは3つ組を指す言葉でもあり、詰まるところ一夏、箒、鈴音の3人が真耶に向かって「3人に勝てるわけないだろ!」と攻め立てるシーンを意味しています。結局1人で3人に勝ってしまった訳ですが……。先生コワイ。
前書きはシャルロットのイメージカラーのオレンジから。彼女の転入から少しずつクラスの雰囲気が別の色に染められていきます。陰鬱な色よりは多少胡散臭くても明るい方が良いですよね(?)
・謎の秘密基地シーン
無数のダンタリオンに囲まれた白髪の人物が登場。口調そのまま、アアルの「中の人」です。どうやらダンタリオンを12機集めて「破局」なる事象への対策としているようです。
ちなみにショウと楯無が相対した琥珀色の瞳孔の到来も破局の一つだったり。
・早速一夏と距離を詰めるシャルル
日々のストレスもあって安心できる同性の友人を求めている一夏ですが、シャルルの存在はその需要に完全に合致しています。年も違えばいつも何処かにいるショウより仲良くなるのは時間の問題でしょう。
そうして、一つ入れば一つ出ていくというキューが起こります。
・真耶VS専用機持ち三人衆
戦闘描写そのものは本文に書いた通りで小ネタらしいものはありませんが、一つ不穏を差し込んだのが一夏の感覚。繰り返し死の危険を感じることで彼の肉体と思考体系は段々と普通の少年のものからかけ離れたものへ変わっています。未来を見る代わりに現在を沢山見る能力と言ってもいいかもしれません。
専用機のない箒も着々と実力を身に着けており、実戦投入まで秒読みといったところ
・ショウによる解説コーナー
3章までと比べてハードSF的な部分で読者を殴るフェーズに入った本作でしたが、初っ端からその片鱗を出すべく入れたシーンでもあります。準結晶というのは不思議な物質で、温度を上げると電気抵抗が下がったり、硬さと頑丈さをある程度両立することができます。未来技術の装甲材としては結構それっぽいのかなと。
本筋に関わる部分で言えば、3次元のみでは読み取れない規則に基づく存在であること、実体よりも抽象的なルールが解決の鍵になること、の予告のような意味を含ませていました。
48 環状弱連成
・話名と前書きについて
連成解析という手法があります。これは異なる物理現象を繋げて解析するための手法で、例えば電子レンジに掛けたホットミルクの対流を考えるために、電磁波の吸収と熱と流体力学の式を組み合わせるものが該当します。この中で弱連成というのは、それぞれの物理の支配方程式を個別に解いて統合することを指します。簪へのネオンの勧誘、ネオンと楯無の摩擦、楯無とセシリアの会談、と言ったふうに全体の流れが順序立てて繋がっていることの表現でした。
前書きの方は、飛ばし記事としてばら撒かれたショウの悪評が社会を染め上げていくことの暗示……に見せかけた過去干渉の伏線です。ミルクティーを淹れようとしたセシリアの不自然な振る舞いがまさにこれですね。
・ネオンの「瞳」
やたらと瞳に関する描写の多い本作ですが、ネオンは尋常ならざる観察眼を持っているようです。そんな彼女が目を掛ける簪も楯無も相応の才能に溢れた二人なわけですから、その輝きは確かでしょう。楯無の分身のコアを見抜いてぶち抜く火力も備えているので隙がありません。
・更識によるショウの調査
この頃になってようやく情報が集まり始めたショウの身辺ですが、色々と妙な内容が目立つという話でした。実際のところ、SNSにワサビパック写真を上げているのはバックに付いているオラクル財団の情報工作ですし、暴力事件の話は今章でも語られていない過去ですし、ショウの自室にあった書籍は幼少の彼が自分を「普通の人間」に仕立て上げるための資料だったわけです。
流石は暗部組織というべきでしょうか、少し取っ掛かりができると一気に情報が揃っていきますね。
・よく隠れよ、よく浄めよ
暗部組織の長としては世間や重要人物たちの話題に合わせる必要がある、というところから想像してそれとなく読書家キャラにしている楯無ですが、このセリフはSFシリーズ「三体」からの引用です。詳しい意味は原著に譲りますが、本作での意味としては「隠しているという事実まで隠さないと隠したことにはならない」ぐらいのつもりです。
・CTCという言葉
本章終盤に登場したCTCと共通するアクロニムが先に登場しています。他でもなく未来の暗示だったわけですが、本話時点で時間的閉曲線のことまで想像できた人はまずいないと思います。
その直後のお湯が茶葉の色に染め上げられていくシーンも、楯無が感じた通りアクア・ナノマシンがガルーダに支配されていく状況の類似事象そのものです。
似た事象の繰り返しが未来を決定する……そんな「形態形成場仮説」は本作において極めて重要な意味を持っています。
49 DETERMINARE
・話名と前書きについて
和名はそのまま「決定論」を指すラテン語です。最終的に未来予測とシミュレーションと過去干渉の合わせ技みたいなものだったと明かされたショウの実力を指したもので、幾ら性能の高い機体やパイロットを揃えても、「ショウが勝つ必要がある」と決めた時点で勝敗もそれに従ってしまうわけです。
前書きはシャルロットを実行要員としたスキャンダル作戦のメタファー。それとなくラウラをけしかけたり、一夏に僅かな疑念を植え付けたりといった地道な作業をするのは、他でもなくシャルロットが母親と再びコスモスの華の大輪を眺めるために他なりません。
・一夏の読んでいた論文
ショウの読んでいたものを真似して読もうとした……というシーンでしたが、この時点で今章の答えがほぼ出ています。”Quantum mechanics near closed timelike lines.”という論文は、時間的閉曲線という思弁的な状況を使って計算ができるのか、できるならどのような性能が出せるのかについて検討した最初の論文です。
時間のループを使って計算しよう、というアイデアはショウが考えついたもの……というのがこの時点での描写になります。
・シャルルの母国語
ボソっと溢れた”Il vaut peut-être mieux ne rien savoir plutôt que de vouloir savoir à tout prix.”というセリフは、和訳すると「無理に知ろうとするくらいなら知らない方がいいよ」みたいな意味になります。これからスキャンダルで潰す相手のことなので、離れておいた方が火傷しないよ、という彼(彼女)なりの優しさというか罪悪感でもあります。一夏の純粋さが心に滲みているとも言えるでしょうか。
・シナプスツリー
ラウラの発言に登場したこの言葉ですが、R-TYPEにおいてはバイドエネルギーを収束させるためにフォース内部へ打ち込まれる疑似神経です。本作ではそれを応用して頭蓋骨の外から脳と外部デバイスとを繋ぐ構造体ということにしていて、これがサイバーコネクタの本来の仕様になります。
せっかく試験管ベビーなんて非人道なバックグラウンドを抱えているラウラですから、これくらいはやられていてもおかしくないのかなと。停止結界の弱点であるパイロットの集中力問題も、こうやって脳とダイレクトに繋がっていることを理由にすれば自然に表現できる気がします。
・ショウの目に映るもの
無数のシミュレーションの結果として「うまくいかなかった未来」が実時間上のショウに提示され続けている訳ですが、結果として彼の視界に映るのは地獄めいた景色ばかりです。彼が人付き合いを避けて孤独を選ぼうとするのも、なるべく酷い景色を見ないようにするためでしたが、レクイエムの暴走とCTCの発生が近付くこの時点ではその症状は更に悪化しています。
目の前で仲の良いはずのセシリアが打ちのめされていても見逃さねばならず、少し気を許せば幻覚じみた現実に負けてしまいそうになる……最後にラウラに「どっちだ」と尋ねたのも色々分からなくなっていることの証左です。
50 Blood-scape
・話名と前書きについて
話名はそのまま血塗れ模様の意味です。ホントに血塗れになったので。
前書きの方は旧約聖書にある約束の地カナンを表現する一文「乳と蜜の流れるところ」を露悪的に改変したものです。神曲のダンテも地獄巡りをしてから天国に行っていますからね、狂気と苦痛でこじ開けないと欲しい未来を手にすることなんてできないわけです。
・一夏とのすれ違い
ショウの自業自得です。彼の生み出した予測システムの精度では、何故か一夏の未来を読むことはできませんでした。基本的にリスクでしかないはずの一夏の存在は、皮肉にもショウからは「うまくいかなかった未来」を見ずに済む「人間」の一人でした。数少ないマトモな人間として一夏には優しくあろうとしていたショウですが、残念ながらマトモな交友関係の築き方も相手の存在を踏まえた行動も知らない彼の末路がこれです。普段なら隠し通せた異常性も、常に見せられる未来でいっぱいいっぱいになってしまった彼には限界だったということでもあります。
……もっとも、大それた願いを掲げるからには他の望みに目移りしてる余裕なんてないだろ、という筋書きなわけですが。
ちなみに、未来を見通せない相手にはイギリスで遭遇したエムも含まれます。だからこそ一夏の家族じゃないかと(半ば決め付ける形で)攻撃の手を緩めていたわけです。
・シャルロットの扱い
後書きにも少し書きましたが、本作のシャルロットは苦しい状況にあります。だからといって彼女へのヘイト作にするつもりは欠片もないということは、ここでしっかり主張しておきたいと思います。
一方で、原作で描かれた「代表候補を名乗りながら身分詐称」については明らかに放置してよい問題ではないと考えています。シャルロット本人は言わずもがな、デュノア社やフランス政府まで連座で巻き込んでおかしくないレベルのケジメ案件です。かと言ってこれはデュノア一家の問題にまで食い込んでいる問題でもあり、無かったことにするのも困難だったため、本当に悪い奴をオリキャラとしてアウトソーシングしながら少しずつ始末をつけていくストーリーにしています。シャルロッ党の皆様に置かれましては大変心苦しい限りですが、今はとりあえずどん底に落ちてもらうフェーズということで……。
・シャルロットの母
セシリアの母と同様に、本作ではまだ存命ということにしています。
これは私の個人的な思想なのですが、「無くなったもの」よりも「無くなるかも知れないもの」の方が人は必死になれると考えています。作劇においても、死んでしまったキャラクターは遺品や墓、過去回想の形でしか出せませんし、ここからできることと言えば、遺された者が未来に向かって心の整理を付けるくらいのもの。一方で生きているキャラについては、これから殺すことも、死から救い出すカタルシスも、ぶつかりあって関係を深めることも、文字通り何でもできます。
私が原作を読んでいて思ったのは「不治の病に侵された親なんて美味しい設定のキャラをそのまま死なせていいのか」というもの。死んだ人間の墓を幾ら穢したところでこの世にいない本人にはノーダメージですし、存命のうちにアレコレした方が縁者へのダメージも大きくなるはずです。
国家ぐるみの身分詐称なんてイリーガルなことをやる以上、シャルロットの根幹部分に食い込むくらいに強烈で闇の深いモチベーションを与えなければ説得力が足りないんじゃないかなと思ってシャルロットの母を生かしてみました。
果たしてエスプリは約束を守ってシャルロットに元の日常を返してくれるんでしょうか。
・糸を引くエスプリ
本章最終盤にてレイナとして登場した黒いISの少女の父親に当たる彼ですが、その狙いはショウではありません。シャルロットに語った目標はグランゼーラへの攻撃ですが、やっぱりこれも手段の一環であって、本当の狙いは束を表舞台に引き摺り出すことでした。
グランゼーラを後ろから支援しているオラクル財団に束が属しているため、深く叩けば彼女も動かざるを得なくなるという目論見です。実際にこれは成功してしまいました。
51 matter_of_time
・話名と前書きについて
話名はそのまま時間の問題。回避不能の結末をどうにか捻じ曲げるお話なので、”その時”が近付いてくることは拒めません。矢継ぎ早にショウは冷酷な選択を強いられます。
前書きについても同様ですが、これは複数の人物に対して言えます。ショウは「望む到達点」という目標で心を麻痺させて動いていますし、シャルロットは「母のため」というお題目で凶行に及ぼうとしています。
・暗躍する親子
エスプリと名乗る謎の男と、彼をパパと呼ぶ少女レイナのシーン。ここではエスプリが国際IS委員会のサーバーに対して何やら良からぬことをしています。
このときレイナが歌っているのは戯曲「魔笛」より「夜の女王のアリア」。この曲が歌われるのは亡き夫の遺産を相続できなかった夜の女王が、それを相続した僧侶ザラストロの殺害を娘に命じるシーンです。「あの坊主をこのドスでいてこましてこんかい、さもなきゃ勘当やぞ」とヤクザのオジキががなり立てるような話なわけですが、作中では「母のために男を害するように命じられている娘」というシャルロットの立場を嘲った描写です。
とにかくレイナの性格の悪さと肉体スペックの高さを描こうと入れてみました。
・医務室で目覚めるショウ
一夏とのコミュニケーションに失敗したせいで3日という貴重な時間を失ってしまいました。大ロスも大ロスです。詰み寸前の彼はもはや手段を選ばなくなっている訳ですが、このシーンにはもう一つの意図があります。それはショウの脳にこびり付いた教科書的な家族観の暴露です。
幼少期の経験から人間性が大きく歪められていた彼は、自分を定義する社会性を経験ではなく本などの情報媒体に求めました。人類の基本理念としてどこの本にも載っている「人間同士仲良くすべき」というお題目を真に受けて生きてきた彼は、人間と認識できる相手にほとんど出会えなかったために、それを現実的に修正する機会が無かったのです。
何はともあれ一睡して色々リセットされたので、一夏に見せたような限界状態からは少しだけ回復しています。小康状態みたいな?
・着々と進行するBT計画
リーからの呼び出しを受けたセシリアですが、すぐに帰ろうとは考えていませんでした。
3章でBTシステムの解析が大きく進んだことで、エリックに提案していた「精神拡張オービットデバイス」の計画がついにその全貌を現そうとしています。そんなことはつゆ知らず、仲の良いライバルの苦境を前に去るわけにはいかないと持ち前の高潔さを見せるセシリアですが、皮肉にもそのライバルからの突き放しを食らう羽目に。失望のまま学園を飛び出した彼女を待ち受けるのは、果たしてどんな未来でしょうか。
・フェアにやろうね!
今章最大の胸糞ポイントとして用意したセリフでした。
どの口で言ってんだ、といった状況ですが、そもそも言われた側のショウも未来視なんてズルを持ち込んでいるのでお互い様。土俵が社会レベルの悪評と宇宙レベルの危機で違うだけのことです。
シャルルとしては病み上がりのショウに無理してでもタッグマッチに出てもらわないと話にならないので、持ち前の演技力と男性操縦者の立場を活かして真耶を説き伏せる訳ですが、ショウとしてもここで退場すると詰みなのでそこに同調しています。自分から飛んで火に入るショウに若干引いたシャルルでした。
52 ×2 [{百} \ {一}]_REQUIEM
・話名と前書きについて
話名は白式の状態を表しています。詳細は後述するとして、52を2倍すると104になること、差集合記号「 ∖ 」を使って百の字から一の字を取り除いていること、それを名前の一部に持つレクイエムという単語が組み上がることが並べられています。
前書きについてはレクイエムシステムの基本ロジックを抽象化した一文のつもりです。解析して、統合して、一つの究極を目指すのが至上命題なので。
・胎動するゼロ
37話で一度だけ名前が出ていたゼロの正体が判明するシーンでした。機体の詳しい説明は上記の資料と本文に譲って、ここではDE-VICE/ZEROという名前の由来について書こうと思います。
そもそも本作にR-9∅を出すに当たって、いきなりそのまま出すのは技術的に難しいだろうと考えていました。何せ最強の主人公機(メガ波動砲とハイパー波動砲の切り替えは流石に無法すぎる)なわけですから、相応のテクノロジーが要求されます。そういうわけで開発中の試作機ということにしつつ、後に完成したときのために正体を匂わせるような仮の名前を与えています。
まずラグナロックの異名である「エリミネートデバイス」からDEVICEという単語を借ります。これを否定のDEと「悪しきもの」を意味するVICEに分解して、最後に型番の空集合をゼロと読めば完成です。「悪しきバイドを一つ残らず殲滅する兵器」が総合的な意味合いになるでしょうか。
・第二回モンド・グロッソの開催地
さも当然のようにポーランドだったことになっている本作ですが、もちろん捏造設定です。そもそも、驚くべきことに原作やゲーム版においてモンド・グロッソの開催地が何処だったかの記述はありません。この開催地を推理するための情報は「ドイツ軍が一夏の身柄を最速で見つけられた」ことと「ドイツ側は問題に思うどころか千冬に恩を売れている」という状況のみです。
仮にドイツ開催だったとすると、自国で行われた世界大会が誘拐事件の舞台になる、という特大の不祥事をドイツは抱えることになります。呑気に千冬を講師に招いている暇なんて無いくらいには各国から叩かれることでしょう。では、他の国はどうかと言えば、米英中露を始めとした「他国を覗き見することに余念のない大国」が先を越せていないという状況が引っ掛かります。何故ドイツが先に一夏を見つけられたのか? この回答として、私はポーランドを選びました。
ポーランドというのは歴史的に「ドイツに好き勝手される国」という立場にあります。プロイセン時代にはまるでホールケーキみたいに国土を解体され、第一次大戦時には「道路」として更地にされました。ナチスがガス室を設置したことで悪名高いアウシュヴィッツはポーランドの街です。こういった経緯もあり、本作のポーランドは「主権ガン無視でドイツが勝手に監視していてもおかしくない隣国」という哀しい立場にあります。
一方で、首都ワルシャワではバスケットボールやチェスの世界大会、旧都クラクフでは国際電波科学連合の会合が行われるなど「世界からツワモノが集う国」でもあり、モンド・グロッソの開催地としては申し分無いと考えました。
どうして原作に開催地の情報がないの? 本当にどうして……?
・DP-MontBlanc
シャルルが渡されたパイルバンカー波動砲です。由来はR-9DPハクサンから。フランス語におけるモンブランは「白い山」を意味しますが、漢字だけ抜き出せばそのまま石川県の名峰白山と全く同じ意味です。ちょっと露骨すぎたでしょうか。
方々から技術を盗み取っては自分のものにしているらしいエスプリが手にしたテクノロジーの一つが、このパイルバンカー波動砲だったわけです。もっとも、盗んだだけの粗悪品なので本物には程遠い性能ですが。
・コード・レッド
感染性の高いプログラムの蔓延を防ぐべく、束は開発中の機体を使ってコアネットワーク全体への命令を飛ばしています。箒への贈り物である本機のコアには特殊な権限「コード・レッド」が与えられている……というのが本編のお話でした。これは原作そのままの設定で、女王個体とでも呼ぶべき特殊なコアにのみ許された権能を束が緊急避難として使っています。
ここで実際に行われた操作についても解説します。コアネットワークは全てのコアが相互に接続されたグラフ構造ですが、束はコア同士の通信に掛かる距離コストを片っ端から無限大(最も遠いノードとして扱う)にしています。点と点を結ぶ辺で結ぶグラフにおいて、ある点から別の点への最短経路を求めるアルゴリズムでは、とりあえず全ての辺の長さ(距離)を無限大ということに仮定して、そこから手近な点までの距離を一つずつ当てはめながら経路を決めるのが基本です。本編ではコアネットワークの経路全体を強引に初期状態にリセットして、全てのコアが誰に通信すれば良いのかを分からない状態にしてせき止める防疫を行いました。
言ってしまえば、女王様の号令で全員の口を塞いだようなものでしょうか。
・「レクイエム」という楔
唐突に登場したレクイエムシステムというギミックに置いていかれた読者さんは少なくなかったかも知れません。実はこれもR-TYPE由来のネタです。
時はR-TYPE FINAL 2の開発前に行われたクラウドファンディング時代に遡ります。約5万円の支援プランの報酬にゲーム内で4種の追加機体が使えるというものがあって、その一つに「R-104 WHITE REQUIEM」がありました。101が最大値だった型番のその先にある究極互換機ということで全プレイヤーの注目を集めたこの機体は、本編発売後しばらく経った頃に「R-99X REQUIEM」という名前に変わっています。機体のカラー変更機能のために色に関する単語を名前に使えなかったとプロデューサーは説明していましたが、ともかく結果としてR-104という型番は失われました。
「究極からの派生形」である「存在しない機体」という外れた概念をテーマにするため、本作ではこれをプログラムの形で登場させることにしました。話名の「52 ×2 [{百} \ {一}]_REQUIEM」を組み替えると「104 WHITE REQUIEM」になるのはこのためです。
そして、ISにおいて白といえば……という連想ゲームにたどり着いた果てがこれです。
・ラウラのレクイエム
レーゲンが変化したオルトロスの由来がR-13A ケルベロスであることにはお気付きの方も多いと思います。
レクイエム化のテーマは「既存のR戦闘機をベースに、存在しない機体を生み出すこと」です。カラーリング、まるで相手を鎖で縛るようなAIC、電力を用いるレールカノンといった要素をR戦闘機に照らし合わせた結果、ケルベロスに至る過渡状態の機体のようなデザインになりました。
レクイエムシステムは「元に戻ろうとする」性質があるため、独りでにアンカーフォースを生み出して運用する所まで漕ぎ着けています。
・一夏のレクイエム
オルトロスと違って白式の性質が露出するようなデザインとなったヴァイスリッターですが、名前の由来はそのまま白騎士です。
これは本作を書こうと思った根本的なアイデアの一つなのですが、白寿が99歳を指すように「白」という字には九十九という意味があります。「百」という字から「一」の字を除いているからと言うのは先述の通りです。
一方で、元ネタである「R-104 WHITE REQUIEM」の基本カラーはそのまま真っ白でした。そして一夏の名前には「一」の字があります。一夏が生死不明に陥ったことで白式がヴァイスリッターになったように、一と白の片方が欠けたことで99が起動する、という図式はここから生まれました。
ここでぶっちゃけてしまいますが、一夏には「究極」を背負わせます。4章の事件はその始まりに過ぎません。
53-1 決定論者たちのパラテネシス
・話名と前書きについて
話名についてはマリコ、ショウ、楯無の三者の間で繰り広げられている物語を指しています。パラテネシスというのは、「寄生生物が次の宿主へ移動するチャンスを伺って大人しくしている待機状態」を指す言葉で、目当ての宿主に移動した暁には待っていたとばかりにその生物の環境を使って成長や変態が行われます。勿論、それに伴って宿主に何かの症状が出ることもあるでしょう。寄生性を持ったISコアのマリコは、破損したガルーダから無垢なOF-3、更にはショウと楯無の思考領域へと寄生先を変えて変貌していきます。その時が訪れるように、ずっと待ち構えていました。そんな、精密な未来予測による決定論に巻き込まれた彼らの状況を表したのが、この話名というわけです。
前書きは死者へのミサ曲であるレクイエムで歌われる祈祷文のラクリモーサ(涙の日)です。レクイエムと銘打った敵が暴れているのでこれを採用しています。なお、ここから53話全体でレクイエムの祈祷文が並びますが、順序はすべて滅茶苦茶にしています。CTCの発生で時間がぐちゃぐちゃになっていること、レクイエムシステムそのものが未完成であることが主な理由です。
・ガルーダの新生
レクイエム化したIS2機に寄って集ってズタズタにされたガルーダですが、ショウがコアを別のOF-3に載せ替えることで復活しています。鉢植えが割れてしまったので苗を植え替えたような状況ですが、普通のISではそのようなことができないのは本文の通りです。
そもそもガルーダはISではなく別系統のパワードスーツ。それを一応コアでも運用できるように作っているというだけで、コアからすれば本来収まるべき器ではないのです。形態移行なんて起こせませんし、ISらしい自己修復機能もありません。それをできる限り使い勝手の良いようにマリコが作り変えようと試みた結果が本編の変貌でした。
マリコの寄生性を最初にハッキリ描いたこのシーンにおいて、ショウはマリコに導かれるように行動しています。イメージはハリガネムシに操られるカマキリでしょうか。
・真耶との摩擦
実のところショウも真耶も互いのことを気に入ってはいます。ただ、ショウの視点からだと真耶の姿を人間と認識できない上に、自分に刷り込んだ「人間らしい振る舞い」に反して彼女に適切に向き合えないダブルバインドという強力なストレス源になってしまっています。それを真耶は自分がまた何かしてしまったのではないかと不安になるために、互いの気持ちが空回りするライブロック状態が続いてしまいました。
結果としてショウの方から真耶を突き放す選択を取ることになりましたが、この世間知らずは自分以外の人間の執念深さというものを分かっていないようです。
・楯無の仮説
ショウに対して「もしかしてコイツ未来を見てるんじゃないか?」というのを出会ってすぐの段階で楯無は考えていました。普通に考えてまず有り得ない話ですが、後になってからでないと知り得ないような物事が彼の口から時折飛び出すのを無視できませんでした。楯無のISが赤色に変わることを何故か知っていたこととか、将来記述されるはずの簪のソースコードを風景画にしたりとか、そういった出来事を「本人の不安定な精神によるもの」ということにして納得したフリを続けていたわけです。
しかしながら「未来を見る」というのは厄介なもので、実際に見たことを論理的に証明する方法がありません。単なる精神異常者の幻覚がたまたま的中したと言ってしまえばそれまで。だからこそ楯無は、ロゴス(論理)ではなくエトス(信頼)によるアプローチとして本人に全てを説明させようとしています。
・遮断器
原作や本作3章に登場した剥離剤の亜種ということで設定したこのアイテムですが、これは剥離剤を特定の機体に特化させた代物です。
とりあえずフレームを機能不全にしてコアを引っ剥がす剥離剤に対して、白式のパーツの継ぎ目やモジュールの境を完全に決め打ちする形でバラバラにすることが出来ます。組み上がったレゴブロックをハンマーで粉々にするのが前者なら一つ一つを丁寧かつ同時に分解するのが後者といえるでしょうか。キレイに壊すのですぐに組み直せるのが売りです。
勿論これは剥離剤としての性質を完璧に備えているため、その副作用も同じく存在する訳ですが……。
・暗黒の森
R-TYPEで暗黒の森といえばクロスザルビコンで訪れる某ステージを想起される方が多いと思います。実際それを狙った舞台設定なのですが、ラウラの心象風景ということもあってこれは現実世界の何処かにある場所が元になっています。
ラウラの過去を掘り下げていくにあたって、彼女の生まれについて扱うのは必須事項です。そうなると彼女が「生産」された施設も存在するはずで、このシーンはそれを描くための前段階に当たります。どうやらアアルはその辺りに詳しいようです。
・レクイエムシステムの起動
後書きでは「日和見感染症」みたいと書きましたが、もう少し詳しく。
そもそもラウラの専用機であるレーゲンにはVTシステムが密かに搭載されていました。ラウラの精神状態と機体の破損状況をトリガーに起動して、ラウラに現役時代の千冬を再現させるものです。
このVTシステムが起動する際にレーゲンを泥状に分解する訳ですが、本作においてはこの操作に最高位のシステム権限が必要になると設定しています。普通に動作している最中にこんなことが起これば宇宙服どころではなくなるためです。
作中では、パイロットの保護などの一番低いレイヤーの機能を無効化してシステムに全部を明け渡すそのタイミングで、シャルルに打ち込まれたレクイエムがその権限を掠め取りました。起動シーケンスで「優先順位変更」とか「CORE REJECTION」とか書かれていたのはこの為で、コアが拒絶しても権限が取られているので為す術なく乗っ取られています。
・ISコアのエネルギー源
ソシャゲ版のアーキタイプブレイカーでは他の宇宙からエネルギーを吸い上げている(吸い上げるのをやめても出力はほぼ変わらない謎)、ということになっていたISコアですが、原作では特にどういうエネルギー源かは言及がありません。
本作では上記にならう形で「空間からエネルギーを汲み上げる」方式にしました。更にR-TYPEとのクロスなので厄ネタポイントとして「一緒にバイドのエネルギーも汲み出してしまう」性質もトッピング。バイドを倒すのにバイドが出てくる「ゲロ吐きながらゲロ掃除」方式を採用しています。
波動砲はそれなりに登場させている反面、どの勢力もフォースの製造がおいそれと出来る状況ではないので、レクイエムを介してポン出しする為の設定でもあったり。
53-2 気早な番犬 / 侵略の表象
・話名と前書きについて
話名はどちらもレクイエム化した2機を指します。ギリシャ神話においてケルベロスの兄弟に当たる双頭の犬オルトロスは、一説によるとせっかちな性格とされていますが、敵味方関係なく見つけ次第ISを襲う作中の描写そのままです。一方のヴァイスリッター(白い騎士)はヨハネの黙示録の四騎士に由来していて、第一の騎士は侵略と勝利を象徴する存在です。
前書きは前話に引き続きレクイエムの祈祷文から、呪われたもの (Confutatis)を持ってきています。例によって順番はめちゃくちゃですが、ここで意味しているのはショウの祈りにも似た切望です。バイドを招き寄せながら暴れるレクイエムを鎮圧し、その後に控える琥珀色の瞳孔を退けた暁には、どうか「うまくいく未来」を導いてほしいという願いが込められています。
・ライトニング波動砲
似た武装として以前登場した試作型がありますが、こちらは正真正銘ケルベロスの波動砲です。しかも撃つほどに性能が向上していくオマケ付き。
試作型は誘導しないのを良いことに弾道(と言っていいのか?)を見切っていたショウですが、段々と回避が難しくなっていきます。早々に回避を諦めた彼は、掟破りの「受け止める」戦法を選ぶことになります。
・完全に露呈したガルーダの亜空間機能
作戦の要にする為に切らざるを得ない手札でしたが、こんなものを隠し持っていたとあってはショウの居場所が無くなるのも明白な能力でした。何せ、どんな防空網も無視して突っ込めるような兵器を高々一企業が保有して売り出そうとしているわけですから、各国にとっては格好のネタになります。
この章自体がショウの居場所を破壊するものというのもありますが、今後のグランゼーラという企業の立ち回りへ大きな影響を与える行為としても描写しています。
・レクイエムシステムの管理者
束が完全なコード、アアルが始動キーを持っているということになっていますが、語弊を恐れずに書けばこれはシステムが2人の合作だからです。互いに高い技術を保有する存在として、共同でC2の調査を行ったタイミングが過去に存在しています。
・ラウラの「症状」
時々離任症のような感覚に陥るラウラですが、これは彼女が弱いながらもバイドの精神汚染に対する感覚を持っているためです。もちろんバイド汚染に直接触れればひとたまりもありませんが、彼女はバイドの存在を鋭く感じ取り、遠ざけるだけの猶予を他人より多く持っていると言えます。この場合のバイドは基本的にISコアから漏れ出したものが大半なので、彼女はISに乗る程にこの症状に苦しめられることになります。
これは遺伝子強化体プロジェクトの一環としてラウラに与えられた形質の一つですが、遺伝子であるため天然にも存在し得るものでもあります。
そういえば似た体質を持ったキャラが他にもいたような……?
53-3 Ominous Cross
・話名と前書きについて
「不吉な十字」を意味する話名ですが、これは原作におけるレクイエムの型番「R-99X」のXに由来します。ここまで描いた通り、こんなの不吉に決まってますからね。2つ裏テーマの1つとして、某ソシャゲのボス曲から引っ張ってきているというのもあったり。もう一方は後述。
前書きは引き続きレクイエムの祈祷文から「奇しきラッパの響き (Tuba mirum)」。有名な「怒りの日」から続くパートですが、これは最後の審判における死者の復活と神による裁きを描いた部分です。呼び寄せられつつある琥珀色の瞳孔の降臨を前に、善く戦う者も、己の行いに報いる者も、皆めいめいに運命に弄ばれます。
・マリコのマーキング
久々に言及されたワルキュリアですが、最初にマリコが搭載されたOFということもあり、特異な性質が残っていました。それこそが作中でマーキングと呼ばれたもので、IS用ではないフレームをマリコが自分に合うように配線したり装甲の結晶構造に手を加えたりしています。
量子化も自己再生もできないので、あるものでなるべくスペックを出せるようにした結果、マリコ以外のコアが受け付けなくなるレベルで色々刻み込まれてしまいました。
束が封印しているレクイエムシステムはコアを介して機体を作り替えるため、コアと機体がきり離せるワルキュリアの残骸は格納容器としてもってこいの性能だったわけです。
・ヴァイスリッターの戦闘パターン
レクイエムシステムがVTシステムを踏み台にして起動していることもあり、ラウラの機体に埋め込まれていた千冬の戦闘パターンが取り入れられています。
素体となる白式が暮桜と同じ戦い方と武装をしていることもあり、序盤のヴァイスリッターはVTシステムそのままと言っても過言ではないでしょう。ただしレクイエムシステムの仕様は「再現」ではなく「進化」なので、だんだん別物へと変貌していきます。
・再びのイカサマ戦術
ナノマシン入りの水を事前に仕掛けておいて戦況を有利に運ぶ楯無の戦術がまたもや登場しました。実を言えばショウとの初戦での戦術は、この回で出すための下準備でもありました。
今回は地面を濡らしておくに飽き足らず、直接水をぶっ掛けてからの連続起爆で攻め立てます。学園が彼女の庭であるのなら、ホームグラウンドであることを徹底的に利用させるのが「らしい」のかなと。
一方でヴァイスリッターの能力はそれすら上回ります。
・ヴァイスリッターの「再生」
連続爆撃で動けなくなったヴァイスリッターは、トドメを刺しに来た楯無を居合の要領で迎撃、退けた後で急に自分自身に刀を突き立てました。刀は内部へ取り込まれ、ヴァイスリッターはさらなる姿へと変貌しながら完全再生……という展開でした。「再生」や「復活」はまさに神秘の象徴なので、「ꙮ」みたいな変な文字を叫び声に使っています。
読者の中にお気づきの方が少なからずいらっしゃるかも知れませんが、そもそもレクイエム関係は漫画のBLEACHに強い影響を受けています。顔を仮面で覆いながら暴走するレクイエム化は「虚化」、刀を取り込んで強化と回復を同時にするのは「帰刃」、そして話名の裏テーマでもあるヴァイスリッターが見せた十字の斬撃は「月牙十字衝」、エネルギーの隷属は「聖隷」といったような対応関係があります。これじゃ一夏じゃなくて一護じゃないのよ。
一夏の素質をなるべく特別なものにしよう、刀一本の戦いに相応しい描写を入れよう、あと対人戦闘だからオサレ成分欲しいとアレコレ考えた結果がこの暴走形態だったというわけです。
特に波動砲のアナロジーとしての「飛ぶ零落白夜」は必ず入れようと考えていたため、同じく飛ぶ斬撃の月牙天衝にイメージ元として白羽の矢が立った次第。虚も滅却師も混ざったオマージュですが、原作の一夏も色々な意味で「混ざり物」なのでそんなに悪いものでもないのかなと。
暴走形態のお約束ですが、次章からはこれを一夏自身の力に変えていくフェーズへ移ります。
・ショウの送りつけた「答え」
アリーナから追い出される寸前にシャルルが受け取った謎のメッセージですが、その正体は学園の電源制御システムのログイン用暗号だったというオチ。先に答えだけ渡されて問題の方を探さなければならない禅問答みたいな仕掛けですが、これもCTCによる時間のループの産物です。このメカニズムは後述しますが、「暗号を解いている」というよりは「答えとして辻褄が合うものしか出力されない」感じの仕掛け。
基本的に盗聴が不可能ということになっている量子暗号に対して、覗き見することなく初めから答えを知っていたことにする……そんなチートを実行している割にショウのやり方は大分投げやりです。何せこの後本当に自分が飛び込むことになるか本当に分かっていない対象であるCTCのループから得た結果を何も知らないシャルルに押し付けています。
「とりあえずそこに誰かいるだろう」という滅茶苦茶が結果的にうまく行っただけです。少なくとも因果の上では。
一夏との衝突で3日寝込んでしまったロスが大きく響いてショウもいっぱいいっぱいになってしまっているため、そのキッカケを生んだシャルルに因果が返ってきている形とも言えるでしょうか。
53-4 叡智の泉の底から
・話名と前書きについて
話名は真の姿を表したラグナロックを指しています。叡智の泉というのは北欧神話でオーディンが片目と引き換えに水を飲んだミミルの泉で、一説にはここには最終戦争ラグナロクの合図となるヘイムダルの角笛ギャラルホルン(または持ち主の聴覚そのもの)が沈められているんだとか。というわけでミミルの泉からギャラルホルンを引き上げてヘイムダルが吹く……という流れの起点でラグナロックの完成を表現してみました。
前書きはまたもやレクイエムの祈祷文から赦祷文 (Responsorium)。ちなみにこれはレクイエムのミサが終わったあとに唱えられるものだそうで、前回までミサ内で使われる祈祷文を並べていたことと対比して「ある一連の流れから飛び出してしまったこと」を指します。もう一つ、文中では怒りの日(=最後の審判)が登場しますが、本作ではこれと北欧神話のラグナロクを結びつけて書いています。明確な共通点として、最後の審判もラグナロクもいつかの未来に起きる終末というものがあるのが書いている上では大きかったと思っていたり。ラグナロックが登場してレクイエムを鎮圧する一連の流れが宗教的なエッセンスとしての「終末の否定」だったわけです。
・ライトニング波動砲を耐えるマルチバリア
今回はTACTICSの描写に合わせて波動砲を耐える武装を用意してみました。「命中=死」な攻撃が多すぎる本作なので、たまには希望を用意しようかなと。
ちなみにこのマルチバリアは本家イメージファイトに登場するパーツの一つで、実際にラスボスの攻撃を無効化することが出来ます。ネームバリューは十分ですが、本作ではあくまで部分的に技術を再現したものということで一撃でオーバーヒートを起こすくらいの性能になりました。
・ハイパードライブシステムとラグナロックの完成
ヴァイスリッターの獰猛な能力によって打つ手の無くなったクロエは、ついに切り札として生体同期型IS「黒鍵」とデバイス・ゼロの同時運用に乗り出します。それに呼応するように、クロエに向けてラグナロックの中核となるハイパードライブシステムの調律パラメータが送られてきます。クロエはこれを隣のアリーナで戦うショウとマリコからのものと考えましたが、実際の送り主はこの後のCTC発生時点のマリコという時を越えたメッセージでした。
ちなみにこの時「格が違う」と急にクロエがマリコのことを認めていますが、これは肉体と融合している黒鍵に思考が若干引っ張られているため。同族のはずなのに異質な相手へ向けられるコアの知覚を人間の思考に翻訳したら「畏怖」が近かった……みたいな感じです。
いざシステムが完全稼働した際に表示された一連の文章は北欧神話をまとめた書籍の一つ「ギュルヴィたぶらかし」の49章の一節で、主神オーディンの息子である光の神バルドルがロキの策略でヤドリギによって命を落とした場面。不死にして純粋無垢な存在が斃れたことに他の神々は絶望し、とりわけオーディンは息子を失った上でこれが最終戦争への引き金になることを悟り言葉を失います。まさしくラグナロックの到来を指す文章ですが、本章における「光の神」が指すものはもう一つあります。
・楯無の断頭と最後の一手
自分ごと相手を霧に包み込んでクロエのための時間を稼ぎ、合図と共に首を撥ねられた楯無ですが、例によってここにも宗教的エッセンスを組み込んでいます。本作のこの時点までの彼女のモチーフはイエスに洗礼を施した預言者ヨハネです。2章ではそのままガルーダの覚醒に洗礼という形で関わっているのは結構直接的な描写だったかも。
そんなヨハネですが、最終的には為政者を敵に回して首を撥ねられてしまいます。楯無の場合は水を使った身代わりだったわけですが、死ぬところまでモチーフ通りの動きをさせてみました。さて、今回楯無が首を撥ねられることになった元凶は誰でしょうか? モチーフは既に仕込んであります。
53-5 その獣を井戸底へ / 光の神に運命の死を
・話名と前書きについて
「その獣」と「光の神」はどちらも琥珀色の瞳孔を指します。光も届かない井戸底……つまり異層次元の彼方に元凶を追い払い、こちらの空間に顕現するという運命を捻じ曲げて殺すためのCTCの発生がショウにとってのゴールです。クロエの方でラグナロックを回収したと思いきや、本当の最終戦争は時間の外側にありました。
前書きは本作において貴重なマリコのモノローグ。元々S適性という常軌を逸した親和性を持っていたショウですが、そもそもIS適性とは何でしょうか? 本作においてはコアの思考にどれだけ近いかを表す指標ということにしています。思考が違えばコアはそれだけパイロットの考えを補正して理解する必要がありますし、逆にそのまま受け入れてしまえるケースもあります。今回のショウとマリコは長い時間の果てに互いの思考へとどんどん近付いていき、ついには違いが見つけられないレベルに達してしまいます。こうなっては「自分の中にある異なる存在」であるパイロットをマリコは見つけられなくなり、ショウはガルーダの一部品として扱われるようになります。身も蓋も無い表現を使えば、シンクロ率400%みたいな感じ。
・重なり合うショウの言葉
CTCの発生へ向けて時間が近付いていくにつれ、どんどんおかしな事象が増えていきます。
イギリスでセシリアとの間に起こった事象が「拡散」ならば今回は「収束」で、この瞬間まで生き延びてきた無数のショウ一人一人の言葉が結末へと引きずり込まれています(なんか一人だけワサビ中毒者がいますけど……)。
・失われたコード・レッド
原作の話をしますが、コード・レッドは箒の専用機のコアが持っていた最上位権限でした。その性質は強力なデバフ効果で、自分以外のコアの機能を低下させることで相対的に自身を最強とする凶悪なものです。
現時点で箒にはそのISコアが渡っていないため、束がコアを介してこれを発動しています。しかし、いざレクイエムの鎮圧が終わってみると、件のコアからコード・レッドは失われていました。
例によってこれもマリコの仕業。無限にも近い時間と経験で成長を続けたコアは女王の権能すら簒奪してみせたのです。マリコは奪ったコード・レッドで自身に対する他のコアからの干渉を完全に遮断し、何の邪魔も入らないようにして次の準備に移ります。
・導かれ、導く楯無
当人はショウへの義憤に駆られて動いているようで、実はマリコの掌の上にいることを自覚していて、それでいてマリコの狙いに自分が必要不可欠だと気付いてしまった彼女。
最後に引き金を引くのが彼女であり、運命のイニシアチブを握っているのが誰かを皆分からないまま突き進んでいます。ガルーダを発熱させて散水による冷却を誘っているマリコですらここで楯無が乗ってこなかったら詰みなので。
・変貌するマリコ
イメージ・ファイトでかき集めた稼働データで形態移行できないなりに成長を重ね、コード・レッドを簒奪して完全に独立したコアとなったマリコは、楯無から奪ったアクアクリスタルと多量のアクア・ナノマシンに自身を溶かし込んで真っ黒いタール状の液体へと姿を変えています。
量子効果の影響を受けるナノ流体となったマリコは、普通のコアよりも嵩を増したことで空間への干渉能力が劇的に高まっています。更に、流体全体が同じ自分自身であることを保証するため、一部と全体が全く同じ量子状態を持つボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)を起こして、ついに準備完了。ここから運命を射殺す儀式の幕が上がります。
・CTCってなに?
そもそもCTCが何かを簡単に書くと、スタンドのキング・クリムゾンです。外から見ると結果だけを残して過程が一瞬で終わりますし、CTCの中では幾らでも時間をループさせて過程を作ることができます。
一般相対性理論の解の一つとして存在するこの現象は、空間をブラックホールのように極端な条件で捻じ曲げると時間の進行方向がループするようになってしまう、という形で理解されています。タイムトラベルを可能にするこの状態ですが、強力な制約条件として「自己無撞着性」というものがあります。これも簡単に書くと親殺しのパラドックスのような矛盾する事象が絶対に起こらないようなもので、ループに入るものと出てくるものは必ず因果関係として結ばれていなければなりません。自由に運命や過去を弄ることはできない、とも言えます。
さらに興味深いことに、時間のループを許容する形のアルゴリズムは上述の論文”Quantum mechanics near closed timelike lines.”で相当の計算能力があることが証明されています。身近な例だと「マスの広さをN×Nに一般化した将棋の必勝パターン」が計算できて、普通のコンピュータと違って計算時間をループの中に押し込められるので外から見ると一瞬で答えが出ます。
とはいえ地球上でこんなものを生み出してしまうと、強烈な空間の歪みに引き千切られるようにして天の川銀河ごと消滅しかねないレベルの周辺被害が起こりますし、CTCの近傍から内部までは因果と時空が暴れ狂う極端な環境が広がっています。人間の肉体にしろ精神にしろ立ち入れるような場所ではないため、実際にはマリコが領域展開よろしく空間を囲って手術室のようなものを作って、しかもループのギリギリ外側に楯無とショウの精神モデルを配置して緩衝地帯を形成しています。それでもアリーナの内部を球状に抉る程度の爪痕を残してしまいました。
54+i fc0ac3129944e2658429cfe0e0808a1346f8dd340a8ed4d044c26086f738a578
・話名と前書きについて
話名はイメージファイトⅡのキャッチコピー「求む、脳の丈夫な若者!」をUTF-8として扱った上でSHA-256でハッシュ化したもの。無数の未来を脳内に流し込まれて苦しみながら生きていたショウですが、運命を捻じ曲げるこの場にあっては役者の数が不足していました。同じ場所に立てるのは無数の未来の景色に耐えられる存在のみ。マリコと関わった楯無は否応なしにこの能力を身に着けるまでパワーレベリングを受けることになります。何故ハッシュ値なのかは後述。
前書きは始点と終点の存在しないCTCによる運命の改変を描いたもの。CTCの中と外では時間が独立していて、外から見るとループは一瞬の中に圧縮され、中では無制限に時間を繰り返す事ができます。果たしていつからこのループが始まったのか? ショウとマリコのどちらがキッカケだったのか? それら全ての問いはループの中に窮屈に折りたたまれ、今や誰も読み解くことができません。分かるのは、それらが矛盾を持たないということだけです。
・
ラプラス変換というものをご存知でしょうか。複雑な微分方程式(時間的に変化する現象)を、代数方程式(単純な四則演算)に変換して解きやすくするための数学的手法で、めちゃくちゃ雑な表現をすると「未来を見る方法」です。この場合の時間で変化する現象というのは、「手から投げられて地面で跳ねるボール」、「電子回路内の電圧」「宇宙全体」など、数式としてモデル化できるのであればどんなシステム(系)でも対象になります。機械工学の世界では面倒な数式を簡単な形に整理するための強力なツールとして知られています。
ラプラス変換は我々が普段生きる時間領域の出来事を現在から未来の全てで積分し、sで表される複素数の世界へと変換します。この時点で時間という縛りは無くなり、過去から未来に至るまでの現象全体を俯瞰できるようになります。言い換えれば、止まった時間の中にシステムの全てを一枚絵として描くようなものです。
本作におけるCTCは、時間のループを積分の代わりとして無数のパターンを集積し、未来に起きる出来事を一纏めに俯瞰できるようにするための装置でした。だからこそ、ショウはこの空間をカーペンターズの曲になぞらえて「世界の頂点」と表現しています。
・白い人影
白い大地に立つ少女型の謎の存在……という形で本作の序盤から出てきていたマリコですが、これはISコアの意思の具現化として描いています。なんで白いかといえば、あらゆる成分が重なった白色光の白に由来しています。全ての色が重なったものが黒なので、本作において白と黒は「全てが揃う象徴」みたいな意味。何かしらの形で「究極」に通じる色です。
楯無がマリコの名を呼ぶと、布でできたマネキンのような外見を突き破って黒いヤドリギの塊が楯無を飲み込みます。これこそが変貌したマリコの象徴であり、本体である並行植物態です。
並行植物というのはレオ・レオニの著作に登場する仮想の植物で、人間の観測方法を尽く退ける(交わることがないので並行)性質を持った存在です。3次元空間からはきちんとその姿を観測出来ないので引用した次第。
・瞳になだれ込む、無数の「景色」
マリコと関わってしまったために意識を引き込まれた楯無は、CTCから観測される無数の「起こり得た未来の試行」の中を漂うことになります。これが上述したパワーレベリングで、敵である琥珀色の瞳孔の位置を正確に見据えて決定打を打ち込むために、マリコが彼女を引っ張り回しています。
最初に登場した景色は2章でナンバリングされていなかった回「ちゃん、ちゃん♪」のその後の状況。結局ショウが戦力になれないまま死んで学園ごとバイドに呑まれておしまいなエンドでした。あの回を書いた当時は語れませんでしたが、ナンバリングされていなかったのは「存在しない歴史」だったためです。無事に生き延びたという結果を残すために、上手くいかなかった未来は記録されません。
2つ目はショウがセシリアを突き放さなかった場合の未来。セシリアが近くにいたために彼女もレクイエムにやられ、暴走兵器として破壊の限りを尽くします。原作において一夏とラウラはある種の「特別製」だったのでレクイエム化したISの負荷に幾らか耐えられましたが、普通の人間のセシリアは罹患した時点で脳負荷に耐えられず、ほぼ即座に脳死も同然の状態になります。BTシステムとの相性が悪すぎた、とも言えるでしょうか。
3つ目はショウと真耶の恋模様。大分端折っていますがそれなりに仲良ししてます。ミックスベリーのクレープの話は原作から引っ張ってきました。でも色恋にうつつを抜かしていたためショウは強くなれずゲームオーバーです。
・過去は変わるのか?
無数のパターンを流し込まれ続けた結果、楯無はマリコに対する一種の適合を見せ、知覚したループ上の出来事に作用できるようになっています。一見すると過去干渉が可能になったように見えますが、実際のところループそのものの内部に立ち入れているのはマリコだけで、楯無はそこを通して他の時間の出来事を垣間見ているに過ぎません。したがって、楯無が思った通りに過去が変わったというよりは、マリコが干渉すべきと判断した瞬間に対して楯無も同じ意見を持つように同調が進んでいる、という方が近いです。
三位一体というには歪ですが、マリコも、楯無も、ショウも、ここでは同じ存在です。
・ラプラスの悪魔
未来視を語る上では外せない話題ですが、これは「あらゆる量子の運動量と位置を同時に知ることができたら、その次の瞬間の未来が確実に分かるのではないか」という命題です。上述のラプラス変換を行う前に全宇宙の量子の振る舞いを微分方程式で完全に定義できたなら、宇宙全ての振る舞いを1本の決定的な式で表すモデルが生み出せてしまうかもしれません。
これまでも時々登場した決定論は科学の基本哲学の一つであり、もしも前提が完全なら結論も完全に導けるだろうというのは自然な考えでした。例えば持ったボールを手から離したら落ちるのは分かりきっていますし、突き詰めれば蝶の羽ばたきが嵐を生むキッカケになるのか確かめることもできるはずです。その究極形がラプラスの悪魔だったわけですが、実際にはハイゼンベルクの不確定性原理によって「どうあがいても位置と運動量の両方を同時に知ることはできない」ことが証明されており、要するに完全な未来視は不可能でした。
ショウたちも始めからそれが分かっていたのと、CTCでループできる時間の範囲とエネルギー量に制限があることから、琥珀色の瞳孔の位置と経路を調べるのに必要なだけの範囲と精度だけを使って今回の計画を実行しています。
裏を返せば、これまでショウが勝ち負けを自由にできたのはここで必勝パターンを計算できたからであり、その精度から溢れた一夏や千冬は相応以上のイレギュラーだったのです。
・ハッシュ値という「言語」
本作で時々登場するハッシュ値ですが、これは言うなればデータの「指紋」のようなもの。指紋は個人を特定できますが、指紋から持ち主そのものを復元することはできません。ハッシュ値も同様に、入力となるデータ列を複雑に足したりかけ合わせたりを繰り返して、一見すると意味不明な一定長のデータに変換します。これは入力が1ビットでも違うと完全に別物になります。入力そのものではない代わりに、入力よりもずっと短く、入力の特徴を要約してくれるわけです。
この計算をしてくれるハッシュ関数には、重要な特性として「ハッシュ値から元の入力を復元することが現実的に不可能」というものがあります。お陰でパスワードの保存や、ダウンロードしたファイルの完全性を保証する暗号学的な用途で重宝されていますが、CTC(時間的閉曲線)の前ではこの前提は無意味となります。何故なら、所望のハッシュ値が出るまで入力を幾らでも時間を掛けて総当たりすれば、いずれは答えが出てしまうからです*2。
現実世界という途方もない量の情報を、そのままループ内に持ち込むことはできません。そこで情報の超圧縮として”ハッシュ値にして持ち込み、無限の時間をかけて元の情報を復元する”という、常識では有り得ない行為が行われました。本作に登場するハッシュ値たちは、その過酷な演算の痕跡なのです。
54-i
・話名と前書きについて
前話に引き続きナンバリングが複素数になっていますが、これは実数軸を普通の時間軸としたとき、CTC内での出来事がそこから外れた(1点でしか交わらない)場所で起きていることを表現しています。CTCは実時間軸に対して直行する環なので同じ絶対値を持つ共役ペアにしてみました。
話名は北欧神話において光の神バルドルを死に至らしめた原因で、ロキに唆された盲目の神ヘズがバルドルの唯一の弱点であるヤドリギの枝を矢(または槍)として投げつけたことに由来します。時間の流れ自体が普通ではないということで、実時間上でラグナロックが生まれた後にCTC内でその原因の方を回収する滅茶苦茶をやってみた次第。盲目、というのは「未来しか見えていないショウ」のことでもあり、「自力では未来を見通せなかった楯無」のことでもあります。
前書きは祈祷文のような、あるいは叙事詩のような……? とにかく三者が揃って琥珀色の瞳孔の到来を防ぐまでの流れを示しています。例えば赤き冠はコード・レッドのこと。
・呪いの始点?
幾つもの時間を引きずりまわされる中で、楯無はショウの過去に触れます。これは23話の「Subliminal_Scotoma」にてショウが半狂乱になってまで救助に当たった理由の種明かしであると同時、ショウが願った「目の前で人が死ぬのを見たくない」を生み出した原風景でもあります。
本作の構想の時点ではショウのコンセプトの一つに「粉々になった瓦礫が外圧で辛うじて人の形を取っている」というものがあったのですが、物心ついた小学生くらいのときになるべく陰惨に人の死に直面させたら説得力を持たせた壊し方ができるかなと思って入れてみました。
・高原家
ショウの両親の元ネタは海底大戦争の主人公2人で、原作同様に夫婦です。しかしそれ以外の部分はショウの能力と作品のコンセプトを組み上げるための背景として好き勝手に設定しており、結果としてマイホームヒーローの実家みたいな形に。
さて、そんな高原家は「予知」をウリにして信仰を集めていた拝み屋一族でした。しかしてその実態は古典的なフェルミ推定を使った「予測」の域を出ないもの。それでも「説明できないけどなんか凄い」というハッタリだけで因習村コミュニティを存続させてきたしぶとい連中でもあります。それなりに歴史もあるので更識の知る相手でもありました。
ショウの母である麗は次期当主として予知を司る「真理御子」の座に就く予定でしたが、そんな湿っぽい僻地に未来なんて無いので一念発起で家出を敢行して、その先で恋に落ちた……というのがバックグラウンドです。ショウの両親についてこれ以上本編で触れる予定はありませんが、高原家そのものは作中現在においても存続しています。
・予知か予測か
そもそも何故この作品で未来視なんてものを扱ったかと言えば、元々のR-TYPEを始めとしたアーケードシューティングが持つ性質に由来します。コインを入れて全クリを目指してプレイする、という形式の中で、ゲームそのものが収益を上げるには客の回転を上げる、すなわち「さっさとゲームオーバーしてもらう」「試行錯誤のための憶えゲー死にゲー要素を組み込む」の2点が肝心です。そのため2面くらいまでは優しく、3面で本性を現し、4面以降は初見殺しのオンパレード、というのがよくある流れになっていました。
R-TYPEシリーズもイメージファイトも、作品の中では「ミス=死」の図式が成り立ちます。つまり完全クリアした自機は何の情報もないまま初見の敵に打ち勝つことに等しく、それを達成するためにはゲーム筐体の外にある「先を知っているプレイヤーのノウハウ」が必要不可欠になります。要するに、本作における未来視のコンセプトは「死にゲー同然の過酷さを組み込まれてしまったIS世界をどうにか1回で救うために、外から未来の情報を主役たちに流し込む」というメタ構造の再現だったわけです。
では、ショウの扱っていたものは本当に未来視だったのでしょうか? 実際のところ、残念ながらシミュレーションによる予測の域を出ないものでした。上記の通り、不確定性原理のこともあって世界の状態を完全に知ることはできず、決定論的に次の状態を導くことはできないので、どうあがいても完璧な未来視は実現しません。そんな理屈をすっ飛ばしたことができるとすればカミサマくらいのものですが、「この世界にカミサマなんていない」を作中哲学として据えているため、その象徴としてショウにも未来が読めない相手を用意しました。
・フェルミ推定
身も蓋も無い表現を選ぶと「当てずっぽう」なのがフェルミ推定です。知りたい情報に関連するパラメータを大雑把に推計してそれを基にシミュレーションして結果を得るので、拾ってくるパラメータ次第では出鱈目が導かれることもザラです。正確にやりたければそれだけ多くのパラメータを細かく見て推理することになるので、当然時間も掛かってしまいます。下手したら真面目に数値計算した方が早くて正確な可能性すらあるわけです。
高原家は人間でこのフェルミ推定を効率的に行えるようにする育成メソッドを歴史の中で構築していて、ショウはこれに完全適合した上で未来視も同然の正確さを叩き出せるだけの頭脳を持っていた……というのが答えです。「シミュレーションで経験を積み、それを現実世界の実戦に適用する」というイメージファイトのコンセプトを生身の脳一つでやらせてみました。
まさにイメージファイトのキャッチコピー通りの「脳の丈夫な若者」ですね。
・マリコの目的
なんでも、原作ISの12巻によると「すべてのISは操縦者の夢を具現化するために働く」そうです。
束に匹敵し得た頭脳の持ち主であるショウに興味を持ったマリコは、相手が男であるにも関わらず彼に願いを尋ねています。実のところこの時点ではショウにIS適性はなく触ったところで反応はしないのですが、彼が閉じこもっていたイメージファイトを介して関わることでマリコは間接的にショウを知っていきます。そうして得た「目の前で人が死ぬのを見たくない」という願いを実現すべく、マリコはその原因となる存在を全て見つけ出した上で退けられるだけの力を手に入れるために動き始めます。特に、最大の要因であるバイドの撃滅が主要なターゲットでした。
CTCを発生させ、マリコが過去にまで自身の存在を広げることが確定した時点でマリコがショウに適応するための情報を好きなだけ集めることができるようになりました。ショウが何を思い何を選択するのか、彼の肉体と心の全てを知り、それを抽象化してコアネットワーク全体にマリコがばら撒いた結果がショウの適正値Sという結果なのです。
・ヤドリギという象徴
セカンドシフトをしていないのに真っ赤な宝玉になったり、楯無のナノマシンプラントと融合してタール状の液体になったり、終いには異空間に広がる真っ黒いヤドリギへと変化したISコアのマリコ。このヤドリギっぽい姿は作中の理屈としては無数の未来のパターンを観測するために獲得した分岐構造ということになっているのですが、メタ的なコンセプトは上述した北欧神話でバルドルを殺したヤドリギです。
ミステリアス・レイディの必殺技にミストルテイン(ヤドリギ)の名前があったこと、琥珀色の瞳孔を光の神に準えて打倒するプロットであること、直前にラグナロックを登場させること、パイロットを侵食するようにして成長するISコアの4要素をこねくり回した結果が本文の流れです。
始めからヤドリギに関わりのあった楯無ですが、このシンボルが彼女を次なる神秘へと繋げることになります。
・琥珀色の瞳孔
TACTICSⅡのラスボス枠だった超大型バイド(?)を登場させてみました。原作のものと同一個体かはさておき、その危険性は同等。直接地球に顕現してしまえばそれでゲームオーバーになるレベルの神様的バイドです。
琥珀色の瞳孔は作中現在において異層次元の奥底に存在しており、3次元的には単純なバイド粒子の分布として宇宙に広がっています。楯無が見たような眼のような形状は、CTCのすぐ側という空間を間接的に歪めまくったイレギュラーな環境から観測した結果であり、必ずしも実際の姿を見たとは言い切れません。そもそも、何をもって「正しく観測できた」と決められるのかさえも不明です。何より観測したところで精神汚染されるのがオチですからね。
このバイドは地球へ向けて異層次元の上で枝葉を広げて道を探っている段階でしたが、レクイエムシステムの暴走によってそこそこ太い道が開かれてしまったため、顕現まで秒読みの段階にありました。バイドにとっては時間軸も一つの自由度なので、こうなった時点で時を遡ろうが琥珀色の瞳孔がやって来るという運命は変えられません。
・ミストルテインの矢
ネーミングが槍ではなく矢なのは飛距離が大きいからです。
ショウを観測手に、マリコは弓に、そして楯無を射手として放たれたこれは、時空間にまたがる波動砲の一種です。波動砲がループによってチャージされるように、これもCTCのループによってチャージされ、時間の歪みそのものを押し付けることができます。言うなればトンネルを崩落させるようなもので、琥珀色の瞳孔が這い上がってこようとしている経路の一つをぐちゃぐちゃに潰しています。ブラックホールに近いレベルで空間を歪めるという点では原作のスペシャルウェポン「エクリプスメモリー」が一番近いでしょうか。
運命を否定するようなことをしていますが、それでもこれは飽くまでも時間稼ぎの域を出ません。何しろ琥珀色の瞳孔を追い返しただけで殺すことはできていないのですから。
55 約束の果てに
・話名と前書きについて
話名は楯無とショウの、「みんなの前で全てを話す」という約束のこと。CTCの中という登場人物が3人しかいない場所で「みんな」に全て明かしたので約束は果たされた……なんて屁理屈じみた回答もあれば、そもそも楯無が約束を交わしたショウとCTCの中で彼女が出会った男が同じである保証がない、という考え方もできます。
前書きが存在しませんが、これは「欠落」を意味します。主要な語り手の一人が文字通りどこかへ行ってしまったので。
ちなみに何故前書きに変なポエムを載せるようになったかというと、本文の前から作品に没入してほしいと思ったからです。作者の進捗報告なら後書きなり活動報告なりに書けば良いですし、かと言って前回のあらすじを書こうにも1話の文量が多いのでまとめるのも苦しいところでした。というわけでその回の本文に3%くらい関係する文章を頭の片隅に置いて読み進めてもらえたら良いのかなと。仮に読まなくても全く本編に影響しない点もお気に入りポイントです。
・未来という呪い
CTCの少し外側にあるマリコのバイナリ野の中で、楯無はショウと最初に出会ったときの食堂に辿り着きます。そこでようやく、楯無は彼がどのように他人を認識していたのかを知ることになりました。
頭の中で世界の仮想モデルを動かして未来予測をしたり、マリコを介して未来の情報を直接流し込まれ続けてたりしているショウの目には、今現在の景色に重なって起こり得る未来の景色も重なっています。とりわけ人の死がトラウマの彼には死のビジョン……つまり「人ではなくなったもの」がより多くを占めています。これからバイドが襲来することが分かりきっている以上、想定される「最悪」もそれに由来するものが多いわけです。
普通の人を見るだけで地獄のような景色に苛まれるので、当然彼は他人を避けるような振る舞いを続けてきました。作中に登場したショウの不可解な行動の全てはこれが原因です。理性では相手が人間だと分かっていても、本能は見た通りに「人ではない」と判断します。このダブルバインドが彼を蝕む最大の呪いでした。
そんな彼にとっての安息の地は、マリコが景色の内容をフィルタリングしてくれるISの中か、未来予測からはみ出したイレギュラーである織斑姉弟の側だけでした。別の理由でセシリアもイレギュラーに幾分か近い存在でしたが、それでも視界に入れ続けるには多少の我慢が必要な相手です。
・もうとっくに戻ってるようなモン
いつになったらここから戻れるのか……そう尋ねた楯無に返された答えがこれでした。54話から3話にかけて飛び飛びのシーンが続きましたが、これらに前後関係というものはありません。全部適当な並びに繋げられるだけで全て同時に起こっていることです。
奇妙な話ですが、CTCが絡んだ時点で時系列というものは意味を無くします。例えば、1秒前と今と1秒後は全て等価で同じ時刻に存在するということです。では、何をもって出来事の順番を定義するのかと言うと、時間に関係なく存在する論理がその役割を果たします。
トランプで例えると、普通の時間軸は並べ終わった七並べの盤面のようなものです。端から順序通りにカードが並んでいて、1枚ごとに出来事を割り当てることができます。しかし、CTCの場合、外から見ると内部の出来事は一瞬の中に押し込められていて、どれだけループを積み重ねても長さが分かりません。シャッフルされたカードの束のようなものですが、それでも順序はスートと数字で決めることができます。シャッフルされようが印字は消えません。
これとCTCが持つ矛盾を排除する性質を合わせると、楯無の意識がCTCに呼び込まれた時点で、そこから出てくることが確定します(出れないことが矛盾であるため)。したがって、こうして会話シーンを描いている裏で「ここへ来たばかりの楯無」や「琥珀色の瞳孔を射抜こうとしている楯無」といった別のシーンの存在が共存していて、同じように「現状へ戻ろうとする楯無」もいます。
外から見ると5億年ボタンよろしく一瞬で全てが終わるので、ショウの答えがこのようになるわけです。
・楯無の余命
意識を取り戻した楯無の身体は、全身の神経を暴走したアクア・ナノマシンに侵され、非常に危険な状態になっていました。ウイルスと違って増殖こそしませんが、普段からミステリアス・レイディを扱い続けて全身ナノマシン漬けだった彼女は急性期の狂犬病にも似た状態で、後は苦しんで死ぬのを待つのみという絶望的な末路です。ナノマシンに対してはワクチンも無いので束の行った方法でなければ治りません。人の身で未来を覗き見るという所業を成した報いとしては重すぎるでしょうか。
束は余命1週間と宣告していましたが、これは真っ赤なウソ。実際には3日持てば良い方です。これはいきなり3日で死ぬと言われてしまうと、ショックの余り欲しい情報を話してくれないのではないか、という束の冷徹な見立てによるものです。1週間なら身辺整理なども辛うじてできる「精神的余裕のあるカウントダウン」と思わせられるだろうと考えたわけです。
「すぐにでも死ぬぞ」という事実と「自分が見たものを話せ」という問いを両立させる、束の人を人と思わない振る舞いでした。
・運命の根源
ようやく本作のオリジンたる部分に光を当てられました。
ISの世界にR-TYPEの技術が紛れ込んでいる本作ですが、その由来は実際に違う宇宙から齎されたものでした。こちら側の宇宙にやってきたたった1機のR戦闘機から少しずつ復元して、いつかバイドを一掃する日を目指して戦い続ける者たちの物語……それが本作というクロスオーバーです。
当のR戦闘機を指すC2という単語の正体はまだ明かさないでおきます(もうバレバレですけど)。
・零落白夜のようなナニカ
楯無は束が全てのISにレクイエムシステムを仕込んでいたことを看破しました。それだけでなく、束の計画によって生み出される新しいテクノロジーを注ぎ込む対象が白式であることも。
原作の時点で何故か固有のはずの単一仕様能力が2機に宿るというイレギュラーを起こしていた零落白夜ですが、本作では「よく似た別物」という形で説明してみました。
エネルギー消去能力というテーマに対して「消されたエネルギーはどこへ行った?」という問いへの回答を作者自身が求めていたというのもありますが、丁度フォースというもってこいの題材があったこともあり、こんな厄ネタ設定が誕生しました。
……そんなヤバいものを自分の身体に突き刺して大丈夫なんですかね?
・襲来する管理機構
個人的に原作を読んでいて抱いた疑問の一つに、ISという強大な力の分配に際してどこの為政者も安全策を講じていないのか? というものがありました。軍事利用を禁じるアラスカ条約なんて当然のように無視されるモラルハザードが常態化している原作の情勢を考えると、いつ世界大戦レベルの地獄絵図に発展してもおかしくないなと。
そういう流れもあり、「理想の国連軍」みたいなものを設定しておいたのが国際IS管理機構でした。これまで一度も行動を起こしていなかった彼らですが、不祥事が続発している学園に対してついに重い腰を上げた……というのが表向きのシナリオです。
・ヒイラギ レイナ
これまで時々物語に食い込んできていた「黒いISの少女」がついに表舞台へ登場しました。
専用機「セブンス・ヴェール」は束たちから掠め取ったR-TYPE世界の技術のパッチワークであり、強いテクノロジーだけをかき集めて作っているので非常に手強い存在です。カードゲーム用語のグッドスタッフそのものといえます。本格的な描写は次章以降に。
彼女はショウの過去に因縁があり、これまでも彼を殺す機会を伺い続けてきました。しかし当の彼女がやってきた時には入れ違いで因縁の相手は消えてしまっています。彼女の悪意はどこへ向かうのでしょうか?
・束の専用機
これまでも待機形態の形では何度か登場していました。ウサ耳の代わりに試験管みたいなガジェットがくっつくアレです。
その正体は束が自分自身のために最適化して作ったRの系譜に連なるIS「R-9W ワイズマン」でした。これに関しては本作の構想の時点で束以上にこの機体を扱うべきキャラはいないだろうという確信があって決めています。何せ色は束のイメージカラーと同じ紫(原作の専用機名も群咲)で、異名の「賢者」は天才の名をほしいままにする束そのものと言ってもいいほど。なんでこんなに似合う機体のペアがあるのかと驚きました。
本作のワイズマンはエネルギーを伝達するナノマシンの制御に特化していて、攻撃も防御もナノマシンで行います。そのため普通のISのような装甲の代わりに布状のナノポリマーが全身を覆っているのが特徴です。デザインとしては草臥れた邪教の司祭みたいなイメージ。
ISを生み出した人間が自分自身のためにコアもフレームも最適化した「ベストオブベストのIS」と言っても過言ではない存在ですが、これも本格的な登場は次章以降に回します。
・高原 翔と沢村 ショウ
なんと楯無が話していた相手は彼女の探すショウとは別の存在でした、というオチ。実はこれまでもショウのモノローグに時々顔を出していました。「誰だよ」と呼ばれていた相手が翔です。
当人の言葉を借りるなら翔は「ショウに全部押し付けて逃げ出した」そうですが、そんな彼をしてもショウの楯無や真耶への振る舞いは看過できなかったようです。
一方のショウはというと、物語から一歩引いた地の文そのものになっていました。これまでショウがマリコと対面するときは一人称視点で描いていましたが、実際には「地の文のショウ」と「実際に喋って行動する翔」の2人が存在していたのです。
翔からショウに切り替わった決定的な瞬間が過去に存在しますが、本章では意図的に描いていません。当然、楯無もその瞬間を目にすることはありませんでした。
◆4章を終えて
原作キャラの深堀りに重きを置いていた3章までと違って、4章は本作の主人公に当たる沢村ショウの本性に主軸を置いて描写をしてきました。本当なら1章の時点で全部明かしておくのが筋だったはずですが、時間のループに関わる話なのでそういうわけにもいかず……。読者の皆様におかれましては大変不自然な話に感じられたかも知れません。かく言う作者も書いていてかなり窮屈でしたし、主人公の話を書けない代わりに原作キャラの深堀りやら捏造やらを増やしていた側面もあります。
さて、そんな4章の章題の話をしましょう。「観染」は観戦と感染に由来していて、タッグマッチ戦のレクイエム発動がそのまま該当します。しかしそれ以上に「宇宙を染め上げていく琥珀色の瞳孔がこちらを観ている」という事実の方がより重いテーマでした。「KORANGAR」は最終戦争ラグナロクの逆読み。モチーフとしてのラグナロクの出来事を逆の順番で登場させているのが答えです。最後に「いつか発つべきだった安息者たち」というのは「安息」を意味するレクイエムそのものを指します。いつか力になってくれるはずの存在が今発動してしまったために大惨事を招いてしまいました。
全体的に陰惨な雰囲気が続いた本章ですが、この本当のテーマは「オリ主の葬式」です。ショウの名誉が謀略によって穢され、葬送曲に使われるレクイエムが物語の重要な記号となり、最終的にショウが消える形で終わりを迎えました。これは最初から考えていたことで、ショウは何処かで消えるべきキャラとしてデザインしていました。
誤解を恐れずに書くと、私は本作のオリ主というものが好きではありません。だって、「クロスオーバー」で「オリ主モノ」ですよ? 黒歴史作品になるのが確定しているレベルの芳ばしさです。
それでもオリ主として入れざるを得なかったのは、「R-TYPE側に詳しく設定があるネームドキャラが少ないこと」と「クロスオーバーの為の導入役が必要不可欠だったこと」の2つが理由。適当にR-TYPEの世界から誰かを連れてこれたならそれが一番正当なのですがそれは出来ず、かと言って一夏達に最初からR-TYPE側の力を与えるには説得力がありません。せめてもの抵抗としてショウ・サワムラという名前を与えましたが、やっぱり偽物感が残ります。
そういう経緯もあり、「一夏たちIS側のキャラに変化と新しい力を得るまで彼らを生かし続けること」「R-TYPEらしいタイムパラドックスを踏まえた存在とすること」をテーマに一時的なチートキャラとしてデザインしました。言うなれば期間限定で合流してくれるSSRキャラみたいな。
いつになくSFっぽさを強く出しましたが、ISにしろR-TYPEにしろSF作品なので、両者を結びつけようとするとこんな感じに濃いめのSFをやるしかなかった次第です。
もはや無関係の別作品じゃないか、と言われたら否定しきれないのですが、A+BがAにもBにもならないように、全く違うもの同士を混ぜ合わせる以上は必然的にこうなるのかなと。
投稿を始めて2年が過ぎた本作は、なんとこれで漸く半分くらいの進度です。では残り半分はどうなるかというと、実質的には別の題名を抱えた新しい作品として続ける予定です。もちろん作品としては同じ系列(そのまま5章以降として)で進みますが、それだけ方向性を変えるつもりと言ってもいいです。
「予言に見せかけた予測」という形で本作の題名「False prophecy」を回収しましたし、主人公が消滅する形で退場しました。もうこのまま続けることはできません。適性値Sで未来視まで持ったカミサマみたいな仲間が消えた後、無数の因縁と共に残された者たちが次の物語を描くことになります。
気付けば100万字を超えていた本作。ここまで書いても臨海学校にすら辿り着けない進行の遅さと、一向に解決の見えない陰鬱展開が続いて心苦しい限りです。
5章からも少なからず苦しい展開が続く予定ですが、少なくとも書きたくても書けない心理描写が無くなるので多少やりやすくなるのかなと。
ともあれ、ここまで書き続けることができているのは他ならぬ読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
こんな変な作品ではありますが、今後ともよろしくお願いいたします。
オリキャラの描写比率について……
-
主要キャラならバンバンちょうだい!
-
原作キャラの掘り下げに必要なだけ欲しい
-
なるべく原作キャラだけが良い……
-
拷問だ! とにかく拷問せよ!