【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話 作:ゲスト047562
「俺がいないからって、お酒とおつまみばっかじゃ駄目ですよ」
「ああ」
「ちゃんと寝て下さいね? 後、俺がいないからって部屋の中どこでも裸族は禁止」
「分かっている」
「それから──」
「くどいぞ。親かお前は」
DAGが無料で譲渡するバッグに、戸張が荷物を詰め込みながら焔那にお小言を言う。
次回のコラボに向け、
その様子を近くで眺めている焔那は、胸が爆発するのではないかと思いながら、一つの決心をしていた。
(今度こそ、言うぞ……! 『一緒に住もう』と)
今のこの部屋には、
例え、どんな同盟を結んでいようとも、だ。
だからこそ、今はまたとないチャンスなのだ。戸張が引っ越しを考え、大型連休の真っ最中の今ならば、彼女の望む場所へ彼を移せるかもしれない。
しかし、ここで問題があるとすれば、それは彼女自身だった。
「ご飯出来ましたよー。並べて下さい」
「……あ、ああ」
「?」
(くそ、たかが同棲を誘うだけなのに……! 何故口が動かない……!?)
彼女は父親に似て、口下手だった。
言うべき事だけを言い、それ以外は極力口を閉ざし、行動で黙らせる。そういった生き方を望んだ彼女だったが、こと
そんな無様な己を恨みながら、しかし戸張との共同作業(少なくとも彼女からすれば)に密かに心を躍らせてしまう。相反する感情が交互に襲いきてむずがる焔那の様子に、戸張は唯首を傾げるだけだった。
(オレの気も知らないで、こいつ……)
今度こそ襲ってやろうか。
彼の間の抜けた顔に一瞬そう思ったものの、すぐにその考えを打ち消す。
彼を独占するならば、まず自分に優位な土俵を作らなければならないのだから。
「いただきます」
「……いただきます」
そんな決意をしてはや数日。彼女は未だ口に出せていなかった。話す機会は幾らでもあるのに、である。
叶や周が見れば『どけ、私が見本を見せてやる』と言ってそのまま戸張を自宅へ連行していくだろう、それくらい彼女は奥手で口下手だった。
(ここで遺伝を感じるとは。くそ、親父め……)
だがしかし、今の彼女は一味違う。
戸張が遠い場所へ行ってしまう。ここより居心地良い場所を見つけてしまうかもしれない。もしかしたら、帰ってくる時には別の誰かが隣にいるかもしれない。
その焦りが彼女を追い詰め、そして遂に。
「あ、あー……」
「ん?」
「あー……戸張、照真」
「はい?」
彼女の口が、開いた。
「その……何だ。アレだ……オレは、もう一つ、部屋をな。借りてる、んだ」
「あ、そうですよね。ここには、俺の監視の為に住んでるだけで」
(今はもう違うがな。というか、監視が必要ないのに何故まだ同棲しているのか、そろそろおかしいとか思わないのかこいつ)
彼がこちらの事情を詳しく知らない事に安堵し、そこまで自分に興味が無いのかと少し理不尽にイラッとする。
(だがこれはチャンス。ほ、本気で本気の……千載一遇の機会! い、今しか……ない!)
新たな移住先を提示すれば、彼は涙を流して喜ぶだろう。
『これで野宿しなくて済みます! ありがとうございます! これからも羽場さん……いや、焔那さんは俺がお世話しますね!』
そんな事を言ってくれるかもしれない。彼から好意を向けられる事を考え、取らぬ狸の皮算用と分かっていても顔が熱くなる。
とにかく、まずは餌を垂らして釣り上げ、善意の鎖で縛り付ける。そうしてゆっくり自分を好きになる様に調ky……誘導していく。
そんな彼との新生活を妄想し、高揚していく気持ちを隠しながら(戸張以外には丸分かりだが)、必死に口を動かす。
「ゴホン! あー、それでだな。オレは、部屋が一つ余っている訳だ……」
「はあ……」
「……だ、だから。あー……どうだ? そ、そこで……」
心臓が更に高鳴る。顔を真っ赤にしながら、カラカラになった喉を生唾が湿らせる。
「オ、オレと……暮らすか?」
「あ。実は俺、この部屋と正式に契約出来たんですよ」
「は?」
「俺が引っ越しの事考えてるって言ってたのは、三鶴城さんとコラボ配信した時なんですけどね? それを観てた先輩が何か色々手配してくれて、学生割で安くこの部屋を借りてるようになったんですよ!」
嬉しそうに契約書を見せてくる戸張。しかし、焔那はそれどころではなかった。
羞恥と怒りで沸騰しそうになる頭を必死に抑えていると、タイミングを見計らったかの様にスマホが震える。
『そんな抜け駆けが許されると本気で思っていた貴方の姿は、お笑いでしたよ』
(あ、あの女ぁ……!!)
スマホがひび割れる。愛する男の短い悲鳴が聞こえるが、今の彼女には届かなかった。
かの超人の妹には、焔那の考えなど全てお見通しだったのだ。その上で、彼女の慌てふためく様を、そこかしこに仕掛けた盗聴器で監視していた。
「……少し待っていろ」
「へっ?」
これ以上の恥辱は無い。そう言わんばかりに、羞恥と憤怒で般若へと変貌した焔那は、勢いのままに隣の部屋にカチコミをかけた。
=====
書籍の売り上げが伸びず、この作品は打ち切りとなりました。
お疲れっした!