【2巻発売中!】スレ主がダンジョンアタックする話   作:ゲスト047562

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第185話 羽場焔那、頑張る

「俺がいないからって、お酒とおつまみばっかじゃ駄目ですよ」

 

「ああ」

 

「ちゃんと寝て下さいね? 後、俺がいないからって部屋の中どこでも裸族は禁止」

 

「分かっている」

 

「それから──」

 

「くどいぞ。親かお前は」

 

 DAGが無料で譲渡するバッグに、戸張が荷物を詰め込みながら焔那にお小言を言う。

 次回のコラボに向け、恋知県(こいちけん)まで泊まりがけで向かう事になった戸張は、補修を何とか終わらせて荷物の忘れ物が無いかチェックしたり夕飯の準備をしたりで忙しそうだ。

 その様子を近くで眺めている焔那は、胸が爆発するのではないかと思いながら、一つの決心をしていた。

 

(今度こそ、言うぞ……! 『一緒に住もう』と)

 

 今のこの部屋には、伽藍堂叶と周心輪(あくま)が取り憑いている。この二人の包囲網にある限り、彼女の行動は阻害されてしまうだろう。

 例え、どんな同盟を結んでいようとも、だ。

 だからこそ、今はまたとないチャンスなのだ。戸張が引っ越しを考え、大型連休の真っ最中の今ならば、彼女の望む場所へ彼を移せるかもしれない。

 しかし、ここで問題があるとすれば、それは彼女自身だった。

 

「ご飯出来ましたよー。並べて下さい」

 

「……あ、ああ」

 

「?」

 

(くそ、たかが同棲を誘うだけなのに……! 何故口が動かない……!?)

 

 彼女は父親に似て、口下手だった。

 言うべき事だけを言い、それ以外は極力口を閉ざし、行動で黙らせる。そういった生き方を望んだ彼女だったが、ことこ(・)う(・)い(・)う(・)駆(・)け(・)引(・)き(・)にはまるで耐性が無かった。

 そんな無様な己を恨みながら、しかし戸張との共同作業(少なくとも彼女からすれば)に密かに心を躍らせてしまう。相反する感情が交互に襲いきてむずがる焔那の様子に、戸張は唯首を傾げるだけだった。

 

(オレの気も知らないで、こいつ……)

 

 今度こそ襲ってやろうか。

 彼の間の抜けた顔に一瞬そう思ったものの、すぐにその考えを打ち消す。

 彼を独占するならば、まず自分に優位な土俵を作らなければならないのだから。

 

「いただきます」

 

「……いただきます」

 

 そんな決意をしてはや数日。彼女は未だ口に出せていなかった。話す機会は幾らでもあるのに、である。

 叶や周が見れば『どけ、私が見本を見せてやる』と言ってそのまま戸張を自宅へ連行していくだろう、それくらい彼女は奥手で口下手だった。

 

(ここで遺伝を感じるとは。くそ、親父め……)

 

 だがしかし、今の彼女は一味違う。

 戸張が遠い場所へ行ってしまう。ここより居心地良い場所を見つけてしまうかもしれない。もしかしたら、帰ってくる時には別の誰かが隣にいるかもしれない。

 その焦りが彼女を追い詰め、そして遂に。

 

「あ、あー……」

 

「ん?」

 

「あー……戸張、照真」

 

「はい?」

 

 彼女の口が、開いた。

 

「その……何だ。アレだ……オレは、もう一つ、部屋をな。借りてる、んだ」

 

「あ、そうですよね。ここには、俺の監視の為に住んでるだけで」

 

(今はもう違うがな。というか、監視が必要ないのに何故まだ同棲しているのか、そろそろおかしいとか思わないのかこいつ)

 

 彼がこちらの事情を詳しく知らない事に安堵し、そこまで自分に興味が無いのかと少し理不尽にイラッとする。

 

(だがこれはチャンス。ほ、本気で本気の……千載一遇の機会! い、今しか……ない!)

 

 新たな移住先を提示すれば、彼は涙を流して喜ぶだろう。

 

『これで野宿しなくて済みます! ありがとうございます! これからも羽場さん……いや、焔那さんは俺がお世話しますね!』

 

 そんな事を言ってくれるかもしれない。彼から好意を向けられる事を考え、取らぬ狸の皮算用と分かっていても顔が熱くなる。

 とにかく、まずは餌を垂らして釣り上げ、善意の鎖で縛り付ける。そうしてゆっくり自分を好きになる様に調ky……誘導していく。

 そんな彼との新生活を妄想し、高揚していく気持ちを隠しながら(戸張以外には丸分かりだが)、必死に口を動かす。

 

「ゴホン! あー、それでだな。オレは、部屋が一つ余っている訳だ……」

 

「はあ……」

 

「……だ、だから。あー……どうだ? そ、そこで……」

 

 心臓が更に高鳴る。顔を真っ赤にしながら、カラカラになった喉を生唾が湿らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ、オレと……暮らすか?」

 

「あ。実は俺、この部屋と正式に契約出来たんですよ」

 

「は?」

 

「俺が引っ越しの事考えてるって言ってたのは、三鶴城さんとコラボ配信した時なんですけどね? それを観てた先輩が何か色々手配してくれて、学生割で安くこの部屋を借りてるようになったんですよ!」

 

 嬉しそうに契約書を見せてくる戸張。しかし、焔那はそれどころではなかった。

 羞恥と怒りで沸騰しそうになる頭を必死に抑えていると、タイミングを見計らったかの様にスマホが震える。

 

『そんな抜け駆けが許されると本気で思っていた貴方の姿は、お笑いでしたよ』

 

(あ、あの女ぁ……!!)

 

 スマホがひび割れる。愛する男の短い悲鳴が聞こえるが、今の彼女には届かなかった。

 かの超人の妹には、焔那の考えなど全てお見通しだったのだ。その上で、彼女の慌てふためく様を、そこかしこに仕掛けた盗聴器で監視していた。

 

「……少し待っていろ」

 

「へっ?」

 

 これ以上の恥辱は無い。そう言わんばかりに、羞恥と憤怒で般若へと変貌した焔那は、勢いのままに隣の部屋にカチコミをかけた。

 

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