「────ケヒッ。天元め、本当に気色の悪い事をしたものだ。奴なりの皮肉のつもりかは知らんが、羂索と変わらん気色の悪さよ。ヒヒヒッ……!」
「宿儺様……?」
「裏梅。どうやら俺はまだまだ強くなれるらしい。まあ……これ以上強くなった所で、とは思うものの。行ける所まで試してみるのも、これまた一興だとは思わないか?」
即身仏となったかつての自分の頭を、ポンポンと投げては受けて、投げては受ける。ボールのように己の頭を扱う宿儺を見ても、従者で料理人の裏梅は特に何も言わない。
「宿儺様が今以上に更に強くお成りになるならば、それはとても喜ばしい事だと思います」
「更に強く……な」
ふ、と軽く息を吐き、即身仏の自分と目を合わせながら、
伏黒恵の魂は、深淵へと沈んだ。肉体の主導権はもう完全に宿儺にある。平安時代のような真の姿に戻り、本当の意味で復活を果たす日も、そう遠くは無いのだろう。
「どうせ人生などは、死ぬまでの暇潰しに過ぎん。気色悪い羂索ではないが、己の可能性というものにほんの少しばかり興味が出てきたのでな。お前にはまだまだ俺の下で動いてもらう事になるが」
「勿体なきお言葉……!!」
実は宿儺は、即身仏の自分を目にしたあの瞬間、薄らとだが確かな確信を以て感じていた事がある。その時は心の中で「くだらん」と自らの考えすらも吐き捨て、鼻で笑い飛ばしていた。
しかし、五条悟や小僧との戦いを控えた今になりあの時「感じていた事」が再び頭をよぎったのだ。
「……死ぬなよ。勝って、俺についてこい」
「────ッ!!」
宿儺からの励ましの言葉、それは裏梅にとってはまさに術式の開示以上の、最強のバフとなった!!
◆
そして迎えた人外魔境新宿決戦。宿儺は五条悟、鹿紫雲一、日車寛見、更にお兄ちゃんを始めとする高専術師をつつがなく処理していった。反転術式を習得した事によってより硬くよりクソ面倒になった小僧は、唐竹割りに切り飛ばし殺してしまった。
遅れて参戦してきた乙骨憂太の領域は彌虚葛籠でやり過ごし、リカ共々処理に成功。日下部や何やら面倒そうな奴らも、襲ってきた瞬間に殺した。
そして裏梅は、神武解を宿儺に届けた後は、高専術師の1人、豪運の秤金次を相手にして殺し合いを繰り広げていた。
戦闘中に垣間見た、マトモな人間ではなさそうな彼の人間性に「人と思わぬ」と宣言をした裏梅は、宿儺が次々に高専術師を葬っているのを見て決着を急がねばと焦るようになった。
(『死ぬなよ。勝って、俺についてこい』──)
宿儺の応援が、裏梅の脳内で無限に再生される。目の前のガキなど、裏梅の前には赤子同然。そう、赤子同然──そう自分に言い聞かせて、この戦闘を即座に終わらせる事にした。
「──私の氷凝呪法の真髄はただ凍らせるに非ず。この術式の本質は……
「術式の開示か?本気のようだな」
「ああ、次の一撃で貴様を調理してやる」
「凍らせて調理するなんて、俺でシャーベットでも作る気か?だが、お前の目からは、確かな『熱』を感じるなァ!」
「目から、か。ならば全身から感じ取れッッ!!」
「ッ!?」
「術式反転……!!」
反転術式により生み出した正の呪力を己の術式に流し、生まれ持った氷凝呪法を反転させる──!!
指先やら髪、服などの一部が凍り付いていた秤。するとその部分が急激に熱を帯びて、燃え始めた。
「『凍らせる』とは、『冷やす』とは何だと思う?答えは『
「────!!」
「幸運に思うがいい。お前の愛する『熱』でお前を調理してやろう。なに、心配するな。一瞬で意識を奪い、そのまま殺してやる。瞬時に熱を奪える氷凝呪法の反転だ──反転術式でどうこうできる程度の熱だと思うなよ」
「ぐ……ぁ…………あ、ぁ……!!」
「と、このように。適切な温度管理ができてこそ、最上の調理が可能となるのだ。覚えておくがいい」
焼き肉となった秤を宿儺に献上することにして、裏梅は戦闘を終了。その頃には、宿儺も高専術師を殺し終えていた。
人外魔境新宿決戦を戦い抜いた2人。乙骨により殺されたキショい脳ミソこと羂索を弔う事もせず、焼き肉と化した秤を拠点に持ち帰り、2人で
◆
「──どれ。最後の1本の指を食べるとするか」
「それは……っ!まさか本当に五条悟が持っていたのですか?」
「ああ。領域の展開中、五条悟を切り刻みながら、1つの違和感を覚えていた。俺の『解』が通じない場所が、たった1つだけあったのだ」
「ッ!?」
「俺の指は、何者にも消せやしない。それはこの俺本人とて例外ではないらしくてな。故に、『解』が通じないその場所に、俺の指を隠しているのだと、察する事ができた」
宿儺の指は特別中の特別。五条悟にさえ消せない特級呪物の中の特級呪物。日本史上最高最強最硬、完全無欠の死蝋だ。
五条悟は、自らの「茈」を受けても「自分の呪力だから」とダメージを軽減していた。まさにそれと同じ事が、宿儺の「解」と指の間にも起きていた。
破壊できないのは宿儺とて同じ。しかしそれとは別に、宿儺本人の呪力だからこそ指へのダメージもそもそも軽減されていたという事だ。
「さて裏梅。これを食べると、俺はどうなる?」
「……?本来のお力を、取り戻されるのでは……?」
「クックッ、それは違う。俺は既に『本来の力』を取り戻している」
即身仏を口にする時に言っていた、宿儺の言葉を思い返した。彼は「即身仏で指1本分は補える」とそう言っていた。
それを思い出した裏梅は、ハッとした顔で宿儺を見上げる。
「まさか────!!」
「指19本に加え、1本に相当する即身仏を平らげ、更には残り1本を喰らった俺は、指21本分の強さを有する事になる。どうだ、裏梅?呪物化する前より強くなったと言えるだろう?」
そう。宿儺は、人外魔境新宿決戦を「完全体」で乗り切ったワケではない。即身仏を食べる事によりあくまでも擬似的に20本分の力を得ただけだ。
言わば「擬似完全体」でしかない。そして宿儺はとうとう最後の1本を口にした事により平安時代の彼をも上回る究極完全体──21本宿儺となった。
「おめでとうございます、宿儺様」
「ケヒッ……この程度で終わりではないぞ?」
「?」
「さァ、忙しくなるぞ、裏梅。また『浴』の用意をしておけ。俺は俺で動く。それから────」
「……え。あ……は、はいッ!!」
「またな、裏梅」
◆◆◆
平安宿儺=指20本分 と仮定する
指は全部で20本あるので、それを全て集める事で宿儺は完全体に至る事ができる
ただし天元により「即身仏=指1本分」という、元々の計算には無かった新たな定義が発生した
それによって「19本宿儺+即身仏=20本宿儺」、つまり即身仏を食べた時点で「平安宿儺」と同等の強さを取り戻した事になる
しかし指はまだ余っているのでそれを食べると、指の数の20本を超えた、21本宿儺になる
よって今の宿儺は、平安宿儺よりも指1本分だけ強くなった
◆◆◆
数ヶ月後────
「お久しうございます、宿儺様」
「浴」
「はっ」
「そうだ……
「
「やはりお前は頼りになる」
「ッ……!!」
21本宿儺と成ってから数ヶ月、2人は行動を別にしていた。
宿儺は「宿儺の指に耐性のある人間」を探しに。裏梅は「肉体の老化を早める」術式を有した術師を探しに、日本中を奔走していた。そして数ヶ月後、2人は目的を達成した事で合流を果たす────。
「本当に宜しいのですか?」
「何がだ?」
「伏黒恵の肉体を捨てる事です。超重複同化発動の権限は羂索との縛りにより今もなお伏黒恵の肉体が有していますが……」
「『発動するか否かを伏黒恵に委ねられている』、それだけだ。ならば伏黒恵は『発動せずに死ぬ』。発動する事それそのものは縛りなどで強制されてはいないのだから、肉体ごと権限も放棄するまでだ」
「……ふふっ」
「ヒヒヒッ……羂索の1000年の苦労も水の泡だな」
「ふっ……そうですね」
「だが奴は、己の目的の為に人生を捧げた。それを後悔したりはしないだろう。まぁ、後悔もなにも、とうに死んでいるがな」
「そうですね、もう死んでますし」
「何より気色悪いしな」
「ええ、本当に」
こうして21本宿儺は、指21本分の呪物と即身仏に分離した。伏黒恵の肉体は「肉体の老化を早める」術式を有する術師の手により早々にミイラ化して、平安宿儺のような即身仏に成り果てる。
次に、裏梅は「指21本分の呪物」を宿儺に耐性のある人間に食べさせた。それにより最初から21本分宿儺として三度目の受肉を果たし、即座に伏黒恵の即身仏を平らげてしまった。
これにより、21本宿儺は22本宿儺となる。
今後は、即身仏を食べた場合のみ、受肉する毎に指1本分だけ強さを増す事になった。これこそが、宿儺の発見した強化バグ。
天元が「平安宿儺の即身仏」を用意したばかりに起きてしまった、宿儺の無限成長バグである。
◆◆◆
即身仏が1本分に相当するという定義を元にして考えるなら、恐らくは、宿儺を「呪物と即身仏」に分割する際にこのバグが起きるものと考えられる
元の宿儺──つまり平安宿儺を20本分とするなら指20本と即身仏に分けられるという話だが、既に、この時点で合計すると指21本分になるから面白い
即身仏を食べて21本宿儺になった後で、21本分の力を持つ彼の指を再度20本に分けたとすると
21本宿儺の指1本分は、
21÷20=1.05
となるワケで、21本宿儺の指は20本宿儺の指よりほんの僅か、0.05本分だけ強いという事になる
つまり、今の22本宿儺の強さを数値化してみると
よって、三度目の受肉後の22本宿儺は20本宿儺に比べて、平安宿儺の指2.05本分強いという事になる
◆◆◆
「どうだ裏梅?これを繰り返せば更に強くなれると思わないか?」
「素晴らしいお考えです、宿儺様。まさか、受肉を繰り返し、元の肉体を食すだけでここまでの強さを得られるとは……恐れ入りました」
「まァ、即身仏でなくとも良いような気はするが。よし、次は即身仏にするのはやめておこう。裏梅、俺が再度受肉したら、この肉体を調理しろ」
「御意」
「もし即身仏にせずとも力を得られるようならば、あの術師も食ってやろう」
◆◆◆
22本宿儺、呪物と肉体に分離──四度目の受肉
22本宿儺の指1本分と平安宿儺の指1本分の比較
22÷20=1.1
1本あたり、平安宿儺の指1本より0.1本分強い
指と即身仏を摂取し23本宿儺になった後の強さ
1.1×21=23.1
平安宿儺より3.1本分強い
23本宿儺、呪物と肉体に分離──五度目の受肉
23本宿儺の指1本分と平安宿儺の指1本分の比較
23÷20=1.15
1本あたり、平安宿儺の指1本より0.15本分強い
指と即身仏を摂取し24本宿儺になった後の強さ
1.15×21=24.15
平安宿儺より4.15本分強い
24本宿儺、呪物と肉体に分離──六度目の受肉
24本宿儺の指1本分と平安宿儺の指1本分の比較
24÷20=1.2
1本あたり、平安宿儺の指1本より0.2本分強い
指と即身仏を摂取し25本宿儺になった後の強さ
1.2×21=25.2
平安宿儺より、平安宿儺の指5.2本分強い
以上の事から、受肉に伴う指1本あたりの強さの推移とその時点の完全体の強さと平安宿儺の比較は以下のように推察される
尚、その前提条件として、即身仏(前の肉体)を食べたら分離時点の指1本分の力になるものとする
受肉n回目の指1本あたりの強さを、平安宿儺の指1本あたりで表す公式(nは2以上の正の整数)
(n-2)×0.05+1
受肉n回目時点の完全体宿儺は平安宿儺の指何本分に相当するか表す公式(nは2以上の正の整数)
(n-2)×1.05+21
受肉n回目の完全体宿儺は平安宿儺から見た場合何本宿儺と言えるのか(nは2以上の正の整数)
n+19
〇度目の受肉 最大n本宿儺 平安宿儺の指の本数
2 21 21
3 22 22.05
4 23 23.1
5 24 24.15
6 25 25.2
以上から、両面宿儺は、呪物化と即身仏で分離と受肉を繰り返す事で理論上は無限に強くなり続ける事ができる。
◆◆◆
無限成長バグに気付いてから数百年後。呪物化と受肉を繰り返し続けた宿儺は、
今では領域展開すればその全ての斬撃が「世界を断つ斬撃」だし、これまで以上に通常攻撃が必殺の威力を誇っていた。
そしてまたある時、ふと思い立って、地面に手を添えて本気の「捌」を放ってみる。すると、地球が真っ二つどころか粉微塵になって、宿儺も裏梅も、その他の全人類も死にましたとさ、おしまい。
とまぁこんな感じで、指1本分になる即身仏なんか計算に入れたら無限に成長できるんじゃ?と思った結果を書いてみました。(笑)
即身仏から得た力は身体に残り続ける、だから何度受肉し直しても増えないし、もし成長するとしても最大21本分までってんなら別だけど。
どちらにせよ最後の1本は、フリーの状態ではもう作中で出さないんだろうなーって思いました。
もしガバい所あっても、数字にガバいのは芥見先生イズムと思って許して♡ ごめんちゃい♡(直哉)
過去作です。「読め」(呪言)
【IF】五条悟、復活。
https://syosetu.org/novel/326673/1.html