ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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お久しぶりです


王 美雨『わたしの家族、わたしのファミリー』

 

 

 —— 12/26 side美雨 ——

 

 

 

「……よしっ、これで完成」

 

 クリスマスの翌日の今日。私はいつもよりも早起きして、沢山の料理を作っていた。

 

「これで足りる、よね」

 

 1人では到底食べ切れる量じゃないけど、これは彼に食べてもらうための料理だ。

 

 鍋をラップで包み、冷蔵庫にしまう。あとは食べる時に温め直せばOK。

 

 エプロンを外して、壁の掛け時計を見やる。時刻は午前9時半だった。彼との待ち合わせの時間まであと30分。

 

「ふぅ、なんとか間に合いそうでよかった」

 

 私はキッチンを後にして、リビングのベットに向かう。ベッドの上には昨日のうちに準備しておいた洋服が置かれている。選ぶのに3時間くらいかかったし、昨日のうちに選んでおいて良かったな。

 

 すぐにその服に着替え、鏡の前でヘアセットをする。いつもと違った髪型にしようかとも思ったけど、やっぱりいつものようにツインテールにした。今日は特別な日だけど、いつもの私を彼に見てほしいと思ったから。

 

 全ての準備が整った時点で、時刻は9時50分。ちょうどいい時間なので、私はバックを持って外を出た。

 

 

 

 

 —— マンション前 ——

 

 

 

 待ち合わせ場所に着くと、まだ彼はきていなかった。バックから手鏡を取り出し、身だしなみの最終チェックをしていると、背後から声をかけられた。

 

「みーちゃん、おはよう」

「あ! おはようツナ君」

 

 声をかけてきたのは、待ち合わせ相手のツナ君だった。

 

「ごめん、待たせちゃったかな」

「私も今来たとこだから、大丈夫だよ」

「そう? それならよかった」

 

 ツナ君はそう言うと、私に前に駆け寄ってきた。

 

「えっと、これからどうする? どこか行きたいところでもある?」

「うん、お昼まではちょっとお散歩したいって思ってる」

「散歩か、いいね」

 

 彼の了承を得て、私達は歩き始めた。

 

「でも、もう特に見て楽しいものとかないんじゃない? 今朝早いうちから片付けしてたし」

 

 確かにクリスマスも終わり、華やかなイルミネーションなどはすでに片されていた。もういつもの高度育成高等学校の様相に戻っている。

 

「そうだね、でもいいの。見たいものがあるわけじゃなくて、ただ歩きたいだけだから」

 

 本心だ。本当にただ、ツナ君と2人で日常の街並みを歩きたかった。家族の日常を取り戻してくれた彼と一緒に。

 

「そう? ならゆっくり行きますか」

「うんっ」

 

 歩くスピードをゆっくりと落とし、目に飛び込む風景を一つ一つ堪能するように進んでいく。

 

「あ、あそこ新しい店できてない?」

「ううん、前からあったよ」

「えっ、そうだっけ?」

「女子向けの店だから、男子は知らなくてもおかしくないよ」

 

 何気ない会話をしながら、敷地内をただ歩く。こんなことが、たまらなく幸せに感じる。それはきっと、隣にいるのがツナ君だからこそだ。

 

(……)

 

 隣を歩きながら、横目に彼の顔を見る。

 どう見ても普通の男子高校生だ。彼が世界でもトップクラスの巨大マフィアのボスだなんて誰も思わないだろうな。いや、そもそもマフィアだなんて信じてもらえないか。私もワン家じゃなければ信じなかったと思う。

 

 でも、事実だ。彼はボンゴレファミリーの10代目ボス、ボンゴレⅩ世その人なのだ。私はその彼のおかげで、両親共々ジョーコファミリーから救い出してもらった。地獄のような日々から掬い上げられ、普通の日常に戻らせてもらったのだ。彼に受けた恩は計り知れないし、少しでもその恩に報いられるよう、彼の力になれることならなんでもやるつもり。とはいえ、私で彼の力になれることなんて特には思いつかない。だから、せめて彼のお陰で戻ってきた私の日常を彼と共有したいと思った。

 

 今日はせっかく彼と2人きりになれるチャンスだ。私の日常をツナ君と共有するのに絶好の機会だろう。

 

「よくよく考えてみれば、こんな風にゆっくり敷地内を見て回ったことないかも」

「そうなの? ツナ君、敷地内を駆け回ってるって噂を聞いてたんだけど」

「えっ、そんな噂があるの?」

「うん」

 

 私も何回か敷地内を走り回っている彼を見たことがある。

 

「あ〜。まぁ確かに敷地内を走り回ってはいるかな。ランニングしているだけなんだけど」

 

 ツナ君は毎日トレーニングしているらしい。きっとランニングも毎日やっているんだろう。

 

「毎日自分を鍛えるなんてすごいよ。私には無理だな」

「目標、というか理想があるからね。それができるまで、俺も努力とか大嫌いだったし」

「へー、ツナ君にもそんな時代が?」

「うん。ダメツナって呼ばれてたくらいだよ」

 

 私の知っているツナ君からは到底信じられないけど、今の彼は、彼の死にものぐるいの努力で生まれた姿なのだろう。

 

「……」

 

 そう考えると、私にはどうしても分からないことがある。

 

「……ツナ君は、どうしてマフィアになることにしたの?」

「え?」

 

 ツナ君がこれまで積み上げてきた努力は、突き詰めればマフィアになるための努力だ。私は家族を守るためにマフィアの奴隷をやっていたけれど、そのために努力したことなんてない。

 

「みーちゃん、急にどうしたの?」

「その……ツナ君はボンゴレを継ぐことを決めてるでしょ?」

「うん」

「こう言っちゃあれだけど、ツナ君ってどう考えてもマフィアには見えないでしょ? それに優しいし」

 

 私の言葉にツナ君が笑う。

 

「あははっ、そうだよね。俺もそう思う」

「だから、なんでマフィアになることにしたのかなって」

「う〜ん。そうだな、守りたい人達。守りたいものが出来たからかな」

 

 守りたい人やもの。大枠で言えば私と同じだけど、ツナ君は誰を、何を守りたいのだろう。

 

「それって誰?」

「守りたい人はいっぱいいるんだよ。家族、友達、仲間みたいな大切な人達。そして、大切な人達の大切な人達」

「え、大切な人達……の大切な人?」

「そう」

「……それってすごい人数になっちゃうんじゃない?」

 

 家族や友達、仲間だけでもツナ君なら対象は膨大だろう。なのにその対象の大切な人までも彼にとっては守るべき存在になったら、1人では守り切ることなんてできないんじゃないか。

 

「そうだね。でも俺は1人じゃないからさ。仲間も沢山いるしね。でも俺自身が強くないと、肝心な時に大切な人達を守れない。だから俺は自分を鍛え続けるんだ」

「……ツナ君は、心が強いんだね。本当に凄いと思う」

「みーちゃんも強いじゃない」

「え?」

 

 なぜか、彼は私も心が強いと口にした。

 

 

「家族を守るために自分を犠牲にして奴隷になった。そして奴隷として消す命令を受けた相手に対して、心配して気をつけるように助言をした。奴隷でいる必要がなくなっても、自分を奴隷にした張本人達の事を家族だからと心配して助けたいと思う。これは、君がとても優しくて強い心を持っている証拠だよ」

「そ、そうなのかな」

「そうだよ。君はこれまでずっと、家族のために強い心で戦ってきたんだ。そんな君に頼まれたから、俺は君の実の家族のことも助けたいと思えるんだ。もっと自分に自信を持っていいんだよ。君の家族を思う心は、とても強いんだから」

「ツナ君……ありがとう」

 

 ちょっと照れくさくて顔を赤くした私に、ツナ君は微笑んで頷いてくれた。

 

 その後、私達は他愛もない会話をしながらしばらく散歩を続けたのだった。

 

 

 

 

 —— 美雨の部屋 ——

 

 

 

「どうぞツナ君」

「おじゃまします」

 

 1時間ほど散歩をした私達は、マンションへと戻り、2人で私の部屋へと戻った。

 

 リビングへとツナ君を通し、私はキッチンへ。冷蔵庫から鍋をいくつか取り出し、コンロで火にかける。

 

「すぐに準備できるから、座って待ってて」

「うん、ありがとう」

 

 嬉しそうにダイニングテーブルへと腰掛けるツナ君。なんかカップルみたいなやりとりだな、なんて思ったりして。……えへへ。

 

 数分ほど鍋を温めたら、お皿を取り出して取り分けていく。皿に盛り付けるのは、2種類の料理とスープ。

 

「はい、お待たせしました」

「おおおっ、すごい!」

 

 料理を持った皿をテーブルに運ぶと、ツナ君は手を合わせて喜んでくれた。

 

「これ、麻婆茄子?」

「うん、もう一皿は青椒肉絲。スープには水餃子も入っているよ」

「え〜! すっごい豪華だね。わざわざ作ってくれたの? すごい嬉しいよ」

「お口に合うといいけど……さ、食べて食べて」

「いただきまーす!」

 

 彼はまず麻婆茄子を一口。

 咀嚼した瞬間、目を見開いて感嘆した。

 

「ん〜! 美味しいよみーちゃん。君は料理上手なんだね」

「ありがとう。美味しくできててよかったよ」

 

 美味しそうに食べ進める彼を見て安心した私は、まず水餃子のスープを食べることにした。

 ……うん、美味しくできてる。

 

「青椒肉絲も美味しいなぁ〜。これ、全部中国ではよく食べるの?」

「うん。中国だと一般的な家庭料理なんだよ」

「なるほどね、だからこんなにホッとする味なのか」

 

 青椒肉絲を食べながら、「うんうん」と頷く彼。

 

「ホッとする味?」

「うん、なんていうのかな。その、作った人の気持ちが溢れてると言うか、食べる人の事はもちろん自分のことを思って作ってるって感じ。料理に作り手の強い想いが乗っかっている気がするんだよね」

 

 料理に強い想いが乗っかっている?

 う〜ん、そうなのかな。

 

「きっとあれだね。みーちゃんにとって今日のメニューは、幸せな気持ちになれるものなんだろうね」

「幸せな気持ち?」

「うん。噛むたびにこう、なんかみーちゃんの幸せな気持ちをお裾分けしてもらっている気がする」

 

 確かに、今日のメニューは実の両親達に再会する前、つまり家族が日常を生きれていた時代によくお母さんが作ってくれたものだった。作り方も、その時にお母さんに習った。

 

 彼の言葉で気づいたけれど、私にとってこの料理達は、家族の幸せな日常の象徴なのかもしれない。彼と日常を共有する今日という日にこのメニューを選んだのは無意識のうちにそれがわかっていたからなのだろう。

 

「……そうだね。私、このメニューには幸せな記憶がいっぱいあるもん」

「やっぱり? こんな美味しいんだからそうだよね」

 

 料理をしていて思い出したのは、昔お母さんが作ってくれたこの料理達をお父さんと一緒に笑いながら食べている情景。そして今日は彼と一緒に私の作った料理を笑いながら食べている。

 

 ——やっぱり、こういうのっていいな。

 

 大切な人と一緒に過ごすっていうのは、やっぱりとても幸せなことなのだ。そんな幸せなんて、私には二度と感じれないとずっと思っていたけれど、この学校を卒業したら、またお父さんとお母さんと笑顔の食卓を囲める。それはもちろん彼のおかげだ。

 

「……ここを卒業したら、私の料理をお父さんとお母さんも食べてもらいたいな」

「いいね、きっと喜んでくれるよ。その時が楽しみだね」 

「うんっ! あっ……

「?」

 

 自分の幸せな未来を想像すると、実の両親や小狼のことが頭に過ぎる。3人はどんな未来を歩んでいくのだろう。これからもずっと、マフィアとして裏社会を生きていくのかな。それが、本当にあの人達の望む幸せな未来なのだろうか。

 

「……」

「みーちゃん?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないよ!」

「そう?」

「うん。ほら、食べよう!」

 

 とりあえず頭の中を切り替えて、今はこの幸せに浸ることにした。

 

 

 〜食事後〜

 

「ごちそうさまでした!」

「お粗末さまでした」

 

 食事を終えたツナ君は、膨らんだようには見えないお腹をぽんぽんと叩いた。

 

「全部おいしかったよ。ありがとうね、みーちゃん」

「喜んでもらえてよかったよ」

 

 私が食器を下げようとすると、彼も立ち上がって食器を持ってくれた。そのまま一緒にキッチンのシンクまで運び、食器を洗おうと上着の袖を捲り上げる。

 

「……跡になってるんだね」

「えっ。あ……うん。でも、もう痛くはないよ」

 

 そう言いながら、彼は私の右腕を見つめてくる。視線の先には、先の誘拐事件で負ってしまった火傷の跡が残っていた。

 

「痕は自然に消えてくれるんだっけ?」

「うん、お医者さんも八百屋の占い師さんもそう言ってた」

「それならいいんだけど……」

「……」

 

 罪悪感を持っているのだろうか、ツナ君は少し悲しそうな顔をした。

 

 そんな顔を私が見つめていたら、彼は気づいたのか慌てて話題を変える。

 

「こ、この後はどうするんだっけ?」

「あ、うん。ウィンドウショッピングでもしようかなって思ってたんだけど……いい?」

「もちろん! 洗い物が終わったら早速行こう!」

 

 慌てるツナ君に合わせて、私も急ぎ目に洗い物を始めたのだった。

 

 

 

 —— ショッピングモール ——

 

 

 

 洗い物を終えて部屋を出た私達は、ケヤキモールへ向かった。目的地はもちろんショッピングモールだ。

 

 たくさんのお店が並ぶモール内で、ツナ君に話しかけられる。

 

「何か買いたいものでもあるの?」

「ううん。クリスマスも終わったし、何かセール品でもないかなって」

 

 誘拐事件の慰謝料としてポイントを沢山をもらったけれど、節約できるところはしないと。

 

「どの店に行く?」

「とりあえず、アパレルショップかな」

 

 私達は最初に服を見に、女性向けのアパレルショップへと向かった。目論見は外れて、そのお店では特にセールなどはしていなかったけれど、彼と一緒に洋服を物色するだけで楽しかった。

 

「買わなくてよかったの? すごく似合ってたのに」

「うん。可愛かったけど、ちょっとお値段がね」

 

 結局何も買うこともなく、アパレルショップを後にした私達は、次に雑貨屋に向かうことにした。

 

 その雑貨屋はお手頃なお値段で、可愛いものが多いと女子には人気の雑貨屋だ。

 

「へ〜、いろんなのがあるんだなぁ」

「ツナ君はこういう雑貨を買うことないの?」

 

 男子でも部屋のインテリアとして雑貨を買う人もいると聞くから、彼もそういうことをしていないのかと思った。

 

「買ったことないなぁ、恥ずかしながら、おしゃれとかこういうアイテムには疎いんだよ」

「そうなの? あれ、でもかっこいい指輪は持ってるよね」

「あれは俺が選んだわけじゃないし……むしろ持ち主に選ばれた感じだから」

「えっ。……あ、そういうことか」

 

 ツナ君はかっこいい二つの指輪がチェーンで繋がったものを持っている。彼はシルバーアクセサリーが好きなのかと思っていたけど違ったみたい。マフィア関係で持たざるを得ないのかな。

 

「でも、大事にしてるんでしょ?」

「あはは、まぁね」

 

 顔を綻ばせてそう言う彼は、どことなく嬉しそうだった。身につけこそしないけれど、とても大事にしているようだ。

 

 店内を回りながら、私はいろんな雑貨を手に取って見ていった。ツナ君もいくつかの雑貨を手に取ってはいたけど、買おうとまでは思わないみたいだ。

 

(……)

 

 今日のルートは全て、私の希望通りに進んでいる。彼的には興味のないこともあるだろう。私の日常を共有したいからって、さすがに私優先に行動しすぎだったかな。

 

「ツナ君」

「ん?」

「あの、退屈したりしてない?」

「え、なんで?」

「私の行きたいところにしか行ってないから、もしツナ君にしたいことがあったら」

「あ〜。全然気にしなくていいよ。今日の俺のやりたいことは、みーちゃんのしたいことをすることだからさ」

 

 彼的には嫌ではないみたいだけど、この後はどうしようかなぁ。

 

 繰り返すけど、今日の目的は、私の日常を彼と共有することだ。

 

(……ん〜、せっかくの機会だし、私の好きなものを知ってもらいたいな)

 

 そう思った私は、通ってきた店内の通路を引き返し、一つの小物を手に取った。

 

 私が手に取ったのは、可愛い写真立てだった。部屋のインテリアにしても邪魔にならないようなサイズ感で、見ていると穏やかな気持ちになる気がする。

 

「あ、それさっきも見てたよね。気に入ったの?」

「うんっ」

 

 彼の言葉に頷いた私は、同じ小物で色違いのものをもうひとつ手に取る。そしてそのままレジへと向かった。

 

「これお願いします」

「いらっしゃいませ。はい、ありがとうございます」

 

 提示されたポイントを学生証端末を取り出して支払う。

 

「お会計完了しました。……ご一緒の袋にお入れしてよろしいですか?」

 

 会計を終えた店員さんが、私の後ろにいた彼をチラッと見て聞いてきた。

 

「いえ、別々の袋でお願いします」

「かしこまりました」

 

 店員さんはわかりやすいように、袋も色違いにして包んでくれた。

 

 お礼を言って袋を受け取り、私は待たせていた彼と共に雑貨屋を後にした。

 

 ショッピングモールへと戻った私達は、小休止も兼ねて近くにあったベンチに座った。

 

「ツナ君、これ、受け取って」

「えっ! 俺に買ってくれてたの?」

「うん。私も買ったから、お揃い……みたいな」

「え〜、ありがとう。大事にするね」

 

 お揃いのところは華麗にスルーされたけれど、彼は受け取った袋をニコニコしながら見つめていた。中身は彼にもわかっているからか、この場で開けようとはしなかった。

 

「帰ったら早速飾るね」

「うん。私も帰ったら飾る」

「何の写真を入れようかな〜」

 

 ツナ君は、どんな写真を入れようかと思案し始めた。やがて思いつかなかったのか、彼は私に質問をしてきた。

 

「みーちゃんはどんな写真を飾るの?」

「私? 私は家族写真かな」

「あ〜。今部屋に飾ってるやつみたいな?」

「あ、ううん。こっちには別の家族写真を入れようと思ってるんだ」

「ん? 別の? ……あっ、そういうことか」

 

 私の言わんとすることを察した様子の彼に、私は頷いた。

 

 この写真立てには、今の私の家族写真じゃなく、最初の家族の写真を入れるつもりだった。つまり、私の実の家族との写真ということだ。

 

 今はマフィア「ジョーコファミリー」にボスとナンバー2。そして次期ボスとなってしまった私の実の家族。生まれてすぐに離れたから、私や小狼が赤ちゃんだった時の写真しかないけれど、私はその1枚をずっと大事に持っている。その1枚は今の両親が持っていたもので、物心ついた時に受け取ったものだった。

 

 今はこの1枚しかないけれど、いつか少しずつ増えていってくれる。きっと両親や小狼も裏社会から抜け出せる。

 ……そう信じてる。

 

 こんなことを思えるようになったのも、彼が私と両親を助けてくれたおかげ。そして、かならず実の両親達も助け出すと誓ってくれたおかげだ。

 

 その日まで、私は今ある家族写真の隣に、この新しい写真立てを飾っておくんだ。やっぱり、どちらも私の家族には変わらないから。

 

「……」

「……ふふっ」

「!」

 

 彼と同じように袋を見つめながら思いを馳せていたら、いつのまにかツナ君は私を見て微笑んでいた。

 

「あ、ごめん、考え事してた」

「いいよ。……にしても、みーちゃんは家族のことを考えている時、すごく幸せそうな顔をするよね」

「えっ! そ、そう?」

 

 私はどんな表情をしていたのだろう。なんだか気恥ずかしい。

 

「素敵なことだよ、そこまで家族のことを考えられるのってさ」

「あ、ありがとう。でもツナ君もいつもファミリーのこと考えてるんでしょ?」

「考えてるけど、そのファミリーじゃないよ」

「同じじゃない? ツナ君にとって大切な人達って意味では」

「あ〜、うん。そう考えるとそういうことになるね」

 

 シャレを言ったつもりではなかったけど、私達はなんとなく笑い合っていた。

 

 ほんわかした雰囲気になったかと思えば、次にツナ君は一気に空気が変わるような言葉を口にした。

 

「——あっ、じゃあ俺的にはみーちゃんも俺のファミリーになるのか」

「うん……えっ!?」

「君も大切な人だからね。守りたい存在だし、君も俺のファミリーだ」

 

 彼は話の流れで言っているだけだろうけど、私からしたらとてつもない破壊力のある言葉だった。だ、だって君も俺のファミリーだなんて、マフィアのこと知らなかったら完全にそういう意味だもの。

 

「……嬉しいけど、あんまり女の子にそういうこと言わない方がいいよ」

「えっ!? ご、ごめん!」

 

 びっくりした様子の彼に、私は慌てて釈明した。

 

「あ、いや怒ってるわけじゃないんだけど」

「そ、そうなの?」

「う、うん」

「……」

「……」

『……』

 

 ど、どうしよう。一気に空気が悪くなっちゃったよ。

 せっかく楽しいお出かけだったのに、終わりがこんなのは嫌だよ。

 

 ……こうなったら、お互いに責任を取るしかないよね。私が責任を取ってこの後の行動を決めるから、彼にも責任を取って私の言うこときいてもらわないとだ。

 

「……ツ、ツナ君!」

「っ、はいっ!?」

 

 気負いすぎて変な言い方になってしまった。

 

「……最後に、一緒に行きたいところがあるの!」

「はいっ!」

「つ、ついてきてくれるっ!?」

「はいっ! どこでもいきますっ!」

 

 変なやりとりを終えた私は、彼の腕を引っ張ってショッピングモールを早歩きで進んでいった。

 

 しばらくして私達が入ったお店は——ゲームセンターだった。

 

「……ここでいいの?」

「うん」

 

 入り口に書かれたゲームセンターの看板を見て、彼は少し驚いた様子だった。

 

「みーちゃん、ゲームするんだ」

「ゲームじゃないよ、目的は……あ、あれですっ!」

「えっ……あれなの!?」

 

 私と彼の視線の先にあったのは、プリクラコーナーだった。

 

「最後に、一緒にプリクラが撮りたい。……だめかな」

「いや、全然構わないよ。少しびっくりしただけだから」

「そう? じ、じゃあ撮りましょうか」

「は、はいっ」

 

 実は私、男子とプリクラを取ったことは一度もない。だからすごく緊張していたんだけど、それは彼も同じようで、側から見たらロボットみたいな男女がプリクラ機の中に入っていくように見えたと思う。

 

「つ、ツナ君。もう少しこっちに寄って」

「は、はいっ」

 

 ポイントを支払った私達は、これまたぎこちない動きで撮影を始めた。

 

 撮影が終わり、外に出ると学生証端末にプリクラのデータが送られてきた。

 

「……なんか、2人とも証明写真とってるみたいだね」

「う、うん。表情ないね」

 

 一緒にデータを確認すると、写ったのは無表情の2人だった。お互いに緊張しすぎて無表情になったみたい。

 

「……まぁ、これはこれで」

「思い出にはなる……のかな?」

「……」

「……」

『……あははは』

 

 少しの沈黙の後、私達は顔を合わせて笑い合った。

 

「……そろそろ、帰ろっか」

「うん、みーちゃんが満足したなら」

「私はもう大満足だよ」

「そっか、じゃあ帰ろう」

 

 私達はゲームセンターを出て、マンションへと向かった。

 

 ツナ君は女子用マンションのエレベーター前まで見送ってくれた。

 

「じゃあ、またねみーちゃん。今日はありがとう、また学校でね」

「うん。こっちこそありがとう。またね」

 

 エレベーターのボタンを押し、ドアが閉まり始める。ドアが閉まり切るまで彼は笑顔で手を振り続けてくれた。

 

 私の部屋がある階に到達し、私はエレベーターを降りる。真っ直ぐに自分の部屋へと向かい、鍵を開けて中に入った。

 

 うがいと手洗いを済ませ、リビングに入る。ダイニングテーブルに雑貨屋で買った袋を置き、写真立てを取り出す。

 

 それから勉強机に向かうと、一番上の引き出しから1枚の写真を取り出した。

 

「……」

 

 その写真は、私と小狼が生まれてから一番最初に撮った写真。私にとって唯一の実の家族写真だ。

 

 写真立ての背面を開き、写真を入れ込む。そして、今の家族との写真の入った写真立ての隣に置いた。

 

 並び合う、私の二つの家族写真。私は両手を握り合うように手を組み、目を閉じて祈った。

 

(いつか、小狼達とも家族に戻れますように)

 

 祈り終えた私は、役目を終えた袋を片付けて部屋着へと着替える。そしてベッドに寝そべり、何気なく学生証端末を開いた。

 

「あ。……ふふふっ」

 

 学生証端末を起動すると、最後に撮ったプリクラが表示されたままだった。プリクラを見て、私は笑ってしまった。

 

 写っているのは、デートの記念とは思えない、証明写真をとるかのように無表情な2人。

 

「……ファミリー、かぁ」

 

 プリクラを見ながら、彼の言っていた言葉を思い出した。

 大切な存在という意味では、私もまた彼のファミリーの1人。

 

 ——では、私にとってツナ君は?

 

「……」

 

 私は勉強机のノートパソコンを起動し、学生証端末と接続する。そしてプリンターから1枚の写真を印刷した。

 

 印刷した写真を持った私は、元々あった今の家族写真を入れた写真立てを取る。

 

 背面を開くと、すでに入っている家族写真の裏面が現れた。私はその背面の上に、印刷した写真を重ねてから、再び背面を閉じた。写真立ての中は、2枚の写真が背中合わせに入ってる形になる。

 

 写真立てを元の位置に戻し、私はもう一度手を合わせて祈る。

 

 

 ——どうか、私のファミリーが、幸せでありますように。

 

 




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