スタンドをスべて持つ者は悪魔のいる高校へ   作:衝動書きする人

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悪魔と堕天使と 5

 ()()()()()()()()()()()()()アジトである廃協会に戻ってきて、そしてレイナーレ様が逃がした人間が悪魔になってアーシアを救うことになるだろうという報告を知った瞬間に()()()()()()が計画を早めることを決定した。

 アーシアは外に出られないように部屋に閉じ込め、フリードとアーシアに何があったのかを聞かされることはなく、時々アーシアの様子を見るように命令された私は、食事を一緒に持ってアーシアのいる部屋に入る。

 部屋の中は廃協会の中にしては小綺麗な部屋だった。アーシアが掃除したのだろうかと思うと同時に、ここを出たら()()()()()()2()()()戻ってこないというのに、それでも自分の信じた道を進み続けているアーシアに強い()()()覚えながら食事を机の上に置く。

 

「あんたも不幸だったッスね。教会に追い出された挙句堕天使に捕まるなんて」

 

 キョトンと、それこそ堕天使である自分がそんなことを言うとは夢にも思わなかったのか、アーシア・アルジェントは目を丸くして私を見つめる。

 

「あんた、自分がどうなるのかわかってるんスか?」

 

「……はい。薄々気が付いています」

 

 私の質問に答えたその言葉に、嘘はないのだろう。私が聞いたことによって現実味が増してきたのか祈っている手がかすか震えているのがわかる。それでもアーシアは気丈に微笑んでいる。

 

「なら、ここから逃げ出したいと思わないんスか?」

 

 私なら逃げようとするだろう。恥も外聞もなく、例え他の堕天使に嗤われることになっても、私は自分を助けてくれるであろう、それが人であったとしても頭を下げて無様に助けを乞うだろう。

 

「イッセーさんに助けを求めたら、イッセーさんはきっと私を助けてくれるでしょう。あまり私にそういう価値があるとは私自身思えていないのですが、それでもイッセーさんなら助けてくれるってそう信じられます」

 

 アーシアの言葉には確かな信頼があった。私はアーシアの言うイッセーがどういう人間なのかは知らないが、アーシアがすべてに善性を信じているシスターであったとしても、そのイッセーに対する信頼はそれ以上の物に思えてならない。

 

「でも、そうなったらイッセーさんは死んでしまう。悪魔が元であってもシスターである私を、敵対している堕天使と共にいる私を助けようとすることを認めるとは思えません。そうなったら、きっとイッセーさんは1人だけでも助けに来てくれる。数回しか会ってませんが、あの人ならそうしてくれるって、そうしてしまうって、信じられるんです」

 

 そういうアーシアの表情は、とても悲しそうだった。いや、悲しいだけではなく自分を助けてくれると信じられる人がいることへの嬉しさも混じっているけど、それでも悲しさの方が上回っている。

 

「私はあの人を失いたくない。あの人が死んだことを知ったら、絶望の中で死んでいくことになってしまう。私は、せめてあの人は生きていると知ったままでいたいんです。だから、私は助けを求めません。私はあの人に死んでほしくないんです」

 

 そう言ってアーシアは私に笑みを見せる。その笑みは泣きたくなるのを我慢していると誰が見てもわかるほどに悲しみを隠そうとしている笑みだし、口元が震えていてうまく笑えていない。

 あぁ、なんて、なんて……。

 

「……本当に、()()()()

 

「え?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが彼がそうありたいと願い求めていた人間の美しさなのだろう。きっと人間だけが浮かべることができる、人間の強さを強く感じる笑みだ。

 そんな選択、私にはできない。自分のことしか考えられない自分には、到底作ることすらもできないきれいな笑みを浮かべるアーシアに、心の底から羨望を感じた。

 

「本当ならここから逃がしてあげたいんスけど、私にはそんな力はないし、そんなことをしたら今度こそ首を切られる羽目になるからできないんスよね」

 

 こんな時にあいつがいてくれたらと、今日ほど思ったことはない。自分から望んだこととはいえ、ただでさえあいつと一緒にいることで危ない橋を何度も渡ることになったのだからこれぐらいの愚痴は言わせてほしいものだ。()()()()()()()()とはいえ、日本まで連れてこれるほどの力を持っているレイナーレ様に逆らうことができず、こうして悪魔の統地で戦争になりかねないことをやっていることにため息どころか涙も出てきそうだ。

 

「ま、せいぜい生き延びれることを祈ってることっすね。不幸に塗れたこの環境から救い出してくれる、そんな素敵な王子様を希いながら」

 

 どの口が言っている。この環境から救ってほしいと願っているのはどこのどいつだと自嘲しながらアーシア・アルジェントの部屋から出ていく。ギシ、ギシ、と放置されてからずいぶんと時間が経っていることを実感させるほどに老朽化した教会内を歩く。神に祈るための家に神を裏切った存在が潜んでいるとは、なんとまぁ皮肉なことだと思いながら伝えられた場所へと移動する。

 

「はぁ……」

 

 教会のドアを開いて外に出る。雲一つない空から満月の光が世界を照らし、夜とは思えないほど真っ黒な影を作り出していた。もちろんそんな影なんかは堕天使の自分にはまったく意味はなく見通せるのだが、それでも陰鬱な気分は変えることはできなかった。

 

「日本に来れたのはうれしかったけど、でも、こんな形で来たくなかったっスね……」

 

 日本にあいつがいることは知っていた。どこの街なのか、までは聞いていなかったが、少なくともイタリアよりは近い距離にあるこの土地に来られたことにわずかな喜びを感じるが、それ以上に今自分がいる境遇への絶望感のほうがはるかに強い。

 

「はぁ……」

 

 レイナーレ様の計画。希少な神器使いから神器を抜き取り、それを我が力にしてアザゼル様に見てもらう。何ともまぁ乙女らしく、何ともまぁ子供らしい想いなんだろうかと思わず笑ってしまいそうになる。

 疎まれているとわかっていたとはいえ、わざわざ他派閥である親人間派の私すらも使って計画する当たり、あまり余裕はないのだろうけど私のことはあまり信頼しているわけではないようだ。監視こそそこまでないものの私には計画のことについてあまり説明をしてくれていない。どうしてわざわざこんな場所を選んだのか、それすらも聞かされていない。

 

 何とかしてここから逃げ出そうと試みたこともあったが、レイナーレ様からすれば私はあったほうがいいがなくてもいい保険程度の戦力でしかないことを理解できている以上、余計なことをすれば私の命はないだろう。同じ堕天使であるにも関わらず少しだけとはいえ監視をしているのがその証拠だ。

 上級にもなればさすがに厳しいが、中級程度の実力なら監視程度見破る程度訳はない。何年好き好んで化け物と罵られていた人と行動を共にしてきたのだと思うのだが、悲しいかな、私自身はそれぐらいしか自慢できる能力がない。レイナーレ様が率いている堕天使の中で最弱は私なのだから、反抗すればあっという間に殺される。

 

「どうにもならないことはあるってわかっていたけど、ここまで詰みな状況も珍しいんじゃないッスかねぇ」

 

 レイナーレ様の話では、グレモリー一族の1人リアス・グレモリーと接触した、とのことだった。何とかしてリアス・グレモリーにバレないうちに計画を進め、うまいこと進められたらリアス・グレモリーの首を獲る、なんて妄想していたようだが、なんて馬鹿なんだろうと表情に出さないようにするのに苦労したものだ。

 グレモリー一族の1人の首を獲る?妄想も大概にしてほしいものだ。そんなことをすれば戦争待ったなしだ。あの馬鹿は戦争を望んでいるのかと頭を抱えそうになったが、同時にそういえばレイナーレ様たちはバラキエル様の一派だったか、と戦争狂にうまいこと吹き込まれたのだろうと違う意味で頭を抱えたくなった。

 何とか止めなくてはと思うが、私にはそれをする力がない。監視の目は少ないとはいえ、ここで待機することを命じられている今、外部と接触することは難しい。勝手に外に出て接触なんてすれば、私は監視に見つかって死ぬ羽目になる。そのまま計画を早めて戦争になる、なんてことになりかねない。そうなればあいつは間違いなく巻き込まれることになってしまう。

 

 どうすればいいんだろう。いっそのこと馬鹿になって戦争を起こすように行動して、あいつだけはなんとかして保護してもらうようにお願いするしかないんだろうか。

 

「……ん?」

 

 丸まった背を伸ばすように腕を上に伸ばすと、カサリと乾いた音が足元から聞こえた。木の葉でも入り込んだのかとやや面倒だと表情を浮かべて音がしたほうを見ると、そこには折りたたまれた紙が2枚あった。

 

「紙?折りたたまれているってことは、誰かしらの物?いったいどこから……」

 

 いつからあったのかいつの間にか私の近くに置いてあった。誰からの物なのかも書いておらず、もちん私が作ったものでもない。ただ番号だけが書かれたそれらにどこか既視感を覚えながら①と書かれた紙を広げる。

 

「…………っ!」

 

 そこには見覚えのある筆跡で書かれた文章があった。それを読み進めていくと、やっぱり思った通りの人物がこの手紙を書いてくれたんだと確信して安堵のあまりポロポロと涙があふれてくる。

 

「……ハハハ」

 

 口から思わず笑いがこぼれる。私が敵の陣営にいるのも関わらず、こちらを心配するようなことを書いてくれていることに、喜びと情けなさが入り混じった感情が渦巻いた。

 

「この街にいたんスね、ジョディオ」

 

 クシャリ、と呼んでいた手紙を思わず握り締める。そのままその手紙を胸に抱えるように寄せ、グルグルとかき回すかのように回っている感情を整理するように吐き出す。

 

 思い出すのは初めて出会った時からの思い出。

 

 なめた態度で突っかかり、手も足も出ずに負けたけど私が少女の姿をしていたから見逃されてからの思い出。

 

 何とか殺そうと躍起になっていた時に悪魔や教会から襲い掛かってきた時に、その力を使って連中から助けてくれた思い出。

 

 無数とすら感じるほどの能力に恐怖した私からの提案を、わざわざ飲んで対等な存在として接してくれた思い出。

 

 自分のことを黒くも輝きもない薄汚い精神の持ち主だと蔑みながら、でも黄金の精神であろうとするその姿にいつからか魅かれていった思い出。

 

 変わりたいと願った私に、1度だけ力を()()()()()()ときに一緒に笑ってくれた思い出。

 

 イタリアを離れると知って、知ることになるとは思わなかった苦しい感情を理解してもなお手放したくないと想いジョディオを見送った思い出。

 

「会いたいなぁ……。会いたくないなぁ……」

 

 助けてほしいと思う願望と、敵対したくないと思う切望。そこには恐怖はなく、ただただ道に迷った子供のような感情が揺れ動いていた。でも、それを私はジョディオには見せない。ジョディオに見せるのは、こうありたいとジョディオが願った自分の道を、暗闇の中でも自らの力で歩み続け、未来を切り開く人間の素晴らしい姿を、ジョディオが嫌っている人外の私が見せたいんだ。

 

 ②と書かれた紙の隙間から、CDのようなDISCの写真がチラリと見えた。そしてそのDISCの写真の下に、たった一言だけ文章が書かれていた。

 

『一味違うお前をもう一度みせてくれ』

 

 わかったよ、ジョディオ。ここにいるのは、もう力に優越感を覚えるだけの生意気な人外じゃない、あなたが憧れた姿を魅せれるかっこいい人外なんだと、もう1度見せてあげる。

 

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