〜大岡紅葉の婚約者はCIA〜   作:Mr.♟️

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2話

 

大岡家のとある一室。

 

その部屋には、紅葉の父親である大岡宗秋と、母親である琴葉が並んで座っていた。

 

そしてその対面に呼び出されているのは──紅葉と司である。

 

「──座りなさい」

 

2人はコクーンの発表会が終了し、屋敷に帰宅した直後にこの部屋へ呼び出されていた。部屋の隅には、伊織が無表情で控えている。

 

「お父さん。そないに怖い顔してどないしたん?」

 

「あらあら、紅葉。それはあなたが1番わかっとるんと違うかしら?」

 

「紅葉、司くん。2人とも、私たちに言わなければいけないことがあるんじゃないか」

 

紅葉はなんのことか分からないと首を傾げ、司は宗秋の鋭い視線を正面から受けながら、一切目を逸らさなかった。

 

張り詰めた膠着状態が1分ほど続き、ようやく紅葉と司が同時に口を開いた。

 

「あ、ウチと司の──」

「申し訳ありませんでした」

 

紅葉の言葉は、司の謝罪にかき消された。

 

司は深々と頭を下げている。その予想外の行動に、両親と紅葉の3人はキョトンと目を丸くし、伊織だけが静かにため息をついた。

 

「ですが、決して遊びであったり、CIAの任務を円滑に進めるためにお付き合いしとるわけではないです。僕は心の底から──紅葉のことを愛してます」

 

「──なに、お父さん。司のこと虐めよるん?ウチのことこんなに好きで、ウチも同じくらい司のこと好きやのに。なんで虐めるん?」

 

「ほら、あなたが怖い顔をしているから、司くんが勘違いしたではありませんか」

 

「な、わ、私のせいなのか......?コホン。頭をあげなさい、司くん」

 

(な、なんや。紅葉と僕が付き合っとるから、そのことを詰めるために呼び出したんと違うん?)

 

3人の反応から、自身の覚悟を決めた行動が完全に的外れだったと理解し、司は言われた通りに顔を上げた。

 

隣では紅葉が嬉しそうに、『いきなり愛してるなんて照れるやん』と揶揄っている。

 

「私はただ──付き合ったのなら、私たちに真っ先に報告すべきだと言いたかっただけだ」

 

「え、あれ。てっきり、僕と紅葉の仲を引き裂くために呼ばれたと思うてました」

 

「そないなことしてどないしますの。前々から、司くんやったら紅葉のことを安心して任せられるって話しとったんですよ」

 

琴葉の柔らかな言葉に、宗秋も深く頷く。

 

(紛らわしいことせんといてや)

 

内心でぼやきながら、司はひとまず安堵した。次の言葉を聞くまでは。

 

「──コクーン内でのことはやりすぎでしたけどなぁ。私たちがコロセウムの映像止めんかったら、大騒ぎになったやろうな」

 

関西一の財閥である大岡家の後継者、その恋人。

 

あの場であんな熱烈なキスシーンが知られれば、世間の話題はコクーンの革新性から、紅葉のロマンスへと完全に持っていかれていただろう。

 

「いや、そんなことは今はどうでもいい。せっかくようやく付き合ったのだから──パーティーを開くべきだ。大々的に婚約パーティーを開くぞ」

 

「これでウチら、どこでもイチャイチャしても怒られんよ。嬉しない?」

 

「いや、全くもって話についていけてないんやけど。婚約パーティー?」

 

「嬉しいやろ?ウチは嬉しい」

 

「嬉しいけど、嬉しいけど......そうやないねん。怖いくらいハイペースで話が進んどって、怖いねん。やって、怖いくらい早く話が進んでるんやもん」

 

混乱する司を見かねてか、部屋の隅から伊織が一歩進み出た。

 

「──遅いくらいですよ、司くん。宗秋様と琴葉様は、2人が付き合わないのをもどかしい思いをしながら見守っていたのです」

 

「え、そうやったん?」

 

「ええ。2人が付き合ったらすぐに報告するよう、私にも指示されていました。できるだけ早く婚約パーティーを開きたいから、と」

 

「お前は教えてくれなかったけどな」

「そうや、なんで教えてくれなかったんですか?」

 

宗秋と琴葉のジト目に晒されながらも、伊織のポーカーフェイスは一切崩れなかった。

 

「──婚約してほしくなかったからです。もう少しだけ、2人の初々しい日々を見守りたかった。はい。完全に私のわがままです」

 

堂々と、一切の悪びれもなくそう言い切る伊織を見て、この場にいる誰も、何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──とにかく、婚約パーティーを開くので、そのことは心しておくように」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 


 

深夜。冷たい風が吹き抜ける、とある薄暗い路地裏で、司は『鼠』と踊っていた。

 

「──世の中、楽しいことばっかりやったらええのになぁ」

 

追い詰められた鼠は、撃ち抜かれた肩と足を必死に押さえながら、弱々しい瞳で司へと懇願している。

 

「ま、待て。頼む、見逃してくれ。俺は──CIAの捜査官だ。見逃してくれたら、なんでもする」

 

その哀れな言葉を、司は鼻で嗤った。

 

よりにもよって、自身と同じCIAに所属する捜査官をこの手で殺さなければならないのだ。

運命の皮肉に、口の中に苦いものが広がる。

 

「殺されそうになったら所属を明かして命乞い──そんなんやから、失敗するんよ」

 

この鼠が組織にバレた理由は、なんてことはない。

 

酒に酔った勢いで、自らの素性を飲み屋でベラベラと話してしまったのだ。その愚かな失態のせいで組織から指名手配され、今こうしてアレキサンダーの銃口を向けられている。

 

「ごめんなぁ。あの世で恨んでええよ」

 

司は──躊躇いなく引き金を引いた。

 

乾いた銃声が路地裏に響き、鼠は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

 

見逃すことはできなかった。なぜなら、自身と同じタイミングで『バーボン』が到着しているのだから。

 

もし彼がいなければ、救いようのない人間でも、なんとかして逃がす方法がないか、あるいは偽装工作ができないか、一瞬でも考えただろう。

 

(バーボンは僕のこと嫌ってるから、隅々まで調べよる。見逃すことなんて、絶対に出来んかった)

 

血の匂いが漂う中、背後の闇からゆっくりとした足音が近づいてくる。

 

「──流石ですね、アレキサンダー。僕もあなたの冷酷さを見習った方がいいのかもしれない」

 

闇に溶け込むようなスーツ姿の男、バーボンが芝居がかった足取りで姿を現した。その顔には、相変わらず腹の底の読めない笑みが張り付いている。

 

「僕やなくて、ジンでも見習ったらいいんちゃう?君に見習われるなんて、怖すぎて鳥肌がたつわ」

 

司は振り返ることもなく冷たく言い放ち、まだ熱を持った銃口をゆっくりと下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(邪魔や。いつでもどこでも姿を現しよる。僕にベッタリすんなや)

 

(毎回毎回彼が先に来るから、逃がして保護してあげることができない....)

 

 

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