チョウゾ・アーカイブ   作:ウエストモール

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アンティキティラの裏側

 2日目、再び屋敷が暗転した。ゲスト達はC&Cの存在で安心しきっているのか動揺することはなく、怪盗の出現を今か今かと待っていた。

 

「皆、打ち合わせ通りにいこう」

 

 そんな中、先生は指示を飛ばしている。話し合いは夜の間に終えているため、行動はスムーズだ。

 

「私はお姉ちゃんと上の階に行きます」

 

「行こっか、ミドリ」

 

「絵画は私とケイ様にお任せを。安全な場所に移動させます」

 

「そうですね、トキ。私達で守りましょう」

 

 ケイとトキの役目は例の絵画の警護だ。最高戦力の2人ならば、本当に怪盗の狙いが絵画だったとしても守りきれるだろう。

 

「アリスは、中央ホールで待機して狙撃の準備をします!」

 

「か、隠れて……状況を見守ります……」

 

「みんな、頑張ろう!」

 

 全員が持ち場に散っていく。その場に先生を残したまま、1分……また1分と暗闇の中で時間が経過するのだが……

 

『なんで何も起こらないの!?』

 

 通信機からはモモイの文句だけが聞こえる。時間が経ったというのに何も起こらないのである。この停電が本当に怪盗の仕業なのだろうか?そう疑問に思ったその時、先生の足元に透明な球体が転がってくる。

 

 不用心にも先生がそれを拾い上げると、そこから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『ごきげんよう、私の声は届いておりますか?』

 

「その声は……?」

 

『どうして内密に伝えたいことがありまして……他に聞こえないように音量を抑えていますから、どうぞ耳にご集中を』

 

「怪盗……?」

 

『嗚呼、ご挨拶はまたの機会に。単刀直入に申し上げましょう。貴方がたは騙されております』

 

「それって、やはり銅田に?」

 

『すでに察しているとは思いますが、予告状を思い出してください。残された謎を解き明かすことで真相に迫れるでしょう……残念ですが、お話はここまでです。私は一足先に待っておりますよ』

 

「切れたか。慈愛の怪盗、君は……」

 

 その直後、電気が復旧した。怪盗の姿も、荒らされた形跡も全く存在せず、何事も無かったかのような様子だ。そこに全員が戻ってきた。

 

「ケイ、絵画は?」

 

「大丈夫でした。しかし、怪盗は来ていたのでしょうか?」

 

「それなんだけど、怪盗から私に音声でメッセージがあった。それについて話し合いたいから、みんなで外に出よう」

 

「ちょっと、警備はどうなるの?」

 

 屋敷の警備を空けてしまうことにモモイは難色を示す。唐突にC&Cの代わりを務めることになった彼女だが、責任感が強くなってきたらしい。

 

「大丈夫。怪盗はルールを破らないからね。今日中に襲来することはないはずさ」

 

 こうして、一行は外へ出る。見張っている者がいないことを確認し、先生は怪盗のメッセージについて話した。

 

「実を言うと、私達は依頼人に騙されている可能性があるんだ。これまで私とケイは調査をしていて、彼が何か隠していることは分かっている」

 

「でも、怪盗の言うことを信じていいのかな……」

 

「相手は七囚人でしょ?私達を騙して警備を手薄にしようって魂胆かもしれないよ?」

 

 ミドリとモモイは怪盗を不審に思っている。簡単に犯罪者を信じられるはずがないのだ。

 

「で、でも……怪盗は卑劣なことをするようには思えないよ……」

 

「だからといって信用するのはまだ早いと思うよ!罠の可能性だって捨てきれないし……先生はどう思うの?」

 

 と、モモイに聞かれるが、先生である彼の回答など決まりきったものだ。

 

「私は……怪盗とはいえ生徒だから話を聞いてみたい。彼女の話を聞いてから判断してもいいかもしれない。ケイ、それでいいかな?」

 

「私は先生に従います。どちらにせよ、予告状の謎を完全に解き明かした方がよさそうですね」

 

「予告状の内容を見させていただいても?」

 

 トキだけは予告状の内容を見ていない。彼らは彼女も交え、再び予告状の文章を読み返した。

 

「うーん、アンティキティラの裏側ってどういう意味があるんだろ?」

 

「アンティキティラという単語が出た時、明太郎さんの様子が変だったし、ここに重要なことが隠されていそうだけど……」

 

「アンティキティラ……アンティキティラ…………もしかして?」

 

 モモイとミドリが頭を悩ませる中、アンティキティラという単語について考えていたユズの脳内に電流が走った。

 

「あっ、これはUZQueenモードです!アリス、知っています!」

 

「先生、アンティキティラ島の装置は……天体の位置を導き出す複雑な装置です……暦の計算もできるはずだから、時計の一種と見ることもできます。なので、アンティキティラは時計のことを指しているかもしれないです」

 

「時計……たしか、この屋敷には大きなアナログ時計がある……ケイ、だとしたら……」

 

「ええ、調べてみる必要がありますね」

 

 そして、再びアナログ時計の前にやって来る。未だに銅田の姿はどこにも存在しておらず、怪しい動きが露見することはないだろう。

 

「これが例のアナログ時計ですか……時計と並び立つ踊り子の像……なるほど、“止まった舞”とはこのことですか……」

 

「時計と像の裏には何もありませんが……これは?一枚だけタイルの模様が違います」

 

 トキとケイがアナログ時計をじっくりと調べていると、敷き詰められたタイルの模様が一枚だけ他と異なっていることに気付く。トキがタイルの向きを変えて再び嵌め込むと……

 

ガコンッ!

 

「これって、隠し階段!?」

 

 先生が驚きの声を上げる。そこにあったのは、地下へと続く階段であり、奥に闇が広がっていた。

 

「依頼人が話を逸らした理由は、この先で明らかになるかと。依頼人と怪盗がいる可能性もあるでしょう」

 

「クエストログが更新されました!次はダンジョンの探検です!」

 

 一行は意を決して隠し階段へと足を踏み入れる。視界が悪い中、しばらく降りていくと人々が騒ぎ立てる声が聞こえてきた。

 

「次のブツはどうした、早くせんか!」

 

「……今日の目玉はいつ出るんだ!?金なら持ってきたぞ!」

 

 声がはっきり聞こえる頃になると、通路の奥から光が差し込んでくる。やがて、一行の目の前に広がっていたのは巨大なオークション会場であった。

 

 そこには幾つもの席が立ち並び、最前列の一段高くなったステージには、美術品の数々が展示されているのが見えた。大勢の客もおり、地上の何倍もの人数である。

 

「我々は、アレのために来てるんですよ!」

 

「早く見せてください……!〈時計王の冠〉を!」

 

 客達の言動を見るに、とある美術品を目当てに来ている者が多そうだ。

 

「オークションは明日のはずじゃ……どうして……地下で……?」

 

 ミドリが言葉を漏らす。実を言うと、オークションが開催されるのは任務の三日目の予定であり、本当なら展示会をしているはずなのだ。

 

「まあまあ、皆さん。落ち着いてください。他にも素敵な品を多数ご用意しておりますから。〈王冠〉については最後のお楽しみということで……」

 

 そして、そこには不自然に姿を消していた銅田明太郎の姿もあった。客達はしきりにお目当ての品を一目見たいと騒ぎ立て、怪盗の出現を心配している様子だ。

 

「ハッハッハッ!予告状が届いたのですから、当然ながら対策しておりますとも。あのC&Cとシャーレを警備に雇ったのですから!」

 

 そう誇っている銅田の様子は地上で見せた控えめな様子とはうって変わり、自信に満ち溢れた様子だ。豹変とはこのことである。

 

「彼女達が時間稼ぎしている間に、我々は真のオークションを終わらせる。私としては、怪盗と共倒れになろうと一向に構いません!仮に突破されたとしても、消耗しているはずですので私の手勢だけで十分かと……」

 

 どうやら、彼にとってC&Cは捨て駒に過ぎないらしい。

 

「こんなものを隠していましたか、銅田明太郎……」

 

「ケイ様……それどころか、この会場には所在が不明となっている盗品ばかりが出品されています。完全にクロですね」

 

 銅田明太郎こそが最大の悪であったらしい。多くの盗品を扱っている事実がある以上、言い逃れはできないだろう。

 

「……はっ、どうしてここにC&Cが!?怪盗を相手にしていたはずでは!?」

 

 なお、この大人数で押しかければ目立たないはずもなく、銅田は一行の存在に気がついた。客達も動揺しているのか、どよめきが走る。

 

「〈時計王の冠〉……C&Cが探していた盗品はここにあったのですね。まさか、本当に盗品へ辿り着くなんて思ってもいませんでしたが……」

 

「銅田明太郎、貴方には聞きたいことが山程あります。大人しくお縄についてください」

 

 ケイはルミナスカリバーの砲口を突きつけ、銅田を拘束しようとする。

 

「むむむ……お前達、C&Cの身柄を拘束しろ!」

 

 だが、簡単に捕まってくれるはずがない。何体もの武装したオートマタが現れ、参加者の中からは黒いスーツを着込んでサングラスをしたSPのような生徒達が大勢現れ、一行を包囲してしまった。

 

「どうだ!こんなこともあろうかと、私は玄龍門から戦闘部隊を雇っていたのだよ。シャーレの先生、貴方の発言にはドキッとしましたよ」

 

「こんなに大勢いるとは……私でも厳しいかもしれませんね」

 

「ここはパワードスーツを……」

 

 多勢に無勢なので、流石にケイやトキがいたとしても厳しい状況だ。トキはこれまで秘匿していたパワードスーツの使用を切り出そうとした。しかし、それが実行されることはなかった。

 

 何故なら、急に会場の電気が落とされ、煙幕が展開されたからだ。視界が劣悪になる中、先生は聞き覚えのある声を聞いた。

 

「どうぞ、私の手を……」

 

「その声は!?」

 

 先生はその声に導かれ、生徒達を連れて包囲を突破すると地下室から脱出した。

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