01 出るには錬金術が違います……
転生してからてきとーに過ごしてたら錬金術師として、変なのと戦うことになってました……。
━━━━━━
都内某所〈あずまのいえ〉に子供の喧騒が響く。
「にーちゃんだ!おかえりー!」
「ねーねーセイにーちゃん遊んでー!」
「セイメイ兄ちゃんお土産はー!」
牧師のような格好の偉丈夫を囲み、子供たちは裾を掴んで我先にと存在をアピールする。
「分かりました、荷物を置いたらすぐ行きますよ」
古き買い物スタイルとでも言わんばかりのパンパンに膨らんだ紙袋を抱えたまま、色つきのメガネ越しに柔和な笑みを浮かべる偉丈夫は平等に子供たちの頭を撫でたあと、彼らの輪から飛び出し建物の中へと向かう。
「おかえり、センセイ」
「おかえりなさい、センセイ」
「あらあら、センセイはほんとーに子供たちに人気ですねー」
木造の校舎のような温かみある玄関には子供たちの様子を見守る女性たちが集まり、偉丈夫へそれぞれ笑みを浮かべて迎え入れる。
「ただいま戻りました。いい子たちばかりに育ってくれてますから」
牧師風の偉丈夫“
「荷物預かるよ」
「おや、ありがとうございます“響”。ではキッチンにお願いしますね」
集まっていた女性の中で最も小柄な、まだ幼さが強い少女は危なげなく袋を受け取りながら一度中身を覗き込み、しっかりとした足取りで建物の奥へと向かう。
「では、私も着替えてきますね」
「はーい」
「行ってらっしゃいー」
二人へ軽く会釈し、響と呼ばれた少女とは逆の方向へ歩き出す偉丈夫。
二つほど扉を越えた先、私室の扉を開けば男の肩書きを考えれば狭すぎる内装の春まだ浅い冷えた空気が迎える。
およそ六畳半の部屋は中央を除きフローリングが見えない。右手に簡易ベッドとたくさんの写真が貼られた大きなコルクボードがあり、左手にはコートと帽子のかけられた衣装ラックと小さなクローゼットと縦長の壁掛け姿見、その奥に小さなパソコンデスクと簡素なものだ。
衣装ラックへシワにならないようコートと帽子をひっかけ、同じように吊るされていたエプロンを身につける。
頭の中は既に子供たちとどんなことをしようと考えることに夢中だった。
明照星明、〈あずまのいえ〉を含むいくつかの児童保護施設の経営者である。
〈あずまのいえ〉は児童保護施設であるがその受け入れは成人も含まれている。
というのも、関係者のほとんどがとある災害の被災者なことが大きい。
認定特異災害。古来より確認されてきた人間を炭素へと変換・分解する現象、通称《ノイズ》。
その災害によって寄る辺を失った者へ門扉が開かれ、親など保護者を亡くした子供だけでなく、社会復帰が難しくなった被災者への仕事の斡旋も行っている。
「ほーれ、高い高い観覧車ですよー」
『わーい!!!』
「それ危ないからやめようって話だよね!?」
とはいえ、そこに集うものが常々まとわりつくしがらみに苦しむことは少なくないが、この場では知らぬ存ぜぬ。
小柄な子から大柄な子までを澱みなくお手玉している星明を窘めた少女〈立花響〉。
成人男性としては十分すぎる上背からまるで漫画のような怪力を見せられれば、いくら初めて見たものでなくても不安が勝つ。
「見てください、みんな楽しそうですよ?」
「センセイがすごいのは分かるけど万が一があるでしょ!」
ゆったりとした服装の下に鍛え上げられた肉体が隠れていることを知っている響ではあるが、常識外れな遊びを
「仕方がないですね……ほら皆さん終わりですよー」
えーけちー、響ねーちゃんのけちー、ねーちゃんだって前してたじゃーん、などと子供たちから不満の声も上がるが、そこはヒエラルキーの関係で素直に従う子供たち。
年少組は別の遊びへ移行し、それより上は時間を見て「そろそろ伊緒ちゃんの授業だ!」と施設へ駆け出して行く。
まったく、と腰に手を当てて大きく息を吐く響に「立派にみんなのお姉さんやっているようで安心です」と眩しいものを見たように目を細める星明だった。
「もう……センセイは皆に甘いよ」
「あはは、ここでの私はアメ担当なので」
「…………ウチにもう少しムチ担当が欲しいな」
あらあらうふふと子供たちを甘やかす保母役や新米教師が浮かび、私だけじゃん。呪われてる……と心中で呟く。
「あなたももう少し甘えていいんですよ」
頭を撫でる星明の慣れた手つきで思わず目尻が下がりそうになり慌てて睨めつける。
「髪、崩れるから」
「やめた方がいいですか?」
「……もう少しだけいいよ」
━━━━━━
闇に紛れて影が走る。
入り組んだ裏路地を路肩のゴミ箱を蹴飛ばしたことすら、気をやらずひたすらに奥へ奥へと進んでいく。
影は方向を見失いながらも漠然と背中に迫る気配から逃げ続け、ふと走り抜けた先は空き地だった。
大通りから逸れた空白地帯を夜空には雲少ない月からの明かりが影を作る。
影は肩で息をしながらもその顔には安堵の表情が浮かんでいた。
「はぁ、はぁっ、ここまで来れば━━
「お互い余計な物に気を取られませんね」
━━っ!!がぁ、ガァア■■■━━!!」
影はもはや逃げられぬと悟り、その姿を変じる。
月明かりで浮かび上がるそれが照応するようにぶくぶくと肥大化して異形のものを写し出す。
ホムンクルス。
錬金術と呼ばれる異端技術に端を発する人造生命の総称。
「グガァアアア!」
「さて、ではお願いしますね」
「分かってるよ」
異形に向かう二人、星明と響である。
星明に声をかけられた響は胸元に手を当て、ホムンクルスから目をそらさずに睨みつけて━━
「“
━━
呼応して彼女の体が燐光を纏う。
「“フィスト・イン・ザ サン”!」
錬金術の粋の結晶“核鉄”がその姿を変え、彼女に戦う力を与えた。
数瞬前まではなかった長いマフラーが口元を隠す。
「ガァアア!」
弾かれるように動き出し響へと肉薄するホムンクルスが金属質な肉体とは思えない俊敏さで鋭い爪を振るう。
「すぅぅうう……っはぁ!」
迎え入れるように腰を落とし、両手を腰に引く響は呼吸を整え、伸びてくる凶器を紙一重で交わし拳を打ち込む。
「ゴッ、ガァアオ!?」
ホムンクルスの体は見た目通り金属のような硬質さと強靭さを持つが、今の響の拳は鋼鉄すら粉砕しうる。
武装錬金。錬金術の粋を集めて造られた核鉄が所有者の闘争本能に呼応して形状を変える異端技術の結晶。
今の響は埒外法則の塊となり、鉄を砕き、銃火器の砲火すら弾く。
「はっ、せいっ!はぁああ!」
羽根の舞うような軽い足捌きが地面を食みしめて腰の入った拳打の連撃。
どれひとつとっても弛まぬ鍛錬が伺えた。
「っ!とぉりゃあああ!」
【我流・虎撲烈波】
数度の剛拳の後、大きく怯んだホムンクルスの懐へ潜り込んだ響の両掌が強い光をまとい胴に打ち込まれる。
閃光と破裂音がホムンクルスを穿ち、爆ぜさせた。
「ふしゅぅうううう……」
両手を腰に戻し残心する響。
「センセイ、終わりました」
「いいえ、まだです」
「えっ……」
“ヒュッッ!”
「■■■ゥゥギャッ!」
風切り音がホムンクルスの弾け飛んだ残骸のひとつを宙へと放り上げ、今し方穿たれた拳大の穴から月光を零す。
「この種のホムンクルスはとても生命力が高い。体のほとんどを失ったとしても“刻印”が無事なら再生する可能性がありますので気を付けてください」
「は、はい!」
昼間に見せた柔和な雰囲気を潜め、厳しく注意する星明へ背筋を伸ばした響。
「ですが、よく鍛えましたね。見事でしたよ」
認めるところを認め、省みることを省みる。
それが異端技術を以て、異端技術を管理する組織〈錬金戦団〉の頭目、明照星明の育成方針であった。
・明照星明
少年少女を手玉にとる(物理)牧師風グラサン優男(ムキマッチョ)のへんなの。
年齢不詳。外見は坂口照星(武装錬金)。
・立花響
グレる前に拾われたややグレ響。同じ境遇で寄りあってる過ごしたためか、仲間には優しく、他人につっけんどんな仕様。(当社比)
・あずまのいえ所属
へんなのに拾われたフレンズ。
(名付きモブ())
・フィスト・イン・ザ サン
響の武装錬金。マフラーは飾り。
TーLINKナッコォ!
・ホムンクルス
悲しき獣。
・へんなの
登場せず。