不老不死の呪いは巡る   作:カピバラバラ

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産まれた事が間違いだとするのならば

 

 

与幸吉の淡く儚い希望が折れた時。

 

 

ーー同時に、上空に浮かぶ東風谷早苗の背後に、手が取り付けられた刀が迫る。

 

 

だがその攻撃は届きはしなかった、背中に背負われた鬼が片手で払えば剣は地面へと落下していく、首謀者の金髪の男を睨みつけると鉄槌を下さんと手を伸ばした。

 

その時の事。

 

 

「そちらは囮ですよ」

 

 

「え?お燐ちゃん…ーー?」

 

 

東風谷早苗の目の前に黒猫が舞い降りた、黒猫の瞳と彼女の瞳が見つめ合わされると…。

 

 

「あ、あぁぁああッ!!??」

 

 

『何』をされたのかは分からない、しかし凄まじい声を上げ、発狂するかのように頭を振り回してしまうと呪力操作まで絶ってしまう。

勿論訪れる結果は必然の落下、西宮桃と伏黒恵を除いて空を飛ぶ術式持ちは居ない、直哉は落下のスピードを初速とすれば着地は一人で出来るであろうが、それでも周囲の人間殆どは落下死する。

 

 

「東風谷!!」

 

 

「ぅぅっ、うあぁ…」

 

 

「クソッ、どうする…!?」

 

 

「ーー伏黒恵!先に着地して式神を展開しろ!!」

 

 

東堂の声が響く、何が目的かは分からないが…ここの判断は彼に任せた方が良いと理解はしていた。

身体は素早く迅速に動き、鵺によって人一倍早く落下を終えると蛟を大量に展開する。

 

 

ーーパァんッ、と乾いた音が連続で響いた。

 

 

すると地面に居た蛟は全て上空に、逆に地上に居た生徒は地上に、東堂葵の不義遊戯が炸裂し、巧みな術式の効果変更により慣性を全て打ち消しての着地を行う。

地面のシミになる者は一人としておらず、二人を除いて地上に降り立つ。

 

 

「なに?」

 

 

東堂が困惑したのも束の間、何故か不義遊戯による交代を行えなかった二人、虎杖悠仁と東風谷早苗が上空に取り残され、一方は黒猫に取り憑かれたまま、一方は身体から炎を噴出しながら停止する。

 

 

「何アレ!?あれも宿儺の力!?」

 

 

「馬鹿、どう見ても違ぇだろうが!クソ…ーー虎杖…!」

 

 

先程の黒猫の言葉を思い出しながら鵺での接近を試みるも、近付いていくと術式が強制解除され落とされてしまう、悩む間も無く進む状況は余談を許さず、黒猫を視認した直哉も迅速に殺害へと移る。

 

しかし、全員の一手の遅れは……致命的だ。

 

 

 

「開け、幻想の門」

 

 

 

誰が聞いたであろうかその言葉、空中で二人の間に光の線と炎の線が繋がり、空に光輪を展開する。

黒猫が触れるは虎杖悠仁の胸、溢れ出る炎は黒猫をも焼き尽くさんと迫るも、当たるギリギリで炎は止まる。

浮かぶ光輪からは底知れない呪力を感じ、光の収束と発散を繰り返しながら巨大化していくと、帳を貫き超えて陣の様なものが広がった。

 

 

「おいおいおい…!聞いてねぇよこんなの…!!」

 

 

真っ先に逃げ出そうとする金髪呪詛師を捕らえようとしていた数名は、斧を振り回す呪詛師と突然倒れ込んできた木々により取り逃してしまう。

 

全員が全員それぞれの行動を全うしながらも、今目の前で繰り広げられる光景に圧倒されていた。

 

 

「ーーこれ、どういう訳?」

 

 

光輪とは別に、心臓を揺さぶられる光景。目隠しを取り外した五条悟が、光輪に貫通された事で破壊された帳の外、青空に待機していた。

森の中に感じる特級呪霊と一体の妖怪の気配、炎に包まれている虎杖悠仁、光輪の主となっている東風谷早苗。

 

そして、光輪を背にする黒猫。

 

ーー問題を解決する為に、五条悟が術式を発動する。

 

同時並行、相手座標に直接蒼と赫を並列発動させ空間を消し飛ばす極小の虚式紫、北海道で培われた認識不可の即死攻撃が振るわれた。

 

黒猫の身体の半分が消し飛び、森の中からの反応も微弱なものになる。

 

 

「これは…ーーいけませんね、私は貴方達との対話の為に…」

 

 

「うっせぇよ、なら俺に掛けてる術式を解け」

 

 

「………貴方、『喰らっておきながら』私に攻撃を?なるほど、正気ではありませんでしたか」

 

 

ーー現在、五条悟の目の前には夏油傑が佇んでいる、火傷跡も無い、何も憂う事は無かったあの時の姿のままの夏油傑が。

彼だけでは無い、視界すべてが過去の情景を映し出していた。

しかも黒猫を攻撃するには、彼ごと黒猫を抉るしかない所を……ーー即断即決で実行したのには、流石に妖怪からも驚きの一言が飛び出でる。

 

 

「心を覗かせて貰いましたが、確かにこの記憶は効果があると思っていたのですがね」

 

 

「効果覿面だけどな」

 

 

「なればこそ『正気では無い』と申したのです、記憶の泣き所、トラウマとはその場の気合いで押し通せるものではありません、大抵はこの少女の様になりますので」

 

 

「それよりも……生徒の皆さんはご無事では無いようで」

 

 

「……!」

 

 

命を根から絞り尽くされる様な、身体の奥底を覗かれる奇妙で畏怖すら覚えるこの感覚を生徒も味わってするのだとするのなら、二度と再起不能になる者も出てくる……「でしょう?貴方の本心とは言えずとも、夏油傑の影響は中々に大きいのですね、貴方の様な怪物が人を慮るとは」

 

 

(……)

 

 

「「心を読めんのか」」

 

 

「「気持ち悪ぃ真似しやがって」」

 

 

「以心伝心、という奴です、交戦の意思は本当に無いので貴方さえ動かなければ生徒への干渉を辞めましょう、それに貴方も藤原妹紅について知りたい事がある、私はその疑問に答えられる」

 

 

「死人が出るよりは、善い選択肢があるのですから」

 

 

「貴方はソレを取らざるを得ない」

 

 

「……」

 

 

五条が目隠しを下ろす、言葉にせずとも黒猫は停戦の意志を汲めるし、その選択に感謝しながら全ての生徒への干渉を絶った。

互いにここまで聞きわけが良い事の根幹には、藤原妹紅の存在があった。

 

黒猫を操る者は、その目で見ることで藤原妹紅という存在を理解する事を目的に、五条悟は藤原妹紅が消えた今だからこそ情報を得ておきたい。

 

 

「で、結局何が目的なの?」

 

 

「出し渋っても意味がありませんので申し上げますと、協力関係を結びに来ました」

 

 

「あっそ、断っとくわ」

 

 

「無配慮に心に触れてしまった事は謝ります、ですが私達は表向き……ーー侵略者、として『振る舞わなければ』ならず、このような事態に」

 

 

「なんか縛りでも結んでんのか」

 

 

「……」

 

 

「それも縛りに引っかかるって訳ね…」

 

 

無言、だが答えたくない訳では無く、答えられないといった様子が正しい。

 

無下限呪術は……不義遊戯を、火山頭を取り逃した時の精神緩和を防げない様に、物理的な干渉以外からのモノには対応出来ない。今敵意、攻撃を向ける気がしないのは明らかに術式の効果を受けている。

 

だからこそ、どんな事情があったとして情報を聞き出した後は……ーー。

 

 

「ーーお〜い!!五条ー!」

 

 

「…歌姫」

 

 

「狙いはここじゃない!保管庫が襲われたってさ!それと京都校近くのダムで大爆発も!!てか降りてこーい!声届かんわぁ!」

 

 

「…………OK〜!おいクソ猫、何もすんな」

 

 

「分かっていますよ、私も無粋な真似は致しません」

 

 

「どうか十全な話し合いを」

 

 

「私は、いえ私達は…ソレを望んでいますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は貴方を覗きません。

 

貴方はそれを信じません。

 

私は貴方を傷つけない。

 

貴方は私で傷つけられる。

 

私は貴方を許します。

 

貴方は自ら命を絶つでしょう。

 

 

 

「初めまして、虎杖悠仁」

 

 

「……お、応…初めまして?」

 

 

目が覚めたら、目の前に美少女が居た。なんて売り文句は見慣れてしまっている。

 

紫髪に可愛らしいフリルを纏う少女、その見た目の幼さとは裏腹に落ち着いていて、立ち振る舞いからは知性を感じられる。

 

その隣には……ーーよく見た事がある、パジャマ姿の女の人。

 

こちらが起きたのに気がつくと手を振って笑ってくれた。

 

 

「久しぶり〜」

 

 

「…!久しぶり!」

 

 

「仲が良くて宜しい、紅茶はいりますか?珈琲もありますが」

 

 

「じゃあ…珈琲で」

 

 

動作の一つ一つが優雅で手馴れている、明らかに自分よりも年下の少女が自分よりもしっかりしている所を見ると少ししょげる気持ちもあるが……恐らく、見た目通りの年齢では無いのだろう。

 

ーー真っ白な世界に、ポツンとテーブルと椅子だけが置いてある。気がつけば椅子にもたれかかっており、気絶した記憶は無いのに別の場所に居た。

 

あの木の呪霊を追って話を聞き出す事ばかり考えていたら、黒猫……お燐だっけか、アイツが急に胸に触れてきて……。

 

 

「アンタ誰?」

 

 

「黒猫……お燐の飼い主です、そちらにお邪魔させて頂いた時はお世話して頂いて感謝しています」

 

 

「って事は幻想郷の人か…その浮いてる目ん玉もアンタの奴だよな」

 

 

「そうですね、自己紹介もまだでした…改めて初めまして、虎杖悠仁、私は古明地さとり」

 

 

「幻想郷にて旧地獄の主をしています」

 

 

「じ……地獄か」

 

 

ーー有る、と仮定されてはいたが、「本当に地獄があるなんて…」

 

 

「ッ」

 

 

「自己紹介はまだ済んでいませんよ、私はサトリ妖怪、人の心を覗く事が出来る大勢からの嫌われ者です、以後宜しく」

 

 

「……嫌われてんのは能力だけが理由じゃねぇんじゃ…??」

 

 

「はいはい分かってますよ、別に色んな人から言われてるんで自覚してない訳無いじゃないですか」

 

 

「自覚って開き直った……ーー俺は虎杖悠仁、一応アンタとは幻想郷在住だから、互いに敵って事になる、心を読んで知ってるとは思うけど」

 

 

「自己紹介ありがとうございます、知っていて無意味だとしても、会話というものは行う事に意味がありますので、まぁ知っていましたけど」

 

 

「…………本当に自覚してるのぉ…?」

 

 

「してます」

 

 

「……」

 

 

「口に出さなくても分かりますよ、し・て・ま・す」

 

 

「お、おう」

 

 

結局この場所は何なのか、何が起きたのか説明して貰いたい所だけど……こうやって考えていたら勝手に読んでくれんのかな?

 

 

「ええ」

 

 

すげぇ、会話しなくても話が通じるのめちゃくちゃオモロ……ちゃんとしろ、俺。

 

 

「悪ぃけど、帰しーー「心配しているのは時間と外部の事ですね、大丈夫ですよ、ここでは時間は経たない精神の内海です」

 

 

「……「先読みして話せる、という訳です、疑問には全てお答えするのでどうぞ着席を、それに心配している両面宿儺は今殺し合いの真っ最中なので」

 

 

「……」

 

 

「「マジでいい性格してるよ…」」

 

 

うぉぉああ!!腹立つ!?

 

 

「クソっ、珈琲頂きますッ!!」

 

 

「どうぞどうぞ」

 

 

「ーープハッ、はぁ、はぁ…で、色々分かってないから纏めて聞くけどさ、『何の用』だ?」

 

 

「ふむ、何の用か、ですか」

 

 

「……」

 

 

カップに指をそわせ、紅茶を啜り……その跡をハンカチで拭いて一呼吸。

 

 

 

「わざわざペットのお燐を現世に行かせて、お燐から現世を覗き見ながら貴方の事情を読み取りつつ、現世の情報を収集し藤原妹紅が消えるであろうタイミングの対抗戦を狙って、縛りの内容に反さない様に侵略者の立ち位置を取り、他の妖怪を潰してもらう必要があるので禪院直哉を挑発する事で動かせて、五条悟を抑える為に能力が届く場所に生徒を置ける様に東風谷早苗へ干渉しながらあの男の手先の呪霊と妖怪が退いた後に、貴方をここへ連れ込んで宿儺から切り離す為に、夢の住人の力を借りる、為、に!妹まで苦労をかけた超、超苦労人の私が、貴方に、何の用か、ですか?」

 

 

「お、おぉ、な、なんか…ごめんなさい?」

 

 

「まぁいいでしょう、その底抜けの善性に免じて話をしてあげます、ドレミーも笑うのを辞めないと過去話を幻想郷中に……」

 

 

「わー!ごめんごめん!ごめんってば!」

 

 

不思議な感覚だ、毒気が抜けるのもそうだが…基本的に、幻想郷からの来訪者には『人間らしさ』が欠如した存在しか来ていなかった。

 

敵対していようがしていまいが、『アレら』は絶対に人間と理解し合えない、ライオンと餌の様な関係性のまま、向こう側がどの様な立場に立っても必ず人を殺めると思い混んでいた部分すらある。

 

 

白旗をあげて、相手を見下す。白旗を上げるくらないなら食い殺す、そもそも対話する相手では無く、唯の餌だと認識している奴が初対面なのも悪かったのだろうか。

 

 

「そうですよ、虎杖悠仁…ここでは余り肩の力を張らないで下さい」

 

 

「穏やかに、何者にも邪魔されず真実を追い求める……そんな時間を貴方にプレゼントする為に、苦労したのです」

 

 

「……苦労か、純粋に聞きたいんだけど……ーー何で?」

 

 

「含みの籠った疑問ですね、ですがまぁ…私が貴方との対話に手を掛けた、その根底を言うのならば」

 

 

「似た者同士、だと勝手に感じさせて貰ったからですよ、不死鳥の分霊」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方が私を傷付けても、私は何も致しません。

 

貴方は私を傷付ければ、貴方は安心を得るでしょう。

 

分かりました、と少女は言う。

 

言葉を語る口が、声が不安なら潰しましょう。

 

まだ足りぬ。

 

貴方を見るこの鮮やかな目が覚める事が不安なら、この瞳を潰しましょう。

 

まだ足りぬ。

 

貴方に触れる手が、貴方が見るこの姿が不安に思うのならば見えない様に致しましょう。

 

まだ足りぬ。

 

足り得るのは、その眼を潰した時。

 

心の眼を、心の目を、心を潰せ。

 

もう二度と開かぬ様に。

 

 

「私は貴方に■■■欲しい、誰の為でもない、貴方の為だけに」

 

 

サトリ妖怪は産まれた時からみんなの嫌われ者、誰にも好かれる事は無く、誰かに愛される事も無く、誰かを愛すことも出来ず。

 

なのにそこに理由は無い、あるのはサトリ(呪い)であるというだけの事実。

 

同じになる者同士、虎杖悠仁、だからこそ貴方はそうなる前に死ななくてはならない。

 

 

「だからなのですよ」

 

 

「だから、私の目的は貴方の死」

 

 

「…穏やかな対話、つってる割にはド直球だな」

 

 

「自分自身がどれだけ厄に塗れた存在であるのかを自覚するには、周囲の被害が必要不可欠な所を省いているのを、穏やかに、という言葉以外で表現出来ませんので」

 

 

「……」

 

 

許されないのならば壊してしまいましょう、誰にも守られず、誰にも救われず、絶望の淵で。

産まれてしまった事に罪はなくとも、何れ訪れる不幸が身を蝕む前に。

何れ訪れる死が『善』に触れる事になる前に。

 

産まれた事が、始まりだというのなら。それを捨て去ってしまいましょう。

 

呪い(過去)が二度と、廻らぬように。

 

 

「さぁ、質問を」

 

 

「……」

 

 

「問答を、答えを望めば私は貴方に応えます、答えられます」

 

 

「貴方の炎が私を焼き殺さなかったのは、一重に貴方が拒んだから、既に私は貴方に答を与える責務がある」

 

 

「席に着き、珈琲を嗜み、談笑して下さった、貴方は目の前の存在が妖怪であり、絶対に分かり合えない存在であり、人間らしくても人間では無く、討たねばならない存在だと分かっていても……それでも、そうしてくれた」

 

 

「心は嘘をつきません、但し真実も語りません、現実を語るのです……ーー貴方は、私達の様な毎日爆発してしまう爆弾でも、毎日爆発したい訳では無いと接してくれる、それが貴方の見る現実」

 

 

「納得のいくまで、語りましょう」

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