サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
光が強くなる。
祠の下、埋め込まれた術式が一斉に脈打ち始めた。さっきまで淡かった光が、目が痛くなるほど明るい。地面の亀裂から土煙が噴き出す。熱くない。だが空気が重い。呼吸するたびに肺に砂を詰め込まれているみたいだ。
振動が足の裏から這い上がってくる。速い。強い。
「下がって」
まほの声が響いた。俺の腕を引く手はない。だがその一言で足が動いた。あんなとソラも後退する。絶花だけが動かない。俺が袖を引いて、ようやく一歩下がった。
地面が盛り上がる。
祠の右側。土が波打つように隆起し、岩が割れる。バリバリという音が骨に響く。割れた岩の隙間から、何かが這い出してきた。
岩と土を纏った塊だった。犬ほどの大きさ。四肢がある。頭らしき突起がある。だが目はない。口だけが裂けて、地中の土を飲み込んでいる。
一匹じゃない。
左側も盛り上がる。参道の石畳が割れ、二匹目が這い出す。さらに奥、枯れた杉の根元から三匹目。四匹目。次々と地面を突き破って現れる。
「太郎、こんなの」
「知らない。昔はいなかった」
俺の声が掠れた。絶花も何か言いかけて、言葉が途切れた。彼女の目が境内を映している。崩れた石垣。傾いた狛犬。割れた石畳。あの狛犬の前で、どっちが先に拝殿まで走れるか競争した。あの石畳の上で、絶花が転んで膝を擦りむいて、俺が手を差し出して、彼女がその手を叩いて自分で起きた。
その場所が今、魔獣の足元で砕けている。
魔獣が動くたびに周囲の草木がしぼんでいく。残っていた杉の葉が一斉に茶色くなる。苔が乾いて剥がれ落ちる。石灯籠にこびりついていた苔まで、粉を吹いたように崩れる。
食っている。こいつらは地脈を食っている。
「五匹。いや六匹。移動方向は北東へ揃っています」
まほの声は変わらない。冷静に。速く。俺の耳に届くのと同じ速さで、彼女は戦場を測っている。
「無秩序じゃない。ガイアの力が濃い場所へ引かれている。地脈の曲がり角、術式の中心、祠の真下。全部そこへ向かっている」
まほが一歩前に出た。俺と魔獣の間に立つ。背中が小さい。だがその背中は揺れていない。
「西住」
「太郎。この場所にこういう魔獣はいなかった?」
「いない。絶対にいなかった。俺と絶花で何十回もここへ来てる」
「わかりました。では最近入れられた。あるいは作られた」
作られた。その言葉が胃の底に落ちた。
「太郎さん、これ」
ソラが声を上げた。彼女の足元、草が一本残らず枯れている。半径二メートル。魔獣が通った跡だ。
「地脈を食うと生気が抜ける。根元から死ぬ。放置すればこの山全体が枯れます」
まほは振り返らない。弓を構える。矢を番える。弦を引く音が、静かな境内で鋭く響いた。
「全員、配置につきます。太郎は後方で盤面を確保。絶花は退路の石段を守って。ソラは結界を展開して魔獣の進路を狭めてください。あんなは太郎の護衛」
「おい、俺も戦う」
「戦うなとは言いません。ですが今この場で私が前に出るのが一番早い。太郎は王でしょう。なら、全員が帰れる盤面を作るのが先です」
俺の言葉を飲み込んだ。まほの背中はまだ揺れていない。弓を引く腕がぶれない。矢先が先頭の魔獣を捉えている。
「周囲の警戒を優先してください。地下に何があるかまだわからない。私が抑えます。何か来たら、太郎が気づいて全員を動かす。それが今の配置です」
絶花が俺を見た。唇が動く。何か言いたい。だが彼女は何も言わず、石段の方へ走った。天聖の柄に手をかけて。
俺は後退する。足元に黒と金の升目が広がり、全員の位置が盤面に浮かぶ。まほの光点が一番前にある。孤立している。だが揺れていない。
まほの矢が、弦を離れた。
矢が飛ぶ。
速い。正確に言えば、速すぎる。弦が弾ける音が空気を裂くより先に、矢は先頭の魔獣の右前脚に突き刺さっていた。岩のような外殻が砕ける。バキリという乾いた音。魔獣の体が傾く。だが倒れない。
二本目が届く前に、まほは既に次の矢を番えていた。
「持ち場を守ってください。動かないで」
声が飛ぶのも速い。命令として届く。俺の盤面には、まほの光点が前に出たまま動かない。
三本目。今度は左前脚。二本の矢が脚の付け根を上下から固定する。魔獣が体勢を崩し、土煙を巻き上げながら横倒しになる。だが残りがいる。五匹以上。まだ健在だ。
四匹目が石畳を突き破ってまほの左側へ回り込む。岩の塊が転がるみたいな突進。地面が揺れる。まほは弓を捨てず、左手で印を結んだ。
「喝」
短い。だが空気が変わる。まほの足元に淡い光の輪が広がり、突進してきた魔獣の頭が輪の中へ捕まる。見えない壁に激突したみたいに、岩の外殻がひび割れる。魔獣がのけぞる。まほはその隙に矢を一本、喉の裂け目へ撃ち込んだ。
すごい。正直に思った。十七歳で部隊長を務める理由がわかる。
だか、同時に違和感がある。まほの動きに無駄がない。無駄がないというのは、逆に言えば余裕がない。自分の安全を確保する動きが一切ない。攻撃を避ける最小限の動きで、その分を全部攻撃と封じ込みに使っている。
(あれは守るための動きじゃない。自分を壁にする動きだ)
四匹目が倒れる。だが五匹目と六匹目が同時に来る。左右から。まほは右の魔獣へ矢を放ち、左の魔獣を正面から受け止めた。
ズシン。
重い音。まほの体が後ろへ滑る。靴底が石畳を削る音。だが倒れない。左手で魔獣の突進を押さえ込み、右手の弓を横に薙ぐ。弓の胴が魔獣の頭を叩き、岩の殻が割れる。追い討ちの矢が隙間へ刺さる。
折れた枝が散乱する。土煙が視界を濁す。まほの姿が一瞬見えなくなる。煙の中から弦の音が三回響き、二匹の魔獣が倒れた音が続く。
「ソラは結界を維持してください。動くな」
まほの声が土煙を抜けて届く。息が少し上がっている。それだけ。表情は見えないが、声の張りは変わっていない。
「しかしまほさん、わたしも」
「援護に徹してください。結界があれば魔獣の進路を制限できます。それは私の矢より有効です」
ソラの返事が遅れる。一秒。その一秒が長い。だが彼女は頷き、両手を広げてルーンを展開した。青白い光の壁が境内の両脇に立ち上がり、魔獣の進路を中央へ絞る。
正しい判断だ。まほの言う通り、結界で道を狭めれば弓の命中率は跳ね上がる。戦術としては文句ない。
文句ないのに、腹が立つ。
まほは自分の怪我一つ許容していない。いや許容している。仲間の怪我をゼロにするために、自分の怪我を計算に入れている。それが無意識だとしても、だ。
七匹目。
地面の亀裂から這い出した一匹が、結界の隙間を縫って左側へ回り込む。ソラの視界の外。まほの視界の端には入っただろう。だがまほは三匹を同時に捌いている。矢を放ち、近接をいなし、印を結ぶ。全部同時だ。七匹目へ矢を向ける暇がない。
俺は声を上げようとした。
「ソラ左だ」
声は俺より速かった。まほだ。
ソラが振り返る。遅い。魔獣が跳ぶ。岩の塊が空を切る。ソラの結界が間に合わない。
まほがいた。
いつ動いたのか見えなかった。三匹を相手にしていたはずのまほが、ソラと魔獣の間に割り込む。弓を盾にして突進を受け止めた。
ドガッ。
弓の胴が魔獣の体重を支えきれず、木が裂ける音がする。まほの体がソラを背にしたまま吹き飛ぶ。地面を滑る。石畳の角で止まった。
魔獣は倒れる。まほの最後の矢が喉に刺さっていた。だがまほも動かない。
「まほさん!」
ソラが駆け寄る。俺も走る。盤面が乱れる。構わない。
まほは半身を起こしていた。右肩を押さえている。弓は左手で持ったまま。弦が切れている。だが弓自体は握っている。
「問題ない」
声が平坦だ。息が整っていないのに、声だけ整っている。
「問題ないから。次来ます。配置に」
「まほさん肩から血が出てます」
ソラの声が震える。視線がまほの肩に釘付けになっている。青い瞳が揺れている。
「かすり傷です。矢の破片が入っただけ。戦闘に支障は」
「西住」
俺の声が出た。自分でも驚くくらい低かった。
「黙れ」
まほが俺を見る。初めて表情が読めなかった。驚いているのか、怒っているのか。いや、何もない。ただ俺を見ている。
「かすり傷かどうかは後で確認する。今はお前が動けるかどうかだけ答えろ」
「動けます」
「腕は上がるか」
まほが右腕をゆっくり上げた。三センチ。そこで止まる。無理して上げたせいで肩口の布が赤く滲む。ソラの呼吸が一度詰まる音が聞こえた。
「弓は左手でも撃てるか」
「……撃てます。精度は落ちますが」
「足りる。結界の中で戦え。ソラの横」
まほが目を細める。俺の指示に異論がある顔だ。だが言わない。
「太郎。私は単独で」
「単独で何になる。お前が倒れたら誰が前を守る」
俺は盤面を見る。絶花は石段で待機。あんなは俺の横。ソラは結界の端。まほが真ん中。まほが倒れれば、真ん中が空く。空けば左右から押し込まれる。全員が崩れる。
「お前が一人で抑えてるんじゃない。俺がお前を配置した場所でお前が動いてるだけだ。それが守る指揮かよ」
まほの口が開く。何か言いかけて、やめる。一秒。二秒。風が吹く。杉の葉が舞う。枯れた葉だ。
「……わかりました」
短い。だが抵抗が消えた声じゃない。納得した声でもない。俺の指示を受け入れたというだけの声だ。
まほは立ち上がる。右肩を押さえる手を離し、左手だけで弓を構える。弦が切れている。だが左手だけで矢を番え、指で弾くだけで矢が飛ぶ。妖術か。普通の弓術じゃない。
「ソラ、結界の幅を半分に狭めろ。まほがその中で戦う。外へ出すな」
「はい」
ソラの声が戻る。震えはまだある。だが結界が動く。青白い光の壁が内側へ縮み、まほの周囲を包み込む。
まほが振り返らない。左手の矢が魔獣の方角を向く。
残りは三匹。まだ動いている。矢が飛ぶ。
速い。正確に言えば、速すぎる。弦が弾ける音が空気を裂くより先に、矢は先頭の魔獣の右前脚に突き刺さっていた。岩のような外殻が砕ける。バキリという乾いた音。魔獣の体が傾く。だが倒れない。
二本目が届く前に、まほは既に次の矢を番えていた。
「持ち場を守ってください。動かないで」
声が飛ぶのも速い。命令として届く。俺の盤面には、まほの光点が前に出たまま動かない。
三本目。今度は左前脚。二本の矢が脚の付け根を上下から固定する。魔獣が体勢を崩し、土煙を巻き上げながら横倒しになる。だが残りがいる。五匹以上。まだ健在だ。
四匹目が石畳を突き破ってまほの左側へ回り込む。岩の塊が転がるみたいな突進。地面が揺れる。まほは弓を捨てず、左手で印を結んだ。
「喝」
短い。だが空気が変わる。まほの足元に淡い光の輪が広がり、突進してきた魔獣の頭が輪の中へ捕まる。見えない壁に激突したみたいに、岩の外殻がひび割れる。魔獣がのけぞる。まほはその隙に矢を一本、喉の裂け目へ撃ち込んだ。
すごい。正直に思った。十七歳で部隊長を務める理由がわかる。
だか、同時に違和感がある。まほの動きに無駄がない。無駄がないというのは、逆に言えば余裕がない。自分の安全を確保する動きが一切ない。攻撃を避ける最小限の動きで、その分を全部攻撃と封じ込みに使っている。
(あれは守るための動きじゃない。自分を壁にする動きだ)
四匹目が倒れる。だが五匹目と六匹目が同時に来る。左右から。まほは右の魔獣へ矢を放ち、左の魔獣を正面から受け止めた。
ズシン。
重い音。まほの体が後ろへ滑る。靴底が石畳を削る音。だが倒れない。左手で魔獣の突進を押さえ込み、右手の弓を横に薙ぐ。弓の胴が魔獣の頭を叩き、岩の殻が割れる。追い討ちの矢が隙間へ刺さる。
折れた枝が散乱する。土煙が視界を濁す。まほの姿が一瞬見えなくなる。煙の中から弦の音が三回響き、二匹の魔獣が倒れた音が続く。
「ソラは結界を維持してください。動くな」
まほの声が土煙を抜けて届く。息が少し上がっている。それだけ。表情は見えないが、声の張りは変わっていない。
「しかしまほさん、わたしも」
「援護に徹してください。結界があれば魔獣の進路を制限できます。それは私の矢より有効です」
ソラの返事が遅れる。一秒。その一秒が長い。だが彼女は頷き、両手を広げてルーンを展開した。青白い光の壁が境内の両脇に立ち上がり、魔獣の進路を中央へ絞る。
正しい判断だ。まほの言う通り、結界で道を狭めれば弓の命中率は跳ね上がる。戦術としては文句ない。
文句ないのに、腹が立つ。
まほは自分の怪我一つ許容していない。いや許容している。仲間の怪我をゼロにするために、自分の怪我を計算に入れている。それが無意識だとしても、だ。
七匹目。
地面の亀裂から這い出した一匹が、結界の隙間を縫って左側へ回り込む。ソラの視界の外。まほの視界の端には入っただろう。だがまほは三匹を同時に捌いている。矢を放ち、近接をいなし、印を結ぶ。全部同時だ。七匹目へ矢を向ける暇がない。
俺は声を上げようとした。
「ソラ左だ」
声は俺より速かった。まほだ。
ソラが振り返る。遅い。魔獣が跳ぶ。岩の塊が空を切る。ソラの結界が間に合わない。
まほがいた。
いつ動いたのか見えなかった。三匹を相手にしていたはずのまほが、ソラと魔獣の間に割り込む。弓を盾にして突進を受け止めた。
ドガッ。
弓の胴が魔獣の体重を支えきれず、木が裂ける音がする。まほの体がソラを背にしたまま吹き飛ぶ。地面を滑る。石畳の角で止まった。
魔獣は倒れる。まほの最後の矢が喉に刺さっていた。だがまほも動かない。
「まほさん!」
ソラが駆け寄る。俺も走る。盤面が乱れる。構わない。
まほは半身を起こしていた。右肩を押さえている。弓は左手で持ったまま。弦が切れている。だが弓自体は握っている。
「問題ない」
声が平坦だ。息が整っていないのに、声だけ整っている。
「問題ないから。次来ます。配置に」
「まほさん肩から血が出てます」
ソラの声が震える。視線がまほの肩に釘付けになっている。青い瞳が揺れている。
「かすり傷です。矢の破片が入っただけ。戦闘に支障は」
「西住」
俺の声が出た。自分でも驚くくらい低かった。
「黙れ」
まほが俺を見る。初めて表情が読めなかった。驚いているのか、怒っているのか。いや、何もない。ただ俺を見ている。
「かすり傷かどうかは後で確認する。今はお前が動けるかどうかだけ答えろ」
「動けます」
「腕は上がるか」
まほが右腕をゆっくり上げた。三センチ。そこで止まる。無理して上げたせいで肩口の布が赤く滲む。ソラの呼吸が一度詰まる音が聞こえた。
「弓は左手でも撃てるか」
「……撃てます。精度は落ちますが」
「足りる。結界の中で戦え。ソラの横」
まほが目を細める。俺の指示に異論がある顔だ。だが言わない。
「太郎。私は単独で」
「単独で何になる。お前が倒れたら誰が前を守る」
俺は盤面を見る。絶花は石段で待機。あんなは俺の横。ソラは結界の端。まほが真ん中。まほが倒れれば、真ん中が空く。空けば左右から押し込まれる。全員が崩れる。
「お前が一人で抑えてるんじゃない。俺がお前を配置した場所でお前が動いてるだけだ。それが守る指揮かよ」
まほの口が開く。何か言いかけて、やめる。一秒。二秒。風が吹く。杉の葉が舞う。枯れた葉だ。
「……わかりました」
短い。だが抵抗が消えた声じゃない。納得した声でもない。俺の指示を受け入れたというだけの声だ。
まほは立ち上がる。右肩を押さえる手を離し、左手だけで弓を構える。弦が切れている。だが左手だけで矢を番え、指で弾くだけで矢が飛ぶ。妖術か。普通の弓術じゃない。
「ソラ、結界の幅を半分に狭めろ。まほがその中で戦う。外へ出すな」
「はい」
ソラの声が戻る。震えはまだある。だが結界が動く。青白い光の壁が内側へ縮み、まほの周囲を包み込む。
まほが振り返らない。左手の矢が魔獣の方角を向く。
残りは三匹。まだ動いている。
「絶花、前。あんな、右の石灯籠の陰から回れ。ソラは結界の下、地中の振動を探れ。隙間を埋めろ」
俺の声が境内に響く。絶花は一瞬で石段を降り、天聖を抜いて魔獣の進路へ立つ。あんなは無言で灯籠の影へ消え、ソラがルーンの光を地面へ這わせる。
まほが動きを止めた。俺の指示に従うか、自分の判断で動くか。その一秒の迷いが見えた。だが、彼女は動かなかった。左手の弓が俺の方角を向く。
「まほ、撃てるか」
「撃てます」
「いいから撃て。ソラが道を作る」
ソラのルーンが地中の振動を探り、魔獣が湧き出る予兆の位置を光の筋で示す。まほの矢がその筋を追う。的が動く前に、矢が先回りする。
三匹目が地中から顔を出した瞬間、喉に矢が刺さる。四匹目が絶花の前へ出ようとして、天聖の刃で生命力を奪われ弱体化する。あんなが背後から魔獣の脚を刈り取る。
速い。俺が一人で戦っていた時より、被害も消耗も少ない。まほの矢が最後の五匹目を射抜き、境内に静寂が戻る。
魔獣は倒れ、動かなくなった。土煙が晴れていく。
まほの左手から、わずかに力が抜けた。張り詰めていた肩のラインが下がる。だが、すぐに背筋を伸ばす。傷を隠そうとする習慣が体に染み付いているようだ。
「まほさん、傷の手当てをさせてください」
絶花が近づく。サラシを少しずらし、消毒液と包帯を取り出す。あんなが水を差し出す。
まほは拒絶しようとした。口が開き、声が出かける。だが、絶花の目を見て止まった。ただ事務的に手当てをする絶花の瞳に、嫌悪も憐憫もない。ただ仲間の怪我を治すという事実だけがある。
「……わかりました」
短い沈黙の後、まほは右肩を晒した。絶花が手早く傷を清掃し、包帯を巻いていく。
俺は二人の横に立った。
「お前、一人で全員を守る必要はない」
まほが顔を上げる。
「私は指揮を任されました。負傷者を出さないのが責任です」
「責任を果たすことと、全部を自分で背負うことは違うだろ」
「違いますか」
「違う。お前が倒れたら、守るものも守れなくなる。それに、俺たちにお前を守る余地を残せ」
まほは包帯を巻かれた肩を少し動かした。痛みに眉をしかめるが、声は出さない。
「以前の部隊でもそうだったのか。一人で前に立って、全部背負って」
俺の問いかけに、まほの指が止まった。絶花の手も止まる。
まほは視線を俺から外し、境内の奥、崩れた祠の方へ向けた。
「今は任務中です。過去の話はしません」
平坦な声。感情を完全に殺した返答で、会話の扉を閉ざした。
風が吹く。枯れた杉の葉が舞う。かつて俺と絶花が走り回った境内は、魔獣の爪痕と矢の跡で傷だらけだ。その傷の中心に、まほは一人で立っている。
俺は何も言えなかった。彼女がその扉を開けるまで、待つしかない。だが、待たせっぱなしにするつもりもない。
「任務が終わったら聞く。それだけだ」
まほは答えない。ただ祠を、見つめ続けていた。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王