サムライガールの幼馴染みは王様を目指す 作:ボルメテウスさん
音が遅れて来た。
光が先だ。地下施設の天井を内側から突き破って、赤黒い光の柱が夜空へ突き上がる。光の柱に続いて、土と岩と砂が吹き上がる。俺たちは中央通路を走りながら、背中でそれを聞いていた。
「右へ!」
まほの声。走りながら俺たちは右へ曲がる。直後にさっきまでいた場所へ、天井の岩盤が崩れ落ちる。ドドドドと連続した轟音。足の裏が地面の振動で跳ねる。転びそうになって、絶花が俺の腕を掴む。
「太郎、前」
「わかってる」
坑道の入り口が見えた。鉄柵が光の中に浮かぶ。歪んだ柵。閉じていた隔壁はもう吹き飛んでいた。
「ソラ、妖怪たちは!」
「広間の隅に全員まとめてます。あんなさんが結界で守ってくれてる」
「走れ。俺が開ける」
右腕にゼロの力を集める。光の刃を振り抜くと、坑道の入り口の残骸が弾け飛んだ。夜の空気が流れ込む。山の匂い。杉の匂い。血の匂い。
「出るぞ」
外へ飛び出した。裏山の北側だ。夜明け前の空。星がまだ見える。東の空がほんの少しだけ白んでいる。
地面が揺れた。
立っていられないくらいの縦揺れ。木が倒れる音。岩が割れる音。俺は地面に手をついて体を支える。
振り返った。
裏山の北側、坑道のあった場所が丸ごと持ち上がっていた。
「なんだあれ…」
あんなの声が震えている。いや、あんなじゃない。俺の口からも同じ声が出ていたかもしれない。
地面が盛り上がっている。山が呼吸しているみたいに。土と岩が内側から押し上げられ、形を作っている。巨大な塊だ。ゆっくりと。だが確実に。輪郭ができていく。
岩のような外皮。表面に光の筋が走っている。赤黒い。地脈の光だ。体内で脈打っている。
四本の脚。細長い首。尻尾。だが恐竜じゃない。もっと無骨だ。岩そのものが生きているみたいな形。
「魔獣です」
まほの声が俺の横で聞こえた。彼女はいつの間にか立ち上がっている。弓を左手で持ったまま。右肩を押さえていない。痛みを忘れているんじゃない。痛みを後回しにしている。
「魔術炉の暴走で生まれた。炉の残骸と地脈の力が融合している。あれが動けば町が潰れます」
巨大魔獣が初めて動いた。
四本脚のうち一本が地面を踏む。ズシン。俺たちの足の裏から腹の底まで揺れる。もう一歩。ズシン。町の方角だ。
「まほ。あれを止める方法は」
「外皮を傷つけても、地脈から力が流れ込んで再生します。魔術炉がまだ生きている。地下で」
「炉は壊れてないのか」
「砕けたのは外殻だけです。中心部は地脈と直結したまま残っている。あれは炉を通して無限に再生する」
「つまり、外から叩いても無駄ってことか」
「無駄ではありません。足止めはできます。ですが倒すには炉を止める必要があります」
まほの目が魔獣と町の間を行き来している。退避経路を探っている。救出した妖怪たちの位置を確認している。全員の生存を優先する思考が、声の端々に出ている。
「まほ」
「はい」
「単独で前へ出るな」
まほの視線が俺を捉えた。
「お前の弓であれを止められるか」
「…止められません。矢は外皮を貫けても再生が速すぎます」
「なら前へ出るな。お前は後ろで全体を見てろ。妖怪たちの避難も任せる」
まほの口が開く。閉じる。頷く。
「わかりました」
「絶花。あんな。足止めを頼む」
絶花が天聖を抜く。金色の粒子が夜の空に舞う。あんなが地面を蹴って前へ出る。
「任せてください。太郎」
「おう」
「俺たちで止める」
絶花の体が光に包まれた。天聖の刀身が金色に輝く。その輝きが形を変える。光の鎧。光の剣。光の瞳。
「ウルトラマンZ!」
あんなの体も光る。赤と銀の光。炎のような輝き。二つの光が夜の山を照らした。
二人の巨人が魔獣の前へ立つ。十メートル級。魔獣はその倍以上ある。だが二人は退かない。
「太郎さん、ソラは妖怪たちを連れて山を降ります!」
「頼む。安全な場所へ。町から離れた方へ」
「はい!」
ソラが広間から連れ出した妖怪たちを誘導する。小さな影が七つ、ソラの後ろを歩く。子供の妖怪が一人ソラの服の裾を掴んだまま離さない。ソラはその手を握って歩く。
戦いが始まった。
Zが正面から突っ込む。光の剣を外皮へ叩きつける。火花が散る。岩の表面に亀裂が走る。オーブが側面から光線を放つ。赤い光の束が魔獣の脇腹を撃ち抜く。
だが。
魔獣の体の表面光の筋が脈打つ。赤黒い光が亀裂へ流れ込み、傷が塞がっていく。岩の表面が元通りになる。三秒。四秒。
「再生が早い!」
あんなの声が響く。
「地脈から力が来てる! 傷つけるほど多く流れ込んでる!」
Zが連続で斬撃を入れる。五太刀。六太刀。外皮が砕ける。だが砕けた端から光が溢れ、元に戻る。魔獣はZを払いのける。巨大な前脚が巨人の体を打つ。Zが後ろへ吹き飛ばされる。木をなぎ倒して止まる。
「絶花!」
「平気です! でもキリがない!」
俺は盤面を見た。三人の光点。絶花とあんなは戦っている。ソラは移動中。まほは後ろ。俺は後ろのさらに後ろ。
(このままじゃジリ貧だ)
再生の速度がこちらの攻撃速度を上回っている。外から叩く限り、永遠に続く。まほの言う通りだ。炉を止めなければ終わらない。
だが炉は地下にある。魔獣がせり上がった穴の底。今は崩落で埋まっているかもしれない。入るには時間がかかる。その間に魔獣は町へ向かう。
「まほ」
「見えています」
まほが俺の横に立っている。弓を構えたまま。妖怪たちの避難はソラに任せた。彼女は俺の指示通り後ろに残っている。だが弓を握る指に力が入っている。避難路へ迫る魔獣を見て、体が勝手に反応している。
「お前の弓で炉を狙えるか」
「地下です。届きません」
「だよな」
俺は右手を握った。ゼロの力が掌で脈打つ。
(ゼロ、変身できるか)
(いつでもできる。だが、変身したところで再生は止まらない。俺もお前と同じ結論だ。炉を止めなければ終わらない)
夜空が割れたみたいに光が弾ける。
Zの剣閃が魔獣の外皮を削り、オーブの光線がその隙間を焼く。火花が雨みたいに降ってくる。だが魔獣は止まらない。傷口からドクドクと赤黒い光が溢れ出し、瞬く間に肉と岩を再生させる。無限湧きの魔除けゲームかよ。どこまでやってもHPが全回復するボスなんて、クリアする気失せるぞ。
「くそっ、再生が追いつかねえ!」
あんな――オーブの叫び声が山に響く。Zが魔獣の前脚に組み付いて動きを封じようとするが、巨大な質量に弾き飛ばされた。ドスンという重い音と共に木々がなぎ倒される。
俺たちはその後方、崩れた坑道入り口から少し離れた場所にいた。
まほが左手だけで弓を構えている。矢はもうない。だが構えだけは解かない。右肩の包帯は赤黒く変色し、首筋に血の筋が走っている。弓弦で擦れた左手の指先も皮がむけていた。
俺は右手をポケットへ突っ込んだ。
指先が冷たい石に触れる。王国の駒。戦車。
これを渡せば、まほの身体能力は強化される。防御力も上がる。肩の傷が即座に塞がるわけじゃないが、これ以上悪化するのは防げるだろう。
だが、それだけが理由じゃない。
「まほ」
呼ぶと彼女はすぐに振り返らなかった。前線の光景から目を離さないまま、三秒経ってからゆっくりこちらを見る。瞳に光の残像が焼き付いている。
俺はポケットから手を出した。
黒と金の升目状魔法陣が足元に展開する。その中央で俺の手のひらに乗った駒が淡く明滅する。
「戦車だ」
まほの視線が駒に落ちる。
「受け取れ」
「……それは」
「一人で片付けるために渡すんじゃねえ。俺達と戦うためだ」
俺の言葉にまほの眉がピクリと動く。
「お前の弓だけじゃ炉は止まらない。俺の盤面だけでも足りない。絶花もあんなもソラも限界が来てる。今ここで必要なのは、誰か一人が無双することじゃなくて、全員の役割を繋ぐことだ」
「ですが、私は八坂様の……」
「八坂への務めを放棄しろとは言わない。任務が終わったらお前の所属は改めて話す。今は俺の家臣として共に戦え」
風が吹く。土煙と血の匂いを乗せた夜風。
まほは駒を見つめたまま動かない。
前線でZが魔獣の尾を払いのけられ、オーブが庇うように前に出る。二人の巨人が連携して崩れずにいるのは奇跡みたいなもんだ。だって連携訓練なんてしたことねえし。息が合ってるってより、必死すぎて空回りしてるだけかもしれない。
まほの視線が前線へ向く。
互いに背中を預けながら攻撃と防御を切り替える二人。そして避難路で子供の妖怪の手を握りしめているソラ。
一人で全部を背負う必要はないと頭ではわかっていても、体が動いてしまう。それが今までの彼女だ。
「……一つ条件があります」
まほが口を開いた。声は小さいが、風に負けない芯がある。
「言え」
「今回の任務中のみ、私はあなたの家臣として動きます。任務後の所属については改めて話すこと。八坂様への務めを放棄するわけではないと約束してください」
「わかった。認める」
「もう一つ。私に任せるべき仕事まで抱え込まないでください。あなたが王なら、家臣を使い捨ての駒にしないだけでなく、自分一人で結論を出して危険を抱え込むこともやめてください」
ぐうの音も出ねえ。さっき俺が自分で炉へ行こうとしてたこと、バレてたか。
「ああ、守る。俺もお前らに任せる」
まほの右手が動いた。
傷ついた肩を押さえていた手がゆっくりと下げられ、俺の方へ伸びてくる。
指先が震えていた。痛みのせいじゃない。八年分の習慣を手放すための震えだ。
彼女の手が俺の手のひらの上にある駒に触れた。
「……承知いたしました」
その瞬間、光が溢れた。
駒から放たれた黒と金の光がまほの手を包み込み、腕へ肩へ全身へと走る。戦車の紋様が彼女の足元に展開し地脈と共鳴するみたいに淡い輝きを放つ。
筋力と耐久力の強化。防御能力の向上。
まほの背筋が伸びた。弓を構える左手に力が戻る。顔色はまだ白いが呼吸が深くなる。
「これが……戦車の力」
まほが自分の手を見る。包帯越しでもわかるほど筋肉の弾力が変わっている。
「ああ。お前はもう一人じゃねえ。俺達の前衛だ」
俺は盤面を見た。
まほの光点が鮮明になる。前線の絶花とあんな。避難路のソラ。そしてまほ。
五つの点が繋がった。
「行くぞまほ。炉を止める」
「はい。太郎」
彼女は弓を構え直した。その瞳にもう迷いはない。
次回の王は
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妖怪王
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機械王
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怪獣王
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幻想王