転生したら第八王子だったので、早めに呪術を極めます 作:三世
#16
━━これで、何度目だろう
『お、また自殺か?今度はなんだ、溺死か?轢死か?』
僕の体に巣喰ったコイツが、仲間に手を出せないようこの体を壊そうと、何度も何度も自殺を繰り返している。
『ま、無駄だけどな!お前がどれだけ死のうとしても、死にかけで全回復!そろそろ精神も限界だろ!消えちまえよ!』
数ヶ月……数日かな?時間の感覚もすでに曖昧になってきた。
『惨めだなあ、哀れだなあ、お前がこんなに苦しんでいるのにお前の仲間は誰一人来やしない。どうせ何も知らずにいるんだぜ?無知ってのは罪だよな』
「……黙れ、ギザルム」
空間転移の術式は、まだ解読仕切っていない……何とか、時間を稼がないと
『おお!黙れとは!まだそんな余裕があったのか!……そういえば、お前の仲間には喋る事すらままならん屑もいたなぁ……』
「……だま……れ、クロウを、侮辱するな……!!!」
……せめて、会ってみたかったな……第七王子くんと、それと……
『いいさ、どうせ俺たちの入れ物になる』
僕たちと同じ境遇と聞く、第八王子に
瞬間、身体が一気に軽くなった。
『──あ?……なんだこれ、なんで俺がジェイドから剥がれてる』
何故、ギザルムが僕から分離している?
「ごめんねお兄さん、少し乱暴な助け方になっちゃって」
度重なる苦痛で麻痺していた触覚が、だんだんと元に戻り、背中に小さな手のひらが触れているのに気がつく。
「取り敢えず最低限は回復させたから、多分激しい運動とかしなければ大丈夫。お大事にね」
「……?きみは、いったい……?」
「それは言えないかな……ほらコレ食糧。その辺で拾ったやつだけど……多分食える、数日分はあるから。これ持って適当に逃げちゃって」
どさりと、少年が背中に背負っていた革袋を、未だ蹲っている僕のそばへと置いた。
「キミ……誰かは知らないけれど逃げて……!そいつは──」
『なんだァ?てめェ?どこから入ってきやがった?ジェイドと分離したのはお前の仕業か?あ?』
「〝赫〟」
瞬間、赤い閃光が瞬くと共に、ギザルムが凄まじい勢いで城の外へと吹き飛んでいった。
「──えっ?」
「おー、飛んだ飛んだ。やっぱ軽いやつってのはよく飛ぶな」
…………見間違いでなければ、彼がやったのか?
魔術?……いや、あんな術式、見たことがない
「しかし、御厨子は検証に向いて無いんだよな……取り敢えずは解除、と……十分ぐらいは泳がせておくか」
少年は何かをぶつぶつと呟くと宙に浮き上がった。
「じゃ、俺行くから。お兄さんは早く避難しなよ?」
「ッいや、ちょっと」
待って、と言い切らないうちに、彼はギザルムが吹き飛んでいった方向へと行ってしまった。
「……ッ不味い、アレが魔術なら、彼がギザルムに殺されてしまう……!!」
ギザルム……魔族には、基本的に魔術が効かない。
彼らにとっての魔力とは、魚にとっての水に等しい。魚に水鉄砲をかけても死なない様に、魔族や魔人に魔術を撃ったところで、彼らの命には微塵も届く事は無い!
先程吹き飛んだのだって、ダメージにすらなっていない筈だ……!
「僕の命を繋いでくれた恩人を……見殺しにする訳には…………?」
城の壁に空いた穴から外を見ると、黒いシミのような、元の姿に戻ったギザルムが、一方的に翻弄されている様子が見えた。
「戦えて……いる?」
ギザルムが無数の槍のような魔力の塊を飛ばしているが、それらは全て彼に直撃する前に空中で静止し、そのまま下の湖へと落ちて行く。
少年から攻撃を仕掛けている様子は無いが、間違いなくギザルムと戦えている。
「──まさか、倒せてしまうと言うのか?」
そんな希望を持ったのも束の間、それから僅か十数分ほどが過ぎ。
「■──虚式“茈”」
紫色の凄まじい光が辺りを包み込んだかと思えば、ギザルムは消え去っており。
欠伸をしたかと思えば、同時に彼も消え去っていた。
「彼は……一体……」
目の前で起きた事が、夢か現実かもわからないままに呆然と立ち尽くし、湖に反射した朝日を見て漸く、現実へと戻る事ができた。
「……みんなに、会える」
レン、クロウ、ガリレア、バビロン、タリア……
会いたい
ただ、みんなに
「会いた…………え?」
しかし、神様は、それを許してくれないのか
「……最悪だ」
瞬間転移
生まれつき僕の体に刻まれた、ギザルムに狙われるきっかけにもなった、呪いのようなもの
それが今発動し、一瞬で、辺り一面が砂だらけの砂漠へと変わっていた。
「よりによって、こんなタイミングで」
……しかし、気持ちは普段よりも断然に軽い。
「何時もの事だ!先ずは生き残れたことを喜ぼう!!」
そう言葉にして、己を奮い立たせる。
「……それにしても、彼は一体何者だったのかな」
あそこまでの強さを持った魔術師なんて、少なくともサルーム王国じゃ聞いたことがない。
……いや、そもそもあれって魔術だったのかな……思えば詠唱もしていなかった気が……
「……そういえば、サルームの第八王子は白髪に青の目と聞いたことがあるけれど」
……いや……まさか、ね?
────────────────────
「おーい、おいジェイドー、起きろー」
「…………ロイド君か」
……どうやら、またあの時の夢を見ていたようだ
瞼を開くと、あの時に見た少年と瓜二つの顔と目が合う。
……やっぱり、似てるなぁ
「ガリレア達に何処にいるか聞いてな、やっぱりここだったか」
「……まだ、全員分の墓が作れていないからね」
ロードスト城が一望できる崖、ここに魔人に乗っ取られ、命を落とした領民達の墓を掘っている。
──あれから数か月かけてサルームへと戻った僕は、やっとの思いで暗殺者ギルドのみんなと合流。なぜかそこにいた第七王子のロイド君に連れられロードスト城に向かった。
あの時ギザルムが連れていた魔人達の大半は、白髪の彼が倒していたようだったが……彼がとり逃した残党によって、ロードストは占拠されていた。
危うく、仲間たちまでも魔人に乗っ取られてしまう所をロイド君に助けてもらい、今こうやって、魔人の被害にあった領民達のお墓を作ることが出来ているのだ。
「乗っ取られた全員分か、大変だな」
「僕が領主の息子として彼らにしてやれることは、このくらいしか無いからね……それで、僕に何か用かい?」
「お前、前にフルーフに会いたいって言ってただろ?あいつが近々帰ってくるから、それを伝えとこうと思ってな」
「──!」
フルーフ──恐らく、あの時僕を助けてくれた少年だ。
「いいのかい?いや、言い出したのは僕からだけど……けど僕、暗殺者ギルドのリーダーだよ?」
「今はロードストの領主だろ、立場で考えれば結構近いもんだと思うが」
「え、僕ロードストの領主なの!?」
……初耳だ、てっきり僕はロイド君が領主を務めるとばかり
「お前以外にいないだろ、ロードスト前領主の血縁はもうお前しか残ってないし」
「いや、けど僕は何年もロードストを放置していたんだよ!?魔人に城を乗っ取られた時だって何もできなかったし……」
「
「いや、それは、そうだけど」
あんな失態を犯した僕が、いまさら領主だなんて──
「まあ、俺は領主を『決める権利』を拝命しただけだしな、最悪他の奴にやらせることも出来る──けど」
ロイド君が、真っすぐに僕を見据えて続けた。
「ノロワレが笑って暮らせる領地をつくるんだろ?」
その言葉で、目が覚めたような気がした。
「──そう、だったね」
かつて、ガリレア達に話した僕の夢
……それを実現すること自体は、僕以外でもできるかもしれない。
──けれど
「……わかった」
できるならそれは、僕の手で実現させたい未来なんだ。
「ロードスト領主……このジェイド=ロードスト、謹んで拝命仕ります──!!」
「ああ!」
──本当に、
「──それにしても、第八王子君に会うだけなら、
「あー無理無理、あいつ魔力無いから、俺のほうから魔力探知で探すのが無理なんだ。だから瞬間転移先の選択ができなくてな」
「あぁ……そういえば」
あの噂って本当だったんだな……『魔力の無いノロワレ』って
「じゃあずいぶんいいタイミングで帰ってきてくれるんだね、あの騒動が終わった直後にだなんて」
「いや、適当に理由つけて帰ってこさせてる」
「えぇ……」
……大丈夫かな……色々と
「まあそういうことで、一旦お前たちには王都まで来てもらおうかな、フルーフがいつ王都に着くかもわからないし」
「ああ……うん」
……まあ、大丈夫か、ロイド君だし
「……そういえばジェイド、お前神聖魔術に興味あるか?」
「神聖魔術……っていうと、教会の?」
唐突だな、まあ彼らしいけど
「あまり詳しくは知らないな、僕は教会の信徒でもないし」
「なら都合がいいな」
……都合がいい?
「入信するぞ!!」
「……はい?」