東堂と吉野が話し、虎杖が呆れられて無視されていたその頃。
「────続いて、人的被害です」
五条を含める面々は今、補助監督の伊地知から襲撃してきた呪霊の被害報告についてを聞いていた。
「二級術師1名、準一級術師1名、補助監督3名。あと、別行動だった方たちもですね。合計5名は死亡しました。」
「ただし、忌庫番の2名は生存。全治2ヶ月と3ヶ月だそうです。半年あれば業務に戻れるかと。」
「生きてるの?」
静かにそう問うたのは歌姫。
二級、準一級、補助監督。それらが死んでいて、なぜ忌庫番の2名は生きているのか。
忌庫番だからこそ強くなければならないのかもしれない。しかし、お世辞にも強いとは言えなかった。忌庫番の2名は強くも弱くもないのだ。
だからこそ気になったのだろう。
なぜその両名が生きているのか、と。
冥冥、楽巌寺、の2名も伊地知へ視線を向ける。彼らも何故、と気になったようだ。
そんな彼女に、伊地知は答えた。
「ええ。なんでも、五条さんから指示されていたのだとか」
五条へ視線が集まる。
驚愕の眼差しが、向けられた。
◁◀◁◀◁
時は遡り、帳が貼られて数分が経った頃。
彼女は、狗巻たちと戦線離脱する真希を遠目に駆けていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」
帳の効果は知らない。聞いたこともない。
しかし、奇跡的にも間に合い、帳から抜けられた彼女は全力疾走する。じゃないと、言われたことが間に合わないかもしれないから。
目的地についてからすぐ、一足先に着いていた同級生のことを見つけた。
「まだ間に合ってるわよね?!」
見知った人影を見つけた彼女は肩で息をしながら、彼へ問いかける。
「ああ。間に合っているはずだ。残穢やら痕跡があるはずだし、まだだろ。それに、来てたとしたら既にもう扉が開いてる筈だ」
「それもそうね……ハァ、なんでこんなに疲れるのよ!まだ戦った訳でもないのに!!!」
「………鍛錬不足、だな」
「…………ねぇアンタ、今なんて言った?」
「いや、なんでも。自分自身の鍛錬不足だなと思っていただけだ」
「そうよね?私に言った訳じゃないわよね??」
「言うわけないだろ…」
そんな会話をしながら、彼らは五条が言っていたことを思い出す。
《交流会。五条家の情報によると、あそこで指が盗まれる可能性が高いらしい。だから護衛を伏黒と釘崎に任せたいんだよ。》
五条が彼女らに依頼したこと。それは、両面宿儺の指がある忌庫を守ることだった。
二人は最初、断ろうとした。しかし、
────頼めるか?
そう、真剣な眼差しで言う五条に、伏黒と釘崎はその頼みごとを引き受けたのだ。
「………五条のあんな真剣な瞳、初めて見たわ」
「俺もだ」
「え、そうなの?アンタなら見てそうって思ったんだけど」
「いや。……あんな五条先生、初めて見た。いつも……まあ、おしゃらけてたりする。でも中身はいつでも変わってない。………ずっと、尊敬する人だ。俺の」
「へえ、そうなのね。……私もよ」
暫くの静寂が宿る。
「………って言うか!」
恥ずかしくなった釘崎が、話を切った。
「盗まれる、って言ってたのに来ないわね。ここに来ないなんてなにしてるのよ。もしかして掠った?」
野薔薇が恵に訊く。
「いや、五条先生の──五条家の調べだ。間違っているということはない────」
はずだ、と言おうとした瞬間。
「あれ?ここには雑魚しかいないんじゃなかったっけ?」
後ろから、声が聞こえた。
バッ、と後ろを振り返ると、そこには青と灰色のオッドアイ、ツギハギのある呪霊がいる。
しかも、呪力量の質を見る限り特級はくだらない。
釘崎はどうやら顔を歪めながら釘を持っており、
「ハア……交流会で減りに減りまくったのにどうしてここでも使わなきゃいけないのよ…!!」
伏黒も眉を顰めながら玉犬を呼び出しているようだ。
「……なんで宿儺の指の回収に特級が来んだよ」
「私も知らないわよそんなこと!!とにかく!!!………五条先生が帳を破壊するまで、死ぬ気で耐えるわよ」
「出来るかなー?ただの術師に、さ」
そして、帳が降りるまでなんとか攻撃と防御を続け。
帳が、上がった。
五条はどうやら周囲───否、そこにいる彼のことを威圧しているようだ。
「来ちゃったならしょうがない、退散しよーっと」
ささっといなくなったツギハギの呪霊が完全に居なくなったのを確認して。ドサッ、と二人が仰向けに倒れる。
空は青い。
彼らの姿はボロボロだった。
「…ハァ、疲れたわね…伏黒」
「そうだな…釘崎」
服はボロボロ、呪力は枯渇している。
だが、精神はボロボロではない。
「………頑張らないとな、釘崎。もっと、もっと」
「……………言われなくても知ってるわよ……………」
二人の様子に気が付いた烏は情報を伝達し、そして両名は医療班のところまで運ばれたのだった。
▶▷▶▷▶
「──────って訳だ。初めての特級だったが……どうだった?」
「正直に言えばビビってたわ、2回目の特級だもの。でも、逃げるわけにはいかなかったのよ。なんせ、先生からの頼みだもの。絶対守らないと、って思ってたわ」
そう言う彼女に、五条は彼らの頭を撫でた。
「──お前らがいたおかげで被害は最小限減らせた。助かったよ、釘崎、伏黒」
(本当によかった。指とあれが取られていなくて。取られていたら結構危なかったしな)
そう思いながら、ぐしゃぐしゃと頭を撫で続ける
「いいのよ。私達は五条先生の指示に従っただけだもの」
「お礼を言われるほどではありません。」
「いえ。来てくださらなかったら、冗談は抜きでこの忌庫番の2名は命を落としていたでしょう。私からもお礼を伝えさせてください。ありがとうございました。」
彼ら二人に頭を下げるのは伊地知。
そうして、五条からの視線を感じ取った二人は、何も言わずに退出する。
「うちの奴らは優秀だな、本当に。……伊地知」
五条や全員からの無言の続きの催促を感じ取った伊地知は、報告書を見ながら言葉を紡いだ。
「はい。忌庫に保管されていた宿儺の指六本、そして呪受胎九相図の1番から3番は事前に五条さんの指示で阻止。場所を変えて別で保管しています」
「医療班の方々の報告待ちですが…企てたのは、以前七海さんが遭遇した呪霊の仕業で間違いないかと」
「まあ、そうだな。さっきの二人も特徴を聞いたときに言ってたしほぼほぼ間違いないだろ」
五条の言葉に耳を傾けながら、楽巌寺は伊地知に問う。
「なぜ忌庫の場所が分かったのかは判明して居らぬのか?」
「…その件につきましては不明です。五条さんから話を聞いているかと思いますが、スパイの仕業でしょう」
伊地知が言ったスパイという言葉に、一瞬場が凍りついた。
「それについてだが、スパイが誰か判った。」
そうして。
口を開いたのは五条だった。
全員の視線が、彼に集まる。
「本当ですか?五条さん」
伊地知が驚いたように五条を見た。
「ああ。色々手間取りはしたが、間違いない。」
言葉を溜めた彼は、スパイの名を呟く。
「呪詛師と繋がっている可能性のあるスパイは───」
□◆□◆□
五条の言葉に、歌姫と楽巌寺は目を見開く。
「嘘でしょ、五条。……あの、──が?」
「………酷な話だが、裏付けは取れてある。見るか?」
「見たいわ。……楽巌寺学長も、いいですよね」
「ああ。……儂も、見ていいか」
彼が畳に出したのは、彼が呪霊や呪詛師と繋がっている証拠の報告書だった。
呪術高専で、どの程度の情報を掴んでいたのか。
スパイとして、呪詛師にどの程度の情報を流したのか。
なぜ彼は呪霊と繋がっているのか。
動機はなんなのか。
資料の数々を、この場にいた全員は確認していく。
それらに軽く目を通した楽巌寺は、呟いた。
「……そう、か。」
「……にしても。これは凄いね、五条くん。どれだけの金を積んだんだい?」
「それを聞くのは野暮ってものじゃないですか?冥さん」
杖を持って沈黙する楽巌寺に、五条が歌姫へ指示する。
「…歌姫先生はあとで与を呼んできてくれませんか?僕だと多分、警戒されるので」
「…わかりました。」
信じたくない。しかし、本人に聞いてみなければこれが本当かどうかも分からない。
そう思った歌姫は、彼を呼びに行ったのだった。
◆◇◆◇◆
京都校の休憩室。
各々がこれからどうするのかと思いながらも休んでいる中で、声が掛かった。
「──与、いる?」
それは、庵歌姫だった。
「…なんダ、歌姫先生。俺ニなにカ用カ?」
「ちょっとここでは話しにくい話なの。少し、会議室まで来てくれない?」
「わかっタ、すぐに行く」
ついていくメカ丸に、三輪は心配そうな瞳を向けた。
「大丈夫ですかね…メカ丸…」
「……きっと大丈夫よ。ただ呼ばれただけだもの」
五条がただ一人で待っていると。
コンコン、と控えめに扉を叩く音が聞こえた。
「入っていいぞ、与。」
「失礼しまス…。五条先生、どうしましたカ?」
「分かってるかもしれないが、今日僕が呼んだのには理由がある。とりあえず座ってくれ」
「…ハイ…」
与を呼び出した理由は至極単純だ。
「あんまり探るのは苦手なんだよな、僕。だから、早速本題に入る。」
「────お前、呪霊側と繋がってるだろ」
いいや違う。彼が、スパイだからである。
いつもよりは短いです。あと尋問するところまでいけませんでした。
また多忙になるので次回投稿日は未定ですが、4月中までには投稿したいです(目標)
2026.8.7
加筆修正。多忙の極み。
ちまちまと書いてはいますがいつ投稿できるかが分かりませんがお待ち頂けると励みになります…