フリーレンと一京の魔法使い 作:練菓子
「久しぶりだね、
「正確には80年と245日3時間2分ぶりだよ、フリーレンちゃん。珍しいね。以前の君なら、大体100年ぶりくらいとまとめていただろうに」
「いろいろあったんだよ」
言いにくそうにするフリーレンに、優しく微笑む安心院なじみ。それはさながら、久々に再会する親戚かのようで。
けれどそこに、圧倒的な上下関係があることが、まず間違いない異常であることは確かだった。
「ふぅん。理由はなんとなく想像がつくけど。
惜しむように、感慨深く、安心院なじみはそう言う。
感情豊かに、喜びに溢れ。
けれどそれは、フェルンには何処となく演技のように見えた。
「おや。何か僕に言いたいことがあるみたいだね」
「…………あなたはどう見ても人間です。私と変わらないくらいの歳で、そんなに多くの魔法を使えるとは思えない」
エルフ、ドワーフ、魔族。
人に似ながら違う特性を持つ種族は多くあるが。見分けたいなら、一番わかりやすいのは容姿だろう。ドワーフなら肌や髭、エルフなら耳。魔族なら角。ローブやフードで隠しているならともかく、女の顔にこれと言った特徴はない。強いて言うなら顔が整っているくらいだ。
だからといって、フェルンはただの人間だとも思わない。
なぜなら、などと理由を説明する以前に。目の前の女からは
魔力は基本的に、ありとあらゆる生物が所持している。戦士などは魔力が微弱で見えにくいこともあるが、それでも多少なりの魔力を纏っている。
故に、
「おや、人を見た目で判断するなんてらしくないぜ、フェルンちゃん」
悪びれる様子もない。人外を名乗る女は、フリーレンにするように、フェルンに微笑みかける。それに心を許しかけそうになる自分に、何より理性が警鐘を鳴らしていた。
不気味で、安心して、仕方がない。
「……あなたに名乗った覚えはありませんが。あなたは一体、私の何を知っているんですか」
「何って、何もかもさ。
やはり、安心する笑顔で。しかし、やはりどこか見下すように、彼女は言った。
「君が戦災孤児であることも。ハイター君に育てられたことも。そこからフリーレンちゃんの弟子になったことも。使える魔法も魔力量も趣味も特技も性格も好きなものも嫌いなものも好きな子も。知らず知らずのことさえ知っている。そう言われると戸惑うんだよね、知っているよ」
「……っ!」
言葉通り、戸惑い。けれど、そして確信する。
彼女に、気を許してはならない。
そうフェルンが決意することすら知っているかのように、安心院なじみは続ける。
「年齢の話だったね。君が生まれて16年、勇者ヒンメルが死んで27年。魔王が死んでたった80年。フリーレンちゃんが生まれて
そこで、漸く。
漸く、フェルンは見た。
魅せられた。
「おや、驚かせてしまったかな。魔力量を測られたことで昔、少しばかり痛い目を見てね。
『
自分が尻餅をついたことにさえ、気が付くのが遅れた。
────目の前に太陽が出現したのかと思った。
全身から汗が噴き出る。ちかちかと視界が点滅し、息が荒く、コントロールできない。
視界を埋め尽くし、真っ白に染め上げる魔力。部屋どころか、迷宮さえ埋め尽くしかねない白の濁流。
1000年以上生きたというフリーレンの本気を、フェルンは一度見たことがあった。それですら、自己が一生を掛けてもたどり着けないのだと心を折った。
その領域に至るまで。一体何千、何万、何兆……何京?
見えないから、理解し損ねていた。
漸く、理解した。
だからといって、起こっている現象は魔法でなければあり得ない。
であれば、人間には理解できない、呪い。つまり──
「まさか、本当に魔族──」
「フェルン。びっくりするのはわかるけど、あんまり失礼なこと言わないの」
恐怖のあまり後退るフェルンを諫めたのは、またもフリーレンだった。
少しの冷静さを取り戻し、フェルンは周りを見やる。しかし、周囲の魔法使いたちは警戒こそ続けるものの、突然取り乱したフェルンに少々驚いた様子だった。
(────あれを見たのは、私だけ……?)
ありえない、と思うと同時に、納得する。
本来抑えることすら少し疲れる魔力を、ただ一人にだけ見せ、それ以外には完全に隠す。
そんな離れ業を平気で成す相手こそ安心院……
「で、ですが、フリーレン様……! これは、こんなのは、人間では……!」
「そう。彼女は人間じゃない。かと言って魔族でもない」
未だ動揺の残るフェルンに、師は極めて冷静に告げる。
「安心院さんは、この世で最も強い人外だ」
最強。最高。
最も人類に悪平等な、人外。
安心院、なじみ。
「ところで……」
ふと、と。硬直したその場で、飄々と、人外は告げる。
「
────ああ。これは無理だ。
北部魔法隊隊長ヴィアベルは、その瞳を見ただけで理解した。
北方領土は魔族が多く、争いが絶えない激戦区だ。ヴィアベルはその中で、生き死にの戦争に身を投じてきた。
自分以上の実力を持つ相手とは、今まで何度もぶつかった。
今回の一級魔法使い試験ですら、自分よりも強い相手は少なくとも3人いる。
その全てに知恵をぶつけ、或いは下し、或いは戦いを避け、そうやって生き延びてきた。
魔法使いの強さは単に魔力で決まらない。技術、経験、扱う魔法、コントロール、努力、根性。一部が相手に劣っていようと、他の部分で補えば勝つことはできる。勝敗を決めるのは噛み合わせ。極端に言うなら複雑なだけのじゃんけんだ。
しかし、目の前の
じゃんけん? 馬鹿を言え。グーチョキパーで龍に勝てるものか。
「……あぁ、不思議でたまらねぇな。なんで効かねぇのか、よければ後学のために教えてくれ」
時間稼ぎのつもりの皮肉。背筋が凍る錯覚すら感じるヴィアベルに、しかし人外は明るく、明瞭に答えを返した。
「なに、
一京分の一の魔法
「あらら、バレてたかぁ」
肌が、逆立つ。
例え最高の防御魔法が織り込まれようと、本人が切れると思えば切れる。そんな規格外の魔法を持つユーベルだろうと、
(……これ、勝てないなぁ。さっきから全然隙ないし。全滅かも)
戦闘に慣れた二人はほぼ同時に理解する。
直感が告げている。
本能が訴えている。
理性が叫んでいる。
経験が教えてくる。
「あぁ、不発だった魔法がバレたことを疑問に思っているのかな? いやすまない、僕のささやかな魔法『
目の前の
そしてそれは、周囲の優秀な魔法使いにも共通の認識として伝播していく。
「おいおい、そんなに殺気立った顔をしないでくれよ。勇者パーティーの魔法使いとその弟子。厄介な魔法使い1人に将来有望な魔法使い10名。流石の僕も多勢に無勢で分が悪い」
「冗談でしょ。私たちが全員束になったところで、安心院さんの爪先にも及ばない」
フリーレンの言葉に、ゼンゼ含む全員が唖然とする。この場で最も強いだろう彼女の、事実上の降伏宣言。
しかも彼女1人だけでなく、この場全員の戦力を見積もっての、だ。それほどまでに、二人の実力は乖離しているというのか……
そんな場の絶望を読み取ったかのように、平等はフリーレンを優しく諭した。人外でありながら、人格者を装うかのように。
「そう悲観的になるなよ、フリーレンちゃん。悪い癖だ。やってみれば、意外と簡単かもしれないよ。君と魔王がそうだったように」
ただただ謙虚に。優位など感じさせない、穏やかな口調で。
口は軽く、その力を告げる。
「7929兆1354億4152万3210個の一般魔法」
古今東西、人類が編み上げてきた生きる術。
「4785兆9145億2611万1344個の呪い」
未だ原理の判明しない、正体不明の恐怖。
二つを束ねて、単位は京。それこそが、安心院なじみ。
「合わせて、1京2115兆0499億6763万4554個の魔法を持つ僕にだって、ひょっとしたら勝てるかもしれないぜ?」
一京を超える魔法を操る、ただそれだけの人外である。
「まぁ、戦いたいというなら仕方あるまい。戦ってこそ得られるものもあるだろう」
得られるものなど、ただ格差の実感と知っていて。それでなお、反論を許さない傲岸。
「とは言え」
それを許される人外が、安心院なじみ。
「僕程度が相手になったところで、精々13人倒すのがやっとだろうけどね」
その宣言を受け立ち向かう勇者は、幸いにもこの場に一人もいなかった。
フリーレン「気持ちいいでしょ~」
シュピーゲル「お姉ちゃんやめて、これ以上したら変なの来ちゃう!」
安心院「来ちゃった♡」
フランメ「ほら来ちゃったよ」
ゼーリエ「あーあどうすんだよこいつ」
一旦区切りです。適当に思いついたネタあれば追加していきます。