凪の気分を   作:冴木甲士

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第198話 貸し

 修学旅行が終わり、通学がまた始まる。

 

 まだまだ外は寒く、今日はいっそう風が強い。

 しかし、修学旅行の三日目の早朝に比べれば、マシな方だった。

 

 朝、教室に来ると既にクラスメイトがそれなりに屯している。

 その中に、春野と日高が別の友達と談笑しているのを見掛けた。

 

「あ、おはよう、黒山君」

 春野は、いつもと変わらない。

「……おはよう」

 俺はそんな春野に戸惑いつつも、とりあえず返事をした。

 

 春野はその後すぐに友人との会話に戻った。

 日高も俺の方に「おはよ」とだけ言い、春野と同様に友人としゃべっていた。

 

 

 日高は恐らくだが、春野の告白の件を本人から聞いていることだろう。

 今まで散々春野と俺を結ばせようと暗躍してきたのだ。これに限って知らないとは思えない。

 

 そして今となっては、実は春野も日高とグルになっていたんじゃないか、という想像が俺の頭を占めていた。

 春野にとって頼りになる幼馴染の日高へ、俺への告白をどうしようかと相談を受けて、そのお膳立てを日高が企てたという線は大いにあり得た。

 日高があれほど策動していたのも春野からの要望ありきであれば納得が行く。

 

 どちらが主導していたのかまでは知らないが、俺への告白に際して二人が示し合わせてたのはまず間違いない。

 今までの春野の素振りからは全く気付けなかったので、春野もそういう意味では大したものだと妙に感心してしまった。

 

 

 そんな日の、放課後。

「お待ちしてました、先生」

「じゃ、帰ろ」

 今日は岸姉妹の二人と一緒に下校するらしい。

 葵については三学期以来、多忙とのことでずっと同伴がなくなっていた。

 

「今日はまた何で二人一緒に」

「いやー、修学旅行の土産話を聞きたくってさ」

「二人ともいち早く聞きたいとのことだったんで、今日は特別となりました」

「そうか。でも特別なことなんて……」

 

「誰かに告白された、とかありませんか?」

 

 ……深央、お前修学旅行でも監視してたか?

 

「なぜそう思う?」

「葵さんが急にウチらと関わらなくなった辺りからずっとそんな推測はしてましたけどね」

 ……そうか、葵の事情にも感付いてたか。

「春野先輩とか安達先輩とか、結構怪しい気がしててね」

 しかも二人中、一人はビンゴだった。

 

「それと、先生自身は相変わらず演技がヘタなんですね」

「どういうことだ?」

「反応だけで図星とわかっちゃいましたよ」

 ……やっぱ俺、わかりやすすぎるんだろうか。

「……はあ、もうしょーがねーか」

 と、修学旅行の三日目に起きたことを隣の双子に話した。

 

 

「やっぱ、妙なことが起きちゃいましたか」

 深央はすっかり呆れた様子だった。

 

「俺もそうやって『あーあ』といきたい気分だよ」

「貴方がそれをやる筋合いは一切ないですね」

「それな」

 だろうな。

「でもまあ、そうですね」

 深央が俺に向く。

 

「もし今の状況が辛くなったら、またウチに相談してください。貸しをいくらでも作ってあげましょう」

 

 これまたストレートに恐ろしい発言が出た。

「遠慮する。返す当てが全くないんでね」

「あら、お金で返さなくてもいいんですよ」

 どうだか。

 

「まあ貸しにしたがる深央が怖かったら僕にだけ相談しなよ。そういうのなしに協力してあげるからさ」

「そういうのが一番信用ならないんですよね」

「何だぁ?」

「あら怖い」

 あっという間に言い争いを始める岸姉妹を、俺はまあまあととりなした。

 

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