目を覚ますとそこは見知らぬ土地、誰も自分を知らず、自分の知る者が誰もいない世界。
唐突に放り出された彼女は何を為すのか―――。
今後ボチボチ更新していく『三ノ輪銀は盟友である』の前日談的なおはなしです。
「なんか冒険の書って内容どんな風に書かれてるかわからないけど勇者御記みたいだよね」みたいな発想から文章に不慣れな自分のジャブ打ちも兼ねて投稿したものになります。
勇者であるシリーズは四月の半ばくらいにアニメを見てハマった新参者でぶっちゃけ浅いです。ゆゆゆいもリアタイじゃないしCS版もvol.3までしか追えてないし…巡礼も地理、金銭的に無理ゲーだし…
◯月△日
世界は不思議に満ちている。それと同じくらいの理不尽や不条理にもだ。十数年ぽっちしか生きてない身で何を言うのか、と思われるかもしれないけれど。そう考えなければとても納得出来ない。
勇者としての御役目の末に半死半生の重傷で倒れていたところを拾われ、保護されたエテーネの村で数年を過ごした後に、突如現れた魔物の大群によって大恩あるアバのばーさん、生活する上で色々と気を回してくれたシンイ共々村を焼かれた。
私は逃げ出した。逃げることしか出来なかった。それだけ襲撃者との間には力の差があった。
力が欲しかった。村のみんなが安心して眠れるようにするために。襲撃者、冥王ネルゲルと名乗ったそいつを打倒するために―――。
◯月□日
アストルティアは広い。力を付けるためには鍛錬以外にもこの世界に付いて知らなければ。頼る先のない小娘が一人で放り出されては生きていくことすらままならないだろう。
あとから分かったことだが、襲撃から逃げ延びた先はオーグリード大陸という険しい地形や限りある水源等を人類同士で奪い合ったちょっとばかり血なまぐさい歴史を持つ土地だったらしい。
不幸中の幸いとも言うべきか、さほど離れていない位置にあるグレン城周辺は魔物の個体数も多く、冒険者の活動も盛んだと聞く。経験者から魔物との戦い方やパーティ運用について学べる機会があるかも知れない、と期待に心を弾ませている自分がいるのを感じた。
◯月✕日
(激情のままに書き殴られた文が数行に渡り続く。解読は困難)
少し頭が冷えたのでもう少しだけ今日の分の記録を残すことにする。
結論から言う。冒険者なんて連中は仕事に対する責任感も道徳心もないクズ以下の存在だった。
グレン城下町の酒場職の募集を受けた私は西の荒野を販路にする行商人を護衛するパーティに加わった。パーティ内で最年少だった私に、場慣れした雰囲気を漂わせた扇使いのオーガの女は緊張を解すような声をかけてくれていた。その甲斐もあってか道中の小動物とほとんど変わらないような魔物への対処は問題なく出来ていた、ハズだ。
目的地を目前にして状況は一変した。扇使いが柵越えだ、と声を張った。目を向ければ人型に翼を生やした"如何にも悪魔です"と言わんばかりの様相をした見慣れない魔物が猛然と私たちに向かって襲いかかってきた。
そいつを迎え撃つために身構えたところでパーティの守りの要のハズの剣士のオーガ男が何やら喚き立てて走り出した―――魔物ではなく、目的地でもなく、城下町の方向へ。剣士は逃げるのに邪魔と判断したのか大盾すら投げ捨てて真っ先に戦線を離脱した。その隙を突かれたか、扇が……いや、扇を持つ腕が宙を舞った。
扇使いは治癒術師のドワーフの青年から庇われつつも私と行商人に逃げるように告げるが、負傷者を置いて逃げ出す選択肢は私にはなかった。食い下がろうと扇使いに向き直ったところで突き飛ばされた、のだと思う。魔物の追撃によって扇使いが喉から尋常ではない量の血を噴き出して倒れたのを見て、私はタガが外れたのだと思う。この時魔物に向けて斧を振り下ろして以降の記憶があまり鮮明ではない。
なんとか魔物を撃退したものの、これ以上の騒ぎになるのを避けつつ速やかにその場を後にした。彼女の遺体を収容することすら叶わなかった。依頼を終え、冒険者の酒場に戻ると逃げ出した剣士が他の冒険者と酒を飲みながら馬鹿騒ぎをしていた。私たちに気付くと先んじて報酬を受け取っていたのか、分け前と称して幾分かのゴールドを手渡してきた。"なんだよ、あの魔物をわざわざ倒したのか""これで三等分だな"と。
気が付けば剣士の顔面を全力で殴っていた。それを見て向かってきた剣士の仲間も殴り倒した。相手が死んでも構わないと思って人を殴ったのなんて初めてだった。拳の感覚が無くなってきても殴った。店内で野次を飛ばしていた連中が段々静かになっていく。治癒術師がもういい、と涙ながらに謝罪してきた。違うだろ。謝らないでくれ。アンタは危険を承知で出来ることをやってくれてたじゃないか。
店内に響く音が剣士の仲間たちのうめき声だけになった頃に酒場のスタッフに退店を促された。受け取った報酬は迷惑料代わりに置いてきた。
店を足早に出たところを誰かが追って声をかけてきた。フードを目深に被っているお陰で表情も種族もわからないが、年の近い少女なのだろうということが伺える。酒場から出てきたところから、彼女も冒険者なのだろうが、飲んだくれの野次馬でもなく、先程の私の凶行を見ても怯むことなく話しかけてきた様子から他の連中とは違う毛色の持ち主なのだろう。
私が宿無し文無しであることを見透かしたのか、借りた部屋を二人で使わせてくれるように宿屋の女将に話を通してくれたらしい。最初は断ったものの、"あなたみたいな直情型人間を今一人にしたらすぐに死んでしまう"と諭されてしまった。そうだ、まだ私は死ねない。
◯月※日
少女はシャドウと名乗った。まあ十中八九偽名なのだろうが……。おそらく悪意があって隠しているのではないだろう。
彼女からは色々なことを教わった。"冒険者は依頼を受けていようとちょっとしたことで逃げ出す"、"どこの冒険者も大して変わらない"、"身元のわからない者は死んでも弔われることはほとんどない"、また、"一部の集落や街を除いて人々の安全圏はほぼ存在しないこと"など、四国で生きてきた身としては信じがたいことばかりだったが、そういうものなのだろう。昨日実感したばかりなのだから納得するしかない。
随分世話になってしまったのでお礼をしたかったが持ち合わせがない。それを察してかシャドウは"次に会うときまで貸しにしておく"と申し出てくれた。その次というのはいつになるのだろうか。
彼女はこうも言った。"こんな無慈悲で理不尽なだけの世界にあなたが負けずに自分のやり方を押し通していられるのなら、きっとまた会える"と。
まだ私の譲れない戦いは終わらない。三体のバーテックスと対峙したあの時から。
こちらの銀ちゃんのおはなし、どれだけ時間がかかっても完結させたいと思うのでよかったら読んでってください。誰も読まなくても続けると思うけど。