ウルトラマン・チーレム 第xx話『彼の故郷は地球だった』

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「デヤァッ!」

 

 そして放たれるウルトラマン渾身の必殺光線が、暴れ狂う宇宙怪獣へトドメを刺した。腕で十字を組んだウルトラマンの必殺光線が、粘土質の土塊(つちくれ)に似た宇宙怪獣の体表を隅々まで焼き尽くし、跡形もなく粉砕してゆく。

 

「ギエェェ……!!」

 

 断末魔の悲鳴を最後に、恐るべき宇宙怪獣は絶命した。その体組織は瞬時に蒸発し爆散、残ったエネルギーも光の粒子となって空に昇って大気へ還る。宇宙怪獣は、この星の一部になったのだ。

 そんなウルトラマンの大勝利を見届けて、街の人々も一斉に歓声を上げた。瓦礫の中で抱き合う家族、涙を流す老人、喜びのあまり飛び跳ねる子供たち。人々の感謝の声が響き渡る。

 

「ありがとう、ウルトラマン!」

「助けてくれてありがとう!」

「ウルトラマン、カッコいい!」

 

 人々からの感謝の声を浴びながら、ウルトラマンは両手をまっすぐ伸ばし飛び上がった。戦いを終えたので、ウルトラマンは空の彼方にある自分の世界へと帰るのだ。

 

「――――シュワッチッ!」

 

 かくして速やかに宇宙の彼方へと飛び去ってゆくウルトラマン。そんなウルトラマンの雄姿を見送りながら、防衛チームの隊員であるわたし〈ミネ=アンナ〉も軽く敬礼で見送った。

 

「……いつもありがとね、ウルトラマン」

 

 たとえわたしたち防衛チームが手を焼く宇宙怪獣でも、ウルトラマンに掛かれば一捻り。そうやっていつもわたしたち防衛チームのお株を奪ってゆくウルトラマンに対し、わたしとしては正直ヤキモチを焼かないこともない。

 けれど、最近のわたしはむしろ「ウルトラマンに負けないくらい頑張ればいいのだ」と思うようにしている。ウルトラマンとは持ちつ持たれつではあるけれど、いつまでもウルトラマンに頼り切っていてはダメ、地球は人間たちの力で守ってゆかなければならない。

 そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。

 

「おーい、ミネ隊員~!」

 

 振り返ると防衛チームの相棒、〈ハヤト=シンジ〉隊員の姿があった。何かを誤魔化すようにヘラヘラ笑いながら駆け寄ってくるハヤト隊員に、わたしはきっぱり言ってやった。

 

「ハヤト隊員、今の今まで何してたのよ。もう終わっちゃったけどぉ?」

 

 ハヤト隊員の悪い癖だ。この人、普段はわたしよりずっと優秀なくせに、いざ怪獣が出てくると不意に連絡取れなくなることがあるのよね。まあ怪獣退治の最中なんて混乱してるから仕方ない部分もあるけど、ハヤト隊員の場合はちょっと度を越してる気がする。

 そうやって睨みつけるわたしに、ハヤト隊員は頭を掻きながら答えるのだった。

 

「いやあ~すまんすまん、民間人の子供を助けようとしたら逆にウルトラマンから助けられてな……」

「また助けられたの? あんた、ウルトラマンにはホント足を向けて寝られないわね」

 

 そのときの場面はきっとこうだろう。ハヤト隊員が子供を抱えながら倒れ込み、ウルトラマンの影がその上に覆いかぶさるようにして現れる。子供の泣き声とハヤト隊員の情けない表情が目に浮かぶかのようだった。

 ……ったくもう。いつだったかも怪獣の攻撃で撃墜されて助けられたこともあったし、この人は防衛チームのエースのはずなのに、ホント困ったもんだわ~。

 

「あんた、防衛チームの一員としての“自覚”ってもんが足りてないんじゃあないのお?」

 

 そうやってぷんすか怒るわたしの小言に対し、ハヤト隊員は「あ、ああ、そうだな、ははは……」と適当に笑ってやりすごそうとするのだった。

 まあ、それはともかく。

 

「しかし、今回の宇宙怪獣はなんだったのかしらね。よりにもよって、国際平和会議を狙ってやってくるなんて」

 

 今回の防衛チームの出動は、世界各国の要人が集まる国際平和会議の会期中でのことだった。

 レーダーにも映らないステルス円盤に乗って現れた宇宙怪獣は、市街地の真ん中へ降り立つと破壊活動を開始。国際平和会議が行われているセントラルシティの議事堂へ向かっていった。わたしたち防衛チームも防衛線を築き上げ、宇宙怪獣の侵攻を阻止しようと試みた。

 しかし今回の宇宙怪獣は手強かった。口から放つ100万度のプラズマ火炎と、ヒト型の華奢な体躯に似つかわしくないほどのタフさ、戦車もビルも捻り潰す圧倒的パワー。わたしたち防衛チームの防衛線なんて、宇宙怪獣の猛威を前にして呆気なく破られてしまったのである。

 そこにやってきたのがいつもお馴染み我らがヒーロー、ウルトラマンだ。ウルトラマンはセントラルシティ議事堂へあと一歩というところまで迫った宇宙怪獣をなんとか押し留め、そして必殺光線で撃退してくれたのだった。

 

「ホント恐ろしい奴だったわ。もしもウルトラマンが倒してくれなかったら、どうなっていたことか……」

 

 そう言いながら目をやった先には、宇宙怪獣によってぐしゃぐしゃに踏み躙られた各国の国旗が散らばっていた。国旗の布は焼け焦げて地の土にまみれ、へし折られた旗竿が無惨に転がっている。議事堂自体は無事だったがその前の広場は瓦礫と化し、その中で泥に汚れた国旗たちはなおさら悲惨な光景を演出していた。

 

「あーあー、まったく、せっかく立派な国旗がぐしゃぐしゃになっちゃって……」

 

 宇宙怪獣はセントラルシティ議事堂のすぐ傍、議事堂前に建てられていた各国の国旗掲揚スペースにまで迫っていた。無論要人たちはすぐさま避難していたけれど、このまま宇宙怪獣が議事堂を破壊していたら、せっかくの国際平和会議は台無しになっていただろう。

 

「あるいはひょっとしたら、地球の平和を脅かそうと悪い外星人(がいせいじん)が送り込んだ刺客だったのかもしれないわね。いいや、きっとそうよ、そうに違いないわ。ねえ、ハヤト隊員……」

 

 そう水を向けたのだけれど、ハヤト隊員は返事をしてくれなかった。見るとハヤト隊員は、ぐしゃぐしゃになった国旗と、宇宙怪獣が倒された現場を黙ってじっと見つめている。

 

「…………。」

 

 ……いったいどうしちゃったんだろう、いつになく真剣な顔しちゃって。普段は明るく気さくに振る舞っているハヤト隊員だけど、たまーにこういうアンニュイなときがあるのよね。

 流石のわたしも心配になり、思わず声をかけてしまう。

 

「……ハヤト隊員?」

 

 わたしからそう問い掛けられて、ハヤト隊員はようやく我に返ったようだった。彼の瞳に映る景色が急速に現実へ戻ってゆく。

 

「! あ、ああ、すまん、ちょっとボーッとしてた。で、何の話だっけ?」

 

 んもう、しっかりしなさいよねっ! わたしは眉をしかめて言った。

 

「そんなにぼんやりしてると、キリヤ隊長にチクるわよ?」

「悪い悪い、それだけは勘弁してくれ……」

 

 そうやって笑い合いながら、わたしたちは防衛チーム基地への帰還準備を始めた。周囲にはまだ煙が立ち込め、破壊された建物の残骸が散乱している。防衛チームの他の隊員たちも次々と集まり、互いの無事を確認し合っていた。

 そしてその帰り道。ハヤト隊員がふと口を開いた。

 

「……なあ、ミネ隊員。もし次にまた宇宙怪獣が現れたら、おれたちはどうすればいいと思う?」

 

 ……どういう風の吹き回しだろう。いつもは頼もしいムードメーカーであるところのハヤト=シンジ隊員が、こんな弱気なことを言い出すなんて。わたしは少し考えた後、答えた。

 

「それはもちろん、わたしたちができる限りのことをして戦うしかないわ。ウルトラマンに頼りすぎるのはよくないけど、でも、彼がいてくれるのは心強いわね」

 

 ハヤト隊員は静かにうなずいた。その横顔には、何か決意が固まったような表情が見て取れた。

 

「そうだな。おれたちももっと強くならないといけないな」

「そうね、ハヤト隊員」

 

 ハヤト隊員の言うとおり、わたしたち防衛チームはもっと力をつけなければならない。ウルトラマンがいなくても、いつか自分たちの力で地球を守ることができるようにならなければならないのだ。

 なにしろこの星こそがわたしたちの居場所、故郷は地球なのだから。

 

★ O(%)o < シュワッチ! ★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある男の漂流の記録

 

実験開始から第1日目

 今日、私を乗せた探査船「ジュピターIV」は予定通り地球を出発した。友人のキリヤやヤング、そしてなにより妻のパティと娘のカレンに別れを告げるのは辛かったが、人類の未来のためだと自分に言い聞かせている。この任務が成功すれば私たちの故郷、地球の未来は明るいものになるはずだ。

 

実験開始から第7日目

 探査実験は予定通りに進んでいる。地球との交信も順調だ。カレンの声を聞くと、心が温かくなる。「パパ、早く帰ってきてね」という言葉が、私の力になっている。故郷は地球だ。

 

実験開始から第10日目

 順調に航行を続けている。私たちの銀河系がどんどん小さくなっていくのを見るのは不思議な気分だ。パティとカレンのことを考えると一抹の寂寞で胸が痛むが、彼女たちの写真を見ることで励まされている。

 

実験開始から第15日目

 異常発生。探査船の機体に予期せぬ不具合が生じた。修復を試みているが、難航している。地球との交信が途絶えがちだ。不安だが、冷静に対処しなければ。

 修理に手間取っている。予備部品が足りず、即興の解決策を考えなければならない。パティがよく言っていた「創意工大すれば何でもできる」という言葉を思い出す。今まさに、彼女の知恵を借りられたらいいのに。

 

実験開始から第20日目

 ついに修理が完了した。しかし、この遅延で軌道が少しずれてしまった。コースの修正を試みているが、燃料の消費が心配だ。「故郷は地球」と自分に言い聞かせ、必ず帰還すると誓う。

 

実験開始から第23日目

 状況がより悪化している。軌道修正に失敗し、想定外のプランク・ブレーンへと迷い込んでしまった。通信機器も故障し、地球との連絡が取れない。孤独感に押しつぶされそうだ。カレンの笑顔を思い出し、何とか踏ん張っている。

 最悪の事態だ。機体のコントロールを完全に失った。地球との交信も途絶えた。未知の異次元空間へと漂流し始めている。パニックになりそうだが、「故郷は地球」と自分に言い聞かせ、冷静さを保つ。

 

日付不明 - 漂流1日目

 今日、私の人生最大の冒険が悲劇へと変わった。

 今日から漂流の記録を始めることにした。事故から数時間が経過し、ようやく冷静さを取り戻せた気がする。宇宙船は大破し、移動用の燃料は尽き、通信機器は完全に壊れてしまった。生命維持装置は何とか機能しているが、どれだけ持つかわからない。

 カレン、パティ、愛する家族のことを思うと胸が締め付けられる。でも、諦めるわけにはいかない。必ず帰る。故郷は地球だ。

 

漂流3日目

 食料と水の備蓄を確認した。1カ月分はある。それまでに救助が来ることを祈るしかない。

 窓の外には広大なプランク・ブレーン、無限の異次元宇宙が広がっている。美しいけれど、今の私には死の海を漂っているようにしか見えない。カレンの笑顔を思い出すたびに胸が痛む。パティ、君はきっと心配しているだろう。でも大丈夫、必ず帰るから。故郷は地球だ。

 

漂流10日目

 この静寂と孤独は耐え難い。毎日、地球との交信を試みるが、応答はない。目を閉じると、カレンの笑顔が浮かぶ。パティの温かい手の感触を思い出す。

 故郷は地球だ。必ず戻る。

 

漂流15日目

 ここ数日、探査船の修理を試みているが上手くいかない。やればやるほど、希望が薄れていくような感覚を覚える。

 でも、諦めてはいけない。カレンとパティのために生きなければ。毎日、家族への手紙を書いている。いつか帰れたときのため、そしていつか読んでもらえることを願って。故郷は地球だ。

 

漂流20日目

 食料の配給を減らした。このままでは尽きてしまう。パティの手料理が恋しい。彼女の作るミートローフの味を思い出そうとするが、この異次元空間ではだんだん記憶が薄れていく気がする。怖い。今なら、実は嫌いだったあの野菜スープでも喜んで食べられそうだ。

 

漂流35日目

 研究資料として持ち込んでいた、藻類の培養に成功した。味は言語に絶するほど悪いが、慣れてしまえばどうということもないだろう。水の再生循環システムも何とか機能している。食料の備蓄は尽きるかもしれないが、これで飢えをしのげるだろう。

 

漂流50日目

 体に異変を感じ始めた。この異次元空間における放射線の影響だろうか。皮膚が硬くなり、感覚が鈍くなっていく。もはや作業服が体に合わなくなった。体が大きくなりすぎたんだ。自分が自分でなくなってゆく恐怖で夜も眠れない。

 それでも、まだ意識ははっきりしている。カレンとパティのことを覚えている。家族の写真を見ながら自分に言い聞かせる。故郷は地球だ。必ず人間のままで帰るんだ。

 

漂流100日目

 もはや自分が人間なのかわからない。鏡に映る姿はもはや人間ではない、怪物だ。でも、心は人間のままだ。カレン、パティ、あなたたちを愛している。どんな姿になっても、私はあなたたちの夫であり、父親なんだ。故郷は地球だ。

 

漂流200日目

 なぜ誰も助けに来ないんだ? 地球は私を見捨てたのか? いや、そんなはずはない。カレン、パティ、みんな待っているはずだ。故郷は地球だ。そうだ、地球は私の故郷なんだ。

 

漂流365日目

 壁へ刻み付けた傷の数を数えるかぎりによれば、この探査船が異次元を漂流し始めてからちょうど1年が経過したことになる。

 助けは一向に来ない。地球との通信も一切回復していない。私はもう人間の姿を完全に失った。記憶も曖昧になってきた。

 でも、カレンとパティの名前だけは忘れない。彼女たちが待つ我が家、それが私の帰る場所。地球こそが私の故郷だ。

 

漂流XXXX日目

 もう限界だ。

 体も心も、人間としての自分を失いつつある。今の私に残されたのは怒りと憎しみだけだ。なぜ私を見捨てた? なぜ助けに来ない? なぜ、どうして。

 意識と記憶が混濁している。自分が何者なのか、どこから来たのか、今目覚めているのか夢の中なのかさえ曖昧に溶けてゆく。ただ、「故郷は地球」という言葉だけが、頭の中でこだまする。でも、なぜだ?

 もはや人間の姿ではない。完全な怪物になってしまった。でも、まだ書くことはできる。カレン、パティ、その名前が何を意味するのか、もう思い出せない。でも、大切な存在だったことは確かだ。

 

日付不明

 カレン、パティ、許してほしい。父さんは、最後まで人間でいられなかった。でも、お前たちを愛している。私の魂の故郷は、永遠に地球だ。

 

地球防衛軍

第1218号試験部隊 特務少佐

 ジャミラ ミラー 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 検証実験:ジャミラ事例の総合報告

 

 マルチバース座標:____--____-____の辺縁に当たるプランク・ブレーンを探索中に、我々は興味深い“標本”を採取した。

 回収された標本はプランク・ブレーンに滞留している高次元放射線へ長期間にわたって曝されたために著しい破損が見受けられたものの、より詳細に検査した結果それは上記マルチバースのアルファ太陽系第三惑星(現地名称『地球』)にのみ生息する貴重な固有種『ヒト』であることが判明した。

 標本の遺伝子構造と記録内容から、我々は興味深い実験の機会を見出した。

 

実験手順:

- 最先端の再生技術を用いて標本を修復、再生、蘇生を実施

- ヒト種特有の精神構造を保全することを最優先として、記憶および人格の修復を実施

※なお上記手順を行なうにあたって、手段は問わないものとする。

 

目的:

- 『ヒト』の生態および精神構造の研究

- 『ヒト』の精神的葛藤がもたらす影響の観察

- 我々の再生技術の技術限界検証

 

注:同時に発見された記録端末の内容解析から、この標本が生存していた頃の個体名は「ジャミラ=ミラー」と判明した。我々はこの名称を保持し、標本の識別コードとして「ジャミラ」の呼称を使用するものとする。

 

経過:

・作業1日目

 ジャミラの身体の修復を開始した。高次元放射線による変異は予想以上に進行しており原種の形態を完全に失っているため、我々は彼を完全な形で復元することは出来ず、身体を新たに再構築せざるを得なかった。

 

・作業5日目

 崩壊した身体は、ベーターシステムを応用した技術で安定化させることができた。彼の頭脳の活動も徐々に回復しつつある。興味深いことに、生命活動を停止した上に高次元放射線へ曝され続けたにもかかわらずジャミラは生前の記憶と感情を強く保持していた。特に「地球」という惑星と、「カレン」「パティ」という個体への強い感情反応が見られる。

 

・作業7日目

 ジャミラの意識が完全に戻った。しかし、彼の精神状態は極めて不安定だ。「地球」という言葉に激しい怒りと憎しみを示す一方で、「カレン」「パティ」という言葉には深い悲しみと愛情を表す。この複雑な感情の相互作用が、ジャミラの精神を引き裂いているようだ。

 

・作業10日目

 ジャミラの身体能力が驚異的なレベルまで回復した。ジャミラ自身のDNAと我々の高度な技術の融合により、ジャミラは地球の言葉で言う「怪獣」とも呼べる存在になった。

 

・作業XX日目

 我々はジャミラの経過観察を続けた。ジャミラの精神は依然として不安定だが記憶と感情は保たれており、「地球に帰りたい」という意志は依然明確だ。

 現状を踏まえて我々の倫理委員会において議論した結果、我々は知的生命体としてその意思を尊重することとし、ジャミラを彼の故郷である「地球」へと送り返すことにした。地球に帰ったジャミラがどのような行動を取るかは、彼自身の知性と判断に委ねることとしよう。

 

実験結果と今後の方向性:

 ジャミラの修復が完了した。まもなく「地球」へ向けて送還する。この実験の結果は、我々の惑星間生態系操作プロジェクトに貴重なデータをもたらすだろう。

 

担当研究員M-19661218号の個人的所感:

 蘇生作業以降、意識を取り戻したジャミラが繰り返し呟き続けていた譫言(うわごと)が、わたしはひどく印象に残っている。ジャミラの記録端末においても幾度か登場している印象深い言葉だ。わたしという個体の独断と偏見、つまり“好み”でもって、この言葉をアーカイブしておくこととする。

 『故郷は地球』

 ……ふむ、美しい言葉だ。わたしの好きな言葉に加えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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極秘 - 取り扱い注意

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文書番号:____-____-____

発行日付:________

発行者:________

発行者署名:________

永久封印決定通知

概要:

以下の文書及びその関連資料は、極秘扱いとし、永久に封印されることが決定された。

本通知は封印措置の正式な発行であり、受取人はこれに従う義務があるものとする。

 

封印対象文書:

文書名:________

文書番号:____-____-____

発行日付:________

 

内容概要:

本記録は地球を襲った宇宙怪獣、レジストコード:棲星怪獣ジャミラが乗ってきた宇宙船の残骸から発見されたものである。

 

封印理由:

以下の理由により、本記録は永久封印とすることを決定された。

- 棲星怪獣ジャミラの正体は、____年に地球防衛軍が極秘裏に実施したプランク・ブレーン探査計画「ジュピター」における四号機テストパイロット:ジャミラ=ミラー少佐であったこと。

- 当該テストパイロットの遭難は、当時の地球防衛軍メテオール開発計画局の無謀な技術開発計画に起因する不祥事であり、やむを得ず見捨てざるを得なかった経緯があること。

- 未知の外星人の介入により、ジャミラ=ミラー少佐が棲星怪獣ジャミラとして蘇生され地球に送り返されたこと。

 

これらの事実が公になれば、地球防衛軍への信頼は失墜し、社会に大きな混乱をもたらすことは必至である。さらには人類の宇宙進出計画、ひいては科学の発展と未来にも甚大な影響を及ぼす可能性がある。

よって、本記録は区分:ドキュメント・フォビドゥンの最高機密として永久に封印することをここに決定する。本件に関わるすべての関係者は、この決定を遵守し、いかなる状況下でもこの情報を漏洩してはならない。

 

封印措置:

1. 対象文書及び関連資料は情報セキュリティプロトコル:ゴーストによりすべてのアクセスから隔離され、物理的およびデジタルの両方で保護されるものとする。

2. 関係者は、これらの文書に関する一切の情報の開示を禁じられるものとする。

3. 文書の復元、複製、または改ざんを試みることは固く禁じられるものとする。

4. 封印解除およびドキュメント区分の移管には、地球防衛軍最高司令長官および参謀本部総合会議の全会一致による承認が必要とする。

 

承認:

本決定は以下の者により署名、承認された。

地球防衛軍参謀本部総合会議(全会一致)

地球防衛軍最高司令長官:________

議長:________

副議長:________

参謀:________

参謀:________

〈中略〉

参謀:________

参謀:________

 

注意事項:

本通知の内容についてはセキュリティプロトコル:ゴーストに基づき第三者への口外を厳禁とし、受領者は厳重な管理の下で取り扱いを行うものとする。

本通知の内容を遵守しない場合、厳重な処罰を科すものとする。

受取人は、速やかに本通知を確認し、必要な措置を講じること。

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極秘 - 取り扱い注意

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個人的覚書:

 私、キリヤ=ケイジは本決定に強い懸念と、個人的な不服がある。ジャミラの遺志と、彼が経験した苦難を闇に葬ることは、我々の人間性を否定することに等しい。

 しかしより大きな混乱を避けるため、組織の判断に従わざるを得ないことも承知している。ジャミラは恐るべき棲星怪獣、侵略者の手先になってしまった。それに国際平和会議襲撃という、ジャミラの犯した凶行は到底許されて良いものではない。そのことは理解している。

 けれど、それでも、だとしても。

 棲星怪獣ジャミラ……いや、彼の人間としての名前を記すべきだろう。ジャミラ=ミラー、彼の犠牲を無駄にしてはならない。彼とその家族に対して、我々がなした行為の責任は重い。いつの日か真実が明らかにされ、適切な償いがなされることを願う。

 「故郷は地球」……彼が遺したその言葉の重みを、私たちは決して忘れてはならない。

 

地球防衛チーム総隊長

 キリヤ ケイジ 

 

 

 

 

 

 

★ O(%)o < シュワッチ! ★

 

 防衛チームの休憩所は、白い壁と窓から差し込む柔らかな光が特徴的な、清潔で落ち着いた空間だ。自動販売機やテーブルが並び、隊員たちがリラックスできる場所になっている。

 そしてそんな休憩所でぼんやりしているおれ∶ハヤト=シンジに声をかけてくれたのは、防衛チームの科学技術担当〈シルフィア=バルタニア〉だった。彼女はいつもどおりのぶっきらぼうな態度で話しかけてきた。

 

「やけに落ち込んでいるな、ハヤト」

 

 いいや、そんなことは……。

 おれは慌てて取り繕おうとするのだが、外星人であるシルフィアにそんな誤魔化しは通用しなかった。むしろシルフィアから向けられる鋭い眼差しが、おれの内面を見透かしているかのようにも感じられた。

 

「なにがあった。らしくないぞ、我らがウルトラマン」

 

 おれを見下ろすシルフィアの表情はいつもどおり、如何にも不機嫌そうにも見える仏頂面。だけどシルフィアの冷たい目の奥には、微かに心配の色が浮かんでいるようにも見える。

 シルフィアは言葉を選びながら、おもむろに口を開いた。

 

「……それとも、棲星怪獣ジャミラのことか?」

 

 ……やっぱり気づいてたのか。おれがそう聞き返すと、シルフィアは「当然だ」と頷いた。

 

「我々バルタンの科学力をナメるなよ。一目でわかったさ、“アレ”がいったい何なのか……」

「“アレ”じゃない、“彼”だ。間違えないでくれ」

 

 おれがすかさず訂正すると、シルフィアは一瞬ハッとした様子で口を噤んだあと、再び真剣な面持ちで言い直した。

 

「……そうだったな。すまん、配慮が足らなかった」

「……わかればいいさ」

 

 そう応えながらおれは、休憩室の自販機で買った缶ジュースを啜った。冷たくもなければ熱くもない、(ぬる)くなった缶が手の中で重く感じる。こういうときアルコールで酔っ払ってストレス発散することができない、自分のウルトラ戦士としての超人体質が恨めしい。もっとも今は防衛チームとして勤務中だから、仮に酔えたところで酒が飲めるわけでもないんだが。

 ひとりで不貞腐れるしかないおれに、シルフィアは続けて訊ねた。

 

「ミネ=アンナ隊員にこのことは?」

「言えるわけがないだろ」

 

 そうとも、言えるわけがない。自分たちが必死に戦って倒した恐ろしい宇宙怪獣の正体が、実は自分たちと同じ人間だったなんて。

 ミネ=アンナ隊員といえばシルフィアの奴からは『脳筋の単純バカ』だなんて言われることもあるし、実際のところ直情径行の猪武者めいたきらいもなくはない。

 しかしミネ隊員は真っ直ぐな正直者な反面、ちょっと繊細なところがある。そんな彼女がこんな“真実”を知ってしまったら、きっとさぞや思い悩んでしまうことだろう。

 

「……まあ、そういうことだろうとは思ったが」

 

 そんな心情を慮ったかのように、シルフィアはおれの隣へとかけた。シルフィアから伝わってくる温もりが、ほんの少しだけおれの心を和らげてくれた。

 

「もっとも、ミネ=アンナ隊員は防衛チームの隊長を志望していたから、本当に彼女が防衛チームの隊長になったら、今回ドキュメント・フォビドゥンに記録された内容は“防衛チーム隊長への申し渡し事項”として伝えられることにはなるだろうがな」

 

 ……そう、いずれはわかることだ。もし将来ミネ隊員が隊長になれば、その時にはすべてを知ることになる。しかし、今はまだその時ではない。だから今おれが伝える必要はないし、おれが思い悩むことでもない。

 続けてシルフィアはこうも言った。

 

「ハヤト、ジャミラはもはやウルトラマンである君が守るべき地球人ではなかった。彼は既に自分自身を失い、多くの命を、そしてこの星の平和を脅かす怪獣に成り果てていた。彼を、ジャミラを撃滅するのは、ウルトラマンとして地球を守るためには避けられない決断だった」

「……ああ、そうだろうな」

 

 たしかにシルフィアの言うとおりだ。

 あのときおれがジャミラを倒さなければ、ジャミラは間違いなく人を(あや)めていた。その一線を越えていたらそれこそきっと成り果てていただろう、本物の恐るべき怪獣に。棲星怪獣ジャミラは、もはやおれたちウルトラ戦士が守るべき地球人ではなくなっていた。もはやジャミラには、こうしてやることくらいしか出来なかった。わかっているんだ、おれ:ウルトラマンだって。

 だけどな、だとしても。

 

「彼の故郷は地球だったんだ……ッ!!」

 

 思わずおれは感情が溢れ出すのを抑えきれなかった。棲星怪獣ジャミラ、故郷は地球。その事実だけが、おれの胸を苦しめる。

 

「……そうだ、彼の故郷は地球だ」

 

 けれど、それでもシルフィアは淡々と言うのだった。

 

「しかし、ジャミラが怪獣となってしまった以上、君が守るべきは地球の平和と人々の命だ。君はその使命を全うしただけだ」

 

 飽く迄もシルフィアの冷静な声に、おれは少しだけ心が軽くなった気がした。ひたすら理屈っぽいシルフィアの言葉は冷徹にも聞こえるかもしれないが、その奥にはうわべと違う何かが籠められているように思えた。

 シルフィアは続けた。

 

「それにハヤト、君がジャミラを“彼”と呼んだこと、そして彼を悼もうとすることは人間として間違っていない。それは君がまだ人間らしい、いわゆる“優しさ”という奴を持っている証拠だ。ウルトラマンである前に、君は人間ハヤト=シンジだ」

 

 その刹那、シルフィアの仏頂面が少しだけ柔らかくなった気がしたが、すぐさま普段の無愛想な表情に戻っていた。

 おれが優しい、か。だけど、あんたも大概だよ。

 

「ありがとな、シルフィア」

「……勘違いするな。ウルトラ戦士である君は、わたしにとって最も重要な研究対象のひとつだ。メンタルでも持ち崩されて、わたしの研究に支障が出てもらっては困るからな」

 

 ふふっ、そうか。

 素直じゃないシルフィアの反応に、おれは小さく微笑んだ。まだ完全には立ち直れちゃいないが、少しだけ心が軽くなった気がする。

 そんなおれの肩を叩きながら、シルフィアは言った。

 

「それでいい。さあ、次の任務に備えよう。いつまでも落ち込んでいる暇はないぞ、我らがウルトラマン」

 

 ああ、そうだな。

 おれは深く息を吸い込みながら立ち上がった。

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