Dye Your Soul Your Color 作:鏡狼 嵐星
茨の上で、心を歪めてでも笑うヒトがいる
黒い濁流が一ヶ所に向かって集まっていく。通常とは逆の様子を滅却師たちはただ見守らざるを得なかった。裁かれる側で在る自覚を持つ彼らに、それを邪魔できる様な精神性を持つ人物はいなかった。
「
響き渡る声の中から、ノイズが消えてゆく。抑揚が無く、感情の込められていない無機質な声。この場にいる全員が、その声音を聞いたことがあっても、今の声質を簡単には受け入れられないほどに隔絶していた。
「償っていくつもりだ! そこは全員が納得してんだ! だから、レヒトと会わせてくれッ!」
バズビーの叫びが響き渡る。しかし、『
「お前たちに宿った虚は
集まった液体が徐々に硬さと形を帯びて、広がっていく。見上げるほど巨大であることに変わりはない。反り立った崖の様なそれを見上げると、ぎっしりと大小様々な歯車が敷き詰められている。
「されど、我が身は
集まった黒いそれ以外は澄み切った青空と、数多の白い立方体たち。波を打つ様にその配置を変えていく。黒い地面だったものは仮初で、分たれて浮かび上がる白の間には青が埋め尽くされ、いつのまにか空の上に弾き出された様な錯覚が彼らに襲いかかる。
「
いくつかの立方体が移動したことで、それぞれの視点から『
まさに黒い器。翼のように同じ大きさの立方体幾つも固まり合い、
「大いなる父を倒すために抱いた始まりの願い」
歯車は時計の内部から見ているかのように複雑に絡み合いながら、回り始めたことで奇妙な音を奏でている。
「それは
大地だったものが波打ち、『
「今、ここでそれが叶うることを示せ。その事実を以て、お前たちに
「おいおい、デカ過ぎるだろこれ……」
宙に浮かぶ立方体のうちの一つから、『
「それにしても、願いを叶えよ、ねぇ……」
「……ナックルヴァール、お前はどうすりゃいいと思う?」
同じ場所から『
「とりあえず、だ。問題は2つ。レヒトの持つ願いの内容がそもそも不明なこと。そして、それが叶うことを俺たちはどう示すかだな」
下の様子を確認した俺は、
「レヒトの願い、か」
「聞いたことねえのか?」
「ない。レヒトは言いふらしてたわけじゃねえだろ。なら、誰も知らないか、もしくは……」
「知っているとしても、リルトットか」
互いの認識を合わせていく。地面が移動したものの、リルトットたちの位置もおおよそ把握できている。次の動きをどうするかがおおよそ決まってきた。
「それにしても、静か過ぎで不気味じゃねえの?」
『
(当然!当たり前!)
「うおっ!?」
突然、頭の中に響いた声に対して、反射的に声を上げちまった。
「どうした?」
(己と会話しているだけだぞッ! バザード・ブラック!)
「っ、そういうことか。不思議な感じだが、そりゃそうだな」
俺の様子に声をかけたバズビーも納得した? いや、俺と同じ要因か。説明しなくていいのは助かるぜ。
(戦わずに証明できるなら一番楽だし? 聖職者も戦いたいわけじゃないし?)
「……レヒトの願いがなんなのか明確じゃねえんだけど?」
(知ってるよ!分かってるよ! ただ、今の状態で示せるのか、確かめてるだけさ!)
なるほどね。分かってなかろうが、示せるならさっさと示せ、って事か。じゃあ、違和感はねえ。ただの待機時間だ、これ。勘弁しろよ……。
(聖職者は
「なぁ、『
お、バズビーが何かを聞いてるな。一応、俺も耳を傾けとこう。
「お前はレヒトの願いを知ってるのか?」
(無論ッ! だが、我等がそれを言葉にすることは許されていないッ!)
「……答えは自分で見つけろって事か」
まぁ、想像できたけどな。っと、バズビーから熱波が……!
「悪かった、いち早く知るべきだと思っただけだ。逃げたわけじゃねえから安心しろよ!」
やる気は満々ってとこか。俺も、レヒトにつくと言った手前、しっかりやらなきゃいけねえか。
「致命的だぜ」
思わず、口癖が出ちまったぜ。
(やる気があるなら! クリアする気なら! 手を貸すぜ!?)
「おう、オシャレに行こうぜ?」
……以外に、こういう熱いのも悪くはねえもんだ。おっと、調子に乗らないように反省、反省っと。
「レヒトの願いって、その、アレだけどさ。アタシたちの無事、だと思ってたんだけど……」
「キャンディちゃん、自信満々です〜」
(確カに)
(あんな事があったのによく言えるって感じだよねえ、うちの姫様は)
「う、うっせぇな! それと『
……頭の中で何を話してるのかは知らねーが、実際、それがレヒトの願いであることは間違いねーだろうな。
「レヒトは誰にも言ってねーよ、恐らくな」
あくまでも憶測ではある。メコニルのことを喋らなかったように、喋っていないことくらいはあいつにもあるはずだ。
「自惚れじゃねーなら、あいつがそんな話をする相手は俺たちか、バズビーか、自分の弟子たちくらいだろ」
『
「メコニルが来る前は滅却師の勝利と疑わなかった。真実を俺たちが知った後は、あいつにその願いを聞く機会は無かった」
あの性格で、あの在り方で、自分の育て親を殺すという選択をとれたこと自体が、それだけ重い覚悟を持っていたからに他ならない。そう易々と口にできないもののはずだ。
「俺たちの無事もあいつの願いの一つではあるんだろう。ただ、それは
「じゃあ、滅却師の存続のため、とか?」
ジジの意見も間違いではねーだろう。
「それもあるだろーがな。だが、あいつの場合はもっと感情的なもんだろ」
(けひひひ、そおれについてえは、満ん場お一致みいてえだあな?)
滅却師という種族を案じていたのも本当だし、俺たちの命を優先的に動いていたというのも事実だ。それは今俺たちの中に宿っているものがその証明だ。幸せな記憶を犠牲にしてでも、俺たちを救ってくれた。
「『
俺はそこにあるものは、感情的なものしかないと思ってる。なら、その原点を考えるしかない。
(そうね。けれど、聖職者が何を以て、貴女達が願いを叶えられると判断するのかは、私たちも知らないわ)
なら、俺達がやることは単純だ。
「あの時、俺たちはあいつが差し出した手を取りに行かなかった。なら、次は俺たちがあいつに手を伸ばしに行く番だ」
(ドウヤッテ、ショウメイ、スルノ?)
……正直に言えば、俺が考えた方法は自分に都合がいい。まだ、レヒトに見限られていない前提なんだからな。俺はまだ手を、握り返してくれるとそう思ってる。
「
バンビは気づいたのか。いや、キャンディもミニーもジジも驚くような様子はあっても、すぐに表情が戻る。こいつらもアレが何を意味していたのかを、分かってる。
『
「何処にあるのか知るところから始めねーとな」
何処にあるのかなんて言ったが、想像に固くねー。最終的には、あの棺は『
「示さぬのなら、示せぬのなら、お前たちが
時を刻むように一定のリズムだった歯車の音が、加速していく。動き出すか……! まだ棺の場所のあたり付けは済んでねーのに……!
「
巨大な器の周りに
「汝の罪を見定めよ。汝の咎を省みよ。汝の全てを鑑みよ」
『
「滅却師。始まりの王が滅ぶことを許容した種族よ」
器の中から蒼い何かが出て、あれは、霊子の糸か? ……乱装天傀?
「行くわよッ!」
バンビが
「汝、主の叫びを聞け。お前たちの畏怖を改めよう」
蒼い糸が『
「『
歯車の形が崩れ、液体状になったかと思えば、黒い女の像に変わる。そいつは,その背中にたっぷりと青い糸をつけられたまま宙に浮いている。祈るように手を握った女の顔、その上に青い拘束帯が付けられているこいつは疑いようがねー。
「バンビ!」
レヒトから生み出された虚はレヒトが作り出した際なのか、
「……ア」
ガキンという音と共に、顎部分が下がる。霊子が集まってる様子もねー。僅かに漏れた音に不可解な感触、ってことは、
距離もそんなに離れてねーから、あの顎部分を吹き飛ばすしかねー……! やばい、バンビが前にいるせいで狙えなっ!?
「邪魔ッ!」
直後の轟音と爆風で、反射的に顔を覆う。覆う前にうっすら確認できたのは、バンビが腕を振るったことだけだった。改めて腕を下ろすと目の前にいたはずの『
「……そう言えばさぁ、強化されたバンビちゃんの攻撃って見てなかったよねえ?」
……呆れ声のジジの呟きを聞いて、腑に落ちた。そうだ、バンビはレヒトから見ても高威力の攻撃力を持ってる。それが虚と合わさってヤベーことになってやがる。嬉しい誤算、だな。
「流石の馬火力だぜ……」
「すごいです〜」
「っと、余裕こいてる暇はねーな。行くぞ」
既に『
巨大な爆発音が聞こえる。あれはバンビエッタの一撃か。前に見た時よりも威力が遥かに強い。
「ハッシュヴァルト様、
「……分かった」
エリザの報告を聞きつつ、『
「ハッシュヴァルト様! 何かが飛んでッ……!」
視界の端に見える黒い何かに対し、
「構えろ」
あの爆発に耐えられている。『
「……アァ……」
不意に漏れた『
「アァアアァァ〜〜!!!」
叫びでも綺麗だと思えるほどの女の美声。油断をしていなかったはずの体は、絶叫を聞いて膝を折っていた。何故、私は、剣を、置く……? 何故、
(……見て…………いられないな……)
霞がかかったかのような思考が急に晴れていく。『
(あれは……ただの恐怖では無い……
……そういうことか。エス・ノトが死を恐怖する感情を倍増させて発狂させる能力だとするなら、『
「ありがとう」
(礼には及ばん……周りには…………耐えられていないものも多い……)
3割ほどの
「『
虚を受け入れたことで進化した、私の
幸運と不幸の調整。かつて、それは現実の出来事にのみ干渉ができた。だが、今の私なら、僅かだが精神にも干渉ができる。畏怖に支配されると言う不幸を、それが効いたという幸運と釣り合わせる!
「アア、ッ!」
能力が発動したと同時に、エリザが放った矢が『
「滅却師。滅ぶ運命を良しとしなかった者たちよ」
……そう易々と進めさせてはくれないか、『
「汝、主の想いを知れ。お前たちの有様を改めよう」
次は、誰が来る?
「『
蒼の糸が引き抜いた黒の歯車を捏ね合わせるように、曲がっては混ざる。現れたのは黒い球体のようなものから大量に手足が生えた何か。球体の表面には蒼の紋様が全身に所狭しと描かれている。ドミノの虚か。
「ウ、ウウィ、ウヒヒィ、ウウヒヒヒヒ!!」
シャズ・ドミノ。グレミィから『
「ウヒヒィ!!」
目も口もない体から生えた大量の手足を動かし、奇妙なうめき声を上げながらこちらに向かってくる。ただどたどたと足を動かしているだけで、動きに無駄があり過ぎる。
「知能は、低いようですね」
エリザの言葉を聞いて、一つの事実に思い当たった。『
(近い……だが…………違う……)
「近い、か。どう違う?」
(言ったはずだ……我等の心は
そうか。ドミノはレヒトのことを甘い男だと嫌い、彼に関わろうとしなかった者の一人。エス・ノトも同様だ。つまり、レヒトとの思い出が少ない。……立場上関わらざるを得なかった私は幸運なのだろう。
「ウギィィ!?」
エリザや
「増殖していくのか」
『
この場には
「エリザ」
「はい」
「『
「承知しました」
彼女は無駄なことを問わない。展開した
(……力を貸そう…………我が光……)
「こい」
私の不幸と『
リルトットたちが『
「ナックルヴァール、フォロー頼むぜ」
「オッケー、オッケー。任せろ」
「『
真正面から『
「『バースト・フィンガー1・ダブル』ッ!」
両手の人差し指から『
「っ、避けろ!」
『
「『
虚空から紫色の円盤が出てきて、熱線を弾いたッ! 助かるぜ、ナックルヴァール!
「うひょわあっ!?」
「……仕込みをさっそく使う羽目になったじゃねえの」
つか、何だよ、今のは!? いや、こんな事ができるやつはこの場には一人だけだ……!
「『
くそっ、俺はレヒトの
「滅却師。大いなる父の理を以て、生存を許された命よ」
まだ増やす気か!
「『
「汝、主の消失を感じよ。お前たちの認識を改めよう」
無視、か。さっきと言い、一向に答える気がねえ。……まぁ、当然と言えば当然か。『
「『
エグナルエってことは……。ナグ、エル……エグナ、ナグエ、グエ? ……グエナエル! 透明ジジイか!
「)&@,);&&;;&@;4」
見た目は黒い蜥蜴だ。俺たちの半分ほどの大きさだから、他の虚に比べて小さい。威嚇する様に口を開いた時に見えた青い牙。あの透明ジジイの虚なら、混戦に紛れ込まれたら厄介極まりねえ!
「バースト・フィンガー2!」
速攻だ! 片腕で狙いつつ、もう片腕で逃げた方向に攻撃を重ねる!
「(152,;5/,@.&7:」
鉤爪は本体をすり抜けて地面に直撃!?
「リジェ・バロみたいな能力しやがって……」
もしリジェ・バロに近い能力ならまずいぞ。倒す方法がねえ。いや、だが、
「『
逃げられない様に範囲攻撃を考え、3本を構えようとした時、『
「なるほど、自分を異なる位置に認識させるってところか? だが、悪いな。今や強力なアシスタントがいるもんでね」
っていうか、矢じゃねえ! フォークじゃねえか!? あいつ、こんな矢を使わねえだろ!?
(『
「はっ、そうだな! やれることは決まってる! 」
4つの翼の先から吹き出した炎が俺に燃え移る! 火力を上げるぞッ!!
(ぶち抜く気かッ! 良いだろうッ!)
両手を重ねて開き、指を曲げる。今の俺の最速、最高火力! さっきの技は間に合わねえぞ!
「『バースト・フル・フィンガーズ・ダブル』!!」
固まった2つの炎の渦。ユーゴーに向けて撃ったやつとは違い、こいつは着弾時、爆裂する!放った直後、『
「『
おいおい、待て待て!
「おいっ、フォニクス!」
(略すなッ! それはお前のみの力の名だろうッ!)
「この名も、もうお前のもんだろっ、細けえことは置いとけっ! 後、何発打てる!?」
(……仕方あるまい。ここで『
「ちっ、たった2発か! さっきの空中
(この場所は
「…………勝ち目ねえじゃねえかっ!!」
(勝つ気だったのかッ!? 流石に無理だぞッ!)
レヒトの願いがわからない以上、あいつをシメて吐かせるのが一番分かり易い手だろうが!
(……聖職者に勝つことが目的になっているぞッ。頭を冷やせッ!
「っ! くそがっ!じゃあ、どうするっ!? 内容もわからない願いなんて叶えようがねえ! レヒト本人に聞こうにも、何処にいるか分からねえ! 疑わしい傷だらけの箱もリルトットたちが探そうとしてるんだろうが、『
「滅却師。
やべえ、このままじゃ、敵だけ増えちまう!
「汝、
「お前ら、止めろッ!!」「バズビー!!」
リルトットの焦る声とナックルヴァールの呼びかけ? 意味わかんねえが、撃つ!
「『マスティケイト・スポーク』!」
「『ガルヴァノフランベルジュ』っ!!」
「『エクス・ブラスト』ッ!」
「『ダンベルダスター・バトンシュート』~!」
「『バッド・デッド・ボーイズ・クラブ』!」
「『バースト・フル・フィンガーズ・ダブル』ッ!!」
「『
全員で集中砲火! ナックルヴァールに至っては、『
「フォニクス。『
(我らに複製体などいるものかッ! 今や、聖職者が呼び出せるのは
……なるほどな。そりゃ止めるわけだぜ。『
「『
畜生、最悪だ。
……ねぇ、『
傷を、治しましょう。何故、自傷など……?
戦う間だけ集中できる様に、僕の意識を更新したい
……何故ですか。何故、
そんな事、出来ない……
彼女らは! 貴方の愛よりもっ! 愚帝の恐怖が勝った! そう示しているのです!
…………それでも……やだ……
私にはっ、
…………じゃあ、
ッ! 何故……そこまで……!
……ごめんね。我儘な主人で
…………っ。……承知、しました
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また2ヶ月かけちゃったよ!
BLEACH最終章、始まってしまいますがな!
という感じです。ゆっくりですが、書いていきますんで……。
感想いただけると嬉しいなぁ。