Dye Your Soul Your Color   作:鏡狼 嵐星

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雨の下で、顔を歪めて泣くヒトがいる
茨の上で、心を歪めてでも笑うヒトがいる



告解1

黒い濁流が一ヶ所に向かって集まっていく。通常とは逆の様子を滅却師たちはただ見守らざるを得なかった。裁かれる側で在る自覚を持つ彼らに、それを邪魔できる様な精神性を持つ人物はいなかった。

 

(しゅ)は全てを赦すだろう。しかし、赦されるに足る者は、罪を悔いて贖おうとする者のみ」

 

響き渡る声の中から、ノイズが消えてゆく。抑揚が無く、感情の込められていない無機質な声。この場にいる全員が、その声音を聞いたことがあっても、今の声質を簡単には受け入れられないほどに隔絶していた。

 

「償っていくつもりだ! そこは全員が納得してんだ! だから、レヒトと会わせてくれッ!」

 

バズビーの叫びが響き渡る。しかし、『神の学習(アルマトロン)』は反応しない。悔しげな彼をハッシュヴァルトが宥める。ある種当然と言える反応でもあるからだ。分たれた彼ら自身が落ち着いていたとはいえ、あの様相だったのだから。

 

「お前たちに宿った虚は(しゅ)の魂の欠片であると同時に私の肉片である。(しゅ)は愚王と異なり、一度与えたものを返せなどと要求などしない」

 

集まった液体が徐々に硬さと形を帯びて、広がっていく。見上げるほど巨大であることに変わりはない。反り立った崖の様なそれを見上げると、ぎっしりと大小様々な歯車が敷き詰められている。

 

「されど、我が身は(しゅ)の為に生まれ、(しゅ)の為に在り、(しゅ)の為に滅びゆく定め。我が一部を宿したのなら、お前たちが罪を贖う方法はただ一つ」

 

集まった黒いそれ以外は澄み切った青空と、数多の白い立方体たち。波を打つ様にその配置を変えていく。黒い地面だったものは仮初で、分たれて浮かび上がる白の間には青が埋め尽くされ、いつのまにか空の上に弾き出された様な錯覚が彼らに襲いかかる。

 

(しゅ)の願いを叶えよ」

 

いくつかの立方体が移動したことで、それぞれの視点から『神の学習(アルマトロン)』の全体像が見えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

まさに黒い器。翼のように同じ大きさの立方体幾つも固まり合い、天輪(ハイリゲンシャイン)のように飲み口の上に並んでいる。

 

「大いなる父を倒すために抱いた始まりの願い」

 

歯車は時計の内部から見ているかのように複雑に絡み合いながら、回り始めたことで奇妙な音を奏でている。

 

「それは(しゅ)にとっては大きな願い。()()()()()()()()()()()()()

 

大地だったものが波打ち、『神の学習(アルマトロン)』の周りに浮かび上がっていく。

 

「今、ここでそれが叶うることを示せ。その事実を以て、お前たちに(しゅ)へ贖う資格ありと見做す」

 

 

 

 

 

「おいおい、デカ過ぎるだろこれ……」

 

宙に浮かぶ立方体のうちの一つから、『神の学習(アルマトロン)』を見下ろす形で様子を伺う。『神の学習(アルマトロン)』の大きさは翼の羽であろう立方体一つに、5人は乗れることを考えればその大きさがわかる。

 

「それにしても、願いを叶えよ、ねぇ……」

 

「……ナックルヴァール、お前はどうすりゃいいと思う?」

 

同じ場所から『神の学習(アルマトロン)』の様子を見ていたバズビーが俺に問いかける。その表情が真剣であることは変わらず、前と違って怒りが入っていないことを安堵している自分がいた。

 

「とりあえず、だ。問題は2つ。レヒトの持つ願いの内容がそもそも不明なこと。そして、それが叶うことを俺たちはどう示すかだな」

 

下の様子を確認した俺は、聖兵(ゾルダート)が副団長殿とブリュンヒルドの指示に従い動き始めていることを確認しつつ告げた。

 

「レヒトの願い、か」

 

「聞いたことねえのか?」

 

「ない。レヒトは言いふらしてたわけじゃねえだろ。なら、誰も知らないか、もしくは……」

 

「知っているとしても、リルトットか」

 

互いの認識を合わせていく。地面が移動したものの、リルトットたちの位置もおおよそ把握できている。次の動きをどうするかがおおよそ決まってきた。

 

「それにしても、静か過ぎで不気味じゃねえの?」

 

神の学習(アルマトロン)』が姿を見せてから動きがないことに違和感だらけだ。何もしてこないっていう状況があまり想像できていなかったのもあるが。

 

(当然!当たり前!)

 

「うおっ!?」

 

突然、頭の中に響いた声に対して、反射的に声を上げちまった。

 

「どうした?」

 

(己と会話しているだけだぞッ! バザード・ブラック!)

 

「っ、そういうことか。不思議な感じだが、そりゃそうだな」

 

俺の様子に声をかけたバズビーも納得した? いや、俺と同じ要因か。説明しなくていいのは助かるぜ。

 

(戦わずに証明できるなら一番楽だし? 聖職者も戦いたいわけじゃないし?)

 

「……レヒトの願いがなんなのか明確じゃねえんだけど?」

 

(知ってるよ!分かってるよ! ただ、今の状態で示せるのか、確かめてるだけさ!)

 

なるほどね。分かってなかろうが、示せるならさっさと示せ、って事か。じゃあ、違和感はねえ。ただの待機時間だ、これ。勘弁しろよ……。

 

(聖職者は(しゅ)の意に従う! (しゅ)の為にしか動かん! 我らの事情など欠片も考慮はすることはないッ! )

 

「なぁ、『虚神の熱情(フォニクス・ライデンシャフト)』」

 

お、バズビーが何かを聞いてるな。一応、俺も耳を傾けとこう。

 

「お前はレヒトの願いを知ってるのか?」

 

(無論ッ! だが、我等がそれを言葉にすることは許されていないッ!)

 

「……答えは自分で見つけろって事か」

 

まぁ、想像できたけどな。っと、バズビーから熱波が……!

 

「悪かった、いち早く知るべきだと思っただけだ。逃げたわけじゃねえから安心しろよ!」

 

やる気は満々ってとこか。俺も、レヒトにつくと言った手前、しっかりやらなきゃいけねえか。

 

「致命的だぜ」

 

思わず、口癖が出ちまったぜ。

 

(やる気があるなら! クリアする気なら! 手を貸すぜ!?)

 

「おう、オシャレに行こうぜ?」

 

……以外に、こういう熱いのも悪くはねえもんだ。おっと、調子に乗らないように反省、反省っと。

 

 

 

 

 

「レヒトの願いって、その、アレだけどさ。アタシたちの無事、だと思ってたんだけど……」

 

「キャンディちゃん、自信満々です〜」

 

(確カに)

 

(あんな事があったのによく言えるって感じだよねえ、うちの姫様は)

 

「う、うっせぇな! それと『虚神の万雷(ケラウ・バルバリエル)』、お前は茶化すなよ! ……リルはどう思う?」

 

……頭の中で何を話してるのかは知らねーが、実際、それがレヒトの願いであることは間違いねーだろうな。

 

「レヒトは誰にも言ってねーよ、恐らくな」

 

あくまでも憶測ではある。メコニルのことを喋らなかったように、喋っていないことくらいはあいつにもあるはずだ。

 

「自惚れじゃねーなら、あいつがそんな話をする相手は俺たちか、バズビーか、自分の弟子たちくらいだろ」

 

神の学習(アルマトロン)』の言動を聞くに、レヒトのそれは自力でそれを叶えようにも叶うかは分からないほどの願い。そして、大いなる父(メコニル)を倒すきっかけ。あいつが自分の父親を殺す覚悟を決めた理由。

 

「メコニルが来る前は滅却師の勝利と疑わなかった。真実を俺たちが知った後は、あいつにその願いを聞く機会は無かった」

 

あの性格で、あの在り方で、自分の育て親を殺すという選択をとれたこと自体が、それだけ重い覚悟を持っていたからに他ならない。そう易々と口にできないもののはずだ。

 

「俺たちの無事もあいつの願いの一つではあるんだろう。ただ、それは見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)に来てからの願いであって、メコニルを倒す為に考えたものじゃねー」

 

「じゃあ、滅却師の存続のため、とか?」

 

ジジの意見も間違いではねーだろう。

 

「それもあるだろーがな。だが、あいつの場合はもっと感情的なもんだろ」

 

(けひひひ、そおれについてえは、満ん場お一致みいてえだあな?)

 

滅却師という種族を案じていたのも本当だし、俺たちの命を優先的に動いていたというのも事実だ。それは今俺たちの中に宿っているものがその証明だ。幸せな記憶を犠牲にしてでも、俺たちを救ってくれた。

 

「『神の学習(アルマトロン)』は示せと言った。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()虚神の飢餓(ガガガ・ガガエル)』?」

 

俺はそこにあるものは、感情的なものしかないと思ってる。なら、その原点を考えるしかない。

 

(そうね。けれど、聖職者が何を以て、貴女達が願いを叶えられると判断するのかは、私たちも知らないわ)

 

なら、俺達がやることは単純だ。

 

「あの時、俺たちはあいつが差し出した手を取りに行かなかった。なら、次は俺たちがあいつに手を伸ばしに行く番だ」

 

(ドウヤッテ、ショウメイ、スルノ?)

 

……正直に言えば、俺が考えた方法は自分に都合がいい。まだ、レヒトに見限られていない前提なんだからな。俺はまだ手を、握り返してくれるとそう思ってる。

 

()()()()()()()()?」

 

バンビは気づいたのか。いや、キャンディもミニーもジジも驚くような様子はあっても、すぐに表情が戻る。こいつらもアレが何を意味していたのかを、分かってる。

神の学習(アルマトロン)』が初めに見せたもの。見ることを許されぬものだと言いながら、見なければならないと俺達に、()()()()()()()()()()()()。この世界で見たものは変化のない青空を除けば、白い立方体(レヒトのつばさ)黒い液体(アルマトロンのからだ)だけ。なら、傷だらけの白い棺は何を意味するのか。それは……。

 

「何処にあるのか知るところから始めねーとな」

 

何処にあるのかなんて言ったが、想像に固くねー。最終的には、あの棺は『神の学習(アルマトロン)』の黒い液体に取り込まれている。その液体は全て『神の学習(アルマトロン)』の体となっている。なら、棺はあの()()()()()()()()()ってことは確定している。

 

「示さぬのなら、示せぬのなら、お前たちが(しゅ)の身元にいる意味はない」

 

時を刻むように一定のリズムだった歯車の音が、加速していく。動き出すか……! まだ棺の場所のあたり付けは済んでねーのに……!

 

(しゅ)を崇めよ。(しゅ)を讃えよ。(しゅ)の願いを叶えよ」

 

巨大な器の周りに聖兵(ゾルダート)たちが展開してる。ハッシュヴァルト(副団長)が指揮してるのなら、即全滅ってことはねーはずだ。……そう思わねーとやってらんねーぞ。

 

「汝の罪を見定めよ。汝の咎を省みよ。汝の全てを鑑みよ」

 

神の学習(アルマトロン)』の立方体の羽が密集していた形態から開くように、羽の合間の距離が開いていく。徐々に現れる敵意に、自然と体が引き締められる。どう動く?

 

「滅却師。始まりの王が滅ぶことを許容した種族よ」

 

器の中から蒼い何かが出て、あれは、霊子の糸か? ……乱装天傀? ()()()

 

「行くわよッ!」

 

バンビが滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)を解放して、飛びかかる。急ぎ過ぎだ、あのバカ!

 

「汝、主の叫びを聞け。お前たちの畏怖を改めよう」

 

蒼い糸が『神の学習(アルマトロン)』を構成する歯車の一つを突き刺し、ピンと張ったその糸がギィギィと音を立てて無理やり歯車を抜き取った。おい、ちょっと待て。蒼と黒のその色合い、嫌な予感しかしねーぞ!

 

「『虚なる畏(スエ)』」

 

歯車の形が崩れ、液体状になったかと思えば、黒い女の像に変わる。そいつは,その背中にたっぷりと青い糸をつけられたまま宙に浮いている。祈るように手を握った女の顔、その上に青い拘束帯が付けられているこいつは疑いようがねー。()だ。レヒトから分かたれた、『虚なる食(ルトリット)』たちと同じ存在。なら、()()()()()()()()()()。名前から察するに……!

 

「バンビ!」

 

レヒトから生み出された虚はレヒトが作り出した際なのか、分混(フェタイロン)で宿った瞬間なのかは不明だが、宿る先と似た能力が使える。名前は各個人の名前をひらがなにして入れ替えたもの。なら、『虚なる畏(スエ)』と呼ばれたそいつは、マスクヤロー(エス・ノト)の虚!

 

「……ア」

 

ガキンという音と共に、顎部分が下がる。霊子が集まってる様子もねー。僅かに漏れた音に不可解な感触、ってことは、()()

距離もそんなに離れてねーから、あの顎部分を吹き飛ばすしかねー……! やばい、バンビが前にいるせいで狙えなっ!?

 

「邪魔ッ!」

 

直後の轟音と爆風で、反射的に顔を覆う。覆う前にうっすら確認できたのは、バンビが腕を振るったことだけだった。改めて腕を下ろすと目の前にいたはずの『虚なる畏(スエ)』が大小いくつかの塊になって転がってやがる。ついでに黒いはずのそいつが黒焦げた音も聞こえる。

 

「……そう言えばさぁ、強化されたバンビちゃんの攻撃って見てなかったよねえ?」

 

……呆れ声のジジの呟きを聞いて、腑に落ちた。そうだ、バンビはレヒトから見ても高威力の攻撃力を持ってる。それが虚と合わさってヤベーことになってやがる。嬉しい誤算、だな。

 

「流石の馬火力だぜ……」

 

「すごいです〜」

 

「っと、余裕こいてる暇はねーな。行くぞ」

 

既に『神の学習(アルマトロン)』に向けて飛び出したバンビを追いかける。あの白い棺は、あいつの何処だ?

 

 

 

 

 

 

巨大な爆発音が聞こえる。あれはバンビエッタの一撃か。前に見た時よりも威力が遥かに強い。

 

「ハッシュヴァルト様、聖兵(ゾルダート)の展開はほぼ完了しております」

 

「……分かった」

 

エリザの報告を聞きつつ、『神の学習(アルマトロン)』の動きに注目する。バズや他の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)は各々、思うがままにそれに対処しようと行動している。私も、そちらの方が手間が無いと考えている。だが、この場にいる多くの聖兵(ゾルダート)は文字通り、兵士。指揮下にある時こそ、真価を発揮する。私以外に彼らを戦わせられるものはいない。

 

「ハッシュヴァルト様! 何かが飛んでッ……!」

 

視界の端に見える黒い何かに対し、聖兵(ゾルダート)の一人が反応する。青と黒の人の頭のようなものが爆発の煙を撒き散らしながら、少し先に転がった。『神の学習(アルマトロン)』の声によれば、あれは『虚なる畏(スエ)』と呼ばれた虚。エス・ノトの虚になるはずだっもの。

 

「構えろ」

 

あの爆発に耐えられている。『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』と戦った際にも感じたが、彼らの体に鋼皮(イエロ)はあっても、血装(ブルート)は無い。つまり、虚としてのレベルは高い。それでも、彼らは滅却師としての能力はあっても、その基礎技能のレベルは聖兵(ゾルダート)に近いはず。能力の対処法を確立できれば、彼らでも対処ができるはずだ。

 

「……アァ……」

 

不意に漏れた『虚なる畏(スエ)』の声に、体が固まった。回せるはずの無い頭がぐるりと私の顔を見るように動いた。

 

「アァアアァァ〜〜!!!」

 

叫びでも綺麗だと思えるほどの女の美声。油断をしていなかったはずの体は、絶叫を聞いて膝を折っていた。何故、私は、剣を、置く……? 何故、()()()()、している……?

 

(……見て…………いられないな……)

 

霞がかかったかのような思考が急に晴れていく。『虚なる量(ヴァッシュトルハ)』の声がクリアになっていく。

 

(あれは……ただの恐怖では無い……()()()…………お前は……抗いがたいだろうな…………)

 

……そういうことか。エス・ノトが死を恐怖する感情を倍増させて発狂させる能力だとするなら、『虚なる畏(スエ)』は神のように己を崇拝させる力なのか。

 

「ありがとう」

 

(礼には及ばん……周りには…………耐えられていないものも多い……)

 

3割ほどの聖兵(ゾルダート)が膝をついて祈っている。耐えたものたちも、ふらふらの状態になっている。ならば!

 

「『世界再調和(The Balance of Rebalance)』」

 

虚を受け入れたことで進化した、私の聖文字(シュリフト)。いや、混聖文字(ゲミュシュト)だったか。

幸運と不幸の調整。かつて、それは現実の出来事にのみ干渉ができた。だが、今の私なら、僅かだが精神にも干渉ができる。畏怖に支配されると言う不幸を、それが効いたという幸運と釣り合わせる!

 

「アア、ッ!」

 

能力が発動したと同時に、エリザが放った矢が『虚なる畏(スエ)』の頭の上から突き刺さる。貫通したその矢は、『虚なる畏(スエ)』が口を開かない様に顎を貫き、地面に固定した。これなら声も出せないだろう。

 

「滅却師。滅ぶ運命を良しとしなかった者たちよ」

 

……そう易々と進めさせてはくれないか、『神の学習(アルマトロン)』。

 

「汝、主の想いを知れ。お前たちの有様を改めよう」

 

次は、誰が来る?

 

「『虚なる痕(ズャシ)』」

 

蒼の糸が引き抜いた黒の歯車を捏ね合わせるように、曲がっては混ざる。現れたのは黒い球体のようなものから大量に手足が生えた何か。球体の表面には蒼の紋様が全身に所狭しと描かれている。ドミノの虚か。

 

「ウ、ウウィ、ウヒヒィ、ウウヒヒヒヒ!!」

 

シャズ・ドミノ。グレミィから『生存能力(The Viability)』を与えられ、陛下…………いや、ユーハバッハからς (スティグマ)という仮の聖文字(シュリフト)を命名された男。周囲の霊子を吸収し、自分の肉体として再構築して再生する能力。今までの虚たちを見る限り、近しい能力を持っているはずだが……。

 

「ウヒヒィ!!」

 

目も口もない体から生えた大量の手足を動かし、奇妙なうめき声を上げながらこちらに向かってくる。ただどたどたと足を動かしているだけで、動きに無駄があり過ぎる。

 

「知能は、低いようですね」

 

エリザの言葉を聞いて、一つの事実に思い当たった。『虚なる畏(スエ)』も『虚なる痕(ズャシ)』に理性や知性は感じられない。虚としては存在しても、私たち滅却師に宿ることがなかったものたちだ。宿()()()()()()()()()()()()()()

 

(近い……だが…………違う……)

 

「近い、か。どう違う?」

 

(言ったはずだ……我等の心は(しゅ)の記憶…………逆に言えば……我らの在り方は(しゅ)の記憶次第……)

 

そうか。ドミノはレヒトのことを甘い男だと嫌い、彼に関わろうとしなかった者の一人。エス・ノトも同様だ。つまり、レヒトとの思い出が少ない。……立場上関わらざるを得なかった私は幸運なのだろう。

 

「ウギィィ!?」

 

エリザや聖兵(ゾルダート)たちの矢や剣の一撃を受け、苦しみの声を上げる『虚なる痕(ズャシ)』。だが、刺さった矢が黒く染まると、新たな腕や足へと変貌する。

 

「増殖していくのか」

 

神の学習(アルマトロン)』の体、器の中から伸びる蒼い糸は全体のおよそ半分が使われ、残りはゆらめいているだけ。ならば、あと2体は追加の虚が出てくると考えて良いはず。

この場には聖章騎士(ヴェルトリッヒ)が8人、加えてエリザと聖兵(ゾルダート)たちがいる。私を含めて、2体を押さえ込む!

 

「エリザ」

 

「はい」

 

「『虚なる畏(スエ)』を、頼む」

 

「承知しました」

 

彼女は無駄なことを問わない。展開した聖兵(ゾルダート)の3割ほどに指示を出し、『虚なる畏(スエ)』の爆散した体の対処に向かわせた。

 

(……力を貸そう…………我が光……)

 

「こい」

 

私の不幸と『虚なる痕(ズャシ)』の幸運。彼は私の強さに気づき、私を集中的に狙う。……バズ、後は任せる。レヒトのことを最初に気づけたお前なら、切り抜けられる。

 

 

 

 

 

 

リルトットたちが『神の学習(アルマトロン)』の方向に向かい始めたことを確認し、確信を得た。やっぱり、レヒトに関する重要なことを『神の学習(アルマトロン)』は隠してる。

 

「ナックルヴァール、フォロー頼むぜ」

 

「オッケー、オッケー。任せろ」

 

「『虚神の熱情(フォニクス・ライデンシャフト)』ッ!!」

 

真正面から『神の学習(アルマトロン)』に向けて飛ぶ。向こうが実力行使をしてくるなら、こっちもやるしかねえ!!

 

「『バースト・フィンガー1・ダブル』ッ!」

 

両手の人差し指から『神の学習(アルマトロン)』に向けて熱線を放ったその時、『神の学習(アルマトロン)』の白い立方体()が瞬時にその間へ並んだ!

 

「っ、避けろ!」

 

神の学習(アルマトロン)』の前で曲がる様に並んだその先にいるジゼルを確認したと同時に、リルトットの声が聞こえた。俺の放った『バースト・フィンガー1』が立方体の一つに直撃した思ったら、赤くまった羽が光とともに繋がり、速度を変えずに並んだ通りに曲がり、ジゼルの元まで進んでやがる!?

 

「『明るい薬(ヘル・メディズン)』!」

 

虚空から紫色の円盤が出てきて、熱線を弾いたッ! 助かるぜ、ナックルヴァール!

 

「うひょわあっ!?」

 

「……仕込みをさっそく使う羽目になったじゃねえの」

 

つか、何だよ、今のは!? いや、こんな事ができるやつはこの場には一人だけだ……!

 

「『髪の雷(ブリッツシュラッグ)』」

 

くそっ、俺はレヒトの滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)の能力は聞いていても()()()()()()()()! あいつの力なら、どんな技を使われてもおかしくはねえが、何も知らない状態でレヒトの技に対応するのは難易度が高すぎんだよ!

 

「滅却師。大いなる父の理を以て、生存を許された命よ」

 

まだ増やす気か!

 

「『神の学習(アルマトロン)』! お前、俺達に願いを叶えろって言ってんだろ!? 何でもやる! だから、待ってくれ!!」

 

「汝、主の消失を感じよ。お前たちの認識を改めよう」

 

無視、か。さっきと言い、一向に答える気がねえ。……まぁ、当然と言えば当然か。『神の学習(アルマトロン)』から別れた俺たちの虚ですら、あの怒り様だった。レヒトの虚なら、会話すらする気もねえってことだろう。

 

「『虚なる失(エグナルエ)』」

 

エグナルエってことは……。ナグ、エル……エグナ、ナグエ、グエ? ……グエナエル! 透明ジジイか!

 

「)&@,);&&;;&@;4」

 

見た目は黒い蜥蜴だ。俺たちの半分ほどの大きさだから、他の虚に比べて小さい。威嚇する様に口を開いた時に見えた青い牙。あの透明ジジイの虚なら、混戦に紛れ込まれたら厄介極まりねえ!

 

「バースト・フィンガー2!」

 

速攻だ! 片腕で狙いつつ、もう片腕で逃げた方向に攻撃を重ねる!

 

「(152,;5/,@.&7:」

 

鉤爪は本体をすり抜けて地面に直撃!?

 

「リジェ・バロみたいな能力しやがって……」

 

もしリジェ・バロに近い能力ならまずいぞ。倒す方法がねえ。いや、だが、()()()()()()()()()()()()()? すり抜けるには条件があると考えるか。

 

「『猛毒入りプール(ギフト・クヴェレ)』」

 

逃げられない様に範囲攻撃を考え、3本を構えようとした時、『虚なる失(エグナルエ)』の周囲に濃い緑色の円が発生する。数秒の間は様子が変わらず、意味が無いかと思ったが、ナックルヴァールの矢が円状に刺さった瞬間、『虚なる失(エグナルエ)』がいきなり苦しみ出した。

 

「なるほど、自分を異なる位置に認識させるってところか? だが、悪いな。今や強力なアシスタントがいるもんでね」

 

っていうか、矢じゃねえ! フォークじゃねえか!? あいつ、こんな矢を使わねえだろ!?

 

(『虚なる境(アンキス)』が随分、はしゃいでいるようだなッ! 我らも行くかッ!)

 

「はっ、そうだな! やれることは決まってる! 」

 

4つの翼の先から吹き出した炎が俺に燃え移る! 火力を上げるぞッ!!

 

(ぶち抜く気かッ! 良いだろうッ!)

 

両手を重ねて開き、指を曲げる。今の俺の最速、最高火力! さっきの技は間に合わねえぞ!

 

「『バースト・フル・フィンガーズ・ダブル』!!」

 

固まった2つの炎の渦。ユーゴーに向けて撃ったやつとは違い、こいつは着弾時、爆裂する!放った直後、『神の学習(アルマトロン)』の表面に蒼い筋! あれは血装(ブルート)か?

 

「『骨の筋(マフト)』」

 

おいおい、待て待て! ()()()()()()()()()()()()()!? 俺の技が空に張った血装(ブルート)にぶち当たり、弾けた! 一部貫通して直撃はしたが、 威力を相当下げられちまった! あんなもんどうやって対策すれば良い!?

 

「おいっ、フォニクス!」

 

(略すなッ! それはお前のみの力の名だろうッ!)

 

「この名も、もうお前のもんだろっ、細けえことは置いとけっ! 後、何発打てる!?」

 

(……仕方あるまい。ここで『聖隷(スクラヴェライ)』が使えない以上、霊力の補充は無理だッ。あと2発が限度だろうッ)

 

「ちっ、たった2発か! さっきの空中血装(ブルート)は何回できるか予想はつくか!?」

 

(この場所は(しゅ)の心の中だぞッ! その半身たる聖職者の()()()()()()()()()()()()

 

「…………勝ち目ねえじゃねえかっ!!」

 

(勝つ気だったのかッ!? 流石に無理だぞッ!)

 

レヒトの願いがわからない以上、あいつをシメて吐かせるのが一番分かり易い手だろうが!

 

(……聖職者に勝つことが目的になっているぞッ。頭を冷やせッ! ()()()()()()()()()()()()()!!)

 

「っ! くそがっ!じゃあ、どうするっ!? 内容もわからない願いなんて叶えようがねえ! レヒト本人に聞こうにも、何処にいるか分からねえ! 疑わしい傷だらけの箱もリルトットたちが探そうとしてるんだろうが、『神の学習(アルマトロン)』に取り込まれたまま! 『神の学習(アルマトロン)』が話す気がねえなら、あいつを倒す以外にどうすれば良い!?」

 

「滅却師。(しゅ)の抱く大切な思い出を糧にした存在よ」

 

やべえ、このままじゃ、敵だけ増えちまう!

 

「汝、(しゅ)の全てを受け入れよ。お前たちの夢幻(ゆめまぼろし)を改めよう」

 

「お前ら、止めろッ!!」「バズビー!!」

 

リルトットの焦る声とナックルヴァールの呼びかけ? 意味わかんねえが、撃つ!

 

「『マスティケイト・スポーク』!」

 

「『ガルヴァノフランベルジュ』っ!!」

 

「『エクス・ブラスト』ッ!」

 

「『ダンベルダスター・バトンシュート』~!」

 

「『バッド・デッド・ボーイズ・クラブ』!」

 

「『バースト・フル・フィンガーズ・ダブル』ッ!!」

 

「『猛毒の輪唱(ギフト・リングズ)』!」

 

全員で集中砲火! ナックルヴァールに至っては、『虚なる失(エグナルエ)』を無視してまで? いや、待て。確か、夢幻(ゆめまぼろし)って単語に反応してたな? 他の奴らのときは、畏怖、有様、認識……。

 

「フォニクス。『神の学習(アルマトロン)』はお前らのコピーを持ってるか?」

 

(我らに複製体などいるものかッ! 今や、聖職者が呼び出せるのは()()()宿()()()()()()()()()()()!)

 

……なるほどな。そりゃ止めるわけだぜ。『神の学習(アルマトロン)』の体から引き抜かれたひときわ大きな歯車。そいつが小さく固まって黒い立方体に変わる。あれは、確かテレビ、だったか? そこからまるで聖隷(スクラヴェライ)を行ったときのように、人間の首から下を模した青い体が構築されていく。生えた体へ流れ込むように蒼い糸から何かが流れ込むように光り、頭のテレビが点滅して、ザーザーと音がなる。

 

「『虚なる夢(グィミレ)』」

 

畜生、最悪だ。




(しゅ)よ、何をッ!?

……ねぇ、『神の学習(アルマトロン)

傷を、治しましょう。何故、自傷など……?

戦う間だけ集中できる様に、僕の意識を更新したい

……何故ですか。何故、(しゅ)を!? 彼女らの意を更新するべきでは!?

そんな事、出来ない……

彼女らは! 貴方の愛よりもっ! 愚帝の恐怖が勝った! そう示しているのです!

…………それでも……やだ……

私にはっ、(しゅ)の意図が汲み取れません! 彼女たちは選ばなかった! そんな相手のことを考慮する必要など……!

…………じゃあ、()()。僕の意識を改めて。

ッ! 何故……そこまで……!

……ごめんね。我儘な主人で

…………っ。……承知、しました

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また2ヶ月かけちゃったよ!
BLEACH最終章、始まってしまいますがな!
という感じです。ゆっくりですが、書いていきますんで……。
感想いただけると嬉しいなぁ。
  1. 目次
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