マシュマロでも食べる?   作:コサメ

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申し訳ない。
欲望に抗えなかった……


お口直しには何が好き?

 分散系の一種で、ゾルと同じく液体分散媒のコロイドに分類されるが、その内で固体状のものを言う、その通称。

 この比較的短い一文は何を指しているのだろうか。「分散系?」「ゾル?」「コロイド?」。知らない用語が多い。説明文として機能していない。

 また、日本語では「凝膠体」と呼ぶらしい。余計にわからない。

 もっと説明すると、分散系のネットワークにより高い粘性を持ち、流動性を失い、系全体としては固体状である、とする。もうやめてくれ。

 

 答えを言おう。上記で説明されている用語は、ゲルやジェルの通称、【ゼリー】を指す。

 

 こんな難しい表現を使わないと当たり前の言葉も説明できない。当たり前だからこそ説明に窮するのである。そして、当たり前なものほど、目の前にある。

 私は膝にナツを抱えて、そのほっぺを見ていた。そう、その頬は血色がよく仄かに桃色。肌の色白に映えるチークにトキメク。もっちりもちもちぺったんこ、と擬音が付くくらい柔らかそうである。近くで見るからに少し頬に白く補足短く僅かにある産毛達が不可侵の神聖な織物のようにサラリと見える。たぁんまらなく、愛おしい。

 右サイドテールの髪は私の右肩へ回し、サラサラ感が背中に感じる。桃色の長い髪。いつも通りのトリニティ総合学園の制服を着て、赤い瞳の先にブルーベリー色のゼリーを見つめる。

 ナツが珍しく自分の手で、ゼリーの容器を押さえ、その左手に持ったスプーンでゼリーを掬う。感触としてはスプーンで差し込んだ箇所が柔らかく砕け、ストレスなく分離できたはず。そのままナツは自分の口に運び、つるっとゼリーを吸う。その瑞々しい唇は今まさに食べているゼリーと同じくらいぷるんっぷるんっだろうと思われる。むしゃぶりつきたいほど尊い。

 数回、ナツは咀嚼した。その一回一回がゆっくりとほっぺを動かす。そして、すっと嚥下。喉がわずかにクイッと動き、一瞬で口の中は空に。ナツは満足そうに頷いた。

 

「やはり、おいしい。アキナのゼリーは」

「ほんとよねー。お菓子作りだけは尊敬するわね」

「〝だけ〟って……まぁ、ヨシミの言うことはもっともね」

「お二人さん、ディスるの止めてくれる?」

「普段の行いを見てから言いなさいな」

 

 思い返してみる。授業を受けたり、ナツが可愛かったり、部活動に勤しんだり、ナツを抱っこしたり、放課後スイーツ巡りしたり、ナツにあーんしたり。うん、問題なーし。

 

「問題だらけでしょ」

「あいかわらず、ナツはわれ関せずって感じね」

「ん?」

 

 ナツの声が手元で聞こえる。至福のとき。そっと抱きしめる。頬ずりする。ナツがおうおうと頭を撫でてくれる。幸せです♡

 

「あははは……でも、本当にアキナちゃんのお菓子はおいしいよね」

「ありがとう、アイリ!」

「コツとかあるの?」

「コツ?」

「ほぉ、……私も興味がある。アキナの製菓技術。再現したいね」

 

 ナツが振り向く。唇と唇が触れそうになり、ナツとの距離がより近づく。目の前。しかし、ナツはお構いなしだ。心臓に悪い。

 

「そういえば、ナツちゃんもお菓子作るよね。時々持って来るし、ナツちゃんのもおいしいよ」

「ありがとう、アイリ。だけど、アキナのには敵わない、かな」

「どっちもおいしいでしょ。少なくとも、私は違いがわからなかったわ」

 

 カズサがゼリーを口に含む。放課後スイーツ部の部室。ナツがカズサに向く。顔が離れる。少し、もう少し、近くにいたかった。いや、もっと近づきたかった。

 そんな妄想に首を振る。だめだ。推しをそんな目で見ちゃ。

 

「アキナのは、なんていうかな。絶妙なんだ。このゼリーで例えると、甘すぎず、味気なさすぎず、絶妙なラインを攻めている。形もすごく綺麗に仕上がっている。なにより、食感。まるで、唇に触れているような感覚があるじゃないか」

「唇?」

「言われてみると、そんな感じもするけど……言いすぎじゃない?」

「ん? かなり的を得ていると思うけどなぁ」

「それだけ私がナツの唇を再現できているってことだね」

「「「え」」」

 

 カズサとヨシミがうげっとした顔をした。アイリは意味を解すると顔をさっと赤くした。ナツだけ、首を傾げた。

 

「あ、あんたたち……もうそこまで……」

「あーあー。いちゃつくなら、よそでしてよ」

「?? 何の話?」

「つ、つまり、アキナちゃんとナツちゃんは、その……アキナちゃんがナツちゃんの唇の感触を知っているってことは……」

「? ……!? ち、違う!」

 

 珍しくナツが慌てだす。すぐに私から離れようと身動ぎをする。が、私はより一層抱きしめたため、ただ椅子が左右に揺れただけ。

 

「ちょっと、アキナ。離れてくれないかな?」

「ナツがくぁわいいです」

「……いや、もう諦めた」

 

 しかし、とナツが三人に指差し確認で区切って言う。

 

「私と、アキナとの間には、友情しかないから!」

「え? 相思相愛だって?」

「アキナは黙ってて」

 

 冗談を言ったが、推しに友達認定は嬉しすぎる。顔のニヨニヨが止まらない。しかし、カズサが呆れたような息を吐く。

 

「友情って……ナツ、そんな顔で言われても説得力ないわよ」

「……」

「??」

 

 そんな顔? 後ろから抱きしめているため、ナツの顔が見えない。

 

「ねぇねぇ、どんな顔してるの? カズサ、教えて」

「いや……さすがにナツが可哀想」

「??」

 

 はぐらかされた。ナツの顔を覗こうとすると背けられた。本当にどんな顔をしているのかわからない。

 ちょっと不安になる。もしかしたら本心では「友情」と思っていないのではないか? ナツは優しいから傷つけたくなくて口から出てしまったのではないのか?

 抱きしめるという行為はかなり幸福度を高めるのに、そういう欠点があると今知った。今度からは前から抱きしめよう。そうすれば、表情も見れて顔も近くになって、一石二鳥。唯一の欠点は、テーブルが見えなくなることか。

 

「ま、まぁまぁ、その話はおいておこう。本日の議題を話し合おうじゃないか」

 

 ナツが話を変える。それもそうね、とカズサが頷く。本日の議題〈先生の誕生日はどのスイーツがよいか〉。数日後に決まっているイベントをどう乗り切るかだ。

 

「で、みんな持ち寄って考えてみたけど、いまいち決定打に欠けているのよね」

 

 ヨシミがスイーツ部にある黒板を見て、溜息。そこには出し合ったスイーツの名前と、発案者の名前。また、持ち寄ったお菓子の箱が机上にある。数日考えてまだ決まらない。そろそろ決めないと間に合わない。

 

「アイリはいちごのショートケーキ。定番だし、美味しい」

「けど、先生は他の生徒さん達からもお祝いされるだろうから、被る可能性があるんだよね? それに作るのもめちゃくちゃってほどでもないけど、手間がかかるし」

 

 アイリはよくチョコミントの化身みたいな書かれ方をする二次創作が多いが、けっしてチョコミント狂ではない。うん、そのはず。そうだと言ってよ。

 

「ほんとは、チョコミントケーキにしたかったけど、先生はあまり好きじゃないみたいだし」

 

 しょんぼりとなるアイリ。慌てるスイーツ部。

 

「いや、ちょ、チョコミントケーキ、良い案だよね!」

「そうそう、独創的っていうか、他の生徒と差別化できるよね!」

「エメラルドグリーンの中にあるブラウンのチョコ。良い彩りじゃないか」

「香りも爽やかで、鼻に抜けるはみがk、げふんげふん、満点だね」

 

 順番にカズサ、ヨシミ、ナツ、私。アイリの目が点になる。

 

「あ、えっと、ありがとう? でも、ケーキは候補から外した方がいいよね」

 

 みんな、黙ってしまう。アイリが外すね、と黒板消しで『いちごのショートケーキ』と『チョコミントケーキ』をチョーク粉に変える。若干の哀愁があった。そう感じた。実際のアイリは平気な顔。いつも通りのふわっとした少し笑みを感じる陽気な顔。その背中も陽気に映る。

 それでも、まじでアイリに申し訳ない、と思ってしまう。それが見当違いな感情でも、チョコミントを避ける姿勢に後ろめたさを覚える。

 

「え? みんな暗いけど、どうしたの?」

「ぁぇ……そ、そうだね。切り替えよう」

「そ、そうね」

 

 カズサが話を戻す。

 

「次にヨシミのシュークリーム。作るのは、アキナとナツがいれば、何とかなるとして、食べにくいってのがあるよね」

「そうね。先生は誕生日も仕事で忙しいだろうから、あまり手が汚れるものはNGね」

「じゃぁ、ヨシミちゃんのも消すよ? ヨシミちゃん、いい?」

「いいわよー。私も選ばれるとは思ってなかったし」

 

 シュークリームが板上から消えた。アイリの時とは違って、アッサリとしていた。やはり人徳かな?

 

「なんかアキナに馬鹿にされた気がするんだけど……」

「き、気のせいです」

「怪しいわね……まぁ、いいけど」

 

 クワバラクワバラ。鋭い。ヨシミはついいじりがいがあって、ついつい思考がそっちの方に移ってしまった。今度から気をつけよう。

 カズサが話を戻すように、座椅子の背もたれに寄りかかり、黒板を指す。

 

「そうすると、残りは私のキャンディーと、ナツのチョコプレッチェルと、アキナのゼリーね」

「選べないわね」

「キャンディーは、仕事の合間に食べられる。手も汚れにくい、しかし飴って、特別感がないわよね」

「プレッチェルは、軽食に向いているし、食べやすい。だけど、こっちも庶民的すぎる」

「対して、私のゼリーは、綺麗に盛り付けたら特別感ですけど、食べるのにスプーンが必要。移動中に銃撃戦に巻き込まれぐちゃぐちゃにならないとも限らない」

「「「「「う~ん……」」」」」

 

 悩む。五人とも腕を組んでしまった。

 アイリがそうだ、と挙手した。

 

「投票で決めるのは、どうかな?」

「投票?」

「うん。ちょうど五人で奇数だし、最終的には決められそうだから」

「そうね。みんなが納得するものが選べればいいから」

「正直、どれになっても納得感はあるわね」

「ルールとしては、自分以外の人に投票する、でいいかな?」

「「「「賛成」」」」

 

 やはりこういう時は部長の鶴の一声がありがたい。いそいそと箱と紙とペンを探す各々。一式揃って、アイリが音頭を取る。

 

「じゃあ、紙に希望のスイーツ名を書いてね」

「オッケー」

 

 そして、各自ペンを取り、紙に書いていく。私は当然ナツのチョコプレッチェル。その後、投票。全員が投票したので、開票。仕分けするのはアイリとヨシミ。すぐ終わる。

 

「じゃあ、結果発表ね」

 

 ナツが拍手するにつれ、全員が拍手する。短い拍手が終わり、アイリが発表。

 

「結果は、四票で、フルーツのゼリーになりました」

「…………え」

「へぇ、みんな考えることは同じなのね」

「アキナのゼリーは絶品だった」

 

 少し慌てる。

 

「いやいやいや、ナツのチョコプレッチェルの方が美味しいでしょ」

「その議論は、平行線だからおいておいて、それぞれ理由を言った方がいいかもね」

 

 え、選評ってこと? うわぁ、やだぁ。アイリが最初に手を挙げた。

 

「特別感があるから。確かにカズサちゃんのキャンディーも色とりどりでよかったけど、やっぱり誕生日はもう少し特別感があった方がいいかなって? それにキャンディーは歯にくっつくから」

 

 アイリの意見である。

 

「私のチョコプレッチェルは、他の二つに比べ見劣りするからね。彩りという面においては特に。もちろんアイシングやクランチで工夫はできるけれど限度がある上、手間がかかりすぎる」

 

 作った本人談。

 

「それに先生は他の生徒からケーキとか色々おっもいものを食べたりするだろうから、あっさりしたのが良いって思ったわ。飴はしばらく口に残るし、プレッチェルは歯に引っかかりやすい。あまり適してないかも」

「材料もお手軽そうだし、容器もプラスチックの小さいのにすれば、銃撃にあっても、守りきれるでしょ。逆にキャンディーは砕けるわ」

 

 各々もっともらしいことを言う。そう言われると、そのような気がしてくる。

 

「で、でも」

「いいじゃない。何が問題なのよ」

「だって……」

「「「「?」」」」

 

 そう、重大な懸念事項がある。

 

「先生に、ナツの唇を奪われるようなものだから……」

 

 全員沈黙した。

 

「そ、そう言えば、ナツのく、唇の感触を再現したって、言ってたわよね? あれってどういう意味?」

「実際に触れたことがあるから」

「……ナツ?」

「そんな事実はない」

「え? だって、口元が汚れていた時、私がナフキンで吹いたよね? その時だよ」

「…………アキナ。あれは、もしかして、不純な理由があったりとかしないだろうね?」

「……」

 

 私は目を逸らすしかなかった。それからナツがしばらく口をきいてくれなかった。

 

 

 

「ハッピーバースデー、だね。先生」

 

 ナツが可愛らしく言うのが悔しくて、私は先生への挨拶を後回しにする。放課後スイーツ部が先生を祝福している中、大きなクーラーボックス二つを比較的慎重に運び、休憩スペースにどしりと置く。

 

「ふぃー」

「〝おつかれ、アキナ〟」

「あ、先生。はい。えっと、おめでとうございます、先生」

 

 そっぽを向くが、先生は嬉しそうにありがとう、と言う。なんか悔しい。

 

「〝みんなもおつかれ。だけど、みんなが持っているのは?〟」

 

 クーラーボックスは何も私だけが持ってきている訳ではない。みんながそれぞれ適当な場所にクーラーボックスを置く。合計十箱。先生は首を傾げている。

 

「ゼリーだよ、先生」

 

 ナツが牛乳片手ににひっと笑う。その笑顔が先生に向けられていることに激しい嫉妬を感じるが、まぁ、今日の主役は先生なので仕方ない。そもそも先生だし、勝てない。先生になりたかった。

 それはそれとして、今日もやっぱり推しが可愛い。

 

「〝ゼリー?〟」

「先生への誕生日プレゼントよ! 私も手伝ったんだから!」

「〝ということは、みんなの手作り? 嬉しいけど、量が多くない?〟」

「ちっちっちっちっちっ」

 

 私は厭味ったらしくう馬鹿にしたような感じで指を振る。周りには呆れられたような感じがする。先生なんて微笑ましいものでも見るかのようだ。解せぬ。咳払い。

 

「これはですね、先生へのプレゼントでもあるんですが、先生が配る用でもあるんです」

「〝配る用〟」

「はい! 先生はいろんな生徒さんからたくさんの誕生日プレゼントをもらいますよね?」

「〝う、うん。そうだね〟」

 

 そっと部屋の片隅を見る先生。その先にはすでに送られてきたのか、大量の可愛らしくラッピングされたプレゼント。中身はお察しだろう。カズサが呆れて言う。

 

「形に残るものは問題ないけど、食べるものは基本長持ちしないでしょ?」

「保存食ならいいけど、誕生日プレゼントに用意する食べ物なんて見映えのするお菓子が基本で、そういったお菓子の多くは日持ちしない」

「先生のことですから、『〝生徒のため!〟』とか言って全部食べようとするのは目に見えてます」

「あはははは……ですので、シャーレに訪れた人にそのプレゼントを配ったら、先生が無理をすることもなく、訪れた人もお菓子が食べれて嬉しいと思います」

 

 そこで、先生は理解したのか、頷く。

 

「〝つまり、このゼリーは、プレゼントを配りやすくするために用意したの?〟」

 

「その通りです。大きな袋も用意したので、ゼリーと一緒に他のお菓子が入っていても違和感はありません。先生は『〝生徒が用意してくれました〟』と言うだけで、ついでに一つ二つのプレゼントして梱包して渡せば問題なし。ハロウィンっぽくていいです。あ、先生の分は別に用意してますんで」

 

 なるほど、と先生が感心したように腕を組む。

 

「〝誰が発案者?〟」

「アキナだよ、先生」

「アキナちゃんです」

「アキナよ」

「アキナね」

「なんでみんな言うのぉ!?」

 

 だってね、とみんなが顔を見合わせる。先生が嬉しそうに微笑んでいる。

 

「〝そっか……アキナには嫌われていると思っていたけど、考えてくれていたんだね〟」

「ぐう……」

 

 ぐうの音も出ない。いや出たか。

 

「まぁ、アキナはそういう所あるからね」

「こ、今回はナツに褒められても半分くらいしか嬉しくない!」

「〝それでも嬉しいんだね〟」

「当然です。ナツの言葉はゼリーよりも価値があります。いや、ゼリーと比べるのはナツに失礼だった。言い直すと、ナツ大好き♡」

「はいはい」

「〝ナツもまんざらでもないんじゃない?〟」

「……さぁ、どうだろうね。少なくとも慣れたよ」

「え、今好きって言った?」

「言ってないよ」

 

 先生はなぜかほっこりした顔。アイリもなんだか笑顔。カズサとヨシミは呆れていた。

 

「ヨシミ、塩ない? 塩」

「なんでよ?」

「糖分過多だから」

「ああ、……ほい」

「……なんで塩昆布持ってんのよ?」

「常備してんのよ。察して」

 

 ナツが咳払い。何かを誤魔化すような仕草に私は首を傾げた。

 

「じゃあ、誕生日会を始めよう!」

「〝あ、ごめん〟」

「ん?」

 

 先生がたいそう申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「〝仕事がまだ溜まっていて……〟」

 

 そう、社会人の辛い所は誕生日に関係なく仕事があるということだった。流石に同情した。今度から少しだけ優しくしようと思った。

 

「〝それと、お菓子の件だけど、気持ちだけ受け取っておくね〟」

「「「「え!?」」」」

 

 ナツ以外が驚愕の顔をした。

 

「〝このゼリーは生徒に配るけど、他のプレゼントは私が責任を持って食べるよ。生徒の想いがこもっているからね〟」

 

 ……これだから先生という生き物は難儀なものだ。戦闘指揮は得意だというのに、人間関係では不器用な対応しかできない。

 全く呆れてものが言えない。

 

「まぁ、先生ならそう言うと思ったよ」

「ナツ、あんた、わかってたのなら言いなさいよ」

「それはロマンじゃないから」

 

 ドヤ顔のナツ。可愛い!

 

「や゛っ゛ぱ゛り゛今゛日゛も゛推゛し゛が゛可゛愛゛い゛!」

「はいはい、わかったから煩くしないでね」

「それより、アキナ。あれ渡してよ」

「はーい」

 

 運んできたクーラーボックスの一つを開けて、一つの箱を取り出す。それを先生に渡す。

 

「〝これは?〟」

「先生用のゼリーです。ついでに、配る用のゼリーも味変として食べてもいいですから」

「〝ありがとう。大事に食べるよ〟」

 

 今まさに先生に手に箱が渡った。私は唇をきっと噛んだ。

 

「〝……なんだか、アキナから血の涙を流すかのような気配を感じるんだけど〟」

「まぁだ、やってる? いいかげん止めたら? 唇の感触って、実際にキスする訳じゃないんだから」

「〝え〟」

「あははは。先生用のゼリーはアキナちゃんが作ってくれたんです。ゼリーの食感はナツちゃんの唇を再現したらしいですよ」

「〝それは、また……〟」

「なので、先生。絶対に食べないでください」

「無茶苦茶なこと言うな」

 

 頭を叩かれた。解せぬ。先生がゼリーの箱を開けた。

 

「〝あれ? ゼリーが四個入ってるね〟」

「え? 聞いてないんだけど?」

「はい。一つはナツの桃色のゼリー。ブルーベリー色はカズサ。黄色はヨシミ。緑はアイリです。それぞれの唇の食感を再現しました。所謂、放課後スイーツ部の唇セットです」

「言い方って、聞いてないんだけど!?」

「そりゃ、言ってないからね」

「えっと、アキナちゃん?」

「アキナ! アンタ!?」

 

 命の危険を感じたので、飛び退く。しかし、カズサに捕まる。普通に殴られた。照れ隠しめぇ。

 

「違うっ! わよっ! このっ! 余計なことしてっ!!」

「カズサ、私にも殴らせなさい」

「えっと、先生。私のゼリーだけ、返してもらってもいいですか?」

「〝……先生として生徒からもらったものは全て食べきるよ〟」

「先生!?」

 

 ナツがふと気付いたように言う。

 

「そういえば、アキナの分の唇がないね」

「言い方って、ホントよ! アンタ一人だけ何で作らないのよ!」

「ファーストキッスは、ナツに取っておくので」

 

 カズサが背後に回って、羽交い締め。腕が顎下に入る。

 

「うグッ!? イタッ! イタって!? ちょちょちょタンマ!? 入ってる、入ってる! くるくるくるしい」

「アキナ! 今度という今度はっ! 許さないわよ!!」

「ブクブクブク」

 

 助けてぇ、とナツに手を伸ばす。ナツはどこか憮然として、牛乳のストローから口を離す。

 

「アキナは、私のファーストキスは、どうでも良い訳だね」

 

 ガクンッと私は意識を落とされた。

 

 

 

 目が覚めると、そこまで時間は経っていなかった。周りを見渡すとシャーレの休憩室。ベッドの上。ナツがいた。ベッドの脇に座って、スマホをいじっていた。

 

「あ、ナツ」

「ん? 起きた?」

 

 頷くと、ナツはスマホをポケットに入れる。身体が近い。布団越しにナツのぬくもりが伝わって、幸せを感じる。あぁ、至福。

 

「アキナ? 私に言うことは?」

「ナツ、大好き。愛してる」

「……違う」

 

 目を瞑って、何かに耐えているナツ。私は首を傾げる。ナツは溜息。

 

「私のファーストキスはどうでもいいのかな?」

「え」

 

 どうしてそうなったのだろうか。目が点になる自覚を持ちながら、なぜ、と問う。

 

「だって、そうじゃないかい? 私の唇は先生に渡したのに、自分の唇は渡さない。それはつまり、自分の唇は守りたくて、私の唇は守らなくても良いと思ってたんでしょ?」

「そ、そういう訳では、なくて」

「どういう訳?」

 

 赤い瞳が射抜くように私を見つめる。私は咄嗟に目をそらす。

 

 言えない。私には前世があって、ゲーム『ブルーアーカイブ』をプレイしていたこと。ブルアカに登場する『柚鳥ナツ』を推していたこと。そして、ナツは先生が好きであったこと。だから、口では色々言いつつ、喜んでくれると思っていること。

 私にとって、ナツは創作の中のキャラクターから始まったこと。

 もちろん、今では単純な登場人物などではなく、実在している意中の相手だ。それは事実。それでも、最初の想いが消えた訳ではない。やはりゲームのナツも愛していた。それも事実。しかし、もうゲームのナツには二度と会えないが。

 

 先生を好きなナツも大好きだった。だから、嫉妬や悔しさはあるが、喜びそうなことをしたかった。照れくさそうにするのも、ドキドキしている姿も見たかった。

 寝取られたい訳ではないが、そもそもナツは私だけのナツではない。ナツはみんなのナツであり、そもそもナツはナツ本人のために存在している。だから、NTRとは違う。

 

 しばらく顔を背けていると、ナツが両手を私の頬へ添えて、無理のない力で私の顔を自分の顔に向き合わせた。私は本当に無抵抗に従った。

 

「アキナ」

「……えっと、何? ナツ」

 

 少しナツが上目遣いになった。頬が少し赤い。それがどこか扇情的に感じ、生唾を飲み込んでしまう。

 

「先生達には、ゼリーは私が帰って来るまで手を付けない、とお願いしたんだ」

「え」

 

 唇に柔らかいゼリーのような感触。それが何であるかを把握する前にナツの顔が遠ざかった。

 

「じゃあ、私は戻っておくね。……アキナも後でいいから来るんだよ?」

 

 ナツが部屋を出た。ぱたんと扉が閉まった。私は枕に頭を落とした。

 

 今は夢の中かもしれない。いや、夢を見ていたのだ。だから、次起きたら夢から覚める。なかったことになる。

 起きたくない、という想い。しかし、早く起きて現実のナツに会いに行きたいという気持ちもある。どちらも本心。矛盾した感情。まるで、ゼリーのように液体なのか固体なのか分別できない存在。

 おもむろに立ち上がった。

 フラフラっと部屋を出た。シャーレーの部室へと向かう。扉をそっと開けると、みんながすでに届いている先生へのプレゼントを片っ端から開けて、許可をもらいつつ一部食べていた。先生は仕事があると言っていたが、振り回されるように放課後スイーツ部に付き合っていた。

 

 ナツと目があった。ナツは、にひっと、いつもの笑みを浮かべた。

 

「アキナ。お口直しには何が好き?」




ここまで読んでくださり、ありがとうございます

さて、誕生日です。誕生日と言えばナツですね。という訳で

ナツ可愛い

これに尽きるんでございますよ
本当はハロウィンにも何か投稿しようと思ったのですが、残念ながらここ3ヶ月くらい体調を悪くしており、泣く泣く取りやめ
今も絶賛悪いけど、こればっかりは譲れねぇ

今回の話は前書きでも述べたように欲望全開となっています
申し訳ない
我慢できなかったんだ。もう少しソフトさ加減が好きな人には本当に謝罪

でもさぁ、考えてみてよ
アキナはあれだけ想いを伝えているんやで
ここで少しは報われてもいいんじゃね?

あぁ、ついにこの短編集も最終回か、と思われた方
だって、そうでしょ? 主人公が最大の祝福を受け取ったのですから
RPG風に言うと、王女様との結婚式でしょ、これ
しかし
この作品は、作者の思い付きで成り立っています
今後続く可能性は、あります
が、とりあえず、体調が治るまでは、ナツ生誕祭のみの投稿とさせてください

もっとはしゃぎたいが、体調不良ゆえに、自粛します

全ての人に、感謝ぁ〜

追記
何回目かのアップデートで、OPナツの顔と認証完了のポップアップが被る不具合が起きております。運営さんどうにかしてぇー
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