あいあむちょび髭、画家を目指す 作:ジャーマンポテトin納豆
1943年。
来年に控える大反攻作戦の為に、あらゆる部署が上下前後左右に慌ただしく駆け回っている。
部隊の整備、編成、訓練はドイツ本国で連日行われている。
大反攻を支える為の2年分にもなる凄まじい物資の調達、輸送、集積も抜かりなく進められる。
それらを管理する為の書類仕事の量は凄まじく、各省庁は朝から晩まで24時間、煌々と灯りが灯り続けている。
そんな中で、情報局が緊急で報告したい事があると連絡を寄越してきた。
「閣下、お忙しい中大変申し訳ありません」
「構わん。こうして駆け込んで来たということは余程のことなのだろう?」
「はい。1時間前イタリア支局から緊急暗号通信が発せられ、その内容をご報告します」
情報局はドイツに幾つかある。
その内の3つが陸軍情報部、海軍情報部、空軍情報部。
これらは主に軍事的な諜報、防諜活動を担っている。
もう1つが内務省情報部。
こちらは主に国内に於ける情報収集や防諜活動を担当し、共産シンパやテロリストみたいな連中の活動を監視し、摘発している。
1つが外務省情報部。
こちらは主に外交面からの情報収集、情報分析を担う。
最後に前述の情報部を全て取り纏めて統括しているのが情報総局となる。
各情報部は情報総局に対してあらゆる情報を報告する必要があり、それらを全て一元管理し、統合する役割を担う。
これら情報部署にはそれぞれ各国毎に対する支局がある。
例えばイギリス支局はロンドンに本部を置き、各地に支部が設置されている。
各国に対して同じように存在し、本部は主に大使館や総領事館に秘密裏に併設される。
彼らは軍事、政治、経済とあらゆる面からの情報を収集し、あらゆる面から分析するプロであり、スパイでもある。
今回のイタリアに関してはローマに本部がある訳だが。
そんなイタリア支局からの緊急暗号通信とは、なかなか穏やかではないな。
「ナポリ、タラント、ガリポリの三箇所の港に大規模な物資の集積と、部隊の集結が確認されました」
「なんだと?」
「端的に申し上げて、情報総局はこの動きを軍事行動のための予兆であると判断しております」
「……大規模な演習の可能性は?」
「無くはないですが、集積されている物資量や輸送船舶数、集結しつつあるイタリア陸軍部隊、イタリア海軍艦艇数を考えると、大規模な演習なんてレベルでは済みません。桁が幾つも違います」
「他に兆候は?」
「情報統制が敷かれ、物流などが国の直接統制下に入れられました。他にも軍による食糧の買い上げなども大規模に行われつつありますし、イタリア政府は内々に大規模徴兵の下準備も進めているようです」
彼の言うように、大規模な演習と軍事行動は明確に見分けられる。
早い話、どれだけ実戦に近い演習と言っても、本物の実戦と比べると消費される物資量と投入される部隊数や規模の桁が二つか三つぐらい違うからだ。
大規模な演習と言っても精々2個師団程度の師団対抗演習だ。イタリアの国力を考えればそこまでの大演習は中々難しい。
「とりあえず、引き続き情報を集めてくれ。外交面から解決を試み、イタリアの目的を探れ。場合によっては第二戦線の構築を考えねばならぬ」
「了解しました」
ムッソリーニの大馬鹿野郎がどこに何を仕掛けるかは分からないが、部隊の集結地である港3箇所の位置を考えると、多分ギリシャ辺りが本命、北アフリカ辺りも候補になるだろうか。
対ドイツ戦をやるなら北イタリアに兵力を集める筈だし、報告ほどの輸送船や海軍艦艇を集める必要もない。
ブラフの可能性もあるが、まずそもそも対ドイツ戦をやるにはアルプス山脈を越える必要があるがスイスとオーストリアを越えねばならない。
スイスは永世中立国な上に地形的な意味でも軍事力的な意味でも手を出しても全く意味が無い。
オーストリアはアルプス山脈に少なくない防御設備や施設を有し、なんならドイツ軍が山岳訓練を行う為に駐屯している。
ドイツ空軍も近場だから全力を発揮出来る。
それを考えるとイタリアが対ドイツ戦を始めるとは中々考えにくい。となれば以前から領土的野心を向けていたギリシャ、北アフリカだろう。
今までは我々ドイツが頭を抑えていたが、独ソ戦が長引いてドイツの国力と軍事力が低下しただろうと思って事を起こそうという腹積りなのかもしれない。
だが残念ながら少なくとも生産力や工業力は開戦前より上がっているのが現実だ。
工員保護法の制定や女性工員の大規模動員、より効率的な運用や生産ラインの増加などによって武器や砲弾薬の生産数は開戦前の7倍を記録するに至るレベルだ。
もしイタリアがやるというのなら、我々はあらゆる手段を用いてイタリアを、ムッソリーニを叩き潰す。
受話器を取り、統合参謀本部に電話を掛ける。
数コールの呼び出しの後に出る。
『閣下どうされましたか』
「イタリアの動きは掴んでいるな?」
『勿論です』
「万が一、イタリアが事を始めた場合に備えて陸海空軍はイタリア半島制圧の為の作戦を今すぐに準備せよ。降下猟兵師団は全師団即応待機状態に格上げ、予備師団4個をオーストリア=イタリア国境に集結させ、海軍に対しては第2、第3艦隊に出撃準備命令を出す」
『はっ、しかし宜しいのですか?予備師団はまだしも、降下猟兵師団は反攻作戦において重要な戦力の一角を務めることになる精鋭です』
「構わん。地中海の安定が崩れればイギリスという後方支援要員がいなくなる。それにイタリア軍は余り良い状態ではないらしい。降下猟兵師団には良い実戦演習相手だ」
『承知しました。すぐに手配を行います』
「ありがとう、頼んだ」
予備師団は徴兵適齢期を過ぎた40歳以上の兵士で構成された、2線級師団だ。
装備や編成は1線級師団と変わらないが、年齢とそれによる体力的な問題があって最前線への投入には向かないとされ、後方警備や防衛、鉄道や輸送車列の護衛と言ったものに投入されている師団である。
だが今のドイツに1線級師団を引き抜いで対イタリア戦に投入出来る余裕は無い。なので降下猟兵師団と2線級師団を投入する。
降下猟兵師団は来るべき反攻作戦に備えてドイツ本国で訓練に明け暮れている、陸軍最精鋭と言っても過言では無い師団である。
それを投入して、イタリアが事を起こしたら一気にカタを付けて早期終結してやる。
ーーーーーーー
情報局からの報告から3週間。
外交による解決を試みるもイタリア、いやムッソリーニはギリシャ侵攻を開始。
アルバニア併合を経て行われた一連の動きは国際社会に驚愕とイタリアに対する非難の嵐が吹き荒れた。
ギリシャは元々イギリス寄りというか、イギリスからの支援を受けて我々同盟に対して物資や砲弾薬の生産供給を担っていた事から特にイギリスが強く反応。
軍の動員をチャーチルは命じる事となった。
とは言え面倒事が増えたのは間違いない訳で。
「イタリアに関する情報は間違いだ」
「総統……、イタリアは……」
「……イタリアはつい先ほど、奇襲攻撃と同時にギリシャ、北東アフリカに侵攻を開始しました」
「……以下の者は部屋に残れ。モーデル、カイテル、ヨードル、クレープス、ブルクドルフ。他の者は退出して待つように」
怒りで震える手で、最近老眼に悩まされる故に着けていた眼鏡を外す。
「こんちくしょう!クソパスタ野郎!ただでさえこっちは大忙しなのに余計な事しやがって!ふざけるな!」
「閣下、落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか!!!」
「ムッソリーニの大馬鹿野郎がついにやりやがった!今まで外交努力でドンパチ始めんようにしていたのに、自分の気分だけで戦争始めやがって!お陰で地中海は大騒ぎ、不安定化待った無しじゃないか!?」
「イギリスが地中海やアフリカに軍を派遣したら我々に協力する余力が無くなるかもしれん!そうなれば我々の対ソ戦略に重大な影響を及ぼすんだぞ!?」
「そうならないように外交努力を重ね、私やドイツ国民、全ての同盟国はイタリアを信用していたと言うのに、その信用に背くとはけしからん!連中を信用した私が馬鹿だったのだ!信用したその結果がこれだ!」
はらわたが煮え繰り返るほどの怒りをブチまける。
例えそれが一国のトップとしてあるまじき事であっても。
「イタリア人、この嘘つきどもめ!奴らはすぐに嘘を吐く!最たる者はムッソリーニだ!」
「連中はどいつもこいつも軽薄な嘘吐きだ!大っ嫌いだヴァーカ!」
「大人しくナンパに精を出していればいいものを、余計なことばかりしやがって!」
「閣下、幾ら何でもその言い方は不味いです!」
「最低の裏切り者だ、大っ嫌いだ!お陰で胃が痛いわヴァーカ!」
「医者に胃薬を飲み過ぎだと言われた時の気持ちが分かるか!?いいや、分かって堪るか!」
「閣下、幾ら閣下とは言えども……」
「連中はソ連と同じぐらいのクズだ!チクショウメェ!!!」」
鉛筆を地図上のイタリアに向かって投げ付ける。
「国家元首とは名ばかり!ムッソリーニがやる事は自分の気分次第!大人しくナイフとフォークの使い方でも学んでおけばよいものを!」
「戦争は弱いくせに毎回毎回イキりやがって!大人しく半島に引っ込んでれば良いのになぜ余計な事ばかりする!?」
「奴のせいで我々の計画が妨げられたじゃないか!いつもいつも余計なことばかりしやがって!」
「奴らはスターリンと同じぐらいの卑怯者で臆病者だ!良い顔して手を握って戦争はしませんよ、などと宣いやがって!ムッソリーニ、奴は大変な無能だ!」
「閣下!あなたが仰られている事はとんでもないことです!」
「知るか!パスタ野郎共は今までも散々迷惑を掛けてきたんだぞ!!奴は邪魔をし続ける!いっそのことあの時に私もやるべきだったのだ、ムッソリーニの首を落とすということを!フランスが革命で王族にしたように!it's判断力足らんかったァ……!」
「閣下流石にそれ以上は不味いです!下手をすると外交問題になってしまいます!」
「パスタ野郎共はもう侵略戦争を始めているじゃないか!これ以上の外交問題は無いと言うのに何が外交問題だ!私が何か言ったぐらいなんてこと無いわ!」
「それでもです!」
「それにエスカルゴ野郎共も国境付近でこれ見よがしに余計なことばかりしやがって!大人しく出来ないのか!?別に何してようが構わんが何故こちらに銃口を向けて来るんだ!!そんなに戦争をやりたいのか!?それとも生でエスカルゴを食べて寄生虫に脳を侵されたか!?」
「奴らは最初から裏切っていて、我々を騙し続けていたのだ!あぁ頭がおかしくなる!オッパイプルーンプルン!」
「これはドイツへの、我が同盟への恐るべき裏切りだ!」
「だが見ているがいい、その血で償う時が来るのだからな!己の血に溺れるのだ、ムッソリーニは!」
興奮して罵詈雑言の嵐をムッソリーニとイタリアにぶつけ、息を荒く肩を上下させながらゆっくりと椅子に座る。
「もはやこんな状態で外交による解決など出来ない。終わりだ……」
「だが言っておく。私は黙って連中が好き勝手するのを見ているぐらいなら直接乗り込んでムッソリーニの頭を撃ち抜いてやる……」
「「「「「……」」」」」
「今すぐに対イタリア作戦『鉄の制裁』作戦を発動せよ。やつらに自分達の選択が如何に愚かであったかを思い知らせてやるのだ……」
会議のすぐ後、ドイツ本国から降下猟兵師団8個、予備師団3個がオーストリア国境から越境。
2個予備師団が海軍の護衛を受けて海路からローマ近郊に強襲上陸を仕掛け、更に2個予備師団がナポリへ強襲上陸を行った。
ギリシャと北東アフリカに20個師団も抽出していたイタリア本土はガラ空きで、強襲空挺降下を喰らった北イタリアは1週間で陥落。
イタリア海軍は見つけ次第片っ端から攻撃して、史上初の空母対空母の戦いは地中海、イオニア海で勃発。
結果イタリア海軍は事実上の壊滅となる。
ローマに対しても2個降下猟兵師団が投入され、4日間ほどの戦闘の後に陥落。
その際にムッソリーニ始め、イタリア政府首脳部を丸ごと捕縛。
対イタリア戦は1ヶ月で終了した。
対イタリア戦の戦後処理はとりあえず対ソ戦が終わるまでは暫定的なものになった。
イタリア政府首脳部と軍高官は一旦刑務所に全員ぶち込んで裁判待ち、イタリアには5個2線級師団を配置して、主要港湾はドイツ管理下に置かれている。
ギリシャ、アフリカに派遣されたイタリア兵は即座に撤収させた。
とりあえずイタリアには対ソ戦に兵力を捻出させる事も決定し、具体的な兵力は後々に決める事になっている。
ムッソリーニが大馬鹿だったばかりに、地獄の戦争に参加させられる事になるとはなんと哀れな事だろうか。
まぁドイツ人が死なないならパスタ野郎共が幾ら死のうが構わないし、知った事か。精々肉壁ぐらいにはなってくれたまえよ。