【オルクセン王国史/二次創作】変わり者亡命白エルフと氏族長代理のその後   作:Telfe262

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当エピソードは以下の作品の読了後の閲覧を推奨します。

・オルクセン王国史 Web版本編
・オルクセン王国史二次創作『こちらオルクセン参謀本部 兵站部糧食課 食品研究室』幕間4『国王陛下の即売会』(Hastur_1様著)
https://syosetu.org/novel/372877/16.html
・オルクセン王国史二次創作『あるなもなき「黒」のげきじょう』(かさぎ修羅様著)
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24641974



外伝.変わり者亡命白エルフと氏族長代理 VS Das dünnes Buch

 星歴881年1月某日の深夜、ヴァルダーベルク近郊の未開拓地。

 

 普段は誰もいないような時間帯と場所にも関わらず、今そこには2名のエルフがいた。とある氏族の氏族長代理であるフィンリエル・アダリルと、その友人のシンウィアル・ブレギリルだ。

 厚着をした彼女らは言葉を交わすことなく、スコップで穴を掘っている。

 

 その傍らには、厳重に蝋などで封印された瓶が置かれている。

 2人とも穴を掘りつつも、時たまちらちらと瓶を見る。彼女らには、その瓶、正確にはその中身から何とも言い難い魔力のようなものが──いや、実際は魔力なんぞちっとも出てはいないのだけれども──発されているようにしか思えなかったのだ。

 

 なぜそんな事をしているのか。その原因は、数日前の出来事だった。

 

◆   ◆   ◆

 

 数日前、ヴァルダーベルク、フィンリエルらの居宅。

 フィンリエルは彼女の氏族に属するとあるダークエルフから相談を受けていた。それも他の子には知られたくないから内密に、という相談だ。

 

「どうしたの、相談って」

「実は…」

 

 そのとあるダークエルフが取り出したのは、1冊の本──さほど分厚くない、いやむしろ薄いと言える程度のものだ──だった。表紙のデザインは素っ気なく、無地の紙に題名と著者名──複数人による合作らしく、グループ名らしいものが記載されている──しか書かれていない。だが、どういうわけかフィンリエルには執念というか、妄念というか、ともかくそういったナニカが込められているように見えた。そもそも著者グループ名の『元祖ディネ姉様大好きファンクラブ』って何やねん。

 

「…これって、もしかして『あれ』の関係だったりするの?」

「そうです、『あれ』です」

 

 ──『あれ』。

 正式名称『第1回オルクセン・ブーフマルクト』、通称『オルケット』。

 戦後3年、あの時を振り返った回顧録や手記を世に出したい、という欲求を持った大勢たちの熱意、戦争終結とその後のエルフィンド併合がひと段落した結果仕事がだいぶ減ってしまった出版業・印刷業の救済、それらに関する国王談話などなどの事情が合わさった結果、昨年末に開かれた自費出版書籍即売会だ。

 

 フィンリエルとシンウィアルは行かなかった──興味がなかったわけではないのだが、ヴァルダーベルク自治区役所の正式な発足に向けたあれやらこれやらが大詰めというタイミングだったためそれどころではなかったのだ──ものの、別に氏族の皆の参加は制限しなかったため、幾人ものフィンリエルの氏族のダークエルフが国際商業展示場『シュヴァインメッセ』へと足を運んだものだ。

 

 中にはただの客としてではなく頒布する側になった者までいた。猟兵として従軍したベルリエンやロスリエルは、他の氏族出身の戦友と共に手記を執筆したのだ。

 またこのオルケット、特にジャンルに制限を設けていない。そんなわけでラインナップはまさしくなんでもアリであり、戦時中の回想録や手記に限らず様々な自費出版本が現れた。そんなわけでマルウィングは他の氏族のダークエルフと一緒にダークエルフの伝統料理のレシピ集を作成したし、エレンラエンはこれまた他氏族の者と一緒にキャメロットの有名探偵小説の考察本を出したり、といった事も起きている。

 

 だが。

 目の前の薄い本は、明らかにそういったものとは違った空気を放っていた。

 

「…ベルリエンとか、マルウィングとかが書いたのとはだいぶ違う感じよね、これ」

「実際、だいぶ違うんです…知り合いのツテで、こんなものが手に入ったというか、押し付けられたというか…ともかく、私の手元に来まして…正直どうしたものかと」

 

 件のダークエルフはというと、何やら変な汗をかいている。顔も少しばかり赤い気がする。

 

「その…なんだか、なんだか、すごい内容なんです…」

「ふうん、どんなのだろう」

 

 パラパラとめくるフィンリエル。彼女は、その軽率な行動を後悔することに、いや、後悔以外の何とも形容しがたい感情もあったのだが、とにかく感情を抱くことになった。

 フィンリエルはかつてディアネンに滞在していたころには、シンウィアルと共に様々な前衛芸術や新しい劇、新しい文学に触れていた。そんなわけで芸術や文学に対してはかなりおおらかな考え方の持ち主なのだが、その彼女をもってしてもこの本は、そのようなアレだった。

 

 ──こいつは、ヤヴァい。

 

「………すごいわね、これ」

「どえらいですよね、これ」

「…あなたとしては、これ、どうしたほうがいいと思ってる?」

「…ごめんなさい姉さま、私結局これ、どうするべきかわからなかったんです。なので、持ち込んだもので…」

「確かにそうよね…」

「…預かっていただいても、いいですか? 正直手元には置くのはなんかこう、アブない気もするし、何より正直言って怖いので…」

「…気持ちはわかる。わかったわ、預かって、どうするか考える」

「…姉さま、他の氏族長の皆さんとか、あるいはディネルース姉さま本人には」

「みなまで言わなくていいわよ、それはたぶん一番危険な選択肢だから選ぶつもりはないわ。内密になんとかする」

「ありがとうございます…!」

 

 とは言ってみたものの。

 さすがにその劇物は、ひとりでどうにかするには荷が重すぎた。というわけで親友のシンウィアルも巻き込むことにしたのだった。

 

◆   ◆   ◆

 

 ブツを読み、顔を真っ赤に──シンウィアルはエルフィンド政府に叛旗を翻し、フィンリエルと共にシルヴァン川を渡ってきた亡命白エルフだったため、猶更顔を赤らめているのがわかりやすかった──しつつ、どうするかを相談する。

 

「…やっべえな、すっげえな、これ。そりゃその子もフィンリーにどうしたもんかと相談するのも無理はない」

「でしょ?」

「とはいえ、なあ…手元に置いておくのは、アブないよね」

「シンウィーもそう思うわよね?」

「…いっそのことアレかな、燃やしちゃった方が良かったりするのかね」

「…考えないでもなかったけども、ねえ」

 

 内容は確かにすごいブツだ。だが、それはそれとしてディネルースを深く敬愛しているのはよくわかる内容でもあったのだ。いや敬愛というにはだいぶねじ曲がってる気もするけども。

 あとなんか、なんか、こう…焼却して灰にしてしまうのは…大変語弊があるが、強いて言えば、『勿体ない』ような気もするのだ。

 ともかく、それが彼女らの矛先を鈍らせていた。

 

「…確かにね。それに内容がアレだからといって燃やしてちゃ、旧エルフィンドの奴らと同じだ」

「そっか、それも確かにその通りね」

「でもかといって本棚に入れておくのも、ねえ」

「それは危険過ぎるわよ…でも、金庫とかに厳重に保管しておくのも、なんか違う気がするし…」

「万が一見つかったら、あらぬ誤解受けそうだしね」

「…さすがにちょっと嫌よ、あんな事とかこんな事とかディネルース姉さまとしたいと思ってるって誤解されるのは」

「同じく(「ちょっと嫌」程度で済むのか…)」

 

 じゃあどうしようか、と考えていると、ふとその辺に置かれているスコップが目に入った。

 園芸用のではない、大きなものだ。

 

「…もういっそ、穴掘って埋めよか。封印しよう、あたしらの手に負えるシロモノじゃない」

「…なるほど」

「そのまま埋めたらダメになっちゃうから、瓶に詰めたうえで厳重に封をしてさ、誰もわからないようなとこに埋めちゃおう」

「いっそそれがいいのかも、ね…」

 

 適当な瓶を用意し、その中に件の物体を入れる。

 

「無警告でこれだけ埋める、っていうのもちょっとアレかな…」

「メモ、入れておくわ…」

 

 適当な紙に書きつける。

 

『注意。劇物。我々にはこれをどうすべきかわからなかったため、このように埋めておくことにした。読んだ際の感情については保証できない。願わくば、これが見つかる事がないことを』

 

「………」

 

 書きつけた紙を丸め、スナップを利かせて放り投げる。綺麗な放物線を描きつつ、丸められた紙は屑籠にホールインワンした。

 

「どしたの?」

「…なんでもない、ちょっと書き間違えただけ」

 

『注意。劇物。我々にはこれをどうすべきかわからなかったため、このように埋めておくことにした。読んだ際の感情については保証できない』

 

 少々思う所があり、『願わくば、これが見つかる事がないことを』という部分は文案から削除したうえで新しい紙に書きつける。万が一これが見つかったら見つかったで、それが運命という事なのだろう、などと誰に聞かせるわけでもない言い訳を浮かべつつ、フィンリエルは紙を折りたたんだ。

 例のアレとメモを同封し、栓をし、中身がなるべく保存できるよう蝋で密閉。

 封印の準備をし、フィンリエルとシンウィアルは外へ出ていった…劇物入りの瓶とスコップを持って。

 

◆   ◆   ◆

 

 とまあ、そんなわけで冒頭のシーンと相成ったのである。

 夜目を魔術的にも利かせ、文字通り目を赤く光らせつつ──何しろモノがモノなのだ、カンテラなどを持って目立つようなことはしたくなかった──穴を掘る。そして。

 

「こんなもんでいっか」

「そうね、このくらい深ければ、そうそう出て来やしないでしょ」

 

 穴の底に瓶を放り込む。

 

「さ、もう二度と出てくるなよ…」

 

 そして穴を埋め、例のモノを封印する。埋めた場所には特に目印になりそうなものは置かない。彼女らには封印を解く意思はもはやなく、むしろそのまま忘れ去ってしまうつもりだった。本当に忘れることができるかはさておき。

 

「これでよし」

「あとは帰って忘れるだけね。行きましょ」

「そうしよう、お疲れ様」

 

 実のところ、例のモノは数十冊作製されたものであり、とあるダークエルフを経由してフィンリエルとシンウィアルの手元に届いてしまったモノ以外にも同じモノは出回っているのだが…2人ともそれはなんとなく想像できている。

 何より、手元に届いてしまったブツはこうして封印したのだ、今後他の個体がどこでどんな騒ぎを起こそうと知った事ではなかった。そこまでは責任は取れないし取りたくない。

 

 なおその後、埋められたブツが発見されたかは不明である。

 確かなのは、現場周辺の未開拓地は後日開拓され、十数年間農地として使われたということ。その期間、妙なものが出土したという記録は特に残っていないこと。

 のちにヴァルダーベルク自治区役所分館が建てられ、今となっては発掘調査することは非常に困難になっているということである…

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