貞操逆転世界の悪徳皇子になった俺、ひたすら魔石を食べて強くなり、破滅フラグを回避します   作:ナロウ・ケイ

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貞操逆転世界の悪徳皇子と、旋乾転坤の探索者稼業⑪:東回り航路

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 話は大陸の歴史に移る。

 大陸の東部を支配下に置く帝国は、北方の商業王国、南方の君主国と、海運による貿易を行っていた。背景には、羅針盤・帆船・緯度航法などの遠洋航海術の発達や、肉食文化の拡大による香辛料需要の拡大、および植民地主義・重商主義的な考え方の発足が挙げられた。となると当然、海運の拡大に伴って、北方~東方~南方を一気通貫でつなぐような大陸東回り航路が発展してもおかしくはないのだが、現実にはそうはならなかった。

 荒ぶる海が、それを許さなかったからである。

 

「海で死んだ人間は、死体が残らないから、きちんと成仏させてもらえないまま一生魂が海に囚われたままになっちまうのサ」

「海には、陸では考えられないような恐ろしい巨体の魔物が生息してやがるんだ」

「海の上では、陸の上で発動するはずの魔法が一部発動しなくなるのサ」

 

 海に生きる荒くれ者たちは、決して海を甘く見なかった。

 なぜならば、海の上では一切の常識が通用しないためである。

 

「冗談半分で海に近づいちゃあならねェ、アタイたちは海に生かされている」

「穏やかな海はあらゆる恵みをアタイたちに授けてくれるが、荒ぶる海はアタイたちから全てを奪い去る」

「星を読んで方角を調べ、どうか穏やかな天候でありますようにと祈りをささげるしか、アタイたちにはねェんだ」

 

 その女海賊は、【雷霆】の二つ名で知られていた。

 魚人族特有の、鱗と鰭のある肉体。背中の鰭は常に青白く光っており、祈りを捧げることで雷を呼び寄せる強力な力を持っていた。

 数々の罪状があり、帝国軍に身柄を拘束されて、処刑を待つ身であったが──彼女は数奇な運命により今もなお生かされ続けていた。

 

 それが、【雷霆】メアリー。

 商業王国と帝国の狭間で活動していた、古き伝説の海賊。

 

 そんな彼女は、思いもよらぬ人物から司法取引を持ち掛けられて、地下幽閉の刑からついに解放される運びとなっていた。

 

 

 

 

 

「正気かい? 北海と南海を東回り航路で繋ごうだなんて真似ざァ……命知らずな皇子様だねェ」

「だから、百年以上もの間ずっと地下に幽閉されていた禁忌指定の怪物と、司法取引をしようとしているんだよ」

 

 それが、因縁のあるマギデリックの一族。ルークという名前は聞いたこともないが、マギデリック一門の出身ということは、あの魔術狂いの【帝国の祖】の血を引く皇族であることは分かる。【雷霆】メアリーは、マギデリック一族の命令により、地下にずっと幽閉されてきたのだ。それがどういう話なのかは不明だが、同じマギデリックの一族によってその身を解放されようとしている。

 

「あんたァ、何考えてんのサ。アタシが怖くないのかい? どれだけの罪を犯したら何百年もの間、地下に幽閉されるのかってサ」

「皇族殺しのことか? 何百年も前の罪状だからなぁ」

 

 ルーク皇子は訳もなさそうに答えていた。

 どうやらこの皇子、自分の配下に皇族殺しを行った大罪人がやってきたとしても怖くもなんともないという。強がりにしてはお粗末すぎる。流石のメアリーも、これには耳を疑った。この若造は自分が何を口走っているのか、その意味をしっかり理解しているのだろうか。

 

「第一、俺の腹心は俺を殺そうとしたことがある奴がいるんだ」

「ハァ?」

「二人いる」

「ハァ?」

 

 自分を殺そうとした奴を二人も腹心にしていた。頭がおかしいのだろうか。

 

「他にも、俺に喧嘩を吹っかけてきた不良娘たちとか、俺を襲おうとした野盗連中とか、何処かの貴族の放った密偵侍女とか、そういうのが結構いる」

「あ……あんたァ……人望ねェのかい? なんてェか、もうちょっとマシな人選があったんじゃないのかい?」

「いや……人望はあると思うんだけど……人手が圧倒的に足りないんだよな」

 

 開いた口が塞がらないとはこのこと。

 長く生きてきたメアリーだが、こんな皇子は生まれてこの方初めてであった。何を言っているのか逐一よくわからない。おそらく嘘は吐いていないのだろうが、あらゆる発言が冗談みたいであった。

 

「第一あんたァ、アタシが裏切らない保証があるってのかい? アタシたち海賊は、おままごとやってる訳じゃあないんだぜ」

「俺もおままごとのつもりはない。本気の司法取引だ。お前の魂に、主従の刻印を刻み込むつもりだよ」

「……はッ、主従の刻印なんざァ古くてちゃちな術式、何度も試されたに決まってるだろ? アタシにその術式を成功させた奴なんか今まで一人もいなかったサ」

 

 皇子の案は、まるで馬鹿げているようにしか聞こえなかった。

 主従の刻印。それは戦争奴隷に施すような古い術式であり、相手の心を強くへし折ることで抵抗する気持ちを挫く、邪な魔術の一種である。逆に言えば、心を折るような拷問と同時に術式を発動しないと、大した効力を発揮しない場合がほとんどであり、敵愾心や憎悪といった感情をすべて拭い去れる訳ではない。

 即ち、反骨精神のあまりに強い者相手に主従の刻印を結ぶのは非常に困難なことであり、また成功したとしても、命令に背きはしないが命令以上に頑張るような忠誠心の高い部下を作ることは到底できない、非常に愚かな魔術である。

 また、強き者はこの主従の刻印が効きづらい。人一倍の魔力を持ち備えた宮廷魔術師たちが、こぞって【雷霆】メアリーの隷従に失敗したのだから、この皇子の妄想がいかに馬鹿げているか窺い知れようものである。

 

 そもそも、今から主従の刻印を刻むという宣言をするということは、今から拷問に処するということをわざわざ言っているようなものであり──。

 

「どうやって、このアタシの心を折るってェのかい?」

 

 この【雷霆】の名をほしいままにする、怖いもの知らずの海賊を、どうやって。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 簡単に言うと【雷霆】メアリーは、とにかく顔がいい男に目がなくて騙され続けてきた、ダメ男大好き姉御である。

 本人の能力は言うまでもなく高い。水面・水中マップを何の制約もなしに移動できるというユニット特性に、海図を読む技能、星図を読む技能、天候を読む技能、風を読む技能、潮の流れを読む技能、指揮能力にカリスマ性、幸運系の技能まで備えている。そのうえ、雷を自分の近くに落とすという固有技能がとんでもなく強く、鯨などの巨大な魔物であっても大抵一撃で仕留めることができる。もちろん雷にも弱点はあり、結晶人形(クリスタルゴーレム)のような無機物系の魔物、幽霊系や不死者系の魔物に効果が薄く、また一日に一回しか発動できないという制約もあるが、それを加味しても【雷霆】メアリーは壊れ性能と名高いユニットである。

 

 その一方で、陸に上がると技能のほとんどが役に立たず、雷を発生させる技能も使用不可になるという、とんでもない弱体化を受けるユニットでもある。

 海でしか役に立たない極端なユニット、それが【雷霆】メアリーなのだ。

 そんな彼女の、ちょっと残念な性格を熟知している俺は、顔の良さだけでごり押ししようと目論んでいた。そしてそれは半分成功した。

 

「でもあいつ、天候が読めるだけでも、結構うちの領地経営に役に立ってくれたんだよな」

「殿下のこと、ずっと呪ってましたけどね」

 

 伝説の女海賊メアリーは、屈服させるのに骨が折れた。流石に何百年と生きている超越者だけあって、刻印を刻むのに何日もかかったのだ。

 というよりは「今日心が折れなくてもまあ、明日もやるからいいか」と気長にやってたら勝手に心が折れたらしい。本当に良かった。屈服させ切るには、時間をかけるか、強度を上げるかのどちらか二択しかなかったのだが、強度を上げるほうは健康被害が出そうだったのだ。(痙攣して吐き戻す、食事を受け付けない、皮膚をかきむしるなどの自傷行為を行う、等)

 ただ、これでもワヤが普段受けている強度と同じぐらいに過ぎない。ラネールとカマソッソに言わせたら「生温い」とのことらしい。

 当の本人には「こ……このガキゃあ……このアタシをこましといて、ただじゃおかねェぜ……」と半泣きで睨まれたのだが。

 

「でも俺、メアリーには優しくしたつもりだけど。『どうする? 明日からもっと強度上げてみても大丈夫?』って毎日目標を摺合せてたし」

「目標とか言ってる時点でだいぶ人の心ないですよ殿下」

 

 ロナにやんわり咎められたが、そんなことを言われてもちょっと困る。一応相手は大罪人なので油断は禁物であり、念入りに屈服させないといけなかったのだ。大海賊メアリーよりも俺の方が遥かに外道、みたいな感じで色んな人に噂されてしまったが、身の安全が第一に決まっているのでこうせざるを得なかった。手厚い福利厚生で報いているつもりなのでこれぐらいは許してほしいところだ。

 

「で、実際のところ東回りの航路は成立すると思いますか?」

「時間をかければ成立すると思うけどな。あの辺の魔物、雷に弱いし、メアリーが順当に駆逐して行ったら東回り航路を邪魔する魔物はいなくなるはず」

 

 ロナの問いに、俺は呑気に答えた。【雷霆】メアリーの仕事は、およそ二年以上前、俺がジャヴァリの森の領地経営に勤しんでいた頃から始まっていた。

 すなわち帝国の東の海の平定化である。他にも、東の海から天候情報を俺に逐一送ってくるようにもお願いしていて、その情報がかなり領地経営に役立ったのだが、主目的はあくまで海の平定化としていた。海賊に海の平定を任せるのは昔の時代からの常識。大がかりな海軍を保持する海洋国家であっても、実態を紐解けば、海賊と上手く共存したりしていたりするのが歴史の常である。

 

 彼女の手下には、俺を襲ってきた阿呆な野盗たちとか、俺を頼って傷病が快癒した人々とかを都度都度送り込んだ。やはり彼女も人手が足りていないらしく、魔物退治に四苦八苦していたらしい。

 

「まあ二年あれば、かなり海の魔物は減ったと思うけどな」

「この二年で東回り航路の実現に向けた検討もかなり進んだみたいですしね」

 

 二年間は短い期間だった。

 俺は俺で、ジャヴァリの領地経営に精を出す傍らで、北海~帝国海~南海を東回り航路でつなぐ大構想の案を帝国議会に審議できた程度。

 実現できれば巨大な利権になる反面、実現性が不透明であり、危険度の見積もりさえもままならない実態で、議論は極めて難航した。その一方で、【雷霆】メアリーの活躍あって、二年間のうちに着実に帝国東方の海の魔物は数を減らしていた。

 半信半疑、期待半分、そんな状況下で、発案者の皇子の招集さえも待望されていた最中──俺が領地を空に打ち上げて全部の議論が吹っ飛んだところである。

 

「なんだか、ジャヴァリの森を開拓して、大がかりな港を建造する予定だったみたいですよ。木材は森にたくさんあるので、船もたくさん作れると」

「素人の考えそうな案だな*1。問題は船の量じゃなくて、運航可能な船腹量なんだけどな」

 

 俺のせいで、ジャヴァリ森林地域があらかた空に飛んでしまったため、帝国内もかなり混乱しているであろう。実際、東回り航路の港の建造に当たっては、大量に木材資源を供給できるうえ、一万人規模の都市を創出したこのジャヴァリ領をかなり頼みにしていた節がある。物流の中継倉庫としても申し分なく、巨大な商業圏があるという観点も加味すれば、このジャヴァリの地のそばに港を作るのは常識的な発想である。

 本件は、再三再四、宰相閣下ならび財務卿閣下に『絶対にジャヴァリ領を当てにしてはならない』と内々に釘を刺しておいたのだが、どこまでそれが織り込まれているかも不明である。俺が打ち上げた大構想であるだけに、俺本人が議論を大きくかき乱してしまったのは非常に心苦しい。心苦しいが仕方がない。今まで原住民の統治も行き届かずに持て余していた魔物生息地を、後になって部外者がどうこうしたいと言うのは虫が良すぎる……ということで勘弁してほしい。

 

 

 

 ………………。

 …………。

 

 

 

「そういえば領地経営ってどうなってたっけ」

「東回り航路の話はもうよろしいのですか?」

「いや、一応現状の確認をしようかなと思って」

「問題なく引き継いでいますよ、エレオノーラ司教とアンシュとリコッタが死にそうになっていますが」

 

 俺の質問に、ロナが手短に報告をまとめてくれた。聞いていると細かい問題は色々ありそうだったが、総じて大した課題はなさそうに思われた。要するに時間をかけたら解決する問題ばかりであった。

 水源問題も食糧問題も魔物問題もあらかた片付いた後、領地が空に飛ぶようになってから、ジャヴァリ森林地域の領地経営は、ほとんどの権限を臣下に委譲し終わっていた。領地経営の難しい部分を終わらせた後なので、おおむね現状維持でも問題なく回るようにはなっている。ただ、それでも急ごしらえの領地ではあるし、学のある人間が少ないので非常に苦労は多そうであったが。司教のエレオノーラと女商人アンシュと女義賊リコッタは、わざわざジャヴァリの地まで連れてきた優れた人材である。彼女たちであれば人材不足も何とか乗り越えられると信じている。

 一方、内政という意味ではともかく、それ以外の面ではかなり問題が山積みになっていた。

 つまり、外交面である。

 

「ミカエリス女教皇の求婚に対して返答を濁しているのも、限界が近いと思います」

「そうだよなあ……」

「どこで嗅ぎつけたのかは知りませんが、帝国を除く大陸の四大勢力が東回り航路の話に警戒を高めています。そんな情勢下で、空飛ぶ領地が突如現れたせいで、いろんな国がてんやわんやしていますよ」

 

 本当に、一体誰が領地を空に飛ばすだなんて無法なことをやったのだろうか。

 探索者ごっこをしている場合ではない、ということを暗に仄めかされたが、本音を言えばまだまだ呑気な探索者生活をしていたいところだった。書類仕事は楽しくないし、しょうもない利権に巻き込まれるのはもうこりごりなのだ。

 ちなみに、今まで特に記載していなかったが、実はこの短い期間に、他の探索者ギルドをいくつか転々としている。理由は言わずもがな。俺に協力してくれる探索者たちを増やすためである。決して、飲み比べをけしかけて人を借金漬けにするのが楽しいからではない。各地でタダ酒とタダ飯にありつけるのが楽しいからだとか、魔石を貢いでくれる部下がたくさんほしいからだとか、毎日飲んでいるだけで自分の代わりに勝手に迷宮攻略を進めてくれる手駒が揃うからだとか、散々な噂も囁かれたが、事実無根もいいところである。偶然そうなっているだけだ。そう、偶然である。

 

「でもほら、色んな探索者ギルドに足を運んで、大規模討伐(レイド)がしやすいように指導するのも大事な仕事だろう? 魔物災害が起こった時に被害を減らすためにね」

「……事実上、いくつかの探索者ギルド支部の経営方針に発言権を持つための措置と見られていますよ。皇子の名前で行(・)政(・)指(・)導(・)を(・)行(・)っ(・)た(・)ということですから」

「さあね? 俺は体制立ち上げの手助けをしただけで、ど(・)う(・)解(・)釈(・)す(・)る(・)か(・)は(・)自(・)由(・)だ(・)よ(・)。そりゃあ近い将来、俺の名前でち(・)ょ(・)っ(・)と(・)し(・)た(・)お(・)願(・)い(・)を出すかもしれないけどさ」

「口先だけでただで動かせる兵力ですよね」

 

 人聞きが悪い。

 確かに各地の探索者ギルドに赴いて、大規模討伐(レイド)の準備のための環境調査、兵站計画の立案、地元の武器商人たちとの連携、その他継続的な勉強会の立ち上げまでを行ったが、それ以上のことはしていない。確かに多大な恩は売りつけたし、ここに『皇室の印璽の勅令書』なんてものを送り付けたら、探索者ギルドの一支部に過ぎない彼らは喜んで協力してくれるだろう。そもそも非協力的な態度を取ること自体が、帝国皇室に対する不敬罪にあたるとして、皇室直属の兵力を派遣できる正当な理由にもなる。

 とはいえ、俺はただ、各地でタダ酒とタダ飯にありついて賭博で遊びつつ、俺に会いたいと懇願する権力者たちを面倒くさい勉強会とかに組み込んだだけ。大したことはしていない。

 

 もちろん、兵力拡大なんてやっていない。

 俺の保有する兵力は『ジャヴァリ森林地域』の住民だけ。もしかしたら偶(・)然(・)、俺のお願いを聞いてくれる人たちが増えたかもしれないが、帝国法にも国際条例にも抵触することはしていない。

 

「そもそも今、私たちは大陸の東の端のジャヴァリの地から、徐々に大陸の中央に向かっていますよね」

「まあ、そうだな」

「帝国を端から端に横断していますよね」

「帝国も広いからな。新婚旅行みたいなものだ」

「……えっと、はい」

 

 そうじゃなくて、と咳払いされて話を戻されてしまった。ちょっと頬が赤らんでいるのが可愛らしかった。

 

「帝国内で猛威を振るっていた大型の魔物や、手が付けられなかった高難易度迷宮を、どんどん駆逐していますよね」

「まあ、東から中央に順番に移動すると、そうなるな」

「帝国内にいる有力な探索者たちを、どんどん借金漬けにして手駒に加えていますよね」

「彼女たちは俺に賭けで負けただけさ。俺の手駒じゃなくて、借金返済のために俺に協力してくれているだけだよ」

 

 もちろん旅の過程で、魔物討伐や迷宮解放のために帝国宮廷の軍務省や内務省と協力したり、感謝されたりすることはあったが、そんなのは結果論である。たくさん魔物を狩って、たくさん迷宮を攻略したら、たくさん魔石が手に入る。とても単純な動機に過ぎない。

 

「殿下の旅のおかげで、領地内の魔物問題や高難度迷宮の問題が解決したというお礼の手紙がたくさん届いていますよ」

「一応お忍びの旅なのに、わざわざお礼の手紙を送ってこられても困るんだけどな。まあ、お礼ならいいか」

「他にも、内政干渉で帝国最高裁判に訴えるという苦情の手紙もいくつか来ていますよ」

「お忍びの旅なのに……?」

 

 よくある嫌がらせだろう。内政干渉という抗議は、相手がどんな証拠を提示するのか想像もつかないが、無視しておいても大したことにはならないだろう。もちろん領地経営や行政を邪魔した記憶はない。俺も全ての貴族から好かれているわけではないのだ。

 

「まあ、海運構想と並行して、陸(・)運(・)の(・)整(・)備(・)も必要だよねってだけの話だから、帝国宮廷のお偉方も分かってくれるとは思うけどね」

「それって、殿下の仕事ではなく、軍務省の仕事では……?」

 

 どうやらロナも、帝国内の面倒くさい政治が徐々に分かってきたようであった。彼女の疑問はしごく真っ当だった。

 魔物を狩って治安を維持する業務は、確かに帝国軍務省の所轄にあたる。

 その一方で俺は本来、宮内省皇室庁の権限内でしか動けない名ばかり皇族でしかない。正親司からお金をもらって、偉い人と挨拶して、お飾りとして暮らして……とか、そんな程度のことしか許されていない。ところが色々とあって*2*3、五歳のころから十三歳に至るまでに、財務省主計局とか法務省あたりの官僚貴族にあちこち人伝を持っている、権限のある偉い貴族とすぐ会談に持ち込める"便利屋"さんのようになっていた。*4

 その一方で、軍務省とは色んな経緯があってとても仲が悪かったのだが、この機会に手土産ぐらいは渡してやってもいいだろう。

 

「手柄は俺じゃなくていいんだよ。俺じゃない奴に貸し付ける。高い貸しになったらそれでいいんだ」

「……。そういえば殿下のこと、宰相閣下の懐刀だなんて噂が流れていますが、もしかして……?」

「そういう噂があったら、どんな結果になっても宰相閣下にやんわり押し付けられるだろう? 事実、領地が空を飛んだっていうのに、これが帝国政務会議で公認されたみたいになっているじゃないか。これぞ宰相殿の深謀遠慮なのだ、とね。これが手柄の貸し付けってやつだ」

「……そうなんでしょうか?」

 

 流石に噓でしょう、とロナには怪しまれてしまった。そう言われてしまうと、まあ、正しい政治の姿ではないので、俺も言葉に困ってしまう。

 これにて宰相閣下は、軍務省との協力のもと、東回りの大規模海運航路の整備と、高難易度迷宮の解体による陸運の整備に多大なる貢献をなさいましたとさ。めでたしめでたし。そういった筋書きが後から出てくる。ただそれだけなのだ。実行している俺が凄いのではなく、裏で糸を引いている宰相閣下が凄いのだ、という噂が勝手に出来上がり、俺の行動は何故か勝手に正当化される。実態は、俺が好き放題やっているだけなのだが。

 

「もう少しゆったりと探索者生活したいものだな」

 

 こういう話は、ロナ、ラネール、カマソッソぐらいにしか出来ない。俺と一緒に行動してくれている四英傑のみんなにも軽くそういう話をしてはいるが、これぐらいの解像度まで踏み込んで理解してくれる訳ではない。この前なんか、口の悪い賢者様(キルケ)に、『タダ酒せびって女を借金に追い込んでいるだけ』と一刀両断されてしまった。ひどい物言いだった。

 タダ酒もタダ酒で忙しいのだ。絶対に理解してもらえる気はしないが。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 




 Tips:
 ■【雷霆】メアリー
 海賊帽とカトラスとマントと葉巻の似合う、魚人族の女傑。
 成人向け戦略RPG【ナイツ オブ カルマ】では、条件を満たすと仲間に加入する隠しユニットとして登場する。水面・水中マップを何の制約もなしに移動できるというユニット特性に、海図を読む技能、星図を読む技能、天候を読む技能、風を読む技能、潮の流れを読む技能、指揮能力にカリスマ性、幸運系の技能を持ち備える。雷を自分の近くに落とすという固有技能を持っており、使いどころが限られるもののほとんどの敵をこれで一掃できる。
 陸に上がると技能のほとんどが役に立たず、雷を発生させる技能も使用不可になるという、とんでもない弱体化を受けるユニットではあるが、それを踏まえても作中屈指の強キャラである。
 とにかく顔がいい男に目がなくて騙され続けてきた、ダメ男大好き姉御キャラであり、褒めておけば勝手に好感度が上がるチョロさが逆に人気を博した。
 性欲が凄い。

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