魔法使い、一身上の都合により世界移動す ~そして、世界全ての破壊者へ~   作:無淵玄白

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ながらくお待たせしました


『望外邂逅、始まる戦いの中で』

 

「抜き足差し足忍び足―――なんつっても意味はないな。これほどまでに草木が生い茂っていると」

 

鉈を手に、獣人族の神殿に向かう。そこに向かうまでの道は正しく悪路というか全く手入れが成されていなかった。

 

「大勢の人が近日に入ったならば、それなりに道も踏みしめられて、草も押し固められているはずだが、その様子はない―――やはり、下手人は一人か多くても三人ほどだろう」

 

仮面の団長の言葉を受けて、それでも……。

 

「しかし、魔石獣を転移させられているところから、相手もここに直接転移している可能性も除外すべきではないでしょう」

 

まぁ、それはあり得る。イングリスの言葉を受けて可能性は無限と思いながら―――開けてみれば分かることだ。

 

「ところでだ。ミスタ・セツナ」

 

いきなりな声掛け。前を歩く団長が口を開いたのは自分に対してだ。

 

「ミスターはいらないですよ。団長殿」

「うむ。ならばセツナ君。先頃出没している獣人の美少女……名前はあるのかね?」

 

そちらを問われるとは思っていなかった―――わけではないが、とりあえず答える。

 

「彼―――いや、彼女の名前はドブルイニャ・ニキチッチ。ちなみに言えば天恵武姫ではありませんよ」

「ふむ……少々羨ましいな」

「主?」

 

寂寥を秘めた声が森の中に溶けるが、それを聞いたシスティアが慌てる。

 

「白状するが、私には『名』など無い……こうして旅団を率いて天上領に反旗を翻しているのも所詮は、怨念返しでしかない」

 

全員が沈黙する。まさかそんな過去話をしてくるとは予想外すぎたからだ。

 

「本当ならばレオンのような素性確かで名声もある存在が、リーダーになるべきだ。私のような仮面の人間など組織の頭には相応しくない」

「だが、アンタが旗揚げした組織で、アンタは現実に天上領への反抗を確かにしている。チカラを与えられる側でしかない俺達じゃ無理だ」

 

独白に対して、組織の勧誘に乗ったレオンが物申している。

自分が信じた旗が揺らぐのがイヤなのだろう。そう感じておく。

 

「ああ、だからこそ」

 

厳かに何かを訴えるような口ぶりで――――

 

「私にも名前が欲しいのだよ」

「ナニ言ってんだアンタ、アタマ大丈夫か?」

「貴様!主を侮辱するのか!?」

「まぁまぁ!ウチの弟の気持ちを理解してくださいよ!!」

 

思わず出てしまったツッコミに対してシスティアが槍を持ち出さんばかりに激昂して掛かるも、セツナとしては呆れるような顔しか出来ないのだ。

 

「で、団長殿は何故、名前を欲するんですか?」

 

質問を発したのはイングリスだが、まぁ全員が覚える疑問ではあった。

 

「ただの気紛れさ。かつて戴こうとした名前は色々と不都合なのでな」

 

はぐらかされている思いを覚えながらも……。

 

「それじゃあ、東島丹三郎(タンザブロウ・トウジマ)というところで」

 

そんな名前をふざけるように言ったのだが……。

 

「ほう。いい名前だ―――なんというか「仮面」を着けているとものすごいチカラが湧きそうな「言霊」を感じる。うむ気に入ったぞセツナ君」

 

正確には「仮面」じゃなくて「お面」だけどな。などと内心でツッコミを入れつつ無駄話をしている内に神殿の入口が見えてきた。

 

門扉としてあったのは、簡素な岩戸。

 

何かの紋章が彫られた岩戸を開くことは―――。

 

「……自動開閉なのか」

 

自分たちが来たことに反応してのものならば驚くべき技術力と思いつつ、遂に神殿に入り込む。

 

神殿の内部は獣人たちのためなのか、かなりの広さを持っている

 

「――――氷漬けの獣人さんたちの魔石獣……!!」

 

ラフィニアの言葉通り、以前に遠隔映像で見た通りのものがそこにあった。

 

遠隔映像では見きれなかったが、どうやら百体以上はいそうだ。

 

(逐次戦力投入とはいえ、これだけの数がゲリラ的に現れていたらば、まずかったろうな)

 

もっとも、ここで全てと戦うとなると、それはそれでマズかろうが……。やるしかないのだ。

 

「セツナ、アレ!!」

 

などと左右の壁に立像のように氷漬けになっている獣人に感想を漏らしていると、イングリスの言葉と指差しで示された場所を見ると―――。

 

「ニキチッチ……」

「そして、あの黒ローブは恐らくハイランダーだ」

 

中央の祭壇というべき場所にいたのは、その二人である。

 

「まさか地上の尊き立場の方々もいるだろうに、こんな草ずれ多かろう森の奥深くまでやって来るとはね。驚きだよ」

 

ちっともこちらのことをそうは思っていないだろう口調でいけしゃあしゃあと言う短躯の天上人の言葉に少々言い返したい気分が出る

 

「こちらとしても意地腐れで陰湿なチクチクとした戦力投入をされると嫌なのでね。性格ワルイったらありゃしない。腐ってやがる―――人間性が」

 

目深に被ったフードで表情こそ見えないが、口元がヒクヒクと動いたのは間違いない。

 

どうやら……そういうヒトのようだ。自分が優位な立場のはずなのに、いまはまだ隠さなければならないことに耐えきれていないようだ。

 

もしも公的な立場をひけらかしていれば、とんでもなく幼稚な振る舞いをしていたかもしれない。

 

(こらえ性のない―――自分の立場を弁えないガキか)

 

プロファイリングを終えて、フランチェスカ1/2(にぶんのいち)などと評しつつ……。

 

「あちらにいる幼稚なガキのハイランダーは、旅団方に任す」

 

「ワルイな。動けない獣人方の介錯をさせちまって」

 

「気にしないで、アナタはアナタの仕事を」

 

セツナが言ったことにレオンが答えて、エリスも返したことで即座に役割分担が為されたのだが……。

 

「叫べ、異■の闘士よ」

 

その下知を受けて砕いたはずの仮面を再度着けられたライダーが遠吠えを上げる。

 

神殿全体に反響するウォークライとでも言うべきものを受けてなのか、氷漬けの獣人魔石獣の目が開き身を震わせていく。

 

つまり―――。

 

『『『『GOAAAAA!!!!』』』』

 

解放された魔石獣が、敵意と殺意を向けるのだった。

 

即座に反応したのはセツナとイングリスであった。

 

いざ動き出そうとした魔石獣の額に彼女曰くの「エーテルピアス」なる細く収束させた貫通性の高い魔弾を打ち放ち、セツナもまた相手の顔を吹き飛ばす威力の魔弾で黙らせていく。

 

さすがのイングリスもこの状況では横綱相撲は取らないようだ。

 

「流石に魔石獣に制御は利かないが―――

乱戦に持ち込むことは出来るんだよ!」

 

勝利を確信したように言う天上人。

 

しかし―――。

 

「あそこにいる『アークロード』の始末は私とシスティアで請け負う。レオン、君は君の弟妹たちを守り給え」

「―――っ!!お前は一体!!」

 

自分の素性をバラされたことで、急所を突かれたように動揺を簡単に見せる天上人は、やはりみたままに幼い。

 

もっともこの状況では仕方ないかもしれないが、このトウジマ仮面の素性はアークロードにとって分からぬ脅威だ。

 

「了解、トウジマ団長」

 

アークロードなる子どもとは違い、この状況では軽口も叩けぬことを分かってるレオンは『鎧』を纏って完全に戦闘態勢だ。

 

「使え、光線剣(レイブレイド)は消耗が激しいだろう」

『おう、サンキュー』

 

レオンに合わせた(フィットした)実体剣を投げ渡す。

 

そうしながらも魔弾で即時処理をしていたのだが、覚醒早期(寝起き直後)のものが処理しきれなくなっていく。さすがに一体倒す間に五体以上も氷から起き出しているのだ。

 

そしてセツナよりも燃費よく連射が出来るイングリスの貫通弾も徐々に防御されていく。流石に同胞たちが額を貫かれていけば、頭を防御するという行動に出てくるか。

 

遂に自由の身になって本格的な戦闘行動に出てくる獣人魔石獣を前にして。

セツナは決意した。

 

「トレース・オン」

 

右腕の刻印を動かして魔力封じの武器をその手に持つ。今日ばかりは、見せずに戦うなど出来そうにない。

 

最初っから全力である。そうして破魔の紅薔薇と元の世界では呼ばれる紅い槍を、獣人の心臓に打ち込んで殺害していくのであった。

 

そこにあったのは高潔な戦士としての戦いではなかった。ただの殺戮者としてのものだ。

 

もっとも……。

 

(やはりセツナはどこからか武器を出している。その武器は天上領のアーティファクトに遜色ない!魔力を断つ紅い槍は、この場において最強のカードだ!!)

 

などと毛色の違う感想を出していたイングリスだったが……。

 

「?」

 

少しの違和感を脚に覚えてしまって魔石獣の攻撃に対する反応が少し遅れた。

 

とはいえ微々たるものであり、すぐさま反撃に移る。仮面トウシマの戦うアークロードなる短躯の少年みたいな天上人とも戦いたいが、今は魔石獣優先である。

 

しかし、どうしても疼く思いを抱きながらも、多くの人間たちによって神殿という岩肌の洞窟での戦いは熱気を帯びていく……。

 

 

 

 

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