メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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スペースシャトル・ララバイ⑦

「……やあ、今日は来てくれてありがとう」

 

香ばしい落ち葉の匂いが漂うプロムナード。昼下がりの甘く柔らかい風が吹き、メロディアスな雰囲気が漂うタイルの上に立ち、僕はおずおずと、口を開く。

 

「ごめんね、こんな貴重な時間を割いてもらっちゃって。少し、伝えたい事があってさ。まずは……そうだね、選抜レース、一着おめでとう。本当に最高の走りだったよ。スタートも良かったし、コーナーでの位置取りも、最後の追い込みも、何もかも練習の時より遥かにキレがあって…………それと、これはただの僕の感想、なんだけどさ。なんだか僕には、あの日の君が本当に、本当に誰よりも輝いて見えたんだ。君が脚を踏みしめる度に舞う砂埃が夕陽に反射して、きらきらと君の身体中をライトアップしているみたいで。思わず、目を奪われた。気流に乗って靡くその髪だって、まるで尾を引く彗星のように、何よりも輝いて見えたんだ。子供の頃からずっとレースを見続けてきたけど、こんなに見蕩れるほど美しく走るウマ娘は、君が初めてだ。本当に、ずっとずっと眺めていたいと思った……けど、だけど、解ったんだ。眺めているだけじゃダメなんだって。白鳥が水面下で必死に水を蹴っているように、君だって輝き続けるために、血の滲むような努力を重ねている事は、このひと月観察を続けて、よく解った。僕は……僕は君のような強い人になりたい。君と同じくらい。いやそれ以上に、君を支えられるくらい強いトレーナーになって、君という彗星の、これからの旅路を共に歩んでいきたいと思っている。だから……本当にまだまだ悩んで、間違ってばかりの弱いトレーナーだけど……どうか、どうか僕を……君の専属トレーナーにして欲しい……!どんな険しい旅路になろうとも、覚悟は出来てるから……どうか、僕のこの手を……取って、くれませんか?」

 

 

「長い!!重い!!そんで怖い!!!」

 

 

「は?」

 

僕の決死のスカウトに待ったをかけたのは、あの日見た『未知』のウマ娘、『メジロアルダン』……ではなく、無駄に見知った、もう説明するのも面倒なほど見知りまくった同僚トレーナーの声であった。

 

「怖い!何お前怖い!?言ってる事も怖いし、喋ってる最中息継ぎもまばたきもしてないのが怖すぎるんだけど!?」

「なんだと?何が悪いって言うんだ?」

「さっきから目ェバキバキなんだよ!怖ぇからこっち見んな!頼むから!」

 

なんだかよく分からない文句をつけられ、渋々と足元の落ち葉に視線を落とす僕。時刻はもうすぐ十三時、彼女との約束まであと二時間あまり、か。

 

「スカウトの練習っつうから黙って聞いてりゃお前……言ってる事は分かんだけどよ、熱烈過ぎんだよマジで、プロポーズでもするつもりか?」

「えっ……いやいやいや、生徒とトレーナーだぞお前……」

「え、何、俺がおかしい事にされてる?」

「別に、彼女くらいのウマ娘をスカウトするんだ、それなりの誠意を示すのは当然でしょ」

「664文字分も誠意かけんのは、もはや謝罪文かなんかだろ。もっと気楽にやりゃいいんだよ気楽に」

「分かんないなぁ……チヨノオーの時はどう言ったのさ?」

「チヨの時は…………いや、やだわ。なんでお前なんかに教えなきゃいけないんだよ?勝手に想像してろ」

「気楽……気楽……『じゃケイヤクすっか!』『んだ!』みたいな感じ?」

「んなわけあるか!てかそれこそプロポーズじゃねえか!」

 

 

「こりゃあ!あんたら真面目にやっとるんじゃろうな!?」

 

 

「うっ!?は、はい!もちろんです!」

「はぁ……ったく、なんで俺までこんな目に……」

 

用務員さんの怒鳴り声を耳にして、慌てて両の手を動かす僕。いけないいけない、何はともあれこの中庭掃除を終わらせないと、どっちみち彼女の元へは行けないのだ。僕は頭の中溢れ出す言の葉をああだこうだと縫い合わせながら、同時に手元の竹箒で、周囲に巻き散った落ち葉も根こそぎかき集めていく。

 

「『選抜レース観戦に熱中した結果、身を乗り出し過ぎて誤って転落』……で、何とか理事長は納得してくれたがなぁ。今度からは俺と関係ないとこでやってくれよな、マジでよ……」

「……まあね、今回ばかりは悪かったよ。そうだな、次やる時は誰にも迷惑かけないように頑張るさ」

「嘘でも『二度とやらない』って言ってくれよそこは……っと、この辺はこんなもんでいいだろ。ほら、よこせよお前の箒」

「ん?まだ半分くらい残ってるだろ?」

「もういいよ、後は俺がやっとく。お前は色々準備しなきゃいけねー事あんだろ、知らんけど」

「……何さ、幸せになる壺なら買わないよ?」

「だからちげーって……ま、そんかわり『喧嘩』は買ってもらうけどな」

「?」

 

半ば無理やり僕の手から竹箒をぶん取った奴は、なんだかよく分からないしたり顔を浮かべながら、こちらの表情を覗き込んでくる。実に鼻につくその顔面、グーかパーでも入れてやろうかと思ったが……まあ、今ばかりは分が悪いので、やめておくとしよう。

 

「これでお前も、晴れて心置きなく目指せるだろ、『日本ダービー』。お前の観察眼とメジロアルダンのレースセンス……相手にとって不足はねぇ、全力でぶつかってきやがれ」

「…………」

「まあ、お前の目指したい場所がそこじゃねえってのは分かってるけどな。だがダービー程度も勝てねえようじゃ、世界最強ウマ娘トーナメントなんて、寝言もいいとこだぜ?」

「………………ふっ」

 

ダービー程度も勝てないようじゃ……か。まあ、それもそうかもな。突き出された奴の拳をまじまじと見つめながら、僕もまた、返す刀で口を開く。

 

「いやそれは彼女がクラシック目指したいかどうかによるだろ。ここでお前が勝手に決めるんじゃないよ」

「それは………………まあ、その通りなんだがよ……」

「ま、でもそうだな、数あるルートのひとつとして『提案』くらいはしといてやるよ」

「……!」

「……って、そもそもスカウト受けてくれる前提で考えてて大丈夫か……?あれから一晩経ってるわけだしなぁ……もしかしたらその間に心境の変化があって……」

「だーーーっ!余計な事考えんな!ほら!さっさと前見る!歩く!GOGO!」

「いだだだだ!押すんじゃないよ!…………ったく」

「あ?」

「……その、色々気回してくれて、ありがとな。僕だって確かに、相手にとって不足なしだと思うよ、チヨノオーも、お前も」

「ふん、余計な事考えんなつったろ?おら走った走った!」

 

 

──────────────

 

 

今の僕に、夢なんてない。

 

 

「サブトレさーん!スポドリ出来て……ん?」

 

「サブトレさん?タオル乾……えっ?」

 

「サブトレさん!教本で……あれ?」

 

「サブちゃん!脚疲れた!マッ……」

「…………」

「……どしたんサブちゃん?そんなにバチバチのジャケットなんか着ちゃってさ?それ、サブちゃんの一張羅じゃん?」

「ああ、ちょうど良かった、君には……えーっと……あった!」

「なんこれ、本?『一人でもできる、クールダウンマッサージ指南』……?って、おお!なーるほど!あの『風の噂』はホントだったんか!」

「風の噂?」

「サブちゃんにも担当ついて、独り立ちすんじゃね?ってウチらの間で話題になってたんよ?やー、ついひと月前にサブたろーも出ていっちまったし、さみしくなるなぁー」

「すんごい棒読み……ま、学園から居なくなる訳じゃないし、どっかですれ違った時はよろしくね?」

「うむうむ、頑張るのじゃぞサブちゃんよ……」

「えっ、いきなり何そのキャラ……」

 

あるのはきっと、どうしようもない『エゴ』と『怨念』くらいのものなんだろう。人に話せば、笑われるか怖がられるか引かれるか、そんなどうしようもなく不純で身勝手な欲望……いや、今というよりずっと僕は、それを『夢』なのだと誤認してきたのかもしれない。夢という綺麗な型に当てはめて、己の歪さを、視えないように取り繕ってきた。

 

「てかこのプレゼント、全員分用意してるん?行動力エグ!」

「みんなには随分世話になったからねぇ。あ、もし迷惑なら捨て……いや、図書室に寄贈でもしてくれればいいからね?」

「せんてそんなん!たぶん!あ、あと誰に会えてないん?ウチ呼んでこよか?」

「あー、いや、あと一つだけだから、大丈夫だよ」

「そなん?って、なんこれ、参考書?それもトレセン用じゃなく、ふつーの高校用のじゃん。こんなん欲しがる娘、トレセンにおる?」

「……これは、そうだなぁ、今日渡すのは無理かな。また、いつか」

 

……その事をもう少し早く自覚して閉じ篭っていれば、傷付けずに済んだものだって沢山あるのだろうな。一生、忘れたくても忘れられない後悔だって当然あるし、そんなことを考えていれば前を視るのさえ怖くなって、今からでもこの眼を塞いでしまいたくなる。前後左右、過去も未来も、僕の人生はやっぱりまだまだ視たくないもので溢れかえっている。

 

「っと、そろそろこんな時間か……それじゃ、僕はこれで。短い間だったけど、ありがとう」

「おうよー。サブちゃんと話してんの、そこそこ楽しかったぜぃ。向こうでも達者で暮らせよー?」

「だから、何そのキャラ……」

 

それでも、人生はつづく。

壁掛け時計で現在時刻を確認し、姿見で自らの今の格好を見据える。やや大きめのジャケットに着られ、何となく不格好に思えた姿こそ……十四時二十八分、僕の『現在地』。そして、そうだな。この現在地から未来へ進むためのルートも、ましてや過去に戻るためのルートも、今の僕には何ひとつ分かりはしない、けど。

とりあえず、カフェテリアのいつもの席。

彼女の元へ向かう為のルートは、間違いなく既に身体中に染み付いている。とりあえず、『今の目的地』は、それで充分だ。

 

 

──────────────

 

 

「よし、予定通り集合二十分前……流石にまだ、来てない……よね?」

 

放課後の、人気の少ないカフェテリア。一張羅のジャケットに身を包んだ僕は、ふわふわと意識を宙に浮かせながら、その敷居を跨ぐ。刹那香ってきたのは、いつも通りのコーヒーの香り。

 

「ええと、切り出し方は……もっと気軽に、怖がられないくらいで……」

 

待ち合わせの椅子まで距離感あと十数歩、テーブルの前半分が視界の端に映り込んできたところで、僕は慌てて己の頭を整理し始める。ええと……まずはいつも通り話しかけて、そして軽い世間話、切り出し方は……

 

「あら」

「えっ」

 

待ち合わせの椅子まで距離感あと七、八歩。テーブルの全貌があらわになった、その瞬間にパチリと合う目線。何発目かのビックバンのようなその衝撃に、僕の頭の中思い浮かべていたちっぽけな作戦は、呆気なく吹き飛ばされてしまう。

 

「ふふ、お疲れ様です♪随分とお早いようですが、きちんと中庭掃除は終わらせてきたのですか?」

「お早いって、それはこっちのセリフ……というか、なんで中庭掃除のこと、知って……」

「もちろん、チヨノオーさんから♪」

「あ、ああ……なるほど……」

「ふふっ♪まあ何はともあれ、早くお座りください?」

「う、うん、うん」

 

真っ白な頭のまま、僕は促されるがまま彼女の目の前の椅子に腰掛ける。ええと、ええと……ああ、まずは昨日のレースのことを褒めて、それから、それから……

 

「……ん?コーヒー?」

「……ふふふっ♪」

 

……そんな真っ白な僕の脳内を染め上げてきたのは、なぜだか既に僕の目の前に差し出されていた、コーヒーの切ない香り。

 

「無糖の、ブラックでしたよね?どうせ早めに来るだろうと思いまして、お先に注文しておきました♪」

「………………」

「それと、せっかくですし私も今日はコーヒーを♪と、思ったのですが……やはりブラックは、私には少し苦すぎましたね?薬膳の苦さには慣れているのですが、それとはまた違った苦味で……ふふ、やっぱり貴方は凄いです」

「………………」

「という訳で、私はお砂糖とクリームを多めに、です♪子供っぽいなどと、笑わないでくださいね?」

 

彼女の手元のコーヒーカップ、ブラックの暗闇が、くるくるくるくるとなんとも呑気にかき回されていく。彼女が垂らしたクリームが柔らかく解け、拡がり、淡く色付いていくその中身を、僕はただ、ただ無心で覗き込んでいた。

 

 

「僕を、貴方のトレーナーにしてくれませんか?」

「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします♪」

 

 

「……えっ?」

「はい?」

 

……自分の口から飛び出した言葉と、彼女の口から飛び出した言葉の両方に驚いて、思わず間抜けな声を上げてしまう、僕。そんな僕のふやけた様子を、彼女は小首を傾げながら、ふわりと甘ったるい表情でさらに覗き込んでいたのだった。

 

「その、ええと、いいの?そんなあっさりと……」

「あらあら?今日はその為に私を呼びつけたのではないのですか?」

「それはそうだし……本当に嬉しい……んだけど、現実味というか……その、悩んだりとか、しなかったの?」

「それは……もちろん悩みましたよ?この一ヶ月間、間違いなく人生で一番悩みました」

「そ、そうなんだ?」

 

遅れて、じわじわと自分の口走った事を理解してきた僕の頭脳。ほんと、なんであんなタイミングで……もっとドラマチックに、色んな話を経由してそこまで辿り着く予定だったのに……

 

「本当に、悩んでいたのですよ?頭で考えれば考えるほど、貴方が私を担当するメリットが無さすぎるんですもの。体調はすぐに崩す癖に、不相応な夢を見て、目を離せばすぐに明後日の方向に突っ走ってしまうような、こんなどうしようもないウマ娘を」

「そ、そんなこと……!」

「それなのに、貴方はこの一ヶ月間懲りもせずに、こんな私にひたすら寄り添ってくれた。並外れた観察眼を持っているはずの貴方が、こんなどうしようもないウマ娘にそこまでの時間と労力を割いてくれている、これは一体、どういうことだろう?と……」

「…………?」

「……考えても仕方がないので、私は『信じる』事に決めました、貴方の、その眼を」

 

語っている内容とは裏腹に、何故だか自信に満ち溢れた力強い目線をこちらに向けてきたアルダン。その複雑怪奇な彼女の論理に、僕の頭脳も、じわじわと飲み込まれていく。

 

「貴方ほどのトレーナーに見初められるくらいなのです。きっと私というウマ娘は、自分が思っているよりも遥かに『凄い素質を秘めたウマ娘』なのだろう……と、そう思うことにしたのです♪」

「……えっ?え、な、何その理屈?」

「ふふふ?何か問題でも?」

「いや問題っていうか、そもそも前提がさ?『貴方ほど』って、僕別にそんな凄いトレーナーじゃないし……」

「いいえ?貴方がどう思おうが関係ありません、私がそう『信じた』のですから」

「………………」

「ふふっ、『根拠の無いものを信じ続ける』ことにおいて、私の右に出る者などおりませんので、ね♪」

「……ふふっ、く……あははっ!?ほんっとに君の言うことは……何もかも『予想外』過ぎる!」

 

まるで、自分こそが世界の中心なのだと宣言してしまうかのように。あまりに堂々と、清々しいほど都合の良い持論を捲し立てる彼女の姿を仰ぎ見て、一周回ってじわじわと笑いが込み上げてくる僕。確かに、間違いない。彼女は本当に、途方もなく『凄い才能を秘めたウマ娘』だ。

 

「と言うわけで、あの日の私達の出会いは、『最高の観察眼を持ったトレーナー』と『最高の素質を持ったウマ娘』が巡り会った、間違いなく、一点の曇りもなく『幸運』な瞬間と相成ったわけです。これではもう、私達が契約を結ぶ事に誰も文句はつけられませんね♪」

「いやまあ、別に誰かから文句つけられてたわけじゃないんだけどね?しかし、そっか、うん」

「あら?何かご意見ご感想でも?」

「いいや、君には全く。けれども……やっぱりそれは、僕にとっては『都合が良すぎる』からさ」

「……?」

 

予想していた通り、彼女に認め受け入れられた事によって、解きほぐされていく僕の心。そうだな、彼女ほどのウマ娘に見初められるなんて、きっと僕というトレーナーは、自分が思っているよりも遥かに『凄い才能を秘めたトレーナー』なのだろう……

そんな『都合の良さ』に、僕は反旗を翻す。

 

「僕は、僕自身の眼を『疑い』続けるよ。やっぱり僕はまだまだ、そんな凄いトレーナーじゃない」

「まあ……」

「だから、これからも変わり続ける。君が一点の曇りなく僕の事も、そしてこの世界の事も信じ続けていられるように、僕は僕の事を、そしてこの世界を疑い続ける。疑う事で全てを『肯定』する。良かったところは大いに活用して、上手くいかなかったところ……この世の誰かが一人でも傷付いてしまったような部分は、徹底して、見つめ直す」

 

目の前には、ポリゴンで造られた白過ぎるコーヒーカップ。窓の外には、テクスチャを貼られた青過ぎる青空。この世界は、『ウマソウル』ってやつが作り出したアニメかゲームか、もしかしたら小説か何かで、僕達はその中で『役』を演じている。この眼で何度視ても、まるで間違いはない。それこそが『この世界の現在地』。

そしてその中で、どうやら彼女が『最高の素質を持つウマ娘・メジロアルダン役』で、僕が『最高の観察眼を持つトレーナー役』らしい。

 

……冗談じゃないな、たとえ大層な肩書きをもらえたとしても、与えてくれたのが彼女だったとしても。『役』なんかじゃ、僕は満足出来やしない。

僕がなりたいのは、『僕』自身なのだから。

 

「君は、君のなりたい君自身を信じて、エンジン全開で突き進んでほしい。僕の事なんて気にせず、壊れることすら厭わず、ひたすら、全力でだ。それこそが君の原動力で、なおかつ他に右に出る者のいない、君だけの力だと思うから」

「ふふ、もちろんです♪」

「ただ……少しだけ、その操縦桿は、僕に握らせるだけ握らせておいてほしい。君の信じるものを、僕に疑わせてほしいんだ。そうすればきっと、僕らは壊れることも、立ち止まってしまうこともなく、行きたい場所にどこまでも、宇宙の果てにすら、突き進んでいけるはずだから、だから……」

「……ふふっ。ええ、ええ、かしこまりました。けれども……本当に全力で参りますよ?振り落とされないように注意してくださいね?『私のトレーナーさん』♪」

「ああ、望むところだよ『メジロアルダン』!」

 

かくして僕はあの日、目の前で白煙と轟音を上げながらトゥインクルシリーズの舞台に旅立って行った彼女に、ようやく追いつき、その手を、掴み取った。

無限の宇宙の中をぐんぐん加速して、光の速さすらあっという間に超えていくであろう彼女に、僕はどれだけ着いていけるだろうか。次に僕らが不時着するのは、一体どこの銀河系の、どんな惑星なのだろうか。最後の最後に僕らが目撃するのは、どんな光景になるのだろうか。わからない、わからない、わからない、だから、面白い。

夢なんか見てる暇もない、楽しみ過ぎてものの一睡も出来ない。反重力エンジンやワープホール、スペースウマ娘に全銀河最強ウマ娘トーナメント……世界中をひっくり返してしまうような大発見を、今度は『僕ら』のこの手で、掴みに行くんだ。あの日憧れた、スペースシャトルのように……よりも、もっと、もっと先へ、先へ、先へ───

 

あの日夢見た彼女と僕は、そんな突拍子もない未来を想像しながら。

この星で今日も、生き続けているのだった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

カラン……

 

「あら?何か落としましたよ?これは……」

「ん?あれ?なんか持ってたっけ僕?」

 

「これは……『万華鏡』?」

 

「…………あっ!?そ、それは、そのっ!?」

「まあ!トレーナーさんもお好きなのですか?万華鏡!実は私も大好きで……まさかこんな所に、貴方との共通点があっただなんて……♪」

「あ、そ、そうなんだ……いやまあ、僕はその……」

「あら?しかもこの装飾……箱根の温泉街に店を構える職人さんの品、ですよね?私も昔、温泉療養で訪れた時に同じ種類のものを購入したのですが、つい最近どこかで紛失してしまったみたいで……半ば諦めていましたが、またお目にかかれるなんて……」

「いやまあ、同じものっていうか、まんま同じというか……」

「それにしても、ふふふっ……とっても嬉しいです……この美しさを分かち合える人なんて、今まで一人も、いなかったから……」

「…………!」

「その、ええと……よろしければですが、これから二人で万華鏡について語り合いませんか?その……僅かばかりですが、私のコレクションもお持ちいたしますので……」

「………………」

「……トレーナーさん?」

「……そうだね?うん、うん、是非とも君の好きなもの、沢山聞かせてほしいな?」

「……!は、はいっ!ふふふっ♪早速持ってまいりますね♪待っていてください、トレーナーさん♪」

「あ、僕もその、たまたま?たまたまいい感じの菓子折り持ってるから、一緒に食べながら、話そっか?」

 

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