ちょっと前、映画を観た後の昼に食べたトンテキがなぜか脳に電流流して、それが切っ掛けで書きました。
深夜の飯テロ(しんやの方ね)
なんなら主あんまり料理しない(書く資格皆無)


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書いてて腹減った()


1品目:ステーキと司波兄妹

 

「お兄様、今日はどこで食べますか?」

 

「そうだな…」

 

 

 2095年、三月の末。一組の兄妹…兄の司波達也は妹の司波深雪の誕生祝いとして外食をしに大通りを歩いていた。

 

 

 すると、すぐ前の扉がガラリと音を立てて開き、中から四十代後半程の男性が出てきた。白い独特の形の帽子に同じく白を基調とした服。所謂板前の服装の男性はそのまま店の入口の横に立ててある看板を『商い中』に裏返す。そして店に戻ろうとした時に達也と目が合った。

 

 

「………」

 

「…?」

 

 

 一瞬目を見開いた後、微笑を浮かべ、軽く会釈をして店に戻った男性を達也は不思議に思った。チラリと左を見ると、深雪もどうやら男性を不思議に思ったようだ。

 

 

 二人が暖簾を見ると、『料理処 陸海食(りくかいくう)』と如何にも和風な文字で書かれていた。どうやらわざわざ墨と筆で書いたのだろう。

 

 

「………深雪。ここにしてみるか?」

 

「…そうですね」

 

 

 二人はそう言って、店の扉を開ける。チリンチリンと心地よい鈴の音が鳴る扉をくぐると、二人は軽く目を見開いた。

 

 

「まぁ…」

 

「ほぅ…」

 

 

 中は和風。ただそれだけに尽きる表現だった。厨房はカウンター席から間を仕切る透明なウィンドウ越しに見えており、ウィンドウの中にはツヤの良い魚の切り身だけでなく、新鮮そうな肉や野菜がそれぞれ区切られて直に見えるようになっている。店の奥には宴会用だろうか、畳が敷いてあり、テーブルと座布団が綺麗に並べられてある。厨房にはなぜか、とても使い勝手が良いとは思えない程巨大な刀が抜き身のまま飾られていた。肉や野菜がある点を除けば完全に高級寿司屋と見間違えてしまっただろう。

 

 

 と、野菜の下拵えをしていた一人の男性…先ほど会釈してきた店主とおぼしき男性が二人に声をかけた。

 

 

「ようこそ、『料理処 陸海食』へ。初めての客だな。俺は店主をやってる、『陸海(りくみ)空醐(くうご)』ってモンだ。カップルかい?お熱いこって」

 

「かかか、カップルだなんて、そそ、そんな…」

 

 

 店主…空醐の言葉に顔を茹で蛸のように真っ赤にしながら見悶えている深雪を横目に、達也は冷静に答えた。

 

 

「いえ、自分たちは兄妹です」

 

「ほぉー、兄妹か。反応が完全にカップルだぜ?まぁ、幸せなのはいいこった。今日は何にする?個人的には良い肉が入ったからステーキを勧めるが」

 

「ステーキ…では、それで。深雪はどうする?」

 

「ほぇ?…あ、私もそれでお願いします」

 

「よし、ちゃっちゃと用意するから待っときな。焼き加減はどうする?」

 

「俺はウェルダンを」

 

「私はミディアムレアにします」

 

「あいよ」

 

 

 そう言った空醐は手早くウインドウから肉を出すと、鉄板にバターを敷き、熱し始める。

 

 

「個人的にステーキはバターを使うって決めてるんだ。やっぱり同じ牛からできる材料同士、下手に互いの良さを潰し合うことがあまりないしな。それでもバターの量は控えめにし、あくまで肉を引き立てるのに使う。そして肉だが、少しだけレモン汁を染み込ませてある」

 

「レモン汁…ですか?」

 

「肉を柔らかくするってのもあるが、女の子の胃腸にはあまり脂っ濃すぎるのも毒だからな。肉の旨味を損なわず、且つサッパリした味わいにするためにしてるんだ。ついでに、「漿(チャン)」って言う中華料理の下拵えをしている。卵黄に肉をさっと通してから焼き、旨味と肉汁を中にぐっと閉じ込めることで、更に美味くなるのさ」

 

「そんな調理法が…」

 

「料理に国境なんざ関係ねェってことさ。ほっ」

 

 

 そう言った空醐は、卵黄に通した肉を軽く振って余分な卵黄を落とすと、バターを敷いた鉄板にゆっくりと肉を置いた。ジュウゥゥ、と心地良い音と共に肉の底から湯気が出ている。

 

 

「…ん?」

 

「お兄様?」

 

 

 鉄板の上で良い音を立てる肉をじっと見ていた達也は、肉にわずかながら想子が宿っているのに気づいた。

 

 

「この店では料理に魔法を使ってるんですか?」

 

「えっ?」

 

「ほぉ…わかるのかい。当たりだよ。俺も親父も、同じ(Born)(Specialised)魔法が使えてな。これを使った食材の栄養素の吸収促進や、栄養素の効果そのものを高めることができる、まさに料理人のための魔法なのさ。例えば、レモン汁なら肉のタンパク質の分解を助けてより柔らかく。ビタミンCの権化である蜜柑やらコラーゲンたっぷりのホルモンに使えば、お肌もツルッツルの卵肌になるってわけさ。嬢ちゃんもそうなったら、お兄さんもイチコロかもよ」

 

「蜜柑を使ったデザートも追加してください!」

 

「深雪!?」

 

 

 目を輝かせて追加の注文をする深雪の方を、達也は珍しく焦りながら向いた。

 

 

「ハッハッハ!愛されてるねぇ!!じゃあ、手製の蜜柑ゼリーでもいかがかな?ゼラチンにはコラーゲンもたっぷりだしな。誕生日だってんなら、ケーキの代わりにゃちと安っぽいがサービスしとくよ。…お待ち。ウェルダンとミディアムレア」

 

 

 コトリと二人に出されたのは、鉄板の上で透明な脂を跳ねさせるステーキだった。付け合わせには、わずかながらの人参とコーンが添えられている。

 

 

「「いただきます」」

 

 

 一見するとごく普通のステーキ。しかし、何やら魔法とも異なる引力のようなものを感じつつ、二人は同時にステーキを口に運び…噛み締めた瞬間、目を見開いた。

 

 

「…これは………!」

 

「おいひぃ…!」

 

 

 ウェルダンのはずなのに、しっかりとした肉汁が溢れ出す達也のステーキもそうだが、深雪のミディアムレアはもはや口の中で肉汁の洪水が起きていた。肉も自然な力加減の咀嚼で簡単に噛み切れ、ジュンと肉の旨味が、肉汁が壊れた蛇口のように止めどなく二人の口を蹂躙していた。

 

 

「俺の魔法は、食材の栄養素を高める………肉に使えば、その旨味成分をも格段に引き上げる。普通のステーキじゃあ滅多に味わえない、肉汁の濁流を味わった気分はどうだい?」

 

 

 ニヒルな笑みを浮かべつつ聞いた空醐に対し、二人は噛み切った肉を肉汁と一緒にゴクンと飲み込み

 

 

「「とても美味しいです」」

 

 

 同時に同じ感想を口にした、次の瞬間。

 

 

「(!?)」

 

 

 達也は、ドクンという心臓の鼓動と共に身体中の筋肉が一瞬脈動した感覚、そして身体中に伝わるじんわりとした熱の感触を憶えた。

 

 

「お兄様?」

 

「…兄ちゃん。今日、激しい運動でもしたかい?今感じたのはおそらく、それで疲弊して傷ついた身体中の筋肉やら細胞やらが、俺の魔法がかかった肉のタンパク質を一気に吸収したんだろう。異変を感じるぐらい一気に、ってのは流石に珍しいがな」

 

「あ…」

 

 

 二人には思い当たる節があった。深雪の誕生日ではあるものの、日課は欠かすまいと普段通りに九重寺で鍛練を積んだ達也の肉体が、無意識に多量の栄養素を求めていたのだろう。

 

 

「年頃の男子たるもの、食わにゃ損。はい白米」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 カン、と音を立てて出された、茶碗に山盛りになった白米を見た達也は、空醐に礼を言うと再び肉を口に運び、間髪入れずに白米をがっついた。彼にとって過度な食欲は無縁の存在だが、なぜか箸とフォークは止まらない。肉を口にすれば口が白米を欲し、口が空になれば肉を欲する。

 

 

 いつの間にか、達也の食べっぷりを見ていたために半分ほどステーキが残っている深雪を置いて、達也の鉄板は僅かに残った脂が間隔を空けて跳ねるだけになっていた。

 

 

「…お兄様…」

 

「………!すまない深雪、つい…」

 

「食欲は、人として(・・・・)生きる上で必ず常に、自分の中にあるもんさ。「あの娘」の心配も杞憂だったなこりゃ」

 

「すみません、あの娘とは…?」

 

 

 腕を組みながらしみじみと納得したように呟く空醐に、深雪は妙な感覚を憶えながら聞いた。

 

 

「ん?あぁ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らの母ちゃんの四葉深夜」

 

 

 

⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪
 

 

 

「まさか、母上が言っていた『例の店』が…」

 

「空醐さんのお店だったとは…」

 

 

 

 ステーキを完食し、デザートの蜜柑ゼリーを堪能した二人は、未だ強いショックを感じながら、『陸海食』からの帰路についていた。

 

 

「では、あの方が――」

 

 

⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪
 

 

 

「でっかくなったねェ…」

 

 

 店の厨房で明日の分の下拵えをしていた空醐は、ふと壁に掛けられた抜き身の巨大な日本刀の方へ振り向き、何かを懐かしむように天井を見上げた。

 

 

 

 

 

―――――――
―――――
――――

 

 

 

 

「店、厨房、そして会場…『食』に関わる場所は皆等しく、俺ら料理人(コック)の『領域(ナワバリ)』…」

「その領域(ナワバリ)を好き勝手に荒らし、テメェらを毎日生かしてくれてる『食』を蔑ろにし、粗雑に扱うたァ…」

 

「「当然だが、覚悟(死ぬ用意)はできてるんだろうなァ…!!!?」」

 

 

 

 

―――
―――――
―――――――

 

 

 

「…33年前、母上たちが出席していた会を襲った大亜連合…武装した百近い数の兵を殲滅した、たった二人の料理人(・・・・・・・・・)…その片割れが彼とは…到底信じ難い」

 

「しかもその理由が『料理を粗末にしたから』…料理人らしい理由ですが、あの刀を魔法無しで振り回すことができるのでしょうか…?」

 

「わからない。だが…」

 

 

 そう言いながら達也は足を止め後ろを向く。

 

 

 胡麻粒のように小さいが、僅かに揺れる『陸海食』の暖簾が見えた。

 

 

 

「…あの人の料理は、美味かった。それだけで…また行きたくなったな」

 

「…!」

 

「また食べに行こうか」

 

「はい!」

 

 

 そう言って、兄妹は互いの顔を見て笑った。

 

 




い つ も の 息 抜 き(無☆責☆任)
あと何気に初の飯テロ(作品)

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