中野一花のお友達 作:五等分二次増えて欲しい。
作者はキャラクターに対するヘイトを目的として創作していませんが、人によってはキャラクターを貶めているように感じる、或いは解釈不一致を引き起こす表現があるかもしれません。
不快に思われたとすれば、今作の作者である私の文章の構成・表現能力が低いことによるもので、原作キャラクターに一切の瑕疵はございません。
「お仕事抜けてきてるんだ」
割とどころかかなり人生掛かっている相談をされていると自覚した。
そんな時に僕に相談するとか正気か?相談相手が根本的に間違っていると言わざるを得ない。一ヶ月程度の仲だけど君って僕の適当さは知ってるよね?
「ごめんね、こんなこと急に言われても困るだけだよね」
僕の表情からそれに類する感情を読み取ったのか中野さんは申し訳なさそうに言う。
顔に出てしまったことで余計な心配せてしまったと後ろめたさを感じる。
確かに困るってところに間違いはないけどね。
けれどそれを口にするのは違う気がして僕は言い訳がましく口を開く。
「アドバイスなんて御大層な事はできないけど、話を聞くことくらいならできると思うから、まあ、それくらいなら」
「すごく微妙な返事だ。意外と正直なんだね」
「先に言っておくけど僕相談にのるの得意じゃないから」
それでもいいならと続けた僕に、じゃあ聞いてもらおうかなと、中野さんは訥々と話し始めた。
向いている向いていないと問わず、頼られているならやれるだけのことはやらないといけないと思う程度には僕って真面目な人間なのだ。
突如背負うことになった責任感で一言たりとも聴き逃さんと心に決めて彼女の言葉に耳を傾ける。
「何も知らない立花くんに言うのはきっと間違ってると思うんだけど」
そう前置きをして中野さんは言った。
「私、迷ってるんだ」
迷ってる。
「どうすればいいのかなって」
「迷ってるってそれは何に?」
「今日、映画のオーディションがあるんだよねー」
抜けてきちゃったけどと笑う中野さん。
相槌はこれでおかしくないかなぁとか考えてしまう僕は、やっぱり重要な相談事に向いていないんだろうとは思う。
理論派ではなく感情派。悪く言えば動く考えなしなのだ。
自分のことすら大して考えていないのだから他人のことなど尚更。
考えなしの人間がどうにか考えながら答えているんだから気にしなくていいところまで余計に気にしている。
「さっき立花くんに会うちょっと前に連絡が来てね。それまでは私、一人でいたわけじゃないんだよ。五月ちゃん達と一緒に花火を見ようって約束してたからさ」
「僕だって妹とまわってたって言ったよね??」
あははと笑って流された。
絶対信じてないだろ。
僕に構わず話は進む。釈然としないけど進んでいくなら仕方がない。
「前に言わなかったっけ?私たちにとって花火は特別なんだって」
「たしかこの前に来た時言ってたね。覚えてるよ」
「お母さんが花火好きだったんだ。毎年六人で揃って見に行ってた。今では五人になっちゃったけど、それでも毎年必ず姉妹で見てる。だから花火はお母さんとの思い出だし、私たち五人の約束でもあるの」
「つまり夢と約束を天秤に掛けて悩んでる……と」
「あはは、なんだかそう言われると大袈裟な気もしてくるね」
聞く事はできるなんて大言を吐いたが、どうやら想像以上にこの相談は重いらしい。僕にとっては重すぎるというのが正直なところだ。
過去が絡んでくると今しか知らない───今ですらよく知らない僕が色々気にしながら言えることは限られてくる。
中野さんは少し自虐的に笑い、でもそうだなあと、目を細める。
「私半年くらい前、社長にスカウトされてこの仕事始めたんだ。それからちょくちょく名前のない役をやらせてもらってた。それで今はこれが受かればいよいよ本格的にデビューってとこ」
「半年でデビューってすごいじゃん」
「そうかな?でもかもしれないってだけだよ」
「手がかかってるだけで……いやぁ、すごいと思うけどなぁ」
あははと少しだけ笑って、やはり会話が途切れた。
いまいち核心に近づけていない気がして困った。いやそんなことは考えなくていいのか。僕は聞いてればいいだけ。
「でもそうだね、せっかくなら受かってからすごいって言って欲しいかな」
「ならオーディション、受けなきゃだね」
「うん。そう。受けなきゃいけないんだけどね」
僕が彼女から聞き出さなきゃいけない言葉はその後なんだと思う。
思うが、僕は聞いてるだけが仕事なのだ。
こんなことを考えて僕は何様のつもりだろう。ちょっと頼られたからって調子に乗ってるのかもしれない。
「立花くんはどう思う?」
「どう思うって言われてもなぁ」
この状態の、というよりそもそも僕が何か言っていいものか。
「言っていいよ」
僕の葛藤を見透かすようなことを言われてしまったので、しっかりと考えながら口を開く。
「…………これはアドバイスじゃなくて僕の考えだって前置きをしておくけど」
「僕はオーディションを受けるべきだと思う」
「…………その心は?」
「中野さんの妹さんたちに会ったことはないし、花火の持ってる重みも十分に理解してるなんて口が裂けても言えない。君にとってはオーディションと並ぶくらいに重要なんだとは思う」
「でも、多分君の事情をわかってくれるのは妹さん達だよ。オーディションの審査員は君の家族の事情なんて気にも留めない。会場に来なかったら演技の審査なんてしてくれないし、抜けて来たっていうなら事務所も仕事を振ってくれなくなるかもしれない」
こんなことは言いたくないが、五つ子というだけでも珍しいというのに、更に母親とは離婚か死別かは知らないが離別し、父親一人と五つ子で暮らしているなんて、僕の短い人生の中で一度も聞いたことがない。
僕からすると非常に特殊な……珍しい家族形態であるように思える。
家庭環境に差がありすぎて姉妹の仲を理解することはできないし、ましてや会ったことすらない今日初めて聞いた母親との関係なんてわかるはずもない。花火に関して出てこない父親との関係も更にわからない。
「家族は融通利かせてくれるけど、君の仕事はそうはいかないと思うよ」
だけど彼女が妹のことを大切に思っていることは間違いないし、おそらく妹さんたちも同じだろうと思う。
少なくとも上杉が彼女たちにとって異物となる程度には結束が強い。
ならば何も言わずに抜けたくらい、話せばわかってくれるだろうに。
「あはは、立花くんってば容赦ないんだね。結構厳しいこと言うんだ」
「あくまで僕の考えってだけで、君にこうしろって言ってるわけじゃないってことはわかって欲しいけど」
「わかってるよ。それでそれで?つまり立花くんはどう思ってるのかな?」
「だから、君はもっと甘えていいんじゃないかなと」
「……えっと、甘える?」
きっと適当な言い方はもっと他にもあるだろうけど、多分これが一番差し障りのない言い方だと思う。これが僕の最大に配慮した言語表現の限界である。
「とにかくオーディションはこのまま受ける。その前でも後でもいいけど、思いのままに君のやりたいことを話して、約束すっぽかしたことに頭を下げるっていうのはどうかな」
「それはわかってるの。わかってるんだよ」
「なら」
「でも言いたくない」
「それは……またなんでさ」
「……言いたくない」
どうして伝えたくないのかわからない。
これまで話したくない理由はてっきりバイト先を知られるのが恥ずかしい的なアレだからだと思っていたが、どうにも違うらしい。
こっちは賢くないからはっきり説明してくれないとわからないんだよ。
……ともあれ続ける。
「姉妹の関係は、中野さんがオーディションのことを伝えただけで崩れるものなの?」
「そんなことない!そんなことないけど!」
「なら大丈夫だよ。ほとんど君たちのことを知らない僕が言っても仕方がないかもしれないけど、今から妹さんたちに話せばきっと背中を押してくれる」
少なくとも僕の妹が夢のためにっていうなら応援している。
いやでも芸能界か……うん。まあ、いやどうだろう。やっぱりわからないかもしれない。
そしてやっぱり要領を得ない返事。そろそろはっきりしてほしい。
「私も、きっと応援してくれるって思ってるよ」
「じゃあなんでオーディションのこと話せないの?」
「この仕事を始めて、小さいけど役を貰ってお金を稼げるようになって、やっと長女として胸を張れるって思ったの」
「うん」
「私が一人前の役者になるまであの子たちには言わないって決めてた。今日オーディションが入らなかったら…………だからこれは私の気持ちの問題」
まただ。またはっきりしない。彼女はさっきからずっとこういう迂遠な言い方で誤魔化している。
「ごめん、中野さん限界だ」
「え?」
「好き勝手に言うね」
ポカンとした中野さんを横目にすうっと息を吸って堰を切ったように言葉が出てくる。
「悪いけど僕は好き勝手に言うからな!僕は相手の話してない事情を鑑みて小難しいことを考えるのは苦手なんだ!相談相手を間違えたと思え!」
「な、何?急にどうしたの?」
「いいか、君は考えすぎだ!」
突然語気を荒くして話し始めた僕に目を白黒させる中野さんを放って、溜まっていたものを吐き出す。
「大体!花火大会は今日だけじゃないじゃないか!一番近いところはここだったけど他でやってないわけじゃないから。見ようと思えば別の日に見ることだってできる」
「で、でも今日みんなで観るって約束が」
「約束なんてもう一回すればいいじゃん?!ドタキャンはそりゃ嫌われるけど、滅多にないチャンスなんでしょ?家族なら話して頭下げれば許してくれるに決まってるだろ!」
「なっ!」
「あと君さ、自信ないでしょ」
「え?」
「急にオーディション入ってびびってるんでしょ」
「…………っ」
「だからこうやって言い訳ばっかして僕なんかに相談するんだ!どう考えても僕が相談相手に向いてるわけないだろ!普段を見てればわかる!」
「なんでっ!君は私に何が言いたいの?!アドバイスしないとか言ったくせに!結局!言うならはっきり言ってよ!」
「はぁ?!君がはっきりしないなんて言うのか!いいよじゃあはっきり言ってやる!」
中野さんの目を正面で見据え、息を大きく吸って言う。
「自信がなくて決心が付かない言い訳に、約束と思い出を使うなって言ってる」
「っ〜〜!!今日はみんなで花火を観る予定だったんだよ?!なのに急に大きな映画の代役オーディション!!準備なんてできてないし、私がこの仕事を始めたのは半年前。自信なんてあるわけないじゃん!」
「突然なのはみんな一緒だよ。歴がないっていうのは確かにそうかもしれないけど、絶対受からないオーディションを受けさせるわけないって」
「君は私みたいになってないからわかんないだけ!期待されてるから裏切っちゃうのが怖いんだよ!なんでわからないの?!」
「実力以上のものなんて出ないんだから気負う必要なんてないじゃん!」
「実力を発揮できないのが嫌って言ってるの!」
感情むき出しの大きな声で言い合いをしていたら注目を集めるのはたとえ裏の通りとは言え当然のことで、少し落ち着いて周りを見れば好奇の目が向けられているのを感じた。
「連絡が来たから花火を抜けてきたのに……それも言えなかったしオーディションにも行けてない。私、こんなところで何やってるんだろ」
中野さんがそう言ったっきり沈黙が落ちる。
僕はもうほとんど落ち着いた。
落ち着いてみるとわかることがある。
これ完全に嫌われた。
こうやって茶化さないとやっていけないくらいには後悔している。
だって悩んでいる時にこんなこと言われたのが僕なら間違いなく嫌うから。
感情のままに叫んで喧嘩をして許されるのは創作の中だけのお話だ。現実では大抵うまくいかないと相場が決まっている。
だから僕に相談するなと、いやでも話聞くって言ったのは僕だし。先に我慢ならなくなったのは僕だし。
ああ、くそ、やっぱり悪いのは僕かよ。
「……じゃあ、どうしたらいいの?」
しばしば経って先に口を開いたのは、僕なんかよりよっぽど内心荒れているであろう彼女からだつた。
「私、自信ないよ」
「うん」
「何も言わずに抜けたのにオーディションにも行けない意気地なしだ」
「ああは言ったけど大事な時は決心が付かないことの方が多い」
「花火抜けて来ちゃったのに落ちちゃったら、私きっとみんなに嫌われちゃう」
「私は……それが一番こわいよ」
そんなの全然わからなかった。
ああ、やっぱり僕は相談事に向いていない。
彼女の言葉を咀嚼してから話を始める。
「聞き手なのに僕が先に感情的になった……さっきはごめん」
「…………うん」
「………………どうしても妹さん達に言うのが怖いっていうなら、
会ったこともない妹さんに僕が死ぬほど嫌われるけど。
中野さんに嫌われただろうからそれもあまり関係ない。
とにかく、僕ができるのはこれくらいしかないだろうと思う。
「まあ気楽にいこうよ。妹さんたちなら応援してくれるって」
うん、やっぱり僕は相談事に向いてない。
さっきの今でこの無責任な言葉が出てくるんだから。
「君は…………応援してくれないの?」
「応援してるに決まってる」
「じゃあ───この台本、読むから」
「うん?」
「練習。ほら、君はこっちを読んで」
手渡されたのはスマホだった。画面にはいくつかのセリフが書かれた台本と思わしきものが写っている。
内容は『三年A組』?
台詞はこれ…………ああ、はいはい。
「…………ここまで言っておいて僕としても非常に据わり悪いけど、これは僕の仕事じゃなさそうだ」
「え?」
受け取ったスマホを返しながら呟く。
これならそもそも僕が関わることじゃなかったかもしれない。
「ほら、こっちだよ」
「ちょ、ちょっと待ってそっちは人が」
「大丈夫、これだけ人がいればバレないよ。お面して」
「でも!」
僕も君もお面被ってるんだからバレるわけない。大丈夫大丈夫。
人混みの合間をうまく抜けて、見覚えのある頭と中野さんによく似た女の子の二人組を見つける。
後ろから着いてきている中野さんの手を引いて寄せると彼女も気がついたようで驚いた表情をした。
「ねえ!見つかっちゃ───」
「こういうのはね、後にする程言いづらくなるんだ」
「私にも心の準備って言うか!」
「ほら、いってきな」
僕はそんな中野さんの言葉を遮って、ちょうど上杉が気がつくようにして背中を軽く押した。
押されたのだと気がついたのは、フータロー君の背中に当たってしまってからだった。
「わっ!?何して───」
「だ、誰だ?」
咄嗟に振り返ったところで既に彼の姿はなくて、ぶつかったから当然フータロー君に見つかってしまった。
フータロー君は私が誰だかわからないみたいだけれど、こっちを振り返られたら五月ちゃんには絶対にバレる。
気付かれてない……まだ私は言えない。
「しっ!ちょっとこっちに来て!」
「うおっ?!一花か?なんでそんな───」
「いいから」
五月ちゃんが気付く前にフータロー君の腕を掴んで通りから外れた道へ引っ張る。せっかくのお祭りなのに、今日の私はこんな人気のないところにずっといる気がする。
……そんな逃避もだんだんと迫ってくる時間どうするか決めなきゃいけない。
発破はもう掛けられた。
「五人で花火見るんじゃなかったのかよ?」
「うん。そうだね。そのつもりだったよ」
いってきなと、そう背中を押された。
私は「行ってきな」と言われたのかと思ったけれど、彼は「言ってきな」と言ったのかもしれない。もしかすればそのどちらも。
ダブルミーニングってやつかな。なんて現実逃避するように考えてみる。こんなことしても意味ないってわかってるんだけどな。
「『だった』ってお前、どう言うことだよ」
困惑するふーたろー君の顔を見て、少し視線をずらす。視線の先には変わらず人混みがあるだけ。少しだけ立花くんを探してみるけれど、当然彼の姿はとっくに波にもまれて消えてしまっている。
どうして最後に好き勝手言ってさっさと消えてしまうのか。
私をあんなにした責任をとって最後まで面倒を見るべきだと思う。これじゃ、途中で放り出したのと変わらないよ。
「五月から聞いた。あの二乃があんなに張り切って準備してたんだぞ。それを───」
「あとちょっとだけ、秘密にしておいて欲しいんだ」
「……っ?」
勇ましいことなんて言えないと言った癖に、好き勝手に言って私の背中を押すなんて!なんてずるい友達だろう。
謝る時は一緒に来てもらわなきゃいけない。友達に捕まってたって説明しなきゃ。
スッと息を吸って向き直る。
君が僕のせいにしていいって言ったのが悪いんだから。
「私はみんなと一緒に花火を見られない」
私は姉妹の絆