弱小球団のGMになりまして   作:佐月檀

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25年ぶりのV

 9月、対即日戦。神奈川が2点リードしている状況での9回裏、ツーアウト。

 マウンドにはここまで1失点の藤浪晋二郎。その目線の先には、ここに投げろとばかりに構えられたキャッチャーミット。

 捕手の伊東司からのハンドサインに頷き、投球モーションに入る。

 一瞬脱力したように腕を垂らした直後。

 右腕から風を切るような剛速球が放たれた。

 

 相手打者が咄嗟に反応しようとするが、それも及ばず。

 スイングは空振り、ワンストライク。

 電光掲示板のメーターには158km/hの表示。

 バットを握り直し、再度藤浪を見つめる打者。

 藤浪が右腕を振り下ろすと、今度はスライダー方向に鋭く切れ込む変化球。

 それを打ち損じ、ファウル。

 カウントはツーストライク。藤浪は腕をだらりと垂らすと。

 

 ――ズバンッ!

 

 アウトロースレスレのストライクゾーンに投げ入れたストレート。

 それがやはり、ストライクと判定されゲームセット。

 この打者に手も足も出させず、藤浪は試合を締めくくった。

 

 直後、伊東が藤浪に対しグッと親指を立てる。

 藤浪もそれに親指を立て返し、ベンチへ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 ――なんか思ったより強くない?

 藤浪に対し、そういう言葉が浮かび始めたのは、オールスターからだった。

 プロ入り1年目からオールスターに出場するというだけでも素晴らしい。それだけ活躍しているということだから。

 オールスター本番では、第1戦で5、6回を投げた。が、内容は予想以上のものだった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その中には首位打者経験のある打者や勝負強い打者もいて、なにより大谷と吉田もいた。

 だがこれらをほとんど粘らせることなく三振に仕留めた。……流石に吉田には少し粘られていたが。

 と、まあ流石にここまでだと、とんでもない掘り出しものとして騒がれるわけで……。

 

――『超大型ドラ4現る!? 身長190cm台後半の速球投手が未来の神奈川のエースか!?』

 

 スポーツ新聞には、そんな見出しが躍り出ていた。

 ……なるほど、と首を捻る。

 今ある神奈川の三本柱に、またひとつ、いやふたつの柱が加わる。

 それは非常に、非常に喜ばしいことだろう。

 ……まあFA移籍した場合の8年後はどうなっているか、考えたくもないが。

 

 そう、今が最大のチャンス。二度と来ないかもしれないチャンスなんだ。

 リーグ優勝、そして日本一を成し遂げるチャンスだ。

投手陣も固く、打線も厚く。

 もし今年を逃せば、またチャンスは遠のいていくばかり。

 だから、だからこそ。

 今ある戦力、今ある首脳陣で必ず、必ず優勝を。

 

 そして、それを――――繋いでいければ。

 

 

 

 

 

 

 9月中盤、その時は訪れた。

 

 横浜スタジアムのスタンドところどころからは、息を呑むような音。

 そんな状況でマウンドに立つのは、ここまで3安打無失点と好投している松坂。

 9回表ツーアウト、神奈川4点リードの場面。

 対するは、エレクトロの3番村上宗満。

 今季では打率.288、30本とやや低迷しているが、それでも甘い球を長打にしてしまうスイングは相変わらずだ。

 だから油断は一切できない。松坂にとっても甘くない勝負になる。

 

 そんな松坂が投じた第1球は――縦に鋭く曲がるスライダー。

 村上はそれを大きく踏み込んでフルスイング。……狙っていたように。

 が、ポール際にわずかに切れていってファウルに。

 

 しかしこれで村上の狙い球は露呈したはず。

 コースに気を配りつつのピッチングにはなるが……。

 捕手の伊東がミットを構え直す。

 その所作に松坂も頷き、腕を掲げ。

 

 ――2球目、ノビのあるストレートをインロー間際に投じる。

 流石にこれには手出しできないと判断したか、見送ってストライクに。

 伊東から返球され、再度構える。

 腕を高く掲げ、ワインドアップのモーションから。

 指はストレートの握り。

 ならば、あとは。

 

 

 

 ――インハイめがけ投じられたその球。

 村上は思わずといったように豪快に踏み込み、フルスイング。

 が、それを空振り、村上は地面に膝をつく。

 

 松坂は咆哮し、伊東が駆け寄った瞬間。

 横浜スタジアムにはどっと大歓声が巻き起こる。

 

 ああ……ついに今日か。

 ついに、ついに、ついにこの日が!

 

 

 

 もう脇目も人目も、なにも関係ない!

 今はただ、ただ――!

 ()()()()()()()()()()()()()()喜びを、なにがなんでも分かち合いたい!

 

 神奈川の選手たちもグラウンドに飛び出し、スタンドに、ファンに手を振っている。

 中監督はまだ呆然としたような表情で、コーチ陣と抱き合っている。

 ああ――そうだ。これが、これが()()()()()()なのか!

 

 

 

 

 

 ――『神奈川ブルーホエール、セ・リーグを制す! ()()()の躍動から25年ぶりリーグV!』

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