あ、タイトルからお察しの通りトゲナシも好きなのです。
「なんだこれは」
「誰がやったかはすぐわかるけどねえ……」
武蔵工バベルズVS炎馬ファイヤーズ
試合当日の日、両チームがそれぞれ試合の準備をする中、キャプテンであるキッドと雲水はそろってスマホを見ていた。
画面に映っているのはこの日の練習試合をこれでもかと宣伝する動画である。
いつの間に撮影したのか、炎馬のチームメイトの写真も演出マックスで映っている。
3日前にアップされた動画の再生回数は20万回を突破。
コメント欄もかなり盛り上がっている。
「だから観客もたくさんいるわけだねえ、出店まであるし」
「また河川敷グラウンドなのも仕込みか」
「よォ、糞ヒゲに糞坊主」
金髪ツンツン頭に片手のアサルトライフルを抱えた悪魔が二人の元に歩み寄ってきた。
「ヒル魔、やはりお前か」
「オウ、なかなかいい出来だろ? ウチの大学の動画研究サークルが快く協力してくれたからなァ」
脅迫手帳をプラプラ振りながらそんなことを言うヒル魔に雲水は食って掛かる。
「おい、大会前に情報を隠したいと考えるのはお前も分かっているはずだ。自分のチームだけで研究するならともかく……」
「悪いな、俺がヒル魔に頼んだんだ」
割り込んできたのは中年男性にも見える偉丈夫、武蔵元(20)だった。
「俺らの試合の生中継を動画サイトに上げて、ウチやチームメイトの会社を宣伝できないかってな。というか栗田に連絡していたんだが……」
「あ、ムサシ! ヒル魔も!!」
ドスドスと駆け寄ったのは炎馬の超大型ライン栗田。轢かれたら死ぬんじゃないかという迫力がある。
「あ、動画完成してたんだね」
「栗田、お前これ知ってたのか!?」
待ってましたといわんばかりの口ぶりに雲水が驚愕した。
「え、うん。言わなかったっけ、今度の試合動画撮るよって」
「……『動画撮る』とは聞いたが『配信する』とは聞いていないな。意味が全く違っているから気が付かなかったよそうかそうか」
「う、雲水くん……?」
納得したような口ぶりなのに、こめかみに青筋が立っているのが恐ろしい。感情はどうなっているのか。
火を噴きだしそうな雲水にパソコンを持ったヒル魔が口角を耳まで釣り上げて近づいた。
「まあまあ落ち着いてもいーんじゃねーか? 一応収益はこんぐれーで分けようと思ってっからなァ?」
雲水はその画面を見て押し黙った。覗き込んだキッドも、「全く、ヒル魔氏は食えないねえ」と呆れている。どうやら全員納得したようだ。
「それによ、テメーらは練習試合1回見られたら全部掴まれるような浅い底なのか?」
「「……」」
「ケケケ、やっぱ今回ですら見せねえイチモツあんじゃねえか」
そこまで言われれば返す言葉などない。
「……キッド、今日はよろしく頼む」
「ああ、こちらこそね」
「んじゃ、ウチもありがたーく見学させてもらうわ」
ヒル魔はそう言って立ち去った。
(自分の手札は見せずに試合を偵察できて、収益も取る。アイツが一番儲かってるんじゃないか?)
雲水はそこまで考えついて、頭を振った。まあ、夏の合宿台が何とかなるし良いか。
「ねえ陸っくん、バベルズってどんなチームなの?」
「ん? ああ、身体能力的にはスピードよりもパワーが高いって感じだな。多分ムサシさんがメインになってチームを組んだから、職人とか力仕事の多い人たちが集まったってのもあるんだろうけど」
チアの恰好をした鈴音が陸に尋ねた。セナもモン太もムサシの元へ挨拶に行ったので陸にしか聞けないのである。
陸はバベルズのベンチを見た。
確かに集まっている選手たちは皆体が厳つい。フィッシズのような均整の取れた体格ではなく、上半身のほうが大きく鍛えられた者もいれば、肥満体に見える者もいる。仕事で鍛えられた筋肉といった様子だ。
その中で最も注目すべきメンバーは4人だ。
まずは60ヤードマグナム、武蔵元。強靭な足腰からぶっ放されるキックはコートを端から端へ飛ばすほどの威力を持つ。一気に戦況を回天しうる切り札の一つである。
次はキッド。元ガンマンズのクォーターバックであり、唯一ヒル魔が勝てなかった男。驚異の早撃ちを止めることは光速のセナですら難しい。
鉄馬丈。キッドの幼馴染のワイドレシーバー。指令を忠実にこなすその走りを止めることはできない、無敵の重機関車。キッドの早撃ちも加わればパスを止めることはほぼ不可能である。
そして、上記の関東で無敵を誇ったパス布陣を力のみで打ち破った破壊神、峨王力也。日本トップの筋力でもってねじ伏せる突破力に対抗できるものは日本では栗田を除いて存在しない。
「ライン戦は結構厳しいかもな。ウチは無敵の栗田さんがいるけど、それなら向こうにも峨王がいるし」
ラインの要が拮抗するならば、他のメンバーで競り合っていくしかない。
だがラインは他にも小結、黒木、戸叶といった元デビルバッツが揃っているほか、ワザ師山本鬼平もいる。さらに他のラインマンも20歳以上の経験者ぞろいなのだ。パワーだけでなく経験値もプラスするとバベルズに分があるか。
「そっか……」
「安心しな鈴音、こっちには俺たちがいるからよ!!」
着替え終わったモン太が近くにいたセナの首に腕を回して自信満々にサムズアップ。
実際、いうほど戦力差は悲観的ではない。
日本トップクラスのスピードを持つセナと陸。
日本一のキャッチ力のモン太。
元関東最強チームのクォーターバック雲水。
30ヤード以内なら外さないスナイプキッカー佐々木コータロー。
2m近い長身と抜群の運動センスを持つ水町。
ベンチプレス160キロ越えの無敵大魔神栗田。
炎馬だって負けてない。パスやラインが互角でも、ランならこちらが圧倒的に上だ。
「う、うんそうだね……」
だがセナはどこか歯切れが悪かった。というかずっと何かにビビっている。
「何かセナ朝から変じゃね?」
「うん、ずっと上の空っていうか」
「まあ今日どっかでクオーターバックやるって言われたからな……」
ビビりまくって挙動不審のセナを見て陸は仕方なさそうにため息を吐いた。
クオーターバックということは攻撃時に最も狙われるポジションで、かつ今回の脅威は峨王だ。
怪我が怖くないなんて嘘だし、一度峨王から思い切りタックルを食らったセナからしたらトラウマ物だろう。
「峨王よりパワーのあるドンともアメリカで練習してたんだから慣れそうなモンだけど、やっぱセナらしいな……」
「よーし、じゃあ気合入れてこうぜ! 雲水さん!」
「またか」
雲水は呆れつつもどこか乗り気で答えた。
「ぶっ」「こ」「ろす!!」「「「「YEAR!!!!!!!!!!!!」」」」
キックオフからスタートし、自陣から30ヤード地点から炎馬の攻撃開始。
「最初はお手並み拝見ってところかな?」
ベンチのキッドはハットを押さえながら呟いた。
炎馬の布陣は雲水をクオーターバックにランニングバック2枚の構え。
最初はバランスのとれたフォーメーションから、相手の動きを見て変えていくのだろう。
だが、
「峨王はもうエンジンかかってるんだよねえ……」
「この時を3億年待っていたぞ、栗田……!!」
「僕だってずっと待ってたよ、峨王くんと戦えるこの時を……!」
バベルズの攻撃と防御の要。『恐竜』峨王力也。
彼はすでに全身から湯だつような熱を放ちながら栗田の前に立ちふさがっている。
あの恐竜をどうして扱うべきか。
否、扱う必要はなく、ただこれだけ言えばいいとキッドは気づいている。
『
「SET! HUT!」
栗田からボールがスナップされ、雲水がキャッチ。
その瞬間。峨王は
「GYYYYYYAAAAAAAAA!!!」
世界大会決勝戦にて、峨王がMrドンとの戦いを経て習得した必殺技『
頭部、拳、肩の3点で同時にタックルすることで破壊力を3倍にも高めるチューボーこと中坊明の切り札だ。
その威力は小柄な中学生であるチューボーが倍以上の巨体を持つ外国人選手を吹っ飛ばせるほどだ。
峨王はその技を食らい蒙を啓かされてから、感覚を忘れぬために峨王は幾星霜の特訓を積んでいた。
そして今。
目の前の好敵手をねじ伏せるために訓練を積んだこの技は、もはや峨王独自のモノとなっていた。
一つの、鋼以上に強固な殺意の塊となった峨王が栗田に突っ込む。
日本トップクラスのラインマン同士が激突し、人間同士がぶつかったとは思えないほど重たい衝撃音がグラウンドに響き渡った。
「峨王くん、重い……! 僕の体が浮きそうになるほど……!!」
「耐えてみろ栗田、俺の新境地をな……!!!」
あまりの突進に栗田の巨体が自分が軽くなるのを感じ、奇妙な浮遊感に腹が冷える。
下半身の力なら自分の方が上のはずだ。だが、踏ん張れなければ意味がない。
峨王はΔダイナマイトの破壊力によって姿勢を崩した栗田を、構えた右腕で薙ぎ払った。
実にシンプル。
Δダイナマイトで相手ラインマンを吹っ飛ばし、耐えたものは爪で裂くように薙ぎ払う。純粋なパワーで編み出された技のようなもの。
爆発と爪の二段構え。これぞ新ワザ、
ほんのわずかに踏ん張った栗田の巨体はなぎ倒され、峨王が雲水の眼前に現れた。
そして、雲水は。
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